博士後期課程「総合科学研究科」の新設による大学院再編

博士後期課程「総合科学研究科」の新設による大学院再編
福島大学大学院 地域政策科学研究科
持田 夏海
1 本稿の背景
本稿は、ちょうど昨年度の学生論壇賞の募集期間が過ぎたころから最近までに、筆者が
地域政策科学研究科の院生自治会において執行委員を務めた経験から、本学大学院のより
良いあり方を考察したものです。他大学の学士課程を修めて本学大学院に入学した筆者の
知見は本学の全容を把握したものではなく、そのため本稿も筆者の見聞に基づく限りで論
考を試みるものであることを、あらかじめここに記します。
本学ウェブサイトに掲載されている近年の大学院入試状況を見れば、入学志願者数は少
ないと言わざるを得ません。本学の学類生に大学院入学志願者が少ないことについては、
学類生に大学院進学を意識させるほどの目覚ましい活躍が筆者自身にないことを、まずは
反省します。次いで他大学出身者または社会人の入学志願者が少ないこととも関連し、他
大学出身者として本学大学院の編成について指摘した上で、大学院の再編案の一つを提示
することを以下で行います。
2 博士後期課程がないことの弊害
筆者が本学大学院への入学を決意した際に、その判断基準にはならなかった事項があり
ます。それは、共生システム理工学研究科の他は、修士課程のみの設置であることです。
もちろん、他大学の大学院を含め博士後期課程の有無を認識して受験しましたが、博士後
期課程が設置されているか否かは、合格後の入学判断において考慮しませんでした。
自らの所属する地域政策科学研究科に博士後期課程がないことの弊害を最初に意識した
のは、昨年度の最終試験の運営や修士論文概要集『地域政策科学』の編集に院生自治会の
執行委員として携わったときです。これらは各修了予定者が修士課程での研究成果を対外
的に発表する機会及び媒体ですが、
「自らの成果が修士課程を修了するに相応しい程度に学
術性を持ち、各体系において新規性や進歩性等を有しているか」を意識する機会が全体と
して不足している状況で、各学生が修了を迎えたことを表してもいます。もっとも、自ら
がそのような状態で修士論文を提出しようとしている筆者の推測に過ぎないかもしれませ
ん。
本研究科の在学生によるピアレビューの場は、以前から院生自治会が修士論文中間発表
会を主催することで設けられてきました。自主的にピアレビューの場を設ける院生自治会
の姿勢を支持する筆者ですが、今年度は発表者として同発表会に参加し、
「そもそも修士課
程の学生しかいない状況では、博士後期課程の学生もいる状況に比べると、各研究の発展
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性を意識した議論には至りがたいのではないか」という感想を持ちました。たとえば、他
大学を含め博士後期課程が設置されている大学院ないし研究科においては、博士前期課程
の授業科目に博士後期課程の学生が TA として参加している等、博士前期課程の学生が「自
らの成果が修士課程を修了するに相応しい程度に学術性を持ち、各体系において新規性や
進歩性等を有しているか」を意識する環境が、日常的に形成されているように見受けられ
ます。本研究科の学生も各自で学会等に所属し、自らの研究の位置づけを客観的に捉える
機会は担保しているものの、博士後期課程がないために日常的なピアレビューの機会は欠
如していると認めざるを得ません。このような「本研究科のあり方」は、修士論文や最終
試験、修士論文概要集『地域政策科学』に表れ、本学の内外から評価されていることと思
います。
自身の不出来を組織に責任転嫁するようで恐縮ですが、筆者の実感する「博士後期課程
がないことの弊害」はこのようなものです。なお、教務委員会においても本研究科の「最
終試験のあり方」が懸案事項となっているようですが、筆者は最終試験を「対外的に研究
成果を発表する場」と捉え、その本質を「研究成果」に求める限りでは、最終試験に至る
までの「修士課程のあり方」にその根本的な問題があると考えています。
3 博士後期課程「総合科学研究科」の新設
本稿の提言は、現行の修士課程及び博士前期課程のすべてに対応する「博士後期課程『総
合科学研究科』の新設」です。最終頁のイメージ図を参照してください。
おそらく、人間発達文化研究科、地域政策科学研究科、経済学研究科が修士課程のみの
設置であることには、相応の理由があることと思います。大学院の再編案としては、大学
院全体を「総合科学研究科」として再編するものや、福島大学全体を広島大学の「総合科
学部」及び「総合科学研究科」のように再編するものも考えました。しかしながら、現行
の組織編成には歴史があり、筆者は本学の学士課程をよく知らない立場にあるため、学類
は提言対象としないこととしました。また、運営上の便宜のためだけでなく、各学類と各
研究科がおよそ対応している方が、学類生にとっても大学院及び大学院生を意識しやすい
可能性があるため、修士課程についても単に博士前期課程に移行させるのみとし、各学類
との関係性は担保する提言としました。
ただし、既存の各専攻及びコース等については、統廃合の必要性を示したいと思います。
筆者は、自身の研究対象が各研究科の境界領域にあるものと考えていることから、毎年度
すべての研究科のシラバスを検索し、在学中にすべての学類の研究室を訪問したほか、他
研究科でも授業科目を履修しました。これらの経験から、とくに次に掲げる各専攻等の間
では現行の組織編成においても在学生どうしのピアレビューが可能であると考えており、
むしろ博士後期課程「総合科学研究科」の新設にあたっては、これらの専攻等を統廃合し
たほうが隣接分野の学生及び教員間でのピアレビューが容易になると考えます。たとえば、
地域政策科学研究科・地域政策科学専攻の履修分野「地域文化」及び「社会経済法」は、
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それぞれ人間発達文化研究科の「地域文化創造専攻」及び経済学研究科の「地域経済政策
専攻」と関連性が強いと思われます。これらについては、あえてイメージ図では自分の所
属する研究科ではなく、かつ、専攻としての規模をすでに持っている研究科の専攻等の名
称を踏襲する形で、統廃合の例としました。
また、単に名称の似ている専攻等が複数の研究科に存在するだけでなく、過去に提出さ
れた個々の修士論文の題目を見ると、その研究対象が現行の各研究科の境界領域に属する
と思われるものがいくつもあることに気がつきます。それらの修士論文こそ、より学際的
なピアレビューの必要性を示しているといえますし、筆者が専攻等の統廃合ではなく、む
しろ「総合科学研究科」の設置を期待する根拠でもあります。
なお、イメージ図では便宜上、既存の専攻及びコース等の規模にかかわらず、すべて専
攻としていますが、これら専攻については、学士課程ですでに用いられているコース等の
分類を博士前期課程ないし博士後期課程まで一貫して用いることも考えられます。学類と
名称を同一にすることで本学の学類生が大学院を意識しやすくなる可能性を認識しつつも、
学類におけるコース等の分類が大学院における専攻等として適切なものであるかを筆者は
判断しかねるため、イメージ図では、既存の専攻及びコース等を統廃合する例を示すこと
としました。
4 本稿をもって学生論壇賞に応募する意義
以上のような案を発表する唯一の好機が本年度の学生論壇賞であると考え、本稿をまと
めました。
「博士後期課程のあり方」ないし「大学院のあり方」についても議論の余地はあ
りますが、本稿は筆者自身の知見に基づき、
「博士後期課程『総合科学研究科』の新設」を
提言するにとどまるものです。
本稿の内容について各研究科に所属する学生のみなさんで意見交換をする機会が、来年
度以降の大学院生懇談会等において設けられることを期待します。また、学類及び大学院
の組織編成については、本学に所属する教員全体の判断によるところも大きいようにも思
われるため、運営組織に属しない教職員のみなさんにおいても、本稿の内容について議論
されることを望みます。
このように名宛人が多くなる提言を発表する場は、筆者の立場ではなかなか得難いため、
本年度の学生論壇賞が実質的に唯一の機会となりました。このような機会が各年度に複数
回あれば、より時宜に適った提言等を学生は行えるかもしれません。また、筆者は学生論
壇賞の募集期間と修士論文の提出期間が一部重複していることを学生論壇賞への応募を諦
める理由とはしませんでしたが、もし、修士論文等の提出期間と離れた時期にも学生論壇
賞の募集があれば、大学院生にとって学生論壇賞への応募を検討することがより容易にな
ると考えます。学生論壇賞の募集回数及び募集期間については、提言とは別の要望として、
ここに記します。
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既存の各専攻及び
コース等を統廃合
教職教育専攻
学校臨床心理専攻
地域文化創造専攻
地方行政専攻
博士前期課程
現行の修士課程からの移行
行政基礎法専攻
人間発達文化研究科
社会計画専攻
博士後期課程
地域政策科学研究科
地域経済政策専攻
新設
総合科学研究科
経済学研究科
国際経済社会専攻
共生システム理工学研究科
経営管理専攻
産業システム専攻
環境システム専攻
物質科学専攻
イメージ図
博士後期課程「総合科学研究科」のある大学院編成
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