平成17年度 千葉市・大学等共同研究事業成果報告書 ごみの「ポイ捨て」防止・対策に関する研究 (概要版) 平成18年3月 国立大学法人千葉大学・千葉市 1 研究の背景と目的 千葉市空き缶等の散乱の防止に関する条例の施行後、散乱ごみは総じて減少したもの の、一部にはごみの「ポイ捨て」行為が散見され、道路や公園といった公共空間に「ポ イ捨て」されるごみもある。 「ポイ捨て」によって、都市景観の阻害などの問題が生じて いる。そこで、本研究は、繁華街および公園における現地調査に基づき、ごみの「ポイ 捨て」行為の実態を把握するとともに、 「ポイ捨て」の防止対策のあり方について、幅広 い関係者へ提案することを目的とした。 2 研究体制 千葉大学と千葉市で構成する「ポイ捨て防止調査研究会議」を中心に、デザイン部門 の研究組織である「デザインワークショップ」を設置し、本研究を実施した。 千葉大学:工学部宮崎研究室 宮崎清教授、植田憲講師 樋口孝之助手 千 葉 市:環境局環境管理部資源循環推進課 3 自然科学研究科 高野維斗 神崎広史 調査研究方法 (1)文献調査 ごみの「ポイ捨て」対策を把握し、 「ポイ捨て」対策に関する実態と課題を把握すると ともに、調査設計の参考とした。 (2)アンケート調査 散乱ごみの認知状況等について把握するため、 「中央公園」の利用者に対するアンケー ト調査を実施した。 (3)実態調査 調査対象地区を「中央公園」「富士見通り」「千葉銀座商店街」とし、ごみの「ポイ捨 て」に関する実態調査を行った。調査の内容は、以下の通りである。 ①散乱ごみの種類・分布状況の調査:非回収によるカウント方式により、散乱ごみの実 態調査を実施し、種類・分布状況を把握した。 ②「ポイ捨て」行為の観察:ごみの「ポイ捨て」行為者の属性や捨て方の特徴、ごみの 種類を把握するために、ビデオカメラによる「ポイ捨て」行為の記録・観察調査を行 った。 (4)実験調査 中央公園において、啓発看板の設置及び花壇設置による抑止効果を測定する実験を行 い、散乱ごみ量等の変化を計測した。 4 調査研究結果 (1)アンケート調査 公園等で見かける散乱ごみとしては、タバコの吸殻とびん・缶・ペットボトルが多く、 ポイ捨て厚意の経験者は 17.9%で幅広い年齢層でポイ捨てが行われていることが判明 した。また、弁当がらやタバコの吸殻に対する不快感が比較的強いことも明らかになっ た。 (2)ごみの「ポイ捨て」実態調査 ①散乱ごみの種類・分布状況の調査 ・富士見通り・千葉銀座商店街 タバコの吸殻が多く、通り全体の約 70%近くを占め、次にくずごみが多く 25%強を占 めている。排水溝や花壇、放置自転車のカゴの中などに、吸殻や缶などの飲料容器、ビ ラ等が投棄されている状況が確認された。歩道では吸殻が最も多く、続いて、銀紙など の包装紙類やビニールが多かった。 ・中央公園 散乱ごみの多くが植え込みならびにその周囲に集中している。植え込み内やベンチの 上下に食品・飲料容器、包装ごみが多く、植え込みの外側の地面には吸殻が多く観察さ れた。 (3)ビデオカメラによる「ポイ捨て」行為の観察 比較的、 「散乱ごみ」が多くみられる5箇所を選定し、ビデオカメラによる定点観察を 行った。 ①公園における「ポイ捨て」行為 ・ 「ポイ捨て」行為者の年齢層は幅広く、いずれも、ベンチなどから立ち去る際に飲食容 器などのごみを放置する、「置き捨て」行為が少なくない。 ・タバコの「ポイ捨て」行為は、スーツ姿の男性に多くみられるものの、平日の昼食時 には、タバコの吸い殻以外のごみを持ち帰る傾向にある。 ②通りにおけるごみの「ポイ捨て」行為 ・通りにおける「ポイ捨て」行為は、若年男性に多くみられた。 ・タバコの吸い殻の「ポイ捨て」行為は、車道脇の側溝に投棄する行動が多く観察され た。また、歩行喫煙、滞留喫煙いずれも、入店直前に多く発生することが確認された。 ・飲料容器等については、階段や配電盤の上に置き去る、「置き捨て」行為が多い。 ・路上で配布されるビラなども、自転車のカゴ等に「置き捨て」する行為が確認された。 このように、 「ポイ捨て」行為はきわめて多様であるものの、主として、 「置き去り行為」 「置き捨て行為」「隠し捨てる行為」によって発生していることがわかった。 (4)実験調査 散乱ごみが多い中央公園のベンチを中心に4箇所の調査エリアを設定し、啓発看板の 設置及び花壇設置を行い、ポイ捨てごみの数量への影響について計測した。 ①実験結果 ・看板による啓発により、散乱ごみの数量は平均で 61.1%減少し、ポイ捨て抑制につい ての一定の効果が確認された。タバコの吸殻とそれ以外に分けると、吸殻の減少率は 54.6%で、それ以外は 71.5%であり、吸殻以外への影響が大きいことがわかった。 ・花壇設置による散乱ごみの数量の変化は、平均で 67.0%であり、看板設置による効果 と比べて同等のポイ捨て防止効果が確認された。ポイ捨てをしにくい環境づくりがポ イ捨て対策として有効であることが明らかになった。 5 ごみの「ポイ捨て」の未然防止に向けた提案 ごみの「ポイ捨て」対策として、以下の対策を提案する。 (1)現場からの啓発 ①「置き去り」 「置き捨て」型のポイ捨 て行為に対する対策 「置き去り」行為の対策として、 『音 声による啓発装置』の設置が提案でき る。これは、ベンチなどに人感センサ ーを取り付け、人が立ち去る際に、音 声発生装置より『失礼ですが、ごみを お忘れではありませんか?』といった メッセージを発するものである。 ②「置き捨て行為」 「隠し捨てる行為」に よる「ポイ捨て」に対する対策 「置き捨て行為」等が発生する場に、 「ポイ捨て」防止を促すメッセージボ ードなどを掲示することにより、啓発 する。子どもたちあるいは同年代の若 者らによる手書きの文字やイラストで の働きかけのみならず、 「 自分は捨てな いぞ!」といった「ポイ捨て」の行為 者が主体のメッセージを掲載して、自 身に残る良心に響くような対策が提案 できる。花植えも環境美化のメッセー ジを伝える手段として有効である。 (2)商品に応じた提案 「ポイ捨て」の対象になりやすい商品には、タバコやファストフードのパッケージ類 が挙げられるが、それらパッケージに、「ポイ捨て」防止のメッセージを掲載すること が提案できる。 (3)販売場所に応じた提案 ①自動販売機における対策 タバコや飲料などの自動販売機に音声や画像による「ポイ捨て」の防止を啓発する装 置を付加することが提案できる。商品を取り出す際に、「ポイ捨て」の防止を促す音声 を流したり、画像やテロップを同時に表示するものであるが、子どもの映像・音声を使 用するのみならず、「自分は捨てないぞ!」といった「ポイ捨て」行為者が行動を改め る際の決意を代弁するようなコピーを掲載したり発声させたりする方法が 提案 でき る。 ②店舗における対策 店舗からは、 「人から人への呼びかけ」によるダイレクトな啓発が提案できる。店員が 商品を手渡す際、ごみの「ポイ捨て」防止を促すメッセージを一声掛けだけで、それは 大いなる啓発になると考えられる。 (4)美化ボランティア活動の支援 市民団体等の美化活動は、散乱ごみの事後対策だけでなく、この活動を広めていくこ とで、モラルを向上させていくことが期待できる。清掃活動や花植えなどの美化活動を 支援していくことも効果的であることから、本研究の中でボランティア活動専用ごみ袋 などに活用できるデザインを製作した。 6 おわりに 一連の調査を通して、 「ポイ捨て行為の実態」には多様な姿があることが把握でき、それ らに基づいた提案を行うことが出来た。罰則を厳しくして取り締まればいいのではないか という声もあるが、健全な社会の育成にとっても、環境美化においける取り組みはなによ りモラル向上が柱となろう。 「罰則」を設けずして、いかに解決していくことが出来るかを 考え出すことが重要である。 ごみの「ポイ捨て」を啓発する方法としては、同世代からの電子音や録音メッセージや サイン、デザインなど、多様な方法を提案した。このような技術的な工夫や、 「人から人へ の呼びかけ」に基づき、社会として、モラルを向上してくことが求められる。本研究では、 必ずしも罰則に頼るのではなく、関係者の協力や工夫によって、モラルを向上させ、社会 全体として、ごみの「ポイ捨て」を解決していく方向性を示唆することができた。
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