本文 - 経済同友会

流通・取引慣行ガイドライン改正案に対する意見
(パブリック・コメント)
2015年3月4日
公益社団法人 経済同友会
公正取引委員会より提示された「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の一部改正(案)に対する意見募集に関し、本会の2014年11月
26日付提言「産業構造に合った競争政策の実現を~流通・取引慣行ガイドラインの見直しに関する提言」(別紙)に基づき、本日、以下のとおり
パブリック・コメントを提出する。
項目
改正案原文
意見
第2部 流通分野における取引に関する独占禁止法上の指針
1 対象範囲
メーカーは、自社商品の販売のため、直接の取引先のみなら
ず末端の小売段階、消費者に至るまで、各種のマーケティン
グを行う場合がある。メーカーがこのようなマーケティング
の一環として、流通業者の販売価格、取扱い商品、販売地域、
取引先等に関与し、影響を及ぼす場合には、流通業者間の競
争やメーカー間の競争を阻害する効果を生じることがある。
一方、大規模な小売業者がメーカー等に対して購買力を背景
とした優越的な地位を利用して取引するような場合には、競
争阻害的効果が生じることがある。
1
なぜガイドラインの見直しを行う必要が生じたのかの経緯
を記載するべきである。具体的には、競争政策を取り巻く社
会・経済環境の変化に対応する必要があること、イノベーシ
ョンを促進する長期的な競争環境を実現する必要があるこ
となどに言及するべきである。なお、詳細については、別紙
を参照されたい。
項目
改正案原文
意見
2 垂直的制限行為
が競争に与える影
響についての基本
的な考え方
独占禁止法は、事業者が不公正な取引方法等の行為を行うこ
とを禁止し、公正かつ自由な競争を促進することによって、
一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で
健全な発達を促進することを目的としている。
流通分野において公正かつ自由な競争が促進されるために
は、各流通段階において公正かつ自由な競争が確保されてい
ることが必要であり、メーカー間の競争と流通業者間の競争
のいずれか一方が確保されていれば他方が減少・消滅したと
しても実現できるというものではない。
「競争」や「消費者の利益」の意味が曖昧である。例えば、
原文では、流通業者間の(安売り)競争は消費者の利益という
考え方がベースにあると考えられるが、流通業者間の競争が
減少・消滅したとしても、垂直的制限行為にメーカー間の競
争を促進する効果が認められ、最終的に一般消費者の利益が
増加する場合も考えられる。このような場合には、適法とす
るべきである。問題とされるべきは「流通分野」に閉じた競
争ではなく、全体を通じて消費者の利益となる競争が行われ
ているかを考える必要がある。したがって、「流通分野にお
いて公正かつ自由な競争が促進されるためには、各流通段階
において公正かつ自由な競争が確保されていることが必要
であり、メーカー間の競争と流通業者間の競争のいずれか一
方が確保されていれば他方が減少・消滅したとしても実現で
きるというものではない。」との記載は削除すべきである。
なお、規制改革に関する第2次答申においても「垂直的制限
行為においては、ブランド内競争が制限されたとしても、ブ
ランド間競争が促進されることにより、消費者の利益に貢献
することがある」と指摘されている。
2
項目
改正案原文
意見
3(1) 垂 直 的 制 限 行
為に係る適法・違法
性判断基準につい
ての考え方
独占禁止法は、公正な競争を阻害するおそれがある行為を不
公正な取引方法として禁止しているところ、垂直的制限行為
に公正な競争を阻害するおそれがあるかどうかについては、
次の事項を総合的に考慮して判断することとなる。
規制改革実施計画においては、「適法・違法性判断基準を明
確にする」とされているが、「総合的に考慮」されるのであ
れば、判断基準が明確化されているとは言い難い。
また、①ブランド間競争と②ブランド内競争のどちらに競争
阻害効果が生じているかによって、競争を阻害するおそれの
大きさが異なる。ブランド間競争が制限されている場合の方
が競争阻害効果は大きいことから、ブランド間競争が制限さ
れているときに限ってブランド内競争を考慮するなど、考慮
要素に優先順位を付けるべきであり、その旨を記載すべきで
ある。
さらに、①~⑤に関する事項を総合考慮するとしても、その
際には、経済的な分析が必要となるため、公正取引委員会直
属の組織として「チーフエコノミスト」を長とする経済分析
チームを設置し、然るべき権限を与えるべきである。この経
済分析の結果を積極的に公表することによって事業者の予
測可能性を高めるべきである。
3(1) 垂 直 的 制 限 行
為に係る適法・違法
性判断基準につい
ての考え方
この判断に当たっては、垂直的制限行為によって生じ得る流 「各流通段階における潜在的競争者」を具体的に例示すべき
通業者間の競争やメーカー間の競争を阻害する効果に加え、 である。
競争を促進する効果も考慮する。この考慮に当たっては、各
流通段階における潜在的競争者への影響も考慮する。
3(2) 垂直的制限行 (略)
為によって生じ得
る競争促進効果
ア~エに加えて、「メーカーと流通業者が一体となった商品
開発による多様な消費者ニーズへの対応」、「イノベーショ
ン創出の原資確保による新商品開発」などの競争促進効果を
記載すべきである。なお、競争促進効果の例については、別
紙を参照されたい。
3
項目
改正案原文
意見
3(2) 垂直的制限行
為によって生じ得
る競争促進効果
ア
さらに、消費者が、販売促進活動を実施する流通業者から対
象商品を購入せずに、販売促進活動を実施していない他の流
通業者から購入することによる購入費用節約の効果が大き
いことも必要である。この効果は、通常、当該商品が相当程
度高額である場合に大きくなる。
購入費用節約の効果が大きいことも「必要」とされているが、
低額の商品である場合にはフリーライダー問題が全く生じ
ないと解することは適当ではない。購入費用節約の効果が大
きいことはフリーライダー問題が生じやすい一つの事例に
すぎないと考えるべきである。また、「当該商品が相当程度
高額である場合」だけでなく、反復継続して利用される商品
についても購入費用節約の効果が大きくなると考えられる
ため、その旨を記載すべきである。
3(2) 垂直的制限行
為によって生じ得
る競争促進効果
ア
ただし、このような制限に競争促進効果があると認められる
のは、当該流通業者が実施する販売促進活動が当該商品に関
する情報を十分に有していない多数の新規顧客の利益につ
ながり、当該制限がない場合に比べ購入量が増大することが
期待できるなどの場合に限られる。
「多数の新規顧客の利益につながり、当該制限がない場合に
比べ購入量が増大することが期待できる場合に限られる」と
いう限定的表現は、削除すべきである。例えば、丁寧な商品
説明はコスト増に繋がるため購入量が減少する可能性もあ
るが、購入量が増大しなくても、商品説明を受けることは顧
客の利益につながることが考えられる。
また、仮にこのような要件を課すとしても、フリーライダー
問題の解消には類型的に競争促進効果が認められるため、そ
れが不当な垂直的制限行為であるかは事業者側が主張・立証
するべき要件ではない。
4
項目
改正案原文
意見
3(2) 垂直的制限行
為によって生じ得
る競争促進効果
ア
また、そうした販売促進活動が、当該商品に特有のものであ 埋没費用となる販売促進活動に要する費用を具体的に説明
り、かつ、販売促進活動に要する費用が回収不能なもの(いわ すべきである。また、販売促進活動が、当該商品に特有のも
ゆる埋没費用)であることが必要である。
のであり、かつ、その費用が埋没費用であることが必要と考
えることは限定的すぎるので、削除すべきである。
また、仮にこのような要件を課すとしても、フリーライダー
問題の解消には類型的に競争促進効果が認められるため、そ
れが不当な垂直的制限行為であるかは事業者側が主張・立証
するべき要件ではない。
3(2) 垂直的制限行
為によって生じ得
る競争促進効果
エ
メーカーが、自社商品に対する顧客の信頼(いわゆるブランド
イメージ)を高めるために、当該商品の販売に係るサービスの
統一性やサービスの質の標準化を図ろうとする場合がある。
このような場合において、当該メーカーが、取引先流通業者
の販売先を一定の水準を満たしている者に限定したり、小売
業者の販売方法等を制限したりすることが、当該商品の顧客
に対する信頼を高める上で有効となり得る。
5
小売業者の販売価格を制限することは、当該商品の顧客に対
する信頼を高める上で有効な手段であるから、「ブランドイ
メージの維持・向上のために、メーカーが、価格の統一を図
ろうとする場合」も明記するべきである。(なお、ブランドイ
メージの維持・向上のためであれば、どのような価格制限行
為も許されるものではなく、例えば、ブランドイメージの維
持・向上の名目で価格制限行為を行っているにも拘らず、在
庫一斉セールで値引きするなどブランドイメージを毀損す
る行為を行っている場合には、当該価格制限行為には正当な
理由はなく、違法な価格制限行為と考えられる。)
項目
3(3)
改正案原文
意見
垂直的制限行為のうち流通業者の取扱い商品、販売地域、取
引先等の制限を行う行為(以下「非価格制限行為」という。)
は、「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路
を容易に確保することができなくなるおそれがある場合」(下
記(注5)参照)や「当該商品の価格が維持されるおそれがある
場合」(下記(注7)参照) に当たらない限り、通常、問題とな
るものではないが、再販売価格維持行為は、通常、競争阻害
効果が大きいことに配慮する必要がある。
非価格制限行為について、3(1)①~⑤で掲げられた適法・違
法性判断基準の関係性が不明確であるため、次のとおり修正
すべきである。
非価格制限行為については、「新規参入者や既存の競争者に
とって代替的な流通経路を容易に確保することができなく
なるおそれがある場合」や「当該商品の価格が維持されるお
それがある場合」に当たらない場合には、3(1)①~⑤の適法・
違法性判断基準を考慮するまでもなく、問題となるものでは
ないことが明記されるべきである。
「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を
容易に確保することができなくなるおそれがある場合」は、
「第2 非価格制限行為」の中では「2 流通業者の競争品の取
扱いに関する制限」を行った場合に限って考慮される要素で
あるから、非価格制限行為に関しては、競争品の取扱い制限
を除き、通常、問題とならないと記載すべきである。
「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を
容易に確保することができなくなるおそれがある場合」や
「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に当たっ
たとしても、競争促進効果が競争阻害効果を上回る場合が存
在する(例えば、ブランド間競争が行われている市場(すなわ
ち通常の市場環境)などにおいては競争阻害効果が類型的に
小さく、通常は競争促進効果が上回る)。そのような非価格制
限行為は制限されるべきではないことから、競争促進効果が
競争阻害効果を上回る場合には当該非価格制限行為が認め
られることを明記すべきである。
6
項目
3(3)
改正案原文
意見
再販売価格維持行為は、通常、競争阻害効果が大きいことに 一般論として再販売価格維持行為は、非価格制限行為と比較
配慮する必要がある。
して競争阻害効果が大きくなるとしても、当該行為が規制さ
れるか否かは、競争促進効果と競争阻害効果の双方を比較衡
量することによって決するべきであるため、「通常、競争阻
害効果が大きい」という記載は削除し、「再販売価格維持行
為は、非価格制限行為と比較して競争阻害効果が大きくなる
ことに配慮する必要がある」という記載にとどめるべきであ
る。
7
項目
改正案原文
意見
第1 再販売価格維持行為
2 再販売価格の拘
束(1)
メーカーが流通業者の販売価格(再販売価格)を拘束すること 再販売価格の拘束に「正当な理由」があることの立証責任は
は、原則として不公正な取引方法に該当し、違法となる(独占 事業者側と公正取引委員会側のどちらが負うのか明らかに
禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束))。すなわち、再 するべきである。
販売価格の拘束は、流通業者間の価格競争を減少・消滅させ
ることになることから、通常、非価格制限行為に比べ競争阻
害効果が大きく、原則として公正な競争を阻害するおそれの
ある行為である。このため、独占禁止法においては、メーカ
ーが、流通業者に対して、「正当な理由」がないのに再販売
価格の拘束を行うことは、不公正な取引方法として違法とな
ると規定されている。換言すれば、再販売価格の拘束が行わ
れる場合であっても、「正当な理由」がある場合には例外的
に違法とはならない。
8
項目
改正案原文
意見
2 再販売価格の拘
束(2)
「正当な理由」は、メーカーによる自社商品の再販売価格の
拘束によって実際に競争促進効果が生じてブランド間競争
が促進され、それによって当該商品の需要が増大し、消費者
の利益の増進が図られ、当該競争促進効果が、再販売価格の
拘束以外のより競争阻害的でない他の方法によっては生じ
得ないものである場合において、必要な範囲及び必要な期間
に限り、認められる。
需要が減少するとしても、差別化によって消費者利益の増進
が図られることもあると考えられ、需要が増大する場合に限
ることは狭すぎることから、「当該商品の需要が増大し、」
との記載は削除すべきである。
また、再販売価格の拘束は、競争促進効果が競争阻害効果を
上回る場合には制限されるべきではないため、正当な理由
は、当該競争促進効果が競争阻害効果を上回る場合に認めら
れることを明記すれば足りる。また、「当該競争促進効果が、
再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の方法に
よっては生じ得ないものである場合」であること及び「必要
な範囲及び必要な期間」であることを事業者側が立証すると
いう理解を前提とすれば、その立証は極めて困難であり、事
実上「正当な理由」は認められ得ない。それ故、事業者側は
違法と判断されることを危惧して、ブランド間競争の促進効
果が生じ得る再販売価格の拘束を控えることになる。こうし
た事業者側の主張・立証を考慮する視点からも「再販売価格
の拘束以外のより制限的でない他の方法」を採らなければな
らないことや必要な範囲及び必要な期間を要する旨の記載
は削除すべきである。
9
項目
改正案原文
意見
2 再販売価格の拘
束
例えば、メーカーが再販売価格の拘束を行った場合に、当該
再販売価格の拘束によって上記第2部の3(2)アに示されるよ
うな、いわゆる「フリーライダー問題」の解消等を通じ、実
際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進され、それ
によって当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図
られ、当該競争促進効果が、当該再販売価格の拘束以外のよ
り競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないもので
ある場合には、「正当な理由」があると認められる。
再販売価格の拘束に「正当な理由」がある場合の具体例を挙
げるべきである。原文第2部の3(2)アでは、フリーライダー問
題の解消が例示されているが、フリーライダー問題の解消は
「一定地域を一流通業者のみに割り当てる」など再販売価格
拘束以外の行為が例示されているため、「当該競争促進効果
が、当該再販売価格の拘束以外のより競争阻害的でない他の
方法によっては生じ得ないものである場合」の例としては適
当ではない。言い換えれば、原案では、フリーライダー問題
の解消を通じ、競争促進効果が再販売価格の拘束以外のより
制限的でない非価格制限行為によって生じ得ない場合は事
実上存在しないため、再販売価格拘束が当然違法である場合
と結論は変わらない。このような観点からも、「再販売価格
の拘束以外のより制限的でない他の方法」を採らなければな
らないことを要する旨の記載は削除すべきである。
2 再販売価格の拘 商品に秘密番号を付すなどによって、安売りを行っている流 安売りを行っている流通業者への販売を制限することは、例
束
通業者への流通ルートを突き止め、当該流通業者に販売した えば、ブランドイメージ維持・向上のために必要な施策であ
(3)②c(b)
流通業者に対し、安売り業者に販売しないように要請するこ り、ひいては消費者の利益につながる。したがって、ブラン
と
ドイメージの維持・向上、当該商品の品質の保持、適切な使
用の確保等、消費者にとっての利益の観点から安売りを行っ
ている流通業者への販売を停止することは、正当な理由のあ
る価格制限行為であると明記すべきである。
10
項目
3 「流通調査」
改正案原文
意見
メーカーが単に自社の商品を取り扱う流通業者の実際の販
売価格、販売先等の調査(「流通調査」)を行うことは、当該
メーカーの示した価格で販売しない場合に当該流通業者に
対して出荷停止等の経済上の不利益を課し、又は課す旨を通
知・示唆する等の流通業者の販売価格に関する制限を伴うも
のでない限り、通常、問題とはならない。
「当該流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課
し、又は課す旨を通知・示唆する等の流通業者の販売価格に
関する制限を伴うもの」であるからといって、競争促進効果
を考慮せずに、当該流通調査が違法とされるべきではない。
したがって、競争促進効果が競争阻害効果を上回る場合には
当該垂直的制限行為が認められることを明記すべきである。
11
項目
改正案原文
意見
1 考え方(1)
メーカーは、直接の取引先のみならず末端の小売段階に至る
まで、自社商品を取り扱う流通業者に対して、各種のマーケ
ティングを行う場合があり、メーカーの流通業者に対するこ
のようなマーケティングについては、各種の経営上の利点が
指摘されているが、メーカーがマーケティングの手段として
非価格制限行為を行う場合には、次のような問題を生じる場
合がある(注3)。
非価格制限行為が「通常」問題となるものではない(第2部3(3)
参照)のであれば、考え方の部分においても、その点を明記す
るべきである。現状の記載では、問題点が生ずることが強調
されているが、競争促進効果があり、ひいては消費者の利益
につながることも強調するべきである。
1 考え方(2)
メーカーの流通業者に対する非価格制限行為については、一
般的に、その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の
競争に与える影響が異なる。すなわち、非価格制限行為の中
には、①行為類型のみから違法と判断されるのではなく、
個々のケースに応じて、当該行為を行うメーカーの市場にお
ける地位等から、新規参入者など競争者を排除することとな
らないかどうか、当該商品についての価格競争を阻害するこ
ととならないかどうかなど、市場の競争に与える影響から違
法となるか否かが判断されるもの及び②通常、価格競争を阻
害するおそれがあり、当該行為を行うメーカーの市場におけ
る地位を問わず、原則として違法と判断されるものがある。
非価格制限行為が「通常」問題となるものではない(第2部3(3)
参照)のであれば、「②通常、価格競争を阻害するおそれがあ
り、当該行為を行うメーカーの市場における地位を問わず、
原則として違法と判断される」との記載は、矛盾していると
考えられるため、削除すべきである。
第2 非価格制限行為
12
項目
改正案原文
意見
2 流通業者の競争
品の取扱いに関す
る制限(2)(注4)
「市場における有力なメーカー」と認められるかどうかにつ
いては、当該市場(制限の対象となる商品と機能・効用が同様
であり、地理的条件、取引先との関係等から相互に競争関係
にある商品の市場)におけるシェアが一〇%以上、又はその順
位が上位三位以内であることが一応の目安となる。
ただし、この目安を超えたのみで、その事業者の行為が違法
とされるものではなく、当該行為によって「新規参入者や既
存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保するこ
とができなくなるおそれがある場合」に違法となる。
市場におけるシェアが一〇%未満であり、かつ、その順位が
上位四位以下である下位事業者や新規参入者が競争品の取
扱い制限を行う場合には、通常、新規参入者や既存の競争者
にとって代替的な流通経路を容易に確保することができな
くなるおそれはなく、違法とはならない。
なお、「市場における有力なメーカー」と認められるかどう
かについては、以下第2部において同様である。
いわゆるセーフハーバーに関する基準や要件等については、
規制改革実施計画において「平成26年度検討開始」されてお
り、今回の改正の対象外と理解しているが、この検討を行う
に際しては、その状況を開示するなど透明性のある手続をと
り、かつ、企業、消費者、有識者などと十分に意見交換を行
い、その意見を尊重することが望まれる。
また、セーフハーバーの判断にあたっては、経済的な分析が
必要となるため、上述のとおり経済分析チームを設置し、然
るべき権限を与えるべきである。
3 流通業者の販売
地域に関する制限
(3) 厳 格 な 地 域 制
限
市場における有力なメーカー(注6)が流通業者に対し厳格な
地域制限を行い、これによって当該商品の価格が維持される
おそれがある場合(注7)には、不公正な取引方法に該当し、違
法となる(一般指定 12 項(拘束条件付取引))(注8)。
原文第2部3(2)アでは「当該メーカーが、一定の地域を一流通
業者のみに割り当てることなどが、フリーライダー問題を解
消するために有効となり得る。」との記載があるが、この場
合と違法となる地域制限行為の関係性を明示すべきである。
13
項目
改正案原文
意見
3 流通業者の販売
地域に関する制限
(3) 厳 格 な 地 域 制
限(注7)
「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」とは、非
価格制限行為により流通業者間の競争が妨げられ、流通業者
がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格
を維持し又は引き上げることができるような状態をもたら
すおそれが生じる場合をいい、このようなおそれを生じさせ
ない行為については、通常、「当該商品の価格が維持される
おそれがある場合」とは認められない。例えば、メーカーに
よる流通業者の販売地域に関する制限においては、通信販売
を行う事業者による当該地域における対象商品の販売や他
の地域に所在する流通業者による販売が可能な場合には、こ
れらの競争圧力の程度等も考慮する。
「非価格制限行為により流通業者間の競争が妨げられ、流通
業者がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の
価格を維持し又は引き上げることができるような状態をも
たらすおそれが生じる」からといって、競争促進効果を考慮
せずに、当該厳格な地域制限が違法とされるべきではない。
したがって、競争促進効果が競争阻害効果を上回る場合には
当該非価格制限行為が認められることを明記するべきであ
る。
4 流通業者の取引 (2) 帳合取引の義務付け
先に関する制限
メーカーが流通業者に対し帳合取引の義務付けを行い、これ
によって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合に
は、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定12項(拘
束条件付取引))。
(3) 仲間取引の禁止
仲間取引の禁止が、安売りを行っている流通業者に対して自
己の商品が販売されないようにするために行われる場合な
ど、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある
場合には、不公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定
12項)。
選択的流通を実効的なものとするために、帳合取引の義務付
けや仲間取引の禁止が手段として用いることが考えられる。
これらの行為が、価格が維持されるおそれがある場合に違法
となると、結局、事業者側に萎縮効果が生じ、選択的流通が
違法とされていることと結論が変わらないこととなる。した
がって、帳合取引の義務付け、仲間取引の禁止に関する記載
は削除するべきである。
14
項目
改正案原文
意見
4 流通業者の取引
先に関する制限
(4)安売り業者への
販売禁止
メーカーが卸売業者に対して、安売りを行うことを理由(注
9)に小売業者へ販売しないようにさせることは、これによっ
て当該商品の価格が維持されるおそれがあり、原則として不
公正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定二項(その他
の取引拒絶)又は一二項)。なお、メーカーが従来から直接取
引している流通業者に対して、安売りを行うことを理由(注
9)に出荷停止を行うことも、これによって当該商品の価格が
維持されるおそれがあり、原則として不公正な取引方法に該
当し、違法となる(一般指定二項)。
(注9)「安売りを行うことを理由」にしているかどうかは、他
の流通業者に対する対応、関連する事情等の取引の実態から
客観的に判断される。
ブランドイメージの維持・向上、当該商品の品質の保持、適
切な使用の確保等、消費者にとっての利益の観点から、結果
的に安売り業者に対して出荷停止を行う場合が考えられる。
選択的流通では、このような合理的な理由に基づくものは
「結果として、特定の安売り業者が基準を満たさず、当該商
品を取り扱うことができなかったとしても、通常、問題とな
らない」ことが明記されていることから、安売り業者への販
売禁止においても同様に、「ブランドイメージの維持・向上、
当該商品の品質の保持、適切な使用の確保等の合理的な理由
がある場合には、「安売りを行うことを理由」にしていると
はされない」ことを明記すべきである。
5 いわゆる「選択的 いわゆる「選択的流通」と呼ばれるものであり、上記第2部
流通」
の3(2)のような競争促進効果を生じる場合があるが、商品を
取り扱う流通業者に関して設定される基準が、当該商品の品
質の保持、適切な使用の確保等、消費者にとっての利便性の
観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、
かつ、他の取扱いを希望する流通業者に対しても同等の基準
が適用される場合には、たとえメーカーが選択的流通を採用
した結果として、特定の安売り業者が基準を満たさず、当該
商品を取り扱うことができなかったとしても、通常、問題と
はならない。
ブランドイメージの維持・向上についても、消費者の満足を
高めるという広い意味での消費者の「利益」を高めることに
なるから、「それなりの合理的な理由」として例示するべき
である。また、消費者の「利便性」の観点に限定することは
狭すぎ、消費者の「利益」とするべきである。
さらに、「他の」が「取り扱い」にかかっているのか「流通
業者」にかかっているのかが不明確であるため、「当該商品
の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が
適用される場合」と修正すべきと考える。
加えて、選択的流通は、販売地域の制限、取引先の制限、販
売方法の制限など他の非価格制限行為が伴うことが想定さ
れるため、「3 流通業者の販売地域に関する制限」の前に記
載されるべきである。
15
項目
改正案原文
意見
6 小売業者の販売 メーカーが小売業者に対して、販売方法(販売価格、販売地域
方法に関する制限 及び販売先に関するものを除く。)を制限することは、商品の
安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品
(2)
の適切な販売のための合理的な理由が認められ、かつ、他の
取引先小売業者に対しても同等の条件が課せられている場
合には、それ自体は独占禁止法上問題となるものではない。
本項における「合理的な理由」と選択的流通の判断基準とさ
れる「それなりの合理的な理由」が同じものなのか異なるも
のなのかが不明確である。「それなりの」という語彙からす
れば、選択的流通の方が緩やかな要件のように思えるが、選
択的流通と小売業者の販売方法に関する制限は、商品の品質
の保持等同じ目的で行われることもあるから基準を別にす
ることは相当ではない。
また、小売業者の販売方法に関する制限では、合理的な理由
を「商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等」
としている一方、選択的流通では「当該商品の品質の保持、
適切な使用の確保等」としており、異なったものが例示され
ている。この点を別に考える必要はないことから、統一すべ
きである。
以上
16