2009.5,No.2 2015.2.No.29 胸痛を契機に発見された膿胸関連リンパ腫の1例 現病歴:70 歳代の女性.右胸痛が徐々に増悪し,X 線検査にて胸部異 常影を指摘された.胸痛と異常影に対する精査,加療のため本学呼吸器 内科を紹介された.18 歳時,肺結核に罹患し人工気胸術を受けている. 画像所見:入院時の胸部 X 線写真(図 1)では右肺全体に透過性の低下 を認める.胸部 CT(図 2)では右側胸部の石灰化と胸郭の変形,縦隔 の右方偏位が明らかである.右背側の結核性膿胸壁に沿って腫瘍を疑う 図1 陰影を認めたので,PET 検査を行ったところ,右肺底部から椎体近傍 に及ぶ異常集積(SUVmax=20)を認めた(図 3) . 合同カンファレンス:肺結核の治療歴がある事,腫瘍マーカーの sIL-2R が 821U/ml と高値である事より膿胸関連リンパ腫が疑われた.診断確 定のための呼吸器外科にて CT ガイド下生検を行う方針とした. 図2 病理組織学的所見:やや大型の異型細胞のびまん性増殖を認め(図 4), 免疫染色では腫瘍細胞は B 細胞マーカーの CD20,CD79a は陽性,T 細胞マーカーの CD45RO,CD3 では陰性となり,びまん性大細胞型 B 細胞性リンパ腫と診断された(図 5). その後の経過.胸壁浸潤を伴う膿胸関連リンパ腫の診断の下に,化学療 法の R-CHOP 療法と放射線治療を開始した.右胸痛は軽減し,PR の 図3 治療効果を得たが,化学療法の継続は希望されず緩和治療となった. 考察:Iuchi1)らは慢性膿胸患者の 134 例中に 3 例の膿胸関連悪性リン パ腫を認め,発症までに 40 年余りの経過があると報告した.診断には CT ガイド下生検や外科的生検が行なわれ,画像診断は PET 検査が有 効である.患者の多くが高齢者や低肺機能者であるため予後は約 8 か月 と不良である.特異的なこととして,殆どの膿胸関連悪性リンパ腫には 図4 人工気胸術の既往がある.本症は EB virus 感染が関与するびまん性大 細胞型 B 細胞リンパ腫であり,本例も EB ウイルス既感染 の検査所見を得た 2).治療として胸膜肺全摘術やリツキシ マブを含んだ化学療法,或いは放射線療法が用いられる が,確立した方法はない.人工気胸術の既往を持つ患者に 対しては肺温存による膿胸腔全摘出も選択枝の一つであ る.しかし現在では人工気胸術そのものが行われないの で,本例のような症例も今後は少なくなるであろう. 図5 ) 1)Iuchi K,Cancer 1987;60:1771,2)Narimatsu H,Ann Oncol, 2007;18:122,
© Copyright 2024 ExpyDoc