2015.02 王子計測機器株式会社 LCDにおけるPETフィルムの虹ムラに関する実験結果 ● はじめに 最近、PETフィルムはLCD関連の部材として、バックライトユニットの構成部材、保護 シート、タッチセンサーの基材等に数多く使用されています。特に、液晶セルの外側にPET フィルムが設けられる状態のとき、表示画面を偏光メガネを通して見たときに干渉色いわゆる 虹ムラが発生する場合があることはよく知られています。さらに、偏光メガネを使用せずに裸 眼で同様の画面を見たときにも虹ムラが観察できる場合があります。ここでは、PETフィル ムに直線偏光が入射したとき、アイポイント(方位と受光角)によって裸眼でも虹ムラが観察 されるメカニズムについて調べた結果を報告します。 ● 結論 フィルムに直線偏光が入射したときの透過光を斜め受光したとき、直線偏光の透過軸が受光 面と平行(または直交)でかつフィルムの遅相軸が受光面と平行(または直交)の条件以外で は、透過光は楕円偏光になります。その光を裸眼で見るときは、P偏光強度とS偏光強度の和 を見ることになり、P偏光・S偏光の透過率の違いから分光スペクトルに山谷が現れます。し たがって、虹ムラ発生の原因には以下のことが考えられます。 ⅰ)逐次2軸延伸PETフィルムの場合、斜め受光のときに位相差の方位による変化が大 きく、傾斜中心軸が進相軸になる方位での位相差値が4000nm以下になるためで ある ⅱ)入射直線偏光の透過軸と逐次2軸延伸PETフィルムの遅相軸が平行のときに虹ムラ が現れるのは、配向の2層構造のために透過光が楕円偏光になるためである ● 使用した測定装置と試料 ・装置:楕円偏光測定装置 KOBRA-WPR 使用ソフト:位相差測定用REソフト・・・・入射角依存性、波長分散特性 透過率測定用TRソフト・・・・偏光透過率測定 1 ・試料:表1のフィルムを試料として用いました。 表1 実験に使用した試料 記号 pet5300 厚さ 面内位相差 厚さ方向位相差 (μm) R0(nm) Rth(nm) 材質 備考 PET 逐次2軸延伸 125 5273 22044 pc535 60 534 269 PC pc4500 124 4519 2151 PC pet10000 100 10600 6970 PET 1軸延伸 ※ ただし、pet_10000 の測定にはチューブ用複屈折測定装置PAM-IMS100を使用 ● 干渉色の確認 図1のように、白色LEDの面光源上に偏光板(偏光子)を置き、その上にフィルムを置い たときの透過光を斜めから検光子をレンズ前に付けたカメラで撮影しました。このとき、受光 面を角度基準とし、偏光子透過軸を0°検光子透過軸を90°としましたので、いわゆる直交 ニコル観察に相当します。フィルムの遅相軸Nx を0°、45°、90°としたときの干渉色を 調べると、図2のようになります。 図2を見ると、虹ムラが見えるのは pet5300 のNx=0°のときが最も顕著で、次に pet5300 のNx=45°のときに僅かに確認できます。裸眼で見たきは、虹ムラは直交ニコル観察時と同 じ模様ですが、全体的に薄い色になりカメラにはうまく映りませんが、図3のようなイメージ になります。 pc535 のNx=45°のときは鮮やかな干渉色が見られますが、それ以外の条件では暗視野で あるか虹ムラが出ないことが分かります。pc535 のNx=45°のときの干渉色も直交ニコル観 察であるためで、裸眼観察のときは色も虹ムラも出ません。 図1 干渉色確認時の図 2 pet5300 pc535 pc4500 pet10000 図2 直交ニコル観察時の干渉色の写真 図3 裸眼で見た干渉色のイメージ図 (pet5300、Nx=0°) ● 測定結果 透過率測定用TRソフトを用いて、図1の測定系に合わせるために図4のような構成でP偏 光透過率とS偏光透過率の入射角依存性を測定しました。例えば、Nx=0°のときのP偏光・ S偏光透過率の測定結果は、図5のようになります。 3 (a)P偏光透過率 (b)S偏光透過率 図4 TRソフトを用いたP偏光・S偏光透過率の測定系の図 (Nx=0°のとき) (a)pet5300 (b)pc4500 図5 P偏光・S偏光透過率の入射角依存性の測定例 (Nx=0°のとき) 裸眼で見るときの光強度は、直交2軸の光強度の和と考えればよいので、図5のP偏光とS 偏光の合計を裸眼観察時の光強度と見做して、(P偏光+S偏光)の透過率をグラフにすると、 図6のようになります。図6を見ると、黒色破線内の箇所の曲線が他のグラフに比べて乱れが 大きいことが分かります。入射直線偏光の透過軸とフィルムの遅相軸の関係およびアイポイン トの条件が、このような透過率の乱れを起こすときに虹ムラが裸眼でも観察されると考えられ ます。 4 (a)pet5300 (b)pc4500 図6 (P偏光+S偏光)の透過率の入射角依存性 (実測) ● シミュレーション 裸眼でみたときに虹ムラが見える条件を探すために、アイポイントの受光角を一定に保った 状態で方位を360°変えたときの光強度の変化を計算することを試みます。 先ず、位相差測定用REソフトで各試料について波長590nmでの位相差の入射角依存性 の測定値から3次元屈折率を計算し、厚さ方向位相差Rth を算出すると表1の結果を得ました。 その3次元屈折率から、受光角50°のときの位相差の全方位特性を計算すると、図7のよう になり、pet5300 の方位による位相差値の変化が特に大きいことが分かります。 5 位相差 (nm) pet5300 pc535 pc4500 pet10000 13000 12000 11000 10000 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 330 360 遅相軸方位 (°) 図7 各試料の位相差の全方位特性の計算値 (θ=50°) 計算上は、図1のような系ではNx=0°と90°のときは暗視野状態になるので、ここでは Nx=45°で受光角θが50°のときに、裸眼で見たときの分光スペクトルがどうなるかを計 算します。計算に必要な基礎データは、①位相差の波長分散特性と②波長590nmでの3次 元屈折率および③Nx=45°で入射角を変えたときの遅相軸の変化であって、それらはREソ フトを使って測定します。 ③の測定結果をまとめると図8のようになり、この結果も pet5300 が他の試料と大きく異な ることが分かります。 上記①、②、③の各測定値をもとに、Nx=45°、θ=50°のときの透過光の分光スペク トルをシミュレーションすると図9のようになります。 図9(a)の pet5300 の分光スペクトルの振幅が小さいことより、明確な虹ムラは現れない ことを意味しますが、実際の裸眼観察では僅かに虹ムラが確認できることより、分光スペクト ルがこの程度のときは虹ムラが見えるということになります。一方、図9(b)は分光スペク トルの山の数が多く透過光は白色光になります。 次に pet5300 について、θ=50°でNx の方位を変えたときの透過光の分光スペクトルを計 算すると、図10のようになり、山の数はNx=45°のときより少なくかつ振幅も大きいこと から、より鮮明な虹ムラが出ることが予想できます。また、Nx=30°でθを変えたときの透 過率の計算結果は図11のようになり、pet5300 はθが20°以上で曲線が乱れるのに対して、 pc4500 は滑らかな曲線になることが分かります。 6 75 y = 0.0074x2 + 0.1561x + 45 R2 = 0.9945 遅相軸方位φ r (°) 70 65 pet5300 pc535 pc4500 pet10000 y = 0.0034x2 + 0.0146x + 45 R2 = 0.9996 60 y = 0.0011x2 + 0.0432x + 45 R2 = 0.93 55 50 y = 0.0015x2 + 0.0075x + 45 R2 = 0.9967 45 40 35 0 10 20 30 40 50 入射角θ (°) 100 95 90 85 80 75 70 65 60 55 50 100 95 透過率 (%) 90 400 450 500 550 600 650 85 80 75 70 65 60 pet5300 pc535 pc4500 pet10000 55 50 700 400 450 500 波長 (nm) 550 600 波長 (nm) (a)pet5300 と pc535 (b)pc4500 と pet10000 図9 (P偏光+S偏光)の透過率の分光スペクトルの計算値 (θ=50°、Nx=45°) 100 90 80 70 透過率 (%) 透過率 (%) 図8 Nx=45°の状態で入射角を変えたときの遅相軸の変化 (実測) 60 50 40 30 Nx=10° Nx=20° Nx=30° 20 10 0 400 450 500 550 波長 (nm) 600 650 700 図10 pet5300 の(P偏光+S偏光)の透過率の分光スペクトルの計算値 (θ=50°) 7 650 700 100 95 95 90 90 85 85 透過率 (%) 透過率 (%) 100 80 75 70 65 80 75 70 65 450 550 630 60 55 450 550 630 60 55 50 50 0 10 20 30 40 50 0 受光角 (°) 10 20 30 40 50 受光角 (°) (a)pet5300 (b)pc4500 図11 (P偏光+S偏光)の透過率の受光角依存性の計算値 (Nx=30°) ● おわりに 本来は、直交ニコル観察において偏光子の透過軸とフィルムのNx 軸が平行のときは暗視野に なるはずですが、図2の pet5300 のNx=0°のときの虹ムラは、以下のことが原因と考えられ ます。 ・逐次2軸延伸PETフィルムの配向の2層構造のために、偏光子の透過軸とNx 軸が平行 の条件でも透過光が楕円偏光になる ・Nx=0°(進相軸Ny が傾斜中心軸に相当)のときの位相差値が、1000nm以下に なることから、分光スペクトルの山谷の数が少なくなって干渉色が明確になる 仮に、フィルムの配向が2層構造をしている場合であっても、観察する受光角での全方位的 な位相差値が4000nm以上あれば pc4500 と同じように虹ムラは出ないと考えられます。 以上 8
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