地震動および常時微動を用いた地盤特性の評価法の比較

21373
日本建築学会大会学術講演梗概集
(関 東) 2 0 0 1 年 9 月
地震動および常時微動を用いた地盤特性の評価法の比較
地盤特性 常時微動 地震動
スペクトル比 H/V スペクトル比
正会員
同
ig i
ch
To
Yokohama_shi
(Enlarged at right)
Mj=6.0
Ibaraki_ken
Saitama_ken
Mj=4.7
Tokyo_to
Mj=5.1 Mj=4.6
Mj=4.9
ay
Ka
n
ag
aw
Mj=5.8
HDC KGG
Ch
ib
a_
ke
n
To
ky
oB
)
)
)
)
)
)
)
)
a_
Mj=4.2
2. 用いたデータ
用いた地震動データは横浜市高密度強震計ネットワーク
の代表的な地下構造を持つ 9 地点で得られたもので、1997
年 8 月から 2000 年7月までのマグニチュード Mj=4.2∼6.4
の 13 地震の加速度記録である。図 1 に示すように、これら
の地震の震源は横浜市からまんべんなく各方向に位置して
おり、その深さも異なっている。常時微動データは上記の
9地点で得られた記録である。
図 2 に各 9 地点の S 波速度構造を示す 4)。これら 9 点の
表層地盤は次の4グループに分けられる:(1) KZU:硬質地
盤がほぼ露頭している;(2) NAF、KGG、TRG:堆積層が薄い
(インピーダンス比が小さい);(3)ISG、HDC:軟弱な堆積層
がやや厚く堆積している(インピーダン比は大きい);(4)
NSR、KZP、TRJ:軟弱な堆積層が厚く堆積している(インピ
ーダンス比が大きい)
。
en
_k
Mj=4.9
ke
n
1. はじめに
観測された地震動や常時微動を用いて地盤特性を評価す
るために、いくつかの方法が提案されている。しかし、そ
れぞれの方法の適用性は各地域の地質や地形の特徴などに
よって異なる場合がある。本研究では、横浜市の高密度強
震計ネットワークの記録を用いて、地盤増幅率の評価に用
いられている、基準点での地震動スペクトルに対する各観
測点でのスペクトルの比(以下 RSM とする)1)、地震動お
よび常時微動の上下動に対する水平動のスペクトル比(以
下それぞれ H/VA・H/VM とする)2)3)の3種類のスペクトル比
を比較検討する。
ロドリゲス・ヴィクトル*
翠川 三郎**
○
NSR
TRG
TRJ
Mj=4.8
Mj=5.7
NAF
ISG
KZP
KZU
Legend
JAPAN
Sample sites
Yokohama network
Epicenters
Mj=6.3
Japan Sea
Enlarged
Mj=6.4
0
Mj=6.4
25
50 km
Pacific Ocean
Scale
Depth (m)
Depth (m)
Depth (m)
図1.横浜市内で選んだ地点と用いた地震の震源の位置
3. 解析方法と結果
本研究の流れは以下の3ステップである:(1)地震動の
H/VA スペクトル比の安定性を確認する、(2)上記の三通りに
よるスペクトル比を比較する、(3)これらのスペクトル比と
地盤の S 波速度構造の関係を検討する。
3.1 地震動の H/VA スペクトル比の安定性について
地震動の H/VA スペクトル比に対して、常時微動の H/VM
スペクトル比 3)と同様に地盤の増幅率の評価に適用できる
可能性が過去に提案されている 2)。その適用性を確かめる
ため,各9点における地震動の H/VA スペクトル比の安定性
を確認した。各加速度記録の S 波初動部から 20.48 秒を切
り出し、水平2成分を複素直交ベクトルにし、上下動成分
と同様にフーリエ変換を行って、対数型ウィンドウを用い
て平滑化した。
図 3 に示すようにほとんどの地点の H/VA スペクトル比は
安定している。特に、NAF、ISG、HDC、KZP および TRJ のス
ペクトルでは明瞭的なピークが見られる。KZU と TRG のス
ペクトル比はほぼフラットである。KGG と NSR では明瞭で
はないが、それぞれ 0.2 秒と 1.5 秒付近にピークが確認で
きる。このことによって、これら9地点での H/VA スペクト
ル比の安定性を確認した。
0
10
20
30
40
50
60
70
0
10
20
30
40
50
60
70
0
10
20
30
40
50
60
70
0
KZU
NAF
KGG
TRG
ISG
HDC
NSR
TRJ
KZP
200 400 600 0
Vs (m/s)
200 400 600 0
Vs (m/s)
200 400 600
Vs (m/s)
図 2.横浜市内で選んだ代表的な9地点の S 波速度構造
Comparison of site response estimation techniques using earthquake and microtremor records
RODRIGUEZ Victor and MIDORIKAWA Saburoh
−745−
21373
日本建築学会大会学術講演梗概集
(関 東) 2 0 0 1 年 9 月
4. まとめ
本研究では地震動の(H/VA)スペクトル比の安定性を確認
したうえで、常時微動の(H/VM)スペクトル比及び地震動の
基準スペクトルに対するスペクトル比(RSM)と比較した。そ
の結果、以下のように考えられる。
1) H/VA スペクトル比は震源位置、深さ及びマグニチュー
ドに対する依存性がなく、安定している。
2) 3 種類のスペクトル比はおおむね一致するが、特に
H/VA スペクトル比の形状は RSM スペクトル比よりも H/VM
スペクトル比とよく一致する。
謝辞
横浜市高密度強震計ネットワークの地点で得られた地震記
録を使用させて頂いた。関係各位に謝意を示す次第である。
参考文献
1)
Borcherdt R. D., Effects of local geology on ground motion near San
Francisco Bay, BSSA, Vol. 60, pp. 29-61, 1970
2) Lermo J. and Chavéz-García F. J., Site effects evaluation using spectral
ratios with only one station, BSSA, Vol. 83, pp. 1574-1594, 1993
*
東京工業大学人間環境システム専攻・大学院生・工修
東京工業大学人間環境システム専攻・教授・工博
**
20
H/VA Ratio
10
KZU
NAF
KGG
TRG
ISG
HDC
KZP
NSR
TRJ
5
2
1
0.7
20
H/V A Ratio
10
5
2
1
0.7
20
H/VA Ratio
10
5
2
1
0.7
0.1
0. 2
0.5
T (sec)
1
2
0.1
0.2
0. 5
T (sec)
1
2
0.1
0.2
0.5
T (sec)
2
1
図 3. 9 地点における 13 地震の H/VA スペクトル比
20
Ratio
10 KZU
NAF
KGG
ISG
HDC
NSR
TRJ
5
2
1
0.7
20
Ratio
10 TRG
5
2
1
0.7
20
10 KZP
Ratio
3.2 各スペクトル比の比較について
、
図 4 に、9 地点において解析した地震動の H/VA(太線)
微動の H/VM (細線)及び RSM スペクトル比(点線)を重ね
て示す。地震動の H/VA は図 3 で示したスペクトル比の平均
である。微動の H/VM と地震動 RSM スペクトル比は著者ら 5)
による結果を用いた。3 種類のスペクトル比はおおむね一
致するが、特に H/VA スペクトル比の形状は RSM スペクトル
比よりも H/VM スペクトル比とよく一致する。また、一般的
に地震動の H/VA スペクトル比は RSM や常時微動の H/VM スペ
トル比より大きい。
図 4 に示す3種類のスペクトル比の形状と卓越周期が一
致する程度から、以下のグループに分けられる。
(1) KZU:スペクトルはフラットな形状である(RSM スペク
トル比を計算した際に基準点に設定した)。
(2) TRG, KZP: 全スペクトル形状がほとんどフラットであ
って、RSM スペクトル比は H/VA 及び H/VM スペクトル比
とあっていない。
(3) NAF, KGG: 3 種類のスペクトル比の形状が一致してい
て、卓越周期は 0.2 秒付近である。
(4) ISG, HDC, NSR, TRJ: 3 種類のスペクトル比の形状が
よく似ていて、卓越周期が 1 秒前後にある。
3.3 スペクトル比と地盤の S 波速度構造の関係
図 2 と図 4 から次のように考えられる。
(1) 硬質地盤の場合にはスペクトル比の形状はほとんどフ
ラットになっている(KZU)。
(2) インピーダンス比が大きい場合は 3 種類のスペクトル
比の形状及びこれらのピーク周期はほぼ一致し、堆積
層が厚くなるにつれてピーク周期は長くなる傾向が見
られる(NAF, KGG, ISG, HDC, NSR, TRJ)。
(3) インピーダンス比が小さい地点や複雑な地盤構造をも
つ地点では RSM スペクトル比と H/V スペクトル比は合
わない(TRG, KZP)。
5
2
1
0.7
0.1
0.2
.5
0
T (sec) 1
2
0.1
0.2
.5
0
T (sec) 1
2
0.1
0.2
5
0.
1
T (sec)
2
図 4. 9 地点における H/VA(太線)、H/VM(細線)及び RSM(点線)
によるスペクトル比。灰色部分は H/VA±σを示す。
3)
Nakamura Y., A method for dynamic characteristics estimation of
subsurface using microtremor on the ground surface, QR-RTR1 30, 1,
February, 1989
4) 翠川三郎・阿部進, 横浜市における細密震度分布の即時評価、第 10
回日本地震工学シンポジウム論文集、Vol. 3, pp. 3467-3472, 1998
5) ロドリゲス ヴィクトル・翠川三郎、常時微動のスペクトル比を用
いた地盤特性の評価とその適用性の検討、日本建築学会大会梗概集,
pp.241-242, 2000
Graduate Student, Dept. of Built Environment, Tokyo Institute of Technology, Mr. Eng.
Professor, Dept. of Built Environment, Tokyo Institute of Technology, Dr. Eng.
−746−