当日配布資料(5.34MB)

血管・リンパ管ネットワークを
有する三次元腹膜組織
弘前大学大学院医学研究科
生体構造医科学講座/神経解剖・細胞組織学講座
教授 下田 浩
弘前大学大学院医学研究科
神経解剖・細胞組織学講座
助教 浅野 義哉
三次元人工組織の開発
創薬
薬物の効能と動態の評価(スクリーニング)
研究・臨床ツール
組織・臓器の再現による新しい実験系・診断法
(動物実験代替法)
移植材料
ヒト細胞を用いた移植組織およびその移植法
オーダーメイド医療の実現
多くの組織は階層構造を成している
“bottom up approach”
による三次元組織構築
動脈壁
細胞の
集塊化
細胞シート
細胞プリント
胃壁
皮膚
組織構成パーツ
組み立て
or
積層化
人工組織
細胞集積法
:フィブロネクチン
:ゼラチン
ヒト皮膚由来
線維芽細胞
(NHDF)
LbL
フィブロネクチン-ゼラチン薄膜 (FN-G薄膜)
の形成による培養細胞の迅速な組織化
カルチャーインサート
2 x 106
cells/well
ECM-nano
filmの形成
(10nm)
1日培養
D-MEM, 10% FBS,
37 oC, 5% CO2
底面積:0.9 cm2
PET、半透膜
積層組織の短期構築
FN-G coated cells
Non-coated cells
HE切片
Defect
7 86
45 3
12
100 mm
細胞間接着がなく
組織の三次元化が
困難
100 mm
FN-G薄膜を足場
として細胞間接着
FN-Gコーティングした細胞を積層培養することにより短期間で三次元組織構築が可能
特許第4919464号
細胞集積法
複雑なScaffold (組織の枠組み)を要しない
FN-G薄膜コーティング→培養細胞自身による組織化
市販の培養器を用いた組織構築
マルチウェルプレートおよびトランズウェルインサート
簡便な手法で、短期間で組織構築が可能
ルーチン化された積層培養と培地交換
複数の細胞要素を積層することにより
hybridな組織デザインが可能
生体に近い組織化と組織階層構造の再現
ヒト腹膜の構造
腹膜
中皮シート
肝臓
胃
腹膜腔
結合組織
網嚢
線維芽細胞
血管・リンパ管
免疫系細胞
神経
臟側腹膜
壁側腹膜
小腸
腸管筋層
(平滑筋)
左:ヒトの腹膜(赤いライン)。 右:腹膜の例(ヒト空腸)。
・単層扁平の中皮細胞シートと結合組織から構成される。
・腹腔、骨盤腔内壁、および臓器表面を覆う(壁側腹膜、蔵側腹膜)
ヒト腹膜の構造
・中皮細胞による石畳状構造
・中皮細胞上面の微絨毛構造
・貫通構造(ストマータ, 矢印)
の分布
・腹腔液の分泌と吸収
ヒト腹膜の走査型電子顕微鏡像
(文献より引用)
ストマータ(小孔)
中皮細胞層
ストマータ
リンパ管
血管
腹膜の横隔膜部
腹膜組織の概要
腹膜に関する病態: 癌腹膜播種
腹腔内・骨盤内臓器を原発とす癌
癌原発巣
腹腔内臓器
の腹膜播種に対する治療戦略は
確立されていない。
腹腔(腹水)
接着・増殖
・浸潤
緩和療法 (根治の断念)
腹膜
血管・リンパ管新生
脈管侵襲、腹膜転移
ストマータ・乳斑を
通した転移
現状
腹膜切除 (完全切除は困難)
化学療法等
(投薬戦略は未確立)
治療研究に基づいたヒトへの投与
マウス腹膜播種の実験
の写真(文献より引用)
動物モデルを用いた研究
In vitroモデルを用いた研究
腹膜に関する病態:被嚢性腹膜硬化症
慢性腎不全治療に伴う腹膜透析
透析液
長期治療(5年程度)による腹膜劣化
炎症に伴うフィブリンの
滲出と腹膜の硬化
ステロイド療法
消化管の癒着と腸閉塞
腸管癒着剥離術
腹膜
排出液
課題
腹膜の移植および再生による
治療法は確立していない
腹膜機能の回復
剥離術後の癒着防止
三次元人工腹膜モデルの必要性
1.癌腹膜播種の基礎研究・創薬研究
・ヒトに対する抗癌剤投与等の治験には多くの制約がある。
・動物実験には多額のコストと時間を要する。また、ヒトで同様の効果を
示さない場合がある。
・培養細胞を用いた従来の実験では、三次元組織の環境および薬剤に
対する反応を再現することが難しい。
・膨大な候補から治療に有望な薬剤をスクリーニングするためのハイ
スループットな方法が求められる。
2.再生医療に用いる人工移植組織
・外科的術後の消化管癒着を防止するための腹膜再建が求められる。
これまでの人工腹膜モデル
医療の現場で実用化
されているものはない
< 中皮細胞の単層培養 >
< 細胞シート工学によるモデル >
・In vivoでの中皮細胞の形態、反応を再現して
いない可能性
中皮細胞シート
温度感受性ディッシュ
細胞外マトリクス
・腹膜播種について、in vivoでの癌細胞の増殖および浸潤の再現はできない。
< コラーゲンゲルをscaffoldとした三次元モデル >
・コラーゲンゲル、あるいは線維芽細胞を浮遊
させた構造は、実際の組織から乖離している。
・血管あるいはリンパ管構造を持たないため、
癌の脈管侵襲を再現できない。
中皮細胞層
コラーゲンゲル(あるいはマトリゲル)、
線維芽細胞から成る組織層
血管およびリンパ管網を備えた人工腹膜モデルは存在しない
三次元ヒト人工腹膜組織(細胞集積法)
未発表データにつき、説明会当日
の提示のみとさせていただきます。
左:培養器と人工腹膜組織。 右:組織標本の光学顕微鏡写真
培地
(DMEM)
トランズウェルインサート
(コーニング社製)
細胞間接着
中皮細胞シート
T
結合組織様構造
V
毛細血管網或は
毛細リンパ管網
B
結合組織様構造
有孔ポリエステルメンブラン
三次元ヒト人工腹膜組織の特徴 (従来法との相違)
1.ヒト腹膜の組織構造を高度に再現している
・中皮細胞層は細胞間接着構造を持ち、上面には微絨毛構造が見られる。
・結合組織様構造は細胞成分と豊富な細胞間マトリクスから成る。
2.血管およびリンパ管ネットワークを有している
・毛細血管あるいはリンパ管の機能形態を高度に再現した管腔構造を持つ。
・癌腹膜播種における脈管新生、および脈管侵襲の再現が期待される。
・移植を行った際のホスト血管或いはリンパ管との吻合が期待される。
3.短期間、低コストでの組織構築
・9−10日間で、脈管を有する腹膜組織を構築できる。
・市販の培養器、試薬、培地で組織構築が可能である。
細胞集積法による毛細血管ネットワークの構築
FN-Gコート内皮細胞
(HUVEC)
FN-GコートNHDF
細胞集積
FN-Gコート
NHDF
1日
4L-1L-4L
ヒト線維芽細胞層間に
内皮細胞をサンドイッチ
様に培養し、短期間で
脈管ネットワークを構築
細胞集積
4層(4L)
1日
4L-1L
4L-1L-4L
1 day
4L-1L
1日
4L-1L-4L
4L-1L-4L
7 day
300 mm
*
*
*
50 mm
hFC: cell tracker green
HUVEC: CD31 antibody
*
*
*
*: tubular
structure
人工毛細血管の構造
基底膜を有する閉鎖型毛細血管様構造
Von Willebrand factor
10 µm
線維芽細胞
von Willebrand因子
N
BV
ECM(細胞外マトリクス)
N
小胞様構造
BV
基底膜
細胞間接着装置
500 nm
ECM
ECM
2 µm
BV
人工毛細リンパ管の構造
LV
25 μm
不規則な管腔構造、内皮細胞間の解離
等、生体の毛細リンパ管に近い形態
LV
LV
Fb
LV
Prox1
D2-40
Fb
内皮細胞
内皮細胞
L
500nm
ECM
内皮細胞
LV
線維芽細胞
L
解離構造
5 µm
500nm
Fb
人工腹膜組織の構造
中皮細胞層
血管網あるいはリンパ管網を含む結合組織
様構造を構築後、ヒト大網由来中皮細胞を
積層し、シート形成後、人工腹膜組織とする。
結合組織様
構造
未発表データにつき、説明会当日の提示のみ
とさせていただきます。
人工ヒト腹膜組織の
走査型電子顕微鏡像
未発表データにつき、説明会当日の提示のみ
とさせていただきます。
膵臓癌細胞の播種
想定される用途
T
① 癌腹膜播種の基礎研究ツール
V
細胞集積法で構築した人工腹膜組織は、中皮層、 B
ECMを伴う結合組織、血管/リンパ管網を持ち、生
体組織に極めて近い構造を示す。このため、生体
内により近い微小環境を再現しうる。
T
・一連の癌腹膜転移過程(癌細胞の接着、増殖と浸潤、 V
脈管侵襲 )をin vitroで再現する初のヒトモデルとなる。B
・腹膜転移の各過程における癌細胞の挙動、微小環境
の変化をリアルタイムで追跡できるツールとなりうる。
T
・コストと時間を要する動物モデルを用いた実験に代わ V
り、ヒト組織を用いた実験系として有用である。
B
想定される用途
② 癌腹膜播種治療の為の創薬研究
人工腹膜組織を用いることで、均一な条件で大量
の実験が可能となる。
T
V
・癌腹膜転移の予防・治療を目的とした新たな薬剤
の候補をスクリーニングするためのハイスループット B
な手法となりうる。
③ 人工移植組織の開発
血管・リンパ管網を備えた人工組織として、従来法
に比べホストへの生着に有利と考えられる。
・自己細胞、あるいは適合HLA型のiPS細胞を用いて
移植のための人工腹膜を作製する。消化管の外科
的手術後の癒着を防ぐ医用材料として有用である。
実用化に向けた課題
1.株化ヒト中皮細胞の導入
(→関連する用途: ①, ②)
・中皮様構造の形成には初代培養のヒト中皮細胞を用いているが、
継代増殖が難しいため、コストが大きくなる。
→ 大量増殖の可能な株化中皮細胞を用いた良好な中皮層の
形成を試みている。
2.組織構造の肥厚化と改良
(→関連する用途: ①, ②, ③)
・癌浸潤過程の解析、或いは移植を行うにあたって、組織厚をさらに
増すことが望ましい。
→ 現状の細胞10層から、20層以上の厚さを持つ組織の構築を行う。
これにより、中皮層下に10層程度の線維芽細胞層、リンパ管網、
血管網を持つ構造を実現する。
実用化に向けた課題
3.組織構築法の簡便化
(→関連する用途: ①, ②)
・細胞集積法は従来法に比べ簡便な人工組織構築法だが、製品
として提供する際には更なる工夫が必要となる。
→ 凍結したコーティング済細胞による組織構築(検討中)
→ Ready to useの人工腹膜組織凍結品の開発
4.ヒト移植組織としての最適化
(→関連する用途: ③)
・安全性確保のため、適切な細胞コーティング試薬の検討、動物
由来の培地成分の除外を要する。
→ ヒト由来成分の使用、有効な無血清培地の開発
・拒絶反応回避のため、組織適合性の細胞による組織構築を要する。
→ iPS細胞, 間葉系幹細胞等からの中皮細胞の分化増殖
企業の皆様への期待
1.人工組織製品化技術の開発
組織構築の低コスト化 (簡便化と大量生産)および品質安定化
のための技術開発、特に組織凍結技術の確立により、他の人
工組織製品化にも波及する効果が期待される。
2.薬剤スクリーニング、診断ツールとしての確立
人工腹膜組織への多様な癌細胞播種に対する薬剤の効果を
データベース化し、汎用性の高いツールとして確立する。
3.移植人工腹膜関連の開発
多能性幹細胞由来の中皮細胞分化増殖を簡便化するキット、
および組織構築のための無血清培地の開発等が期待される。
本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :血管およびリンパ管ネット
ワークを有する人工腹膜組織構造体
• 出願番号 :特願2014-173502
• 出願人 :弘前大学、大阪大学
• 発明者 :下田 浩、浅野義哉
明石 満、松崎典弥
※特許出願から1.5年未満の未公開特許情報を含んだ説明会ですので、情報の取
り扱いに十分ご注意下さい。公開する情報の範囲につきましては、特許出願人(知
財本部、TLO等)とご相談ください。
お問い合わせ先
弘前大学研究推進部研究推進課知的財産本部
産学官連携コーディネーター 中山信司
TEL 0172-39-3178
FAX 0172-36-2105
e-mail chizai@cc.hirosak
i−u.ac.jp