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教育における男女格差の背景
• PISA(OECD生徒の学習到達度調査)によれば、読解力の男女格差は大きく、15歳児の女子は男子
より好成績であるものの、デジタル読解力に関してはこの格差は小さい。実際、「成人スキル調
査」は16~29歳層のデジタル・リテラシー習熟度には大きな男女格差はないことを示唆している。
• 社会経済的に恵まれない生徒の割合が高い学校に通っている男子の成績は平均以下の比率が高い。
•
状況を数学的に定式化したり、現象を科学的に解釈したりする場合のように、科学者のように
考えることが求められる質問の場合、女子は-成績優秀な女子でも-男子より成績が劣る傾向
にある。
• 子供に科学や技術、工学、数学などの分野の職に就いてほしいと願っている両親の期待感は、15
歳の息子と娘の数学の成績が同じ場合でも、娘に対する期待感より息子に対する期待感の方が高
い。
過去1世紀にわたり、OECD諸国は、学歴、給与、労働市場参加などを含め、教育や雇用
の多くの分野において積年の男女格差を大幅に是正ないし解消させてきている。この事実
にはまた別の事実が含意されている。生まれつきの能力に性別はない、ということであ
る。平等な機会が与えられれば、男女にかかわりなく、同じように最高の成績を収めるこ
とができる。
しかし、教育における新たな男女格差が生まれつつある。若年男性は若年女性より就学年
数が短く、低技能と低学歴の比率が大幅に高い。若年男性は、しばしば何の資格も得ない
まま、早期に退学する可能性も高い。例えば、OECD諸国では、学校は時間の無駄と回答し
ている生徒の比率は、男子の方が女子より8ポイント高い。一方、高等教育以上を見ると、
若年女性は数学、物理科学、コンピューティングなどの分野を専攻している比率が低
い。2012年の場合、大学に進学した若年女性のうち、工学、製造、建築など、科学関連の
専攻分野を選択した者の比率はわずか14%に過ぎなかった。対照的に、同じ年に大学に進
学した若年男性の場合は、39%がこれらの専攻分野のうちの1つを選択した。
男子の低成績
PISAによれば、15歳児は男子の方が女子より全般的に得点が低い。2012年の場合、PISAが
測定している3つの中核的な科目である読解力、数学、科学のいずれにおいてもベースライ
ンの習熟度レベルに達していなかった生徒の比率は、男子が14%、女子が9%だった。実
際、これらの科目のいずれにおいてもベースラインの習熟度レベルに達していなかった生
徒の10人に6人は男子だった。男子の学業成績が振るわない理由はいろいろと考えられる
が、その多くは男子と女子の行動の違いと関係している。例えば、宿題に費やす週当たり
の時間は男子の方が女子より1時間少ないが、週当たりの宿題時間が1時間多いと、PISAの
読解力、数学、科学の得点は4点高くなる。学校外で、男子は女子よりビデオゲームに費や
す時間が多く、読書(特に小説などの複雑な文章)に費やす時間が少ない。読解力の習熟
度は、他の全ての学習の基礎である。十分な読解力がない男子は、他の科目の成績も悪い。
PISA in Focus – 2015/03 (March) © OECD 2015 1
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PISAの中核的な3科目のいずれにおいても
男子の方が基準に達しない比率が高い
読解力、数学、科学の習熟度
レベル2以下の男子の比率と女子の比率
Girls
Boys
Qatar
Peru
Jordan
Indonesia
Brazil
Argentina
Montenegro
Colombia
Tunisia
Malaysia
Albania
Uruguay
United Arab Emirates
Bulgaria
Mexico
Thailand
Kazakhstan
Romania
Serbia
Chile
Costa Rica
Israel
Greece
Turkey
Slovak Republic
Sweden
Iceland
Lithuania
Croatia
Hungary
France
Portugal
United States
Luxembourg
Italy
Norway
OECD average
Russian Federation
New Zealand
Belgium
Slovenia
Spain
Austria
Latvia
United Kingdom
Australia
Czech Republic
Denmark
Germany
Chinese Taipei
Netherlands
Switzerland
Ireland
Poland
Canada
Finland
Singapore
Japan
Macao-China
Viet Nam
Korea
Liechtenstein
Hong Kong-China
Estonia
Shanghai-China
学校外でビデオゲームをする
生徒の男女差は著しい
生徒の比率、 OECD諸国全体
Never or hardly ever play
Play, but not every day
Play every day
13
Girls
3
25
41
61
Collaborative
online games
20
56
2
29
51
27
71
Source: oEcD, PisA 2012 データベース
女子の自信欠如
PISAに参加している大多数の国・地域において、
好成績の生徒の場合でも、数学の成績は女子の方が
男子より悪い。好成績の女子の方が好成績の男子よ
り数学の成績が良い国・地域はひとつもない。一般
に、数学や科学の問題を解く能力に対する自信は男
子より女子の方が低い。数学に対する不安が強い生
徒の比率も、女子の方が高い。好成績の女子の場合
でも同じである。OECD諸国平均で、好成績の女子
と男子の数学の得点差は19点である。しかし、数学
に対する自信と数学に対する不安が同じレベルの男
子と女子を比較すると、成績の男女差はなくなる。
PISAによれば、女子は往々にして、学校で日常的に
遭遇している問題とより似通った数学や科学の問題
を解く質問の方が得意である。しかし、「科学者の
ように考える」ことを求められる質問に関しては、
女子の成績は男子の成績より大幅に悪い。
0
10
20
30
40
50
60
70 %
Note: 統計的に有意な男女差は濃い色で示されている。
国・地域は、読解力、数学、科学の低成績(PISAの習熟度レベル2以下)男子の比
率が高い順に配列されている。
Source: oEcD, PisA 2012 データベース
2
Boys
One-player
games
© OECD 2015 PISA in Focus – 2015/03 (March)
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自らの能力に対する自信が同程度の場合、
数学の成績の男女格差は小さい
Gender gap before accounting for gender differences
in mathematics self-beliefs
Gender gap after accounting for gender differences
in mathematics self-beliefs
例えば、状況を数学的に定式化することが
求められる質問では、女子の成績は男子
の成績より悪い傾向にある。OECD諸国
平均で、この技能に関しては男子の方
が女子よりPISAの得点が約16点高く、
これは約5カ月の就学期間に相当する。
Finland
Sweden
United Kingdom
Thailand
Macao-China
Russian Federation
Belgium
Lithuania
New Zealand
Australia
Iceland
Norway
Switzerland
Germany
Shanghai-China
Denmark
Chinese Taipei
Slovenia
Czech Republic
Latvia
Kazakhstan
Albania
Estonia
France
Peru
OECD average
Viet Nam
Qatar
Canada
Hungary
Croatia
Singapore
Montenegro
Luxembourg
Greece
Jordan
Ireland
Romania
United States
Serbia
Turkey
Netherlands
Poland
Hong Kong-China
Malaysia
Indonesia
Mexico
Bulgaria
Tunisia
Portugal
Spain
United Arab Emirates
Argentina
Slovak Republic
Austria
Chile
Brazil
Uruguay
Italy
Costa Rica
Korea
Japan
Liechtenstein
Israel
Colombia
-20
現象について科学的に叙述や解釈を
して変化を予測するために科学の知識
を所与の状況に適用する能力についても、
男子の方が女子より成績は良く、男子の
得点は女子より15点高い。科学者のように
考える能力のこうした男女差は生徒の自信と
関係している可能性がある。生徒は、自信が
あるほど、失敗を気にせずに、数学や科学の知識
を獲得する上で必要不可欠な試行錯誤をすることが
できる。
これらの結果は生徒の
将来に何を意味するのか
PISAは一貫して、一般に女子の方が男子より自身の
キャリアに対する期待感が高いことを示している。
しかし、OECD諸国平均で、エンジニアリングやコ
ンピュータの職業に就こうと考えている女子は5%
に満たない。ほぼ全ての国において、コンピュー
ティングや工学分野のキャリアに就こうと考えて
いる男子の数は、この分野のキャリアに就こうと
考えている女子の数より多い。
-10
0
10
20
30
40
50
Score-point difference (B – G)
Note: 統計的に有意な男女の得点差は濃い色で示されている。
国・地域は、数学に対する自信の男女差を考慮した得点差が低い順に
配列されている。
Source: oEcD, PisA 2012 データベース
対照的に、男子の方が女子より就職や求職への準備が
できているように思われる。PISAによれば、就職面接
にどのような準備をすべきか学ばなかったと回答した
15歳の女子の比率は、同じ回答をした男子の比率より
10ポイント高い。インターンシップやジョブシャドウ
イングなどの「実地体験」活動に参加したことがある
と回答した比率も、男子の方が女子より高い。
男子は成長して青年になっていく中で、仕事や人生
経験を通じて、学校では獲得していなかった読解力
もある程度は獲得する。
PISA in Focus – 2015/03 (March) © OECD 2015 3
PISA
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「OECD国際成人力調査(PIAAC)」の成果のひとつである「2012年成人スキル調査」の
結果によれば、16~29歳層の読解力の習熟度に大きな男女差はない。しかし、30代、40代、
とりわけ50代、60代の労働者を見ると、仕事で読み書きや問題解決スキルを用いている比率は、
男性の方が女性より大幅に高いように思われる。
教育における男女格差をどのように是正あるいは解消するのか
両親は息子に対しても娘に対しても学業や将来の志望の全てについて同じように支援し、
励ますことができる。しかし、PISAの結果は、こうしたことが必ずしも行われていないことを
示している。PISAのテストを受けた生徒の両親について調査した全ての国・地域において、
子供に科学や技術、工学、数学などの分野の職に就いてほしいと願っている両親の期待感は、15歳の
息子と娘の数学の成績が同じ場合でも、息子に対する期待感の方が娘に対する期待感より高かった。
教師は、生徒への採点方法に影響を及ぼしているかもしれない自身の性的偏見を自覚することで、
助けとなることができる。教師は、社会経済的に恵まれない生徒を特別に支援する方法に
関して追加的な訓練を受けることもできる。PISAによれば、恵まれない生徒の割合が
高い学校に通っている男子の成績は平均以下の比率が高いからである。さらに、教師は
生徒に対する要求度の高い授業戦略を用いることもできる。生徒、特に女子は、教師から数学の
問題を1人で解くように求められた場合の方が、数学の成績は良くなる傾向があるからである。
香港(中国)、上海(中国)、シンガポール、台湾など、PISAの成績上位国・地域の一部で
は、女子は数学で男子と同じ成績を収めており、世界の他の大半の国・地域の全ての男子
より高得点を挙げている。また、全ての国・地域において男子は女子より読解力の得点が
大幅に低い一方、成績上位国・地域の男子は他の国・地域の女子より読解力の得点がはる
かに高い。
結論
PISAは、学業成績の男女格差は生まれつきの能力差によるものではないことを示している。
男子と女子の両者が持てる能力を十分に発揮し、自己の社会の経済成長と福利厚生に
貢献できるようにするためには、両親、教師、政策決定者、オピニオンリーダーが
一致協力する必要がある。
For more information
Contact Francesca Borgonovi ([email protected]) or Marilyn Achiron ([email protected])
See The ABC of Gender Equality in Education: Aptitude, Behaviour, Confidence, PISA, OECD Publishing, Paris.
Visit
www.pisa.oecd.org
www.oecd.org/pisa/infocus
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This paper is published under the responsibility of the Secretary-General of the OECD. The opinions expressed and the arguments employed herein do not necessarily reflect
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The statistical data for Israel are supplied by and under the responsibility of the relevant Israeli authorities. The use of such data by the OECD is without prejudice to the status
of the Golan Heights, East Jerusalem and Israeli settlements in the West Bank under the terms of international law.
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© OECD 2015 PISA in Focus – 2015/03 (March)