流動性に優れた キトサン-ケイ酸複合粉体の 製造技術 地方独立行政法人鳥取県産業技術センター 寺田直文 竹内奈緒美 木村伸一 稲永忍 向井保 1 従来技術とその問題点 【キトサン粉体】 1.従来の製造技術(実用化済) 磨砕式、凍結式、衝撃式、遠心カッター式 2.問題点 キトサン粉体の流動性が悪い 3.従来技術(進む改良) ・水分との接触後、乾燥させる ・ゼラチンによる表面のコーティング ・ポリ乳酸で表面をコーティング 2 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であった、キトサンの流動 性をシリカと複合化することで、改良することに 成功した。 • 従来はキトサンの流動性が悪かったため、粉 体のままでの用途には制限があったが、本技 術により用途拡大の可能性が広がった。 • 本技術の適用により、従来の粉砕法よりも粉 砕しやすい状態になっているために、用途に 応じた粒径の調節が可能となる。 3 想定される用途 • 農業用の土壌改良剤 従来のキトサン粉体は、低流動性、低滞留性 などによりそのまま使用できない。そのため、水 溶液として利用してきたが、これらの改善により 粉末のままでの農業用利用が期待される。 • 工業製品への抗菌性添加剤 キトサンの抗菌性を活かした塗料、不織布、樹 脂などでの活用は、流動性・分散性の点で制限 されていた。粉体特性の改良により用途拡大が 期待される。 4 背 景: キチン・キトサン、グルコサミン業界 H22年度調査 生 キチン・キトサン、グルコサミン(全国) 産 ■キトサンの全国生産量は約400t 量 ・健康食品用途としての生産は減少 ・その他(凝集剤、化粧品原料)の需要維持 ■グルコサミンは全国生産量約700t 健康食品用として2割/年増加 グルコサミン増加理由 (境港の生産量は全国の約50%) ①キトサンよりも製造が容易 ②低分子であるので吸収がよい 将 グルコサミンブームの終焉に対する危機感 来 ①安全で機能が優れるキトサンの新規用途開発 ②キトサンの欠点(溶解性、高コスト、流動性など)の改良 解決策としてキトサンをケイ酸と複合化 5 キトサンの流動性の改善に向けた戦略 キトサンの特徴と製品形態 の問題点 特徴:抗菌性、生理活性、吸着性能等 の機能性がある。 粉体:流動性が悪い、 比重が軽く取り扱いが悪い ケイ酸粉体の特徴 ケイ酸の予想相 乗効果 ■流動性が良い、重質 ■無害で食品添加物としても使用可能 ■無機物で反応性がないため キトサンの機能を阻害しない 取扱に優れた粉体の開発が必要 ケイ酸と複合化することでキトサンの機能を阻害しないで 粉体特性を改善する シリカの流動性をキトサンに付与した 複合粉体の開発 6 キトサン-ケイ酸複合体の置換可能な主な用途 (流動性が改善されれば、置き換え可能な主な用途) 粉体で利用 水溶液で利用 土壌 改良剤, キレート剤 抗菌剤, 10% 凝集剤 15% 化粧品 10% 県内企業A社の キトサン販売量 約100トン 健康食品, 60% ①土壌改良剤10tのうち約50%が移行できると期待 水溶液での提供を粉体への移行が可能。 ②健康食品 60tのうち約50%が移行できると期待 例えば、サプリメントのキトサン含有量は20%~65%でその他 の成分としてケイ酸が約10%含まれている。 キトサン-ケイ酸複合体(キトサン67%~87%)であれば そのまま利用できる。 ③抗菌剤(繊維、塗料、プラスチック) 15tのうち約50%が移行と期待 例えば、塗料分野では艶消し剤として7~10%のケイ酸が使われる 抗菌塗料としてもキトサン約1 %程度で効果があるので、 キトサン-ケイ酸複合体(キトサン10%~12%)複合粉体でも そのまま利用可能である。 キトサン-ケイ酸複合体に置き換えることで利用拡大の可能あり 7 複合体の合成方法と複合体のイメージ 合成方法の概要 キトサンと水ガラスから ↓ キトサン-シリカ複合粉体 合成条件 水ガラス溶液(3SiO/Na2O) ←塩酸溶液、キトサン塩酸溶液 複合体析出(pH12-13で反応停止) ←カチオン界面活性剤 pH調整・ろ過 水ガラス OH (pKa=9.86) HO H O H O Si O Si H O O O O Si Si O O OH O Si O Si O O Si O H O Si O O NH2 n キトサン シリカ ←イオン交換水で洗浄・pH調整 ろ過・乾燥 粉砕 キトサン-ケイ酸 複合粉体 8 各種キトサン-シリカ複合体の組成とその拡散直径 疎水化処理したキトサン-ケイ酸複合体 キトサン含有量 100% 90% 界面活性剤添加 SiO 2 量(g) 5%カチオン界面活性剤 添加量(g) 拡散直径(cm) 75% 58% 50% 20% キトサン-ケイ酸複合体 58% 100% 90% 58 20% AB-250 - - - - ※2 2-OLR ※1 - 100 100 100 100 100 100 - 100 100 100 500 500 500 500 500 500 500 - - - - 12.2 16.4 16.2 16.0 15.9 15.9 15.7 10.7 11.1 11.1 13.6 ※1 カチオン界面活性剤2-OLR(構造式): (CH3)2N + ※2 カチオン界面活性剤AB-250: (CH3)3 N + 9 キトサン-ケイ酸複合体のIR チャート(キトサン58%含有) ①キトサン-ケイ酸複合体 (疎水化処理有り) 透過率(%) ②キトサン-ケイ酸複合体 (疎水化処理なし) ③キトサン原料 ④ケイ酸(100%) 4000. 3600 3200 2800 2400 2000 1800 1600 cm-1 1400 1200 1000 800 600 400 10 熱分析:キトサン75%複合体(表面処理有り)TG-DTAチャート キトサン-ケイ酸複合体 150.0 0.00 110.2 ℃ 304.7 ℃ 100.0 799.9 ℃ -5.00 50.0 0.0 589.0 ℃ -10.00 キトサン原料 TG( mg) DTA( μ V) 444.2 ℃ -15.00 109.9℃ -50.0 312.6 ℃ 801.0 ℃ 485.9 ℃ -100.0 100.0 200.0 300.0 400.0 500.0 600.0 700.0 800.0 -20.00 -25.00 900.0 Temp (℃) ・DTAチャートを見るとキトサン原料は2箇所の発熱ピークを示すが、複合体はDTAの発熱ピークが 3箇所存在する 11 熱分析:キトサン20%複合体DTA比較 140.0 120.0 259.4 ℃ 311.4 ℃ ①界面活性剤添加 460.6 ℃ 638.8 ℃ 100.0 80.0 257.6 ℃ 309.4 ℃ DTA( μ V) 60.0 ②界面活性剤なし1 438.4℃ 40.0 20.0 ③界面活性剤なし2 (再現性確認) 0.0 -20.0 307.4 ℃ 437.6 ℃ 256.1℃ 312.6 ℃ -40.0 488.5 ℃ -60.0 -80.0 ④キトサン原料 -100.0 100.0 200.0 300.0 400.0 500.0 600.0 700.0 800.0 900.0 Temp (℃) ・複合体(界面処理有、無し)は、 310℃、480℃、530℃付近にピークが確認された。 ・②、③再現性を確認したところ同じように3箇所の発熱ピークが確認された。 12 熱分析:キトサン58%複合体と粉体混合(キトサン58%含有)のDTA比較 302.1 ℃ 300.0 ①界面活性剤添加 435.8 ℃ 536.5 ℃ 250.0 DTA( μ V) 200.0 310.5 ℃ 438.5 ℃ ②界面活性剤なし 530.8 ℃ 150.0 100.0 ③粉体を混合 310.4 ℃ 484.2 ℃ (キトサン原料 58%:ケイ酸42%) 50.0 311.8 ℃ 485.9 ℃ 0.0 ④キトサン原料 -50.0 -100.0 ⑤ケイ酸 100.0 200.0 300.0 400.0 500.0 Temp (℃) 600.0 700.0 800.0 900.0 ・③粉体混合はDTAの発熱ピークが310℃、480℃付近の2箇所に見られ、キトサン原料と同じである。 ・複合体(界面処理有、無し)は、 310℃、480℃、530℃付近の3箇所にピークを確認 13 疎水化処理キトサン-ケイ酸複合体のアミノ基 合成シリカ (キトサンなし SiO2100%) 疎水化処理キトサン-ケイ酸複合体 (キトサン含有量75%) キトサン構造式 OH HO O O NH2 n ●赤紫色に発色→アミノ基の残存を示唆 ・シリカ粉体と疎水化処理キトサン含有粉体にニンヒドリン試薬 をスプレーし、約120℃で加熱 キトサンのアミノ基とニンヒドリンとの反応機構 O OH R-NH2 + OH → 発色生成物 O ニンヒドリン 14 キトサン原料粒子のSEM写真 15 1次粒子 細孔 ケイ酸-キトサン複合体粒子(2次粒子)SEM写真 (キトサン20%) 16 1次粒子 細孔 ケイ酸粒子(2次粒子)SEM写真 17 5. 0 µm IMG1 キトサン-ケイ酸複合体(キトサン40%) 5. 0 µm ケイ素(Si)分布 Si K 5. 0 µm C K 炭素(C)分布 5. 0 µm O K 酸素(O)分布 40%キトサン含有複合体の電子顕微鏡C,Si,O別写真 18 複合体の流動性評価方法 流動性測定樹の流動性測定法 *粉体を10g一気に落下させ直径を測定 (直径が大きいほど流動性良好) 7.5cm 容器幅最大19cm 19 流動性(分級40μ m) 流動性 良好 疎水化処理複合体 17 16 拡散直径(cm) 15 キトサン(静電防止剤処理) 14 キトサンとケイ酸粉体混合物 13 キトサン(界面活性剤処理) 12 キトサン原料 11 10 9 8 7 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 キトサン含有量 疎水化処理複合体の流動性評価 20 実用化に向けた課題 • 比表面積、比重等についての物性データ、アミノ 基量の定量的な検証、収量の再現性の確認 • 抗菌性の把握 • コスト面の解決(グレードや脱アセチル化度の異 なるキトサンの活用による低コスト化) • キトサン含有量を精度良く調整できる技術の確立 • キトサン-シリカ複合体が既存化学物質として取り 扱えるかどうかの確認のために化学構造の解明 21 企業への期待 • ケイ酸が合成出来る技術を持つ、企業との共 同研究を希望。 • 土壌改良剤を開発中の企業、歯磨き添加剤 分野への展開を考えている企業には、本技術 の導入が有効と思われる。 • 化学構造や複合化メカニズムの解明について は、固体状態での成分分析技術に長けた企 業の協力が必要と考えている。 22 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :キトサン-ケイ酸複合体の製造方法 • 出願番号 :特願2013-35990 • 出願人 :地方独立行政法人 鳥取県産業技術センター • 発明者 :寺田直文、竹内奈緒美、 木村伸一、稲永忍、向井保 23 お問い合わせ先 地方独立行政法人鳥取県産業技術センター 企画室 企画員 寺田 直文 TEL 0857-38- 6200 FAX 0857-38- 6210 e-mail [email protected] 24
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