論 文 審 査 の結 果 の要 旨 および担 当 者 報告番号 氏 ※ 名 第 号 謝 士 晨 /XIE Shichen 論文題目 An Empirical Study on Energy Use, Carbon Emissions and Economic Growth in China 論文審査担当者 主査 名古屋大学 教授 藤川清史 委員 名古屋大学 教授 梅村哲夫 委員 名古屋大学 准教授 新海尚子 論 文 審 査 の結 果 の要 旨 1.論 文 の概 要 と構 成 改 革 開 放 政 策 採 用 後 の 中 国 の 経 済 成 長 , と く に 製 造 業 の成 長 は 目 覚 し く , 現 在 は, 世 界 の 工 場 と いわれ るよ うに なった .製 造 業 の 発 展 と と もに , 中 国 で のエネ ルギ ー消 費 量 の増 加 も大 きく,それとともに,地 球 温 暖 化 の原 因 とされる CO2 の排 出 量 の増 加 も 大 きい.2013 年 11 月 にポーランドで開 催 された第 19 回 国 連 気 候 変 動 枠 組 み条 約 締 約 国 会 議 (COP19) で の , 国 際 研 究 グ ル ー プ 「 グ ロ ー バ ル ・ カ ー ボ ン ・ プ ロ ジ ェ ク ト 」 の 報 告 書 によると,2012 年 の中 国 の CO2 排 出 量 は前 年 比 5.9%増 で,2012 年 の世 界 全 体 の CO2 排 出 量 増 加 分 の 70%を占 めたとされている.2012 年 の中 国 の排 出 量 は約 85 億 トンでこれは世 界 排 出 量 の 3 割 にあたる.中 国 の GDP の規 模 はアメリカの半 分 程 度 であ るが, CO2 排 出 はア メリ カを 上 回 り 世 界 で最 も多 い . 中 国 の政 府 当 局 もそれ なりに危 機 感 をもっており.2009 年 の COP15 では,2020 年 までに GDP 当 たりの CO2 排 出 量 を 2005 年 比 で 40~45%削 減 すると誓 約 し,2014 年 までに中 国 の 7 地 域 で CO2 排 出 量 取 引 を試 験 的 に 導 入 する方 針 を発 表 するなど,CO2 排 出 抑 制 への動 きも 見 せている.しかし,中 国 のエネルギー消 費 は拡 大 を続 け,地 域 環 境 および地 球 環 境 に大 きな負 荷 を与 え続 けているのが現 状 である. 本 学 位 請 求 論 文 提 出 者 は,中 国 の改 革 開 放 政 策 の 1 つの拠 点 である上 海 にある 理 系 の大 学 (華 東 理 工 大 学 )の出 身 であり,そこで中 国 の経 済 成 長 を 目 の当 たりにする とともに,エネルギーの大 量 消 費 による都 市 型 ・産 業 型 の公 害 (大 気 汚 染 ) も経 験 した. そ し て , 中 国 の エ ネ ル ギ ー 消 費 削 減 (= エ ネ ル ギ ー 効 率 の 改 善 ) を , 個 々 の 要 素 技 術 の 視 点 から分 析 することも重 要 であるが,マクロ経 済 との関 連 という視 点 から分 析 する こと も重 要 であると考 えるようになった. それが本 論 文 の研 究 動 機 である. 本 論 文 は 6 章 から構 成 されている.第 1 章 では論 文 の問 題 意 識 と方 法 論 が述 べら れる.第 2 章 では,中 国 のエネルギー・フロー・チャートが時 系 列 で作 成 されている.エネ ルギー・フロー・チャートとは,どのような一 次 エネルギーが ,どのようなエネルギー転 換 部 門 を 通 過 し , どの よう な 最 終 消 費 部 門 で消 費 さ れ るか を た ど る図 であ る . こ の図 を 見 ることで,中 国 のエネルギー構 造 の変 化 に 大 きな 3 点 の特 徴 を指 摘 できる.第 1 の特 徴 は,中 国 経 済 が石 炭 依 存 であ ることであ る.石 炭 のシ ェア は低 下 傾 向 であ るが ,水 準 と しては現 在 でも 7 割 程 度 の高 いシェアを占 めている.石 炭 消 費 は煤 煙 を発 生 させると同 時 に,熱 量 あたりの CO2 排 出 が多 く環 境 に優 しくない燃 料 である.第 2 の特 徴 は,近 年 の中 国 は国 産 エネ ルギー ( 石 炭 ) だけでは需 要 に 追 いつかず,エネ ルギーの輸 入 を 増 や していることであ る.輸 入 エネルギーは主 に原 油 であ り,中 国 の原 油 市 場 への参 入 が近 年 の原 油 高 に拍 車 をかけている.第 3 の特 徴 は,中 国 経 済 の電 力 化 である.かつては 石 炭 を直 接 エネルギーとして使 用 する場 合 が多 かったが,現 在 では,石 炭 から電 力 に 転 換 して利 用 する部 分 が多 くなった.これは一 方 では都 市 部 での煤 煙 の排 出 がおさえ ら れ る とい う環 境 に や さし い 変 化 であ るが ,他 方 では , 電 力 へ の転 換 に は エネ ル ギー 転 2 論 文 審 査 の結 果 の要 旨 換 ロスがあ るので,石 炭 の消 費 量 を 増 やすという環 境 負 荷 を 増 加 させる変 化 でもあ る. GDP あたりのエネルギー消 費 (エネルギー集 約 度 )および GDP あたりの CO2 排 出 量 (CO2 集 約 度 )は低 下 傾 向 であり,1980 年 に比 べると 2/3 程 度 になっている.しかし,中 国 では GDP の拡 大 が続 いているために,今 後 かなりの長 期 にわたりエネルギー消 費 の 総 量 および CO2 排 出 が増 加 し続 けると予 想 される. 第 3 章 はエネルギー需 要 に焦 点 をあて,時 系 列 での エネルギー需 要 の変 化 の要 因 分 解 を 行 っ てい る . その 手 法 は , 物 量 情 報 と 金 額 情 報 を 組 み 合 わせ た ハ イブ リ ッ ド タ イ プの産 業 連 関 分 析 であり,通 常 の産 業 連 関 表 にエネルギーバランス表 の情 報 も組 み入 れるという工 夫 も凝 らしている. その結 果 ,エネルギー需 要 の主 要 因 は, 1990 年 代 は家 計 消 費 であったが,その後 は固 定 資 本 形 成 および輸 出 の要 因 が大 き くなっていった こと がわかった.固 定 資 本 形 成 に関 しては,その間 接 的 影 響 が 圧 倒 的 に大 きい.つまり,固 定 資 本 形 成 は建 設 産 業 と一 部 機 械 産 業 での生 産 物 が使 われ るが,その産 業 でのエネ ルギー消 費 より も,建 設 産 業 や機 械 産 業 が投 入 物 として用 いる財 を 生 産 する産 業 での エネルギー消 費 が大 きい. これはシ ステムとしての省 エネの余 地 が大 きいことを示 してい る.また,直 近 では,世 界 不 況 の影 響 を受 けて輸 出 は減 少 要 因 とな っており,固 定 資 本 形 成 の要 因 が突 出 するかたちとなっている. 第 4 章 は,CO2 排 出 の要 因 分 析 を行 っている.CO2 排 出 はエネルギー消 費 の副 産 物 である.熱 量 あたりの CO2 排 出 量 は,石 炭 ,石 油 ,天 然 ガスの順 に多 いが,中 国 で は石 炭 の比 重 が圧 倒 的 に 大 き く, 一 次 エネルギーのシ ェア がそれほど大 き くは変 動 して いないことから,エネルギー消 費 量 の動 きとほぼ 連 動 し,第 3 章 と類 似 の結 果 を得 た. 産 業 別 にみると,近 年 の CO2 排 出 増 加 の主 要 因 は,固 定 資 本 投 資 形 成 であるが,こ の 要 素 の 大 半 は 建 設 需 要 であ る . 建 設 産 業 の 投 入 物 に は , セメ ン ト や 鉄 鋼 , お よび 電 力 というエネルギー集 約 的 な産 業 が あるため,間 接 的 な CO2 排 出 が大 きくなる. 第 5 章 は,投 入 物 としてのエネルギーに焦 点 をあて,エネルギー投 入 を含 むトランスロ グ型 (対 数 2 次 関 数 型 )の生 産 関 数 を生 産 フロンティア方 式 で推 定 した. 生 産 フロンティ ア方 式 とは,通 常 の観 測 誤 差 に加 えて,生 産 効 率 の上 限 からの乖 離 (非 効 率 性 )を示 す誤 差 の 2 種 類 の誤 差 を導 入 する方 式 である. ここでは中 国 の省 別 のデータを時 系 列 で準 備 す るとい うパネ ルデー タを 用 い てい る. 推 計 の結 果 , マクロで は中 国 の経 済 成 長 の 3 分 の 1 程 度 は全 要 素 生 産 性 (TFP)の上 昇 で説 明 されることがわかり,中 国 での 経 済 成 長 は投 入 の拡 大 が主 要 因 であり 効 率 改 善 の寄 与 は小 さいという議 論 に対 しての 1 つの反 証 を示 すことができた.また 生 産 フロンティア方 式 では,効 率 性 を省 ごとに推 定 す ることができるが,中 国 の省 の中 では広 東 省 が最 も効 率 が高 いことがわかった.もし中 国 の全 省 の効 率 が広 東 省 と同 じ程 度 に 向 上 すれば,中 国 全 土 のエネ ルギー消 費 は約 3 分 の 1 減 少 する(3 分 の 2 になる)ことになる. 第 6 章 は結 論 である.中 国 のエネルギー消 費 の増 加 は,固 定 資 本 投 資 形 成 ,とくに 3 論 文 審 査 の結 果 の要 旨 建 設 部 門 に依 存 していることがわかった,中 国 の固 定 資 本 投 資 は政 府 によるインフラ 投 資 お よ び 大 型 国 営 企 業 に よ る 設 備 投 資 が 中 心 で あ る . エネ ルギ ー 消 費 の 増 加 に 需 要 面 から歯 止 めを かけるために は,中 国 政 府 の政 策 転 換 が必 要 であ ろ う.また,マクロ の 生 産 面 か ら 言 う と ,中 国 の 生 産 性 は向 上 し て い る も の の ,ま だ 内 陸 地 域 を 中 心 に 改 善 の余 地 があ る.中 国 の企 業 に エネルギー消 費 節 約 に 向 けた動 機 付 けを どのように 与 えるかが鍵 になるであろう. 本 研 究 の成 果 は 2 編 の学 術 論 文 にまとめられている.1 編 は,本 論 文 3 章 に対 応 す る内 容 であり,雑 誌 Energy Policy に公 刊 されている.もう 1 編 は本 文 の 5 章 に対 応 す る内 容 であり,現 在 公 刊 の準 備 中 である. 2.評 価 本 論 文 は中 国 のエネルギー構 造 を需 要 面 と生 産 面 から分 析 した研 究 である. 学 位 論 文 として以 下 のように評 価 すべき点 を含 んでいる . 1) 物 量 情 報 と金 額 情 報 を 組 み合 わせたハイブリ ッ ドタイプの産 業 連 関 分 析 ,および通 常 の 産 業 連 関 表 に エネ ルギ ー バ ラ ン ス表 の情 報 も 組 み入 れ る と いう 新 し い タ イ プ の 産 業 連 関 分 析 の手 法 を 提 案 し てい る. その結 果 ,最 終 需 要 の 変 化 と エネ ルギ ー 利 用 および CO2 排 出 の関 係 が見 えやすくなった. 2) 直 接 的 排 出 のみならず間 接 的 排 出 を加 味 すると,固 定 資 本 形 成 の CO2 負 荷 は大 きい.国 有 企 業 中 心 の経 済 運 営 が重 複 投 資 や不 採 算 投 資 の背 景 にあることを考 えると,経 済 の市 場 化 もマクロのエネルギー効 率 を高 めるために 有 益 であることがわ かった. 3) 生 産 フ ロ ンテ ィ ア を も って い る ト ラ ン ス ログ 型 の生 産 関 数 の 推 計 に よ り , 中 国 の 経 済 成 長 の 1/3 程 度 は全 要 素 生 産 性 の上 昇 によるという結 果 を得 ,効 率 の改 善 が進 ん でいることが確 認 された.ま た,資 本 とエネルギーの代 替 の弾 力 性 は, 1990 年 代 半 ばまではプラス( 代 替 的 ) であったが,近 年 は,マイナス ( 補 完 的 )になっていることも確 認 された.その意 味 でも固 定 資 本 形 成 の CO2 負 荷 は大 きいことが分 かった. 4) 中 国 の 各 省 が 最 も 効 率 的 な 広 東 州 と 同 程 度 の 効 率 に な れ ば , 中 国 の 総 エ ネ ル ギ ー消 費 が約 1/3 程 度 削 減 されることが分 かった. ただ同 時 に,本 論 文 は以 下 のような不 十 分 な点 も含 んでいる . 1) 競 争 輸 入 型 の産 業 連 関 表 を 用 いているために ,輸 入 の扱 いが正 確 ではない. 非 競 争 の 輸 入 型 の 産 業 連 関 表 を 用 い た 分 析 が求 め ら れ る .ま た , 産 業 連 関 表 と エネ ル ギーバラ ンス 表 の産 業 分 類 も完 全 に は比 較 可 能 ではない .分 析 の 信 頼 性 を 高 める ために,更 なる産 業 分 類 の検 討 が必 要 である. 2) ト ラ ンス ログ 型 の 生 産 関 数 の 推 計 では ,付 加 価 値 を 生 産 と した 分 析 であ るに もか か 4 論 文 審 査 の結 果 の要 旨 わらず,説 明 変 数 としてエネルギー投 入 を加 えている.投 入 物 と産 出 が必 ずしも対 応 していな いので, 分 析 結 果 に バイア スが生 じてい る可 能 性 があ る .分 析 の 信 頼 性 を高 めるために,この点 についての検 討 が必 要 である. 3) 産 業 連 関 分 析 では ,価 格 変 化 と エネ ルギ ー 需 要 の変 化 の 関 係 が明 示 的 に は 分 析 で き な い . 今 後 は , 価 格 変 化 に よ る エ ネ ルギー 需 要 を 分 析 対 象 と し , ま た 財 の 供 給 側 の分 析 を 同 時 に 行 う ために も,応 用 一 般 均 衡 モ デルへの拡 張 も 検 討 する 必 要 が ある. しかしこうした改 善 はかなり大 掛 かりな研 究 組 織 を必 要 とするものであり,本 学 位 請 求 論 文 提 出 者 が今 後 の研 究 活 動 の中 で行 なわれる将 来 的 研 究 課 題 であ ると考 えられ るので,本 論 文 の博 士 論 文 としての価 値 を損 なうものではない . 3.結 論 以 上 の評 価 により,本 論 文 は博 士 (国 際 開 発 学 )の学 位 に値 するものである . 5
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