シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス (速報)

EY Institute
26 February 2015
シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス
(速報)東証がコーポレートガバナンス・コード策定に伴う
新規則を発表
EY総合研究所では、「シリーズ:成長戦略としてのコーポレートガバナンス」として関連する情報
執筆者
を発信している。本稿では最新のトピックスについて紹介・解説する。
東京証券取引所(以下、東証)は2015年2月24日、「コーポレートガバナンス・コードの策定に
伴う上場制度の整備について」を発表した。コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識
者会議(事務局:金融庁・東証)は14年12月17日にコーポレートガバナンス・コード(原案)を公
表しており、東証による必要な制度整備を行った上で15年6月1日に適用することが予定されて
いる。今回の東証による発表は「必要な制度整備」として上場規則を改正するもので、改正案は
3月26日までパブリック・コメントの手続きに付された上で、6月1日をめどに実施されることにな
る。
今回の規則改正は以下の3点を骨子としている。なお①②については共に、コーポレートガバナ
ンス報告書に記載する欄が新設されることが明らかにされている。
藤島 裕三
EY総合研究所株式会社
未来経営研究部長
主席研究員
①コードを実施しない場合の理由
市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQの上場会社が、コーポレートガバナンス・コードの
内容を実施しない場合、その理由を説明することが求められる。ただしマザーズ・JASDAQの上
<専門分野>
► コーポレートガバナンス
► IR
► 敵対的買収対応
場会社については、5つの基本原則<表1>を実施しない場合に限るとしている。逆に言えば、
市場第一部・市場第二部の上場会社においては、原則(30項目)と補充原則(38項目)の全て
に関して、「コンプライ・オア・エクスプレイン(実施か説明か)」が問われることになる。
②コードを実施するために行う開示
コーポレートガバナンス・コードを構成する各原則および補充原則のうち、特に11項目<表2>
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については「いかにして実施しているか」につき、説明することが求められる。その記載に際して
は、「他の開示・公表書類における記載場所」の明示でもよく、具体的にはウェブサイトURLの記
載などが考えられる。なお本開示の対象となるのは、上記①の趣旨を鑑みると、市場第一部・市
場第二部の上場会社に限られるものと思われる。
③独立役員の開示加重要件を廃止
東証が開示を求めている独立役員の開示加重要件(その事実を踏まえてもなお一般株主と利益
相反のおそれがないと判断する理由)につき、実施後は開示する必要がなくなる。開示加重要件
は(1)過去に独立性基準に抵触していた場合と(2)上場会社の主要株主である場合に大別され
るが、当該開示が過度な萎縮につながらないよう配慮したと見られる。
通常、上場会社は定時株主総会後、遅滞なくコーポレートガバナンス報告書を提出するが、今回
の規則改正に際しては、15年6月以後で最初に開催する定時株主総会については、「準備がで
き次第速やかに」提出すればよいとされている(6月末に総会開催の場合は12月末までに提
出)。したがってコーポレートガバナンス・コードに関わる①②の開示に際して、慎重に検討するこ
とができる(もしくは慎重に検討しなければならない)ということになった。
ただし機関投資家からの注目度が高い上場会社においては、コーポレートガバナンス・コードに
関連する事項を株主総会招集通知等に記載することで、自社の姿勢や取り組みを訴えるとの判
断もあり得るだろう。また多くの個人株主が株主総会に参加する上場会社では、同コードに関係
した質問が行われることを想定しておくべきだろう。あくまでも各社の状況次第だが、株主総会に
向けた対応を検討することは依然必要だといえる。
当面の対応として上場会社に求められているのは、上述した株主総会に向けた対応も含めて、
どのようにコーポレートガバナンス・コードに取り組むべきか、基本方針を定めることではない
か。自社の株主がコーポレートガバナンスに何を望むか、自社の取り組みが応えられる水準に
あるか、まずは現状認識からスタートすべきだろう。その上でギャップを埋めるための施策を検
討、重要性のウエートに従って対応することが求められる。
開示を検討する際に忘れてはならないのは、実体が伴っていなければ意味がないということであ
る。拙速な開示は形だけに終始することにもなりかねない。また個別の開示項目に固執するの
ではなく、自社の取り組みを全体として理解してもらえるよう工夫する必要がある。企業の事業特
性や成長ステージに応じた、望ましいコーポレートガバナンスの在り方を念頭に、最適なスケ
ジュールで対応するための「基本方針」をまず備えることが肝要だろう。
表1 5つの基本原則
基本原則
1.株主の権利・ 平等性の
確保
2.株主以外のス テークホ
ルダーとの適切な協働
3.適切な情報開示と透明
性の確保
4.取締役会等の責務
5.株主との対話
主な 考え方
・株主はコーポレートガバナンスの規律における主要な起点
・株主が有する様々な権利が実質的に確保されるように配慮
・ステークホルダーとの適切な協働が不可欠だと十分に認識
・ESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的な対応
・法令に基づく開示以外の情報提供に主体的に取り組む
・いずれの機関設計を採用しても、創意工夫を施すことで 各機関を
実質的かつ十分に発揮させる
・迅速・果断な意思決定を促すため、意思決定過程の合理性を担保
することに寄与する
・建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行う
出典:「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」よりEY総合研究所作成
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(速報)東証がコーポレートガバナンス・コード策定に伴う新規則を発表
表2 開示を求められる11原則
原則
内容
原則1-4 政策保有株式
原則1-7 関連当事者間の取引
原則3-1 情報開示の充実
求められる開示
政策保有に関する方針
政策保有株式に関わる議決権行使についての基準
関連当事者間の取引に関する適切な手続の枠組み
経営理念、経営戦略、経営計画
コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
経営陣幹部・取締役の報酬決定方針・手続
経営幹部の選任と取締役・監査役候補者の指名方針・手続
経営幹部の選任と取締役・監査役候補者の指名の説明
補充原則 経営陣に対する委任の
取締役会が経営陣に対して委任する範囲
4-1① 範囲
独立社外取締役の有効
3分の1以上の選任が必要と考える場合の取組み方針
原則4-8
な活用
独立社外取締役の独立
原則4-9
独立性判断基準
性判断基準及び資質
取締役会全体としての知識・経験・能力のバランスや多様性
補充原則 取締役会全体とし ての
及び規模に関する考え方
4-11① 考え方
取締役の選任に関する方針・手続
補充原則 取締役・ 監査役の他社
取締役・監査役の兼任状況
4-11② 兼任
補充原則 取締役会 によ る、 取締 取締役会による、取締役会全体の実効性に関する分析・評価
役会全体の実効性に関
4-11③
の結果
する分析・評価
補充原則
トレーニングの方針
取締役・監査役に対するトレーニングの方針
4-14②
株主との建設な対話を促進するための体制整備・取組みに関
する方針。少なくとも以下の点:
・対話に目配りを行う経営陣または取締役の指定
株主との対話に関 する
・社内部門等の有機的な連携のための方策
原則5-1
方針
・対話の手段の充実に関する取組み
・株主の意見・懸念を効果的にフィードバックするための方策
・対話におけるインサイダー情報の管理に関する方策
出典:「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)」「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度
の整備について」よりEY総合研究所作成
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• コーポレートガバナンス強化
• IR戦略の策定・実行
• 被買収リスク対応
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(速報)東証がコーポレートガバナンス・コード策定に伴う新規則を発表
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