反権力という人達 税理士は権力を意識せずに済む職 業だが

2 0 7 反権力という人達
税理士は権力を意識せずに済む職
業だが、弁護士は常に権力を意識す
る。他人の人生を決める権力を持つ
裁判官を相手に、依頼者に有利な判
断をして貰うように裁判官におもね
る。いや、裁判官と交渉する。カネ
を支払え、離婚しろ、刑務所に入れ、
お前死ねと、裁判官は権力をもって
他人の人生を決定する。
司法研修所を卒業すると、裁判官、
検察官、弁護士のいずれにもなれる
と説明される。しかし、それは間違
いだろう。誰もが自分の個性を持ち、
裁判官になれる人達、検察官になれ
る人達、弁護士になれる人達の個性
は異なる。裁判官や検察官を身近に
置かないので、彼らの思考過程を述
べるほどには洞察力はないが、弁護
士なる人達の個性は「反権力」に尽
きるように思う。
しかし、反権力も2 種類があるよ
うだ。まず、中坊公平元日弁連会長
の「反権力」だ。中坊氏は、社会派
弁護士として多様な活躍をしてきた
が、住専管理機構の代表者を任され
ると、検察権力を手先として、債権
回収を始めてしまった。中坊氏型の
反権力は、相手の権力と闘争し、自
分自身が権力を手に入れるための反
権力だったのだ。
しかし、本当の「反権力」とは、
自分の権力を怖れることだと思う。
自分が権力者になり、自分の決定で、
他人の人生に影響を与えてしまう。
いや、自分の権力は、自分自身の人
生にも影響を与えてしまう。それを
怖れ、常に、それで良いのだろうか
と自問自答する人達。それが本当の
意味での「反権力」なのだと思う。
とても裁判官などは務まらないし、
裁判官などになろうとも思わない人
達だ。
自分の権力を怖れる反権力、その
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代表例が日本社会党だったのだろう。
他人の権力を批判すると共に、自分
の権力を怖れる反権力だった。だか
ら、日本社会党が政権与党になり、
村山富市氏を総理として送り出すこ
とで、自己矛盾によって自滅してし
まった。いや、政治を研究する人達
には別の見方もあるのだろう。
権力は、権威でもある。
カリスマ経営者のビジネスモデル
は常に破綻するように思える。小売
店業界を改革した大手スーパーの創
立者、世界の長者番付にリストされ
た消費者金融の経営者、医療法人を
全国展開し、身内を国会議員にまで
押し上げた医療業界のカリスマ医師。
飲食店チェーンを全国展開し、さら
に介護事業にまで乗り出した経営者。
この人達は、誰に貶められたのでも
なく、自ら、墓穴を掘って失脚して
いった。ITブームのいま、多様な
人達が権威者として社会の賞賛を浴
びている。しかし、2 0 年後、この
中の誰が時代の権威者として残って
いるだろうか。
さて、話は戻り、税理士は権力を
意識しなくて済む職業だが、それ故
に権威に弱いところがあるように思
える。業界の権威者の見解を無条件
で信じ、上から目線で語る学者の権
威を認め、税務判例が出れば、それ
を無条件に正しいものとして受け入
れる。しかし、理屈の世界に権力や
権威は存在しない。権力を知らずに
生きてきた人達が、コロリと権威に
騙されてしまう。常に、権力を意識
してきた弁護士として、時として歯
痒く思う税理士業界の個性だ。
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