はじめに - 大阪湾研究センター

■はじめに
(沿岸域問題の解決は全人類共通の重要課題)
現在、沿岸陸域には地球人口の半数以上が集中し、その諸活動の活発化、海岸線・海域の利活用の急
拡大に伴い、沿岸陸域の人々にとっても生物・生態系にとっても好ましくない沿岸域環境状況が世界的
に現れている。地球人口は、60億人を超え、さらに増加しつつあり、2025年には、約80億人の地球人口
のうち約60億人が沿岸域に住むと予想されており、沿岸域の自然環境ことに海岸線・海域の生物・生態
系環境への負荷が急拡大することが危惧されている。地球上で生物生産性が最も高い沿岸域の環境を適
切に維持・更新していくことが、全人類共通の喫緊の課題となってきた。
(地球環境市民の自覚と責任−環境対策への参画)
市民においては、環境教育・学習機会の拡大、リサイクルへの取組みなどを通して、環境意識の高ま
りが見られ、同時に、自然環境とくに生物とのふれあい、水辺や海浜へのパブリックアクセスに対する
要請が高まっている。しかしながら、環境意識や自然への希求意識だけでは、環境問題は解決し得ない。
市民一人ひとりが、地球環境市民としての自覚と自らの行動に対する責任をもち、環境対応に積極的に
取り組むことが、地域的な環境問題の解決、沿岸域の環境問題の解決、ひいては地球環境問題の解決へ
の道をも拓くこととなる。
(我が国の環境政策と沿岸域政策の動向)
我が国においては、1992年の「開発と環境に関する国連会議」を受け、環境基本法(1993年)、環境基本
計画(1994年)、生物多様性国家戦略(1995年)、環境影響評価法(1997年)などが相次いで制定・策定され、
環境政策を強化してきた。また、運輸省のエコポート政策(1994年)、河川法の改正(1997年)、海岸法の
改正(1999年)などでは、人間活動と沿岸域生態系との調和の方向が打ち出され、環境保全審議会や瀬戸
内海環境保全審議会は、陸域から海域への負荷削減の強化と生物・生態系環境の創造の必要性を明らか
にしている。
一方、美しい国土の再生を目指した国土のグランドデザイン(1998年)で、沿岸域のあり方の重要性が
認識されたことを受け、国土庁から、「沿岸域圏の総合的な管理に主体的に取組む地方公共団体や様々
な民間主体が計画を策定・推進する際の基本的な方向を示す」沿岸域圏総合管理計画策定のための指針
(2000年2月)が都道府県に示された。
このようなことから、我が国においては、環境政策と沿岸域政策を一体的に議論するベースがようや
く出来てきたと言えよう。しかしながら、両者を一体化した具体的な将来計画を立案するには、関係行
政機関の対応は、いまだ個別的であり、総合的・統合的なものにはなっていない。かつ保全が中心的概
念に据えられており、生物と人間が共生する望ましい沿岸域環境を実現するための総合的なシステムの
確立と、それを前提とする総合的・統合的な計画が必要とされている。
なお、この間、大阪湾沿岸域においては、大阪湾臨海地域開発整備法(1992年)が公布・施行され、同
法に基づき主務7省庁から示された開発整備の基本方針(1993年)では、臨海工業系用途地域の再構築の
ための方針に加え、大阪湾に影響を与える水系の範囲がすべて対象地域とされ、そこでの総合的な基盤
整備と環境の保全・創造の方針が明示された。さらに、大阪湾港湾連絡協議会と運輸省第三港湾建設局
が、大阪湾全体の視点から、大阪湾の環境保全・創造の基本的考え方(1998年)をまとめているが、大阪
湾沿岸域においては、市民の環境対策への積極的な参画も含め、各分野にわたる総合的政策の実現が必
要である。
(大阪湾沿岸域の環境の現状認識と大阪湾の価値)
閉鎖性湾域である大阪湾沿岸域では、湾奥部海域の環境改善をはじめとする海域環境の保全と創造に
関する様々な課題、陸海の連続性の再構築、陸域に対する海からの脅威を防ぐ防災と環境共生の両立な
どの課題がある。これらの課題は、歴史的な沿岸域開発の過程からもたらされたものであることを認識
したうえで、大阪湾が、沿岸陸域の人間にとっての環境財であり、グローバルネットワーク時代の交流
基盤であり、海域生物の再生産と種の継承にとって重要なインキュベータであることを深く認識しなけ
ればならない。このことは、人・モノ・金・情報の往来や人々の生活行動、海域生物の生活史と生息環
境を見れば明らかである。
一方、大阪湾沿岸域は、瀬戸内海地域をはじめ我が国を先導してきた地域である。この大阪湾沿岸域
において、海陸一体の持続可能な物質循環システムを構築することができれば、その意義は計り知れな
い程に大きい。このため、大阪湾の隣接海域である瀬戸内海や紀伊水道・太平洋との関係を踏まえた広
域的・地球的な視点も含め、大阪湾の価値を積極的に評価し、その価値を守り、さらに伸ばしていくた
めに、大阪湾沿岸域において今、何に取組まなければならないのかを明らかにする必要がある。本来、
大阪湾内の水質や底質は、多様な生物の活動によって、人間にとっても好ましい状態に保たれているは
ずのものなのである。
(NPO大阪湾研究センターの立場)
以上のような認識のもと、特定非営利活動法人大阪湾沿岸域環境創造研究センター(略称.NPO大阪
湾研究センター、旧名.大阪湾新社会基盤研究会)は、1993年以来、「大阪湾を愛する」多分野の研究者・
技術者の共働により、大阪湾の環境に関する調査・研究を行い、大阪湾の環境創造への提言(1994年)、
マリン・コリドールによる大阪湾の環境創造の提案(1995年)をはじめ、大阪湾の環境に関する多くの提
言・提案・普及活動を続けてきた。
今般、その蓄積を踏まえ、「私達が愛する」大阪湾沿岸域に「生きとし生けるもの」と地球環境の未来の
ために、本グランドプランを提案することとした。私達は、沿岸域の市民、海の利用者(漁業者、遊漁
者など)、NPO、民間企業、行政機関など様々なステークホルダーが、心をひとつにして共働するシ
ステムをつくりだすことにより、大阪湾沿岸域の望ましい将来像を実現できると信じている。
まず大切なことは、情報を共有し合うことである。それは、大阪湾沿岸域および隣接海域の環境の現
状・問題点・価値に関する情報であり、大阪湾沿岸域が歴史的に培ってきた水系や海域との関わりから
得た知恵の情報であり、従来からの技術と新たに開発されている技術の内容や効果や限界についての情
報である。そして、その情報に基づき、生物・生態系の回復のための緻密な計画を樹てるとともに、近
自然創造技術を積極的に開発し適用していくことが必要と考えている。同時に、環境への負荷を極小化
する社会経済システムづくりを積極的に推し進めなければならない。
損なった生物・生態系の回復を、手を拱いてじっと見ているだけでは、生物・生態系にとっても人間
にとっても望ましい環境は得られない。「生きとし生けるもの」の一員として私達人間があることを肝に
命じ、生物・生態系の回復のための環境保全・創造を加速させなければならない。
(本グランドプランの目的)
本グランドプランの目的は、大阪湾と沿岸陸域を大阪湾沿岸域として一体的な環境圏ととらえ、「海
からの視点を重視」して、大阪湾沿岸域の望ましい姿を示すことにある。また、新しい1,000年の始まり
にあたって、この50年間で失った美しい環境の回復を目指し、これからの20∼30年で大阪湾沿岸域が実
現すべきことを示すことにある。
(本グランドプランの構成)
第Ⅰ部では、「海からの視点を重視」しつつ、望ましい沿岸域のイメージを示した。第Ⅱ部では、大阪
湾沿岸域の現状と特性を整理し、第Ⅰ部を参照しつつ、大阪湾沿岸域の将来像を描いた。そして第Ⅲ部
には、大阪湾沿岸域の将来像実現のための基本戦略、環境の保全・創造のための具体策を示した。さら
に第Ⅳ部として、関係諸機関が協力し合って早急に取組むべき当面の課題を明らかにした。
(本グランドプランの性格)
本グランドプランは、沿岸域の市民、海の利用者(漁業者、遊漁者など)、NPO、民間企業、行政機
関など様々なステークホルダーが、次世代へと継承すべき環境を議論するための共有のタタキ台として
提案するものである。
大阪湾上から360度を見回してみると、私達が、かけがえのない小宇宙に生きていることが実感され
る。六甲、生駒、金剛、和泉、淡路島の山系に守られた小宇宙に、明石海峡、紀淡海峡を通じて世界の
知恵を取り入れつつ、生かされてきたことがわかってくる。大阪湾沿岸域各地域の個性・特性を大切に
しつつ、生命のインキュベータであり、生物の多様性の宝庫であり、沿岸陸域の人間にとっての環境財
である大阪湾の環境の保全と創造を図り、閉鎖性海域の沿岸域における環境再生のモデルとしての新し
い大阪湾沿岸域を、様々なステークホルダーの参加と連携により構築していくことが必要である。
各ステークホルダーにおいて、また各界の枠を超えて、大阪湾沿岸域の環境に関する議論が深まり、
関係者が責任をもって大きな一歩を踏み出すことを期待する。
2000 年5月
特定非営利活動法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター
■特定非営利活動法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 海域環境評価研究委員会
(「大阪湾沿岸域環境グランドプランの提案」作成担当組織)
委 員 長
副委員長
門
上
田
嶋
アドバイザー
中
村
〃
〃
安
奥
中
井
野
原
誠
武
紘
〃
〃
〃
村
今
郡
田
尾
山
武一郎
和 正
正 久
奈良県立商科大学教授
㈱日本海洋生物研究所取締役大阪支店長
NPO大阪湾研究センター理事長
〃
〃
事 務 局
沢
高
藤
田
村
井
裕美子
光 司
義 之
㈱大林組開発企画部課長代理
アジア航測㈱関西コンサルタント部環境計画部長
㈱地域計画研究所研究員
〃
栗
原
奈王子
㈱地域計画研究所研究員
委
員
事務局所在地
英
元
機
充
京都大学名誉教授
徳島大学大学院工学研究科教授
通商産業省工業技術院中国工業技術研究所海洋環境制御部長
福井県立大学生物資源学部教授
人
俊
之
国土庁計画・調整局計画官
大阪府立大学工学部海洋システム工学科教授
京都大学大学院農学研究科教授
大阪市中央区北浜2-1-26北浜松岡ビル2階 IBCフォーラム内(〒541-0041)
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