教員紹介PDF

岩木 耕平
(いわき こうへい/ IWAKI, Kohei)
研 究
室
理学部 A 館 353 号室
助教
(内線 5576)
電子メール
[email protected]
所属学会
日本数学会
研究テーマ
• 完全 WKB 解析
• Painlev´e (パンルヴェ) 方程式
• 無限可積分系
研究テーマの概要
微分方程式論は, 自然界における物理法則を記述する基礎方程式として生まれ, 今では解析学の中
心的な研究対象のひとつになっています. その中でも, 研究対象や知りたいことによって研究手法は
様々です. 私は特に, “複素領域上で定義された微分方程式” の解の持つ性質に興味を持っています.
複素領域上だと, 解は一般に特異点の周りで分岐する多価函数になり, それらの解析接続の様子を記
述する “モノドロミー” や “Stokes 現象” の研究が重要な問題になります. しかし, 一般の方程式に対
して解のモノドロミー等を調べることは非常に難しいことが知られています.
複素領域上で定義された微分方程式が, Schr¨
odinger 方程式のように小さなパラメータ ~ を含む場
合, 完全 WKB 解析と呼ばれる手法が非常に有効です. これは元々量子力学の近似計算に用いられて
いた WKB 法に, 発散級数の総和法である Borel 総和法や超局所解析を組み合わせた手法です. (WKB
とは物理学者 Wentzel-Kramers-Brillouin の頭文字に因みます.) 完全 WKB 解析は上述のような解の
大域的な解析に対して非常に有効であることが知られています. 例えば, “2 階 Fuchs 型線形常微分方
程式のモノドロミーは, ある周期積分を係数とする ~ の無限級数の Borel 和を用いて記述される” と
いう大きな結果があります. 現在では, 完全 WKB 解析の理論は 3 階以上の高階線形方程式や, 非線形
である Painlev´e (パンルヴェ) 方程式に対しても適用可能になりました.
上述のように完全 WKB 解析は微分方程式の解析の手法のひとつでしたが, 団代数との関係が見出
される等, 最近ではその応用の幅が大きく広がりつつあります. 今後は解析学の観点からだけでなく,
代数学, 幾何学や数理物理など様々な観点からも研究に取り組みたいと考えています. また, Painlev´e
方程式のような “可積分系” が持つ特殊な性質を完全 WKB 解析の立場から理解することも目標の1
つです. 微分方程式論や WKB 法の歴史は長く, 古典的な対象ではありますが, 同時に今後の数学の
興味深いトピックでもあるように思います.
主要論文・著書
[1] K. Iwaki, Parametric Stokes phenomenon for the second Painlev´e equation, Funkcial. Ekvac.
57 (2014), 173-243.
[2] K. Iwaki, On WKB theoretic transformations for Painleve transcendents on degenerate Stokes
segments, to appear in Publ. RIMS.
[3] K. Iwaki and T. Nakanishi, Exact WKB analysis and cluster algebras, J. Phys. A: Math. Theor.
47 (2014) 474009.
[4] K. Iwaki and T. Nakanishi, Exact WKB analysis and cluster algebras II: Simple poles, orbifold
points, and generalized cluster algebras, preprint, arXiv:1409.4641 [math.CA].
経歴
2014 年 3 月
2014 年 4 月
2015 年 3 月
京都大学数理解析研究所博士課程修了
京都大学数理解析研究所 日本学術振興会特別研究員 PD
名古屋大学大学院多元数理科学研究科助教
学生へのメッセージ
複素領域上の微分方程式論や完全 WKB 解析は様々な数学と関わり, 今後も重要になってくると思
われます. 以下に複素領域上の微分方程式論や, Painlev´e 方程式, 完全 WKB 解析の入門書をいくつ
か挙げておきます.
(1) 高野恭一, 常微分方程式, 新数学講座 6, 朝倉書店, 1994.
(2) 原岡喜重, 超幾何関数, すうがくの風景, 朝倉書店, 2002.
(3) 岡本和夫 : パンルヴェ方程式, 岩波書店, 2009.
(4) A.S. Fokas, A.R. Its, A.A. Kapaev and V.Y. Novokshenov, Painlev´e Transcendents: The
Riemann-Hilbert Approach, Mathematical Surveys and Monographs 128, American Mathematical Society, 2006.
(5) 河合隆裕, 竹井義次 : 特異摂動の代数解析学, 岩波書店, 1998.
(6) D. Sauzin, Introduction to 1-summability and resurgence, arXiv:1405.0356, math.DS (2014).
(1) は複素領域の微分方程式の標準的な入門書です. モノドロミー, Stokes 現象が具体例を通じて
解説されています. 複素領域上の微分方程式論において, Gauss の超幾何微分方程式やその一般化は
重要な例の1つです. (2) は超幾何方程式について分かりやすくまとめてあります. Painlev´e 方程式
に興味がある方は, まず (3) を読まれるといいでしょう. Painlev´e 方程式に関する基本事項だけでな
く, 歴史についても触れられています. Painlev´e 方程式の解の詳細な性質については (4) が最も詳し
い文献でしょう. (4) は 500 ページを越える長編ですが, 6種類ある Painlev´e 方程式のうちの3つし
か解析されていません. この本の続きを書くこと, また本のページ数を減らすためのテクニックの開
発は今後の課題です.
完全 WKB 解析に関して書かれた著書はあまり多くないので, 日本語で読める (5) はかなり貴重
な書物と言えるでしょう. Borel 総和法, WKB 解の構成等から始まり, モノドロミー群の計算法や
Painlev´e 方程式に対する WKB 解析についても触れられています. また, (5) の英語版も American
Mathematical Society から 2005 年に出版されました. (完全 WKB 解析の根幹をなす) Borel 総和法
や, Ecall´e の “resurgence” の理論は数理物理を中心に注目を集めています. これらについてまとめら
れた (6) は読む価値があるでしょう.