ユーロ圏経済と金融市場の展望(その3)

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2015年2月25日
三井住友アセットマネジメント
シニアマネージャー 市川 雅浩
市川レポート(No.18)
ユーロ圏経済と金融市場の展望(その3)
前回のレポートでは、ユーロ圏のマクロ経済について足元の動きを確認し、今後の見通しを解説し
ました。ユーロ圏では消費者信頼感指数や製造業の景況感指数が改善し、貿易黒字も拡大しているこ
とから、経済の成長ペースは加速しつつあるとみています。ただ依然としてGDPギャップ(経済全体
の総需要と供給力の差)はマイナスで、物価は下がりやすい環境にあることから、今年の経済成長率
は前年比で1.0%台前半の伸びにとどまると思われます。そこで今回は、このようなマクロ環境を踏
まえ、ユーロ圏の金融市場について金利、株式、通貨を中心に今後の展開を予想します。
国債利回り低下の動きが広がる可能性も考慮する必要あり
はじめに金利の見通しについてお話しします。欧州中央銀行(ECB)の金融政策の目的は唯一、
「物価の安定」のみです。その物価安定の数値的定義は、消費者物価指数の前年比上昇率が「2%未
満だがその近辺」とされています。ECBは1月22日の定例理事会で量的緩和(QE)の導入に踏み切
りましたが、その時点で公表されていた2014年12月の消費者物価は前年比-0.2%でしたので、月
額600億ユーロの国債等の買い入れを少なくとも2016年9月末まで実施するというECBの決断は、
金融政策の目的に沿った極めて合理的なものといえます。
【図表2:ユーロ圏主要国の国債利回り】
【図表1:ドイツ国債の利回り曲線】
2年
(%)
0.6
5年
7年
10年
ドイツ
-0.22
-0.06
0.05
0.38
0.4
オーストリア
-0.14
-0.02
0.09
0.39
0.2
フィンランド
-0.13
-0.03
0.11
0.45
オランダ
-0.13
-0.02
0.10
0.42
ベルギー
-0.12
0.06
0.28
0.62
フランス
-0.11
0.09
0.25
0.65
スペイン
0.20
0.64
0.99
1.39
イタリア
0.25
0.58
1.04
1.46
0
-0.2
-0.4
1年
2年
3年
4年
1月21日
5年
6年
7年
8年
9年
10年
2月24日
(注)データは2015年2月24日時点。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
(注)データは2015年1月21日と2月24日時点。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
長期金利はすでに昨年からQE実施を織り込んで低下していましたが、1月22日以降も一段と低下
傾向が鮮明になっています(図表1)。またECBが本格的なQEを導入したことを受け、国債利回りの
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マイナス推移はユーロ加盟国内に広がりつつあります(図表2)。今回のQEで新たに対象となる資産
は、国債と政府機関債が88%、欧州機関債が12%という内訳で、年限は2年から30年と幅広く、ま
た上限は銘柄当たり25%、単一発行体の債券残高の33%に設定され、国債と政府機関債の買い入れ
はECBへの出資比率で実施されるなどの条件が付与されています。3月から流通市場での買い入れが
スムーズに開始され、機関投資家の買い安心感につながれば、より多くのユーロ加盟国で、より長い
期間の国債利回りが低下する可能性も考慮しておく必要があると思います。
株式市場を取り巻く環境は総じて良好だが、株価の一段高には支援材料が必要に
次に株式市場の見通しですが、はじめに市場を取り巻く環境を簡単に整理します。ユーロ圏のマク
ロ経済は、前回のレポートでも解説した通り、足元で成長ペースが加速しつつあり、来年にかけて緩
やかな回復が予想されます。また金融政策では3月からECBの本格的なQEが始まりますので、域内の
マクロ環境・金融環境はともに株式市場にとって良好です。なおギリシャ問題は、昨日ユーロ圏財務
相会合でギリシャが提出した財政改革案が承認されましたので、今後は4月末までに計画の詳細が詰
められることになります。ギリシャの財政破たんなど深刻な危機はとりあえず回避されましたが、引
き続き動向は注視しておきたいと思います。一方、海外に目を向けると、中国の景気減速やウクライ
ナ情勢などは引き続き投資家心理に悪影響を与える材料は残りますが、米国経済は底堅い成長が続く
見通しであることから、株式相場が直ちに総悲観となるような展開にはなりにくいと思われます。
【図表4:ストックス欧州600指数の予想PER】
【図表3:ストックス欧州600指数の推移】
(ポイント)
(倍)
18
450
400
16
350
14
300
12
250
10
200
8
150
07
08
09
10
11
12
13
14
6
15
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
15
(年)
(注)データ期間は2007年1月5日から2015年2月20日。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
(注) データ期間は2007年1月2日から2015年2月24日。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
このような状況下、ストックス欧州600指数は2月24日時点において終値ベースで年初来高値を更
新しています(図表3)。またストックス欧州600指数の構成企業の1株当たり利益について、市場
予想は2014年が前年比+2.7%、2015年は同+7.3%となっており、力強い数字ではないものの、
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今年も増益が見込まれています。ただ予想株価収益率(PER)の推移をみると、足元ではすでに割高
な水準に達しています(図表4)。株式市場を取り巻く環境は総じて良好ですが、今後は企業利益見
通しの上方修正や域内経済成長の拡大、また海外の不安材料の後退などが、株価の一段高に求められ
る材料になると思います。
ユーロドルは下値警戒感が残り、ユーロ円はドル全面高の展開となれば方向感に欠ける動きも
最後にユーロ相場について解説します。まずユーロドルについては、ユーロ圏と米国の景況感格差
と金融政策の方向性の違いが為替を動かす基本的な材料と考えています。IMFでは2015年の実質
GDP成長率について、ユーロ圏は前年比+1.2%、米国は同+3.6%を予想しています。またECBは
3月からQEを開始する一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は年内の利上げ開始が予想されています。
そのためユーロと米ドルの金利差が拡大し、為替はユーロ安ドル高の方向に振れやすい地合いが続く
とみています。ユーロドルは図表5で示した通り、2009年12月高値と2011年5月高値を結ぶ下降
線と、2010年6月安値と2012年7月安値を結ぶ上昇線に囲まれての推移が数年続いていましたが、
2014年12月に下降線を下抜けました。ユーロドルは1月26日に一時的に1.11ドルを割り込みまし
たが、再びここを下抜けて節目の1.10ドルも突破してしまうと、2003年8月と9月につけた安値水
準である1.07ドル台後半が意識される可能性があります。
【図表5:ユーロドル相場の推移】
(ドル/1ユーロ)
1.7
1.6
下降線
1.5
1.4
1.3
1.2
上昇線
1.1
2003年8月と9月安値の1.07ドル台後半
03
05
07
09
11
13
1
15
(年)
(注)データ期間は2003年1月から2015年1月。
(出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友アセットマネジメント作成
次にユーロ円ですが、ユーロ円の為替レートはユーロドルとドル円の為替レートを掛け合わせて算
出されますので、ユーロ円相場を展望する際は、ユーロドル相場とドル円相場の動きを同時にみてい
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く必要があります。ユーロドルは前述の通りで、ドル円についても過去のレポート「ドル円相場を取
り巻く材料の整理」で3回に分けて詳しく解説していますが、日銀の異次元緩和を材料とする円売り
意欲がやや後退している状況にあり、概ね115円から120円というレンジ推移はしばらく続く可能性
があります。しかしながら米国の強い経済指標や金利上昇には素直にドル高で反応する地合いは続い
ていることから、当面は米国の経済指標や金融政策を巡る思惑がドル円相場の方向性に大きな影響を
与えると思われます。なおドル全面高の相場では、ユーロ安ドル高、ドル高円安となり、ユーロも円
もQE通貨として相対で売られてしまうため、ユーロ円相場は方向感が出にくくなる可能性があります。
ユーロ円の当面の下値目途として、ECBのQE決定後の下げでサポートされた130円をみていますが、
切り返した場合でも135円~140円の価格帯ではしばらく上値の重さに苦戦する展開が予想されます。
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