学生として震災復興に伴走して - 学生生活案内

学生として震災復興に伴走して
福島大学人文社会学群人間発達文化学類
大河原 彩季
【OECD 東北スクールとの出会い】
私が OECD 東北スクールと出会ったのは、2 年生の 8 月のことであった。
OECD 東北スクールとは、プロジェクト学習を通して生徒たちに21世紀型能力と呼ばれ
るものを身につけさせる教育プロジェクトである。震災に襲われた福島、宮城、岩手の中
学生・高校生が約 100 人集まり、2 年半にわたる様々な経験、活動を経て、2014 年 8 月、
パリで東北の魅力をアピールするイベントを開くことを目標に活動してきた。プロジェク
トの目的は、復旧に留まらず国際的な視野を備え、
「新しい東北・日本の未来」を考えて行
動できるイノベーターの育成である。私たち事務局学類生の仕事は、生徒たちの活動のサ
ポートだった。主に集中スクールや地域スクールの運営補助(動画撮影、写真撮影、議事
録、報告書作成、会場設営など)を行った。普段は事務局学類生で担当地域を決め、担当
地域の生徒やローカルリーダー(LL)の先生と連絡をとる作業をしていた。地域は大槌
チーム、気仙沼チーム、戸倉チーム、女川チーム、相馬チーム、伊達チーム、大熊チーム、
いわきチーム、東京・奈良チームがあり、プロジェクトの終了した現在も連絡を取り合っ
ている。さらには、パリに持っていく荷物の梱包作業、生徒の書いた文章の推敲、KPI(Key
Performance Indicator、評価指標となる能力)アンケートの分析など学生ができる範囲で
様々な事務処理を行った。資金集めのために校内で募金活動を行い、その様子を SNS にア
ップし、生徒たちのモチベーションをあげるために活動の様子を広げた。LFJ(ラフォル・
ジュルネ・オ・ジャポン、フランスのアーティストによる音楽祭)でスクールのブースを出
した際、OECD の運営協力をしてくださった企業のひとつである WINDS さんの元でイン
ターンシップを行い、プロの仕事を間近でみることのできた学類生もいた。
はじめはタブレットの使い方はもちろん、office365 や Mac の使い方、ビデオ撮影や議事
録のとり方なども全く分からなかった。何もわからないまま初めて参加した 8 月、東京で
開催した集中スクールでは、自分たちが何をすれば良いかわからず戸惑う場面が多かった。
今では機器の使い方もわかり、その場に応じて臨機応変に物事に対応できるようになった
気がする。また、中・高校生がタブレットを使いこなし、一人ひとり自分の考えをもって
真剣に話し合う姿に衝撃を受けたのを覚えている。それから地域スクールや集中スクール、
リハーサル合宿などを重ね、生徒や大人の方々との交流を深めていった。
そして 2014 年 8 月、東北復興祭<環 WA>in Paris を無事に開催することができた。閉
会式で生徒たちが泣きながら肩を組んで OECD 東北スクールのテーマソング「希望の環」
を歌う様子は感動的であった。しかし、OECD 東北スクールはパリのイベントがゴールで
はない。パリでのイベントは、スクールで学んだことを生かして次の活動に繋げていくた
めのスタートなのである。
【生徒たちの学び、生きる力との関連】
これからの社会においては、学校で学んだ知識のみで社会生活を営むのではなく、子ど
も達一人ひとりが自ら個性やリーダーシップを発揮し、困難な場面に立ち向かい、未来を
切り開いていく力が求められている。このために必要なのが、次期学習指導要領でも最重
視されている「生きる力」である。私自身、これからの変化の激しい社会を生き抜くため
には「生きる力」の育成が大切だと感じており、OECD 東北スクールのようなプロジェク
ト学習は非常に効果的だと考えている。たとえば、集中スクールや地域スクールでの異学
年や他地域との交流、OECD パリ本部で開催された「生徒大人合同熟議」での「2030 年の
学校」というテーマのもと大人と子ども対等で議論を行うという経験は教育現場において
はなかなかできない。しかし、社会に出ていく上では非常に良い経験になる。また、英語
を用いたプレゼンや外人との交流などを通してグローバル力の向上、資金集めのために企
業へプレゼンしにいく際の交渉力、各地域自分たちのブースを一から考え試行錯誤しなが
らよりよいものにしていく想像力や企画力、そして、パリ本番のイベントを成功させると
いう実行力など、様々な活動を通して生徒たちは多くの力が身に着いたはずである。さら
に、パリでのイベントが終わってからも OECD 東北スクールでの学びが生かされていると
感じたのは、2014 年 11 月、長野県で地震が起きた際の 2 人のスクール生の行動であった。
彼らは SNS で寄付金の協力を呼び掛け、クラウドファンディングのサイトに申請を行い、
福島の中高生を集めてボランティアしに行くというプロジェクトを考えた。他にも東北ス
クールで学んだリーダーシップや実行力などを生かし、積極的にアクションを起こす生徒
が増えている。
【事務局としての学び】
福島大学には、災害ボランティアセンターをはじめとするボランティアサークルがいく
つかある。私自身も「リフレッシュスキーキャンプ」という、福島の子ども達を長野県へ
つれていき、スキーをしたりレクリエーションをしたりすることで心身ともにリフレッシ
ュしようという「リフレッシュスキーキャンプ」や仮設住宅に赴き、縁日のお手伝いをし
たり子どもと遊んだりするなど、様々なボランティアに参加してきた。このように子ども
たちと遊んだり触れ合ったりするボランティアは教員を目指す学生にとって良い経験とな
り、自分の糧になると思う。だが、OECD 東北スクールのように完全に裏方の「事務局」
としてボランティアをするという機会は少ない気がする。私は OECD 東北スクールの「事
務局」での活動こそ、教師を目指しこれからの教育を担う学生にとって大切なノウハウが
学べる非常に良い機会だと感じた。その理由は2つある。
1 つ目は、タブレットなどの情報機器の活用である。現在、教育における ICT の活用が
推進されている。しかし、ICT を積極的に教育現場に取り入れていくためには、まず指導
者自身が情報機器を使いこなす必要があり、研修なども必要になってくるだろう。私たち
事務局学類生は OECD 東北スクールに参加したことで、この ICT の活用について実践的に
学ぶことができた。SD カードの吸出し・整理をはじめ、動画の編集や office365 の使い方、
タブレットの使い方などを大学院生や事務局の大人の方に丁寧に教えていただいた。タブ
レットは事務局学類生にも一人ひとりに配られ、普段から積極的に活用することでタブレ
ットに慣れることができた。現在タブレットを導入する学校が増えているので、スクール
の生徒たちがタブレットを使う様子を間近でみることができたのも、ICT を活用していく
うえで良い経験になった。
2つ目は、多くの大人の方々と繋がりを持てたことである。
OECD 東北スクール運営において、accenture、WINDS、YAHOO、TV MAN UNION、
NPO 法人キッズドアなど多くの企業さんの協力があった。この OECD 東北スクールがな
ければ、こんなにもたくさんの企業の方と繋がる機会はなかったと感じている。たとえば、
このスクールでの出会いがきっかけで accenture さんが企画しているワークショップのお
手伝いをさせてもらったり、文部科学省の方に声をかけていただき「双葉郡子供未来会議」
や「ふるさと創造学サミット」のボランティアをさせてもらったりと、様々な活動に参加
させていただくことができた。
私が参加した「第 1 回双葉郡子供未来会議」では、ワールドカフェ方式のワークショッ
プを行った。「最高の学校とは何か。最高の教育とは何か。」というテーマのもと、何回か
席替えを繰り返しながら大人も子どもも一緒になって自由に対話を繰り返し、考えを深め
ていった。その中でもグローバル化を意識し、海外留学等の体験活動を充実させたいとい
う意見や、教師側が一方的に進めるのではなく、生徒の自主性や主体性を大切にした授業
があると良いなどの意見が印象に残っている。グローバル化の視点で意見を出したのは
OECD 東北スクールの生徒だったので、ここでもスクールの学びが生かされていると感じ
た。また、ワークショップは教育実践の一つとして非常に良い経験になるので大変勉強に
なった。
「第 1 回ふるさと創造学サミット」では、自分たちのふるさとの魅力を知り、今ふるさ
とが抱えている課題をどう解決していくかを考え、復興に向けて発信するための授業であ
る。2014 年度春から双葉郡 8 町村の学校が「総合的な学習の時間」の中で自分たちのふる
さとの魅力を知り、今ふるさとが抱えている課題をどう解決していくかを考えるという授
業を行い、その成果の発表会であった。各学校でアプローチの仕方が異なり、大変魅力的
なものばかりであった。そこで印象的だったのは大人と子どもの考え方の違いである。大
人は「双葉郡に帰りたい」という思いが強いが、子どもは今の生活に慣れてしまっている
ので、大人よりも故郷に帰りたいという思いが薄くなっているという発表があった。しか
し、仮設住宅を訪問したり役場を訪問したりして大人の思いを知ったことで、子どもたち
自身もふるさとへの思いが強くなったという。実際にやってみるという体験型の学習を行
うことは非常に有効的だと感じた。また、地域とつながりを深めるためにも「ふるさと」
に目を向けさせるようなきっかけづくりをすることが大切だと感じた。
このように、OECD 東北スクール事務局として活動したことで、ICT の活用やワークシ
ョップなどの教育実践について深く学ぶことができた。もちろん教育学や指導論を学ぶこ
とは大切だが、ぜひ教員向けの ICT 関係の授業や講座を開講して欲しいと思った。また、
福島大学に特別講師として様々な企業の方をお呼びし、講演をしてもらうという機会を作
ることができれば、もっと学生の視野を広げることができるのではないかと思う。
【復興に目を向けて】
私は、OECD 東北スクールに参加するにあたって非常に悩んでいた点があった。それは、
震災を経験していないということである。私の出身は山形県米沢市であり、直接的な被害
は少なかった。震災直後は福島から米沢へ多くの人が非難し、当時高校 2 年生だった私は
洋服や食べ物など支援物資を必死に届けた記憶がある。しかし、だんだんと復興に対する
意識は薄れ、いつしか震災は「他人事」になってしまっていた気がする。そんな中、この
OECD 東北スクールに出会った。はじめは、被災を経験した生徒とどう接していけば良い
のかと不安だったが、話してみるとみんな震災を前向きに捉え、前に進もうとしているこ
とが分かった。事務局学類生の中にも被災を経験した人がおり、思い切って話を聞いてみ
ると、津波の様子や瓦礫撤去の様子やその時の心境などを語ってくれた。
「大変だったが震
災があったからこそ、地域に目を向けるようになった。決してマイナスではない。」という
言葉が印象に残っている。また、各地域で開催される地域スクールの運営補助をするため
に多くの被災地に赴くことができ、地域スクールに行くたびに「復興」について考えるよ
うになった。女川第一小学校の 14:56 で止まった時計、瓦礫、仮設住宅の様子など、被災
地をまわることで現在がどのような状況なのかを自分の目で確かめることができたのは私
にとって大きかった。
一番心に残っているのは女川地域スクールで行った「さんま de サンバ」の撮影である。
女川町民のつながりの強さをアピールするために女川町民にさんま de サンバを踊ってもら
い、それを youtube に投稿するという企画の撮影であった。この企画は女川チームの 2 人
が考えたもので、パリ本番でもさんま de サンバを踊った。女川の人々が笑顔で踊っている
様子を見て、前に進もうとする強い気持ちが伝わってくるようだった。
福島大学にきていなかったら、OECD 東北スクールがなかったら、被災地に目を向ける
ことはなかったかもしれない。そして、生徒たちが震災を前向きにとらえ、マイナスから
ゼロではなく、マイナスからプラスになるように前を向いて頑張っていることに気付かな
かったかもしれない。いつしか OECD 東北スクールに参加して良いのだろうかという迷い
は消え、少しでも生徒たちの役に立ちたい、東北のことを考えたいと思うようになってい
った。また、OECD 東北スクールで活動していくうちに、街中に出ると「復興」という文
字や活動に目を向けるようになっていた。震災当時は、
「復興支援」というと支援物資を届
けることしか思いつかなかったが、今では「復興支援」の形は様々あると知ることができ
た。さんま de サンバや原発事故による風評被害をなくすために生徒が開発した伊達のゼリ
ーなど OECD 東北スクールの活動はもちろんのこと、復興のために石巻の魚を使っている
という店や太鼓の演奏で人々を元気にするために被災地を回っている和太鼓サークルの存
在などたくさんある。仮設住宅に赴き住民の方とお話するというのも、復興支援の一つか
もしれない。他人事と思わずに被災地のことを思いやり、震災を前向きに捉えていくこと
こそ、復興支援の第一歩なのだと感じた。
【チーム<環>】
2014 年 11 月に OECD 東北スクールの募金活動とパリイベントの活動報告を福島大学生
協前で行った。より多くの人に知ってもらうために、OECD 東北スクールの活動について
プレゼンを行い、福島大学はもちろん他大学にも広げていきたいと思っている。また、大
学同士でボランティアコミュニティを作ることができれば、ますます幅広い活動ができる
のではないかと思う。私はこのコミュニティの中心を福島大学にし、ボランティアの情報
などを他大学に発信していきたいと考えている。Skype などで会議を行うこともでき、半
年に 1 回ほどボランティア総会を開いて今までの取り組みについてと今後の取り組みにつ
いて話し合う機会を設け、情報を交換し合うのも良い刺激になると思う。さらに、ふるさ
と創造学サミットや OECD 東北スクールのような被災地の子どもたちの取り組みを、地元
の子どもたちに伝えたいと思うようになった。
OECD 東北スクールを通して様々な人の考え方に触れ、自分の視野を広げることができ
た。そして何よりもこの 1 年間苦楽をともにした事務局学類生の存在は私にとって非常に
大きい。今は教員採用試験や公務員試験に向けてみんなで遅くまで学校に残り勉学に励ん
でいる。ともに高めあい、刺激しあえる仲間ができたことは私にとって宝物である。私は
地元山形で小学校教師になることが夢である。夢が実現したら、OECD 東北スクールで学
んだノウハウを生かせるように頑張りたい。そして、今まで出会った人、これから出会う
多くの人との<環>の繋がりを大切にできる教師になりたいと思う。
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