サレジオ高専とモンゴル高専との連携による

日本科学教育学会研究会研究報告 Vol. 29 No. 4(2015)
サレジオ高専とモンゴル高専との連携によるアクティブラーニングを活用した職業教育の
実践研究 A Practical Research on Educational Effects of Active Learning for Vocational and Technical
Education through International Cooperation, Salesian Polytechnic and Mongolian Kosen
伊藤光雅 ITO Mitsumasa サレジオ工業高等専門学校 Selesian Polytechnic [要約] 学生の異文化体験の契機としては、「学生文化交流」、「海外インターンシップ」、「国際
会議での発表」等が一般的である.本研究では、新機軸として、異文化における教育体験の場を設定し、
学生 TA が参与する【新たなアクティブラーニングによる教育システム】の構築を目指している.本稿
では、サレジオ修道会系列校における遠隔授業の展開事例を紹介し、サレジオ高専にて 2014 年度から
取り組んでいる IET 内に設立されたモンゴル高専との物理学授業を事例とした遠隔授業さらに出前理
科教室など学生 TA の参与する職業教育について報告する.
[キーワード]アクティブラーニング、遠隔授業、異文化理解、サレジオ高専、モンゴル高専 1.はじめに るため、産業界から早急に技術者の養成が望まれ
モンゴル国ウランバートル市内に所在する工
ている.そのような背景もあり、2000 年以降に
業技術大学(IET:Institution of Engineering and
モンゴル国内に日本式高専を創る気運が高まり、
Technology)では、日本の高専をモデルに新しい
モンゴル政府およびモンゴルに日本式高専を創
教育制度の構築を推進している. 2013 年 10 月
る支援の会 注1)や笹川汎アジア基金の援助を受け
にモデルクラスをスタートさせ、第一期生 32 名
て 2014 年 9 月に「モンゴル高専」を開校した.
が入学し、日本の高専を退職した教員の支援を受
2.サレジオ修道会系列校における遠隔授業 けて学んでいる.
サレジオ高専は、国内外にサレジオ修道会系列
の中等教育機関 1,149 校と高等教育機関 246 校の
付属校を持つ.またサレジオ修道会系列校におい
て遠隔教育の基幹校であるブラジリアカトリッ
ク大学(UCB: Universidade Catolica de Brasilia)
では、1996 年に遠隔教育センターが設立され、
2013 年現在、31 個所の約 3,300 人の学生が、学
部課程 10 コース、大学院課程 11 コースで学習中
である.日本においては、2005 年にサレジオ高
専杉並キャンパス(SITEC)と、2012 年に南山
図1 モンゴル工業技術大学本館(IET) 大学とに遠隔教育センターが設立された(写真1).
現在、SITEC では約 50 名、南山大学では 83 名
モンゴルでは、国費留学生として日本国内の国立
の学生が学んでいる.
高専へ留学経験を有する卒業生が、2012 年度の
インターネットの完備の不十分な地域におけ
累計で 150 名を超え、モンゴル国の発展のために
る遠隔授業の展開例としては、サレジオ高専とス
各産業界で活躍している.モンゴル国内では、鉱
ペ イ ン サ レ ジ オ 工 科 大 学 ( EUSS:La Escola
山開発が進んでいる一方で技術者が不足してい
Universitària Salesiana de Sarrià)との鏡型デ
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ータベース注1)を利用した双方向型通信の授業に
では、専門教科を指導する教員数が十分ではなく、
関する研究を報告している.これまでサレジオ修
日本から教員を派遣する形で確保している.
道会系列校では、e ラーニングによる遠隔授業を
筆者らは、サレジオ修道会系列校で展開する遠
活発に展開している.
隔授業を改善・転用して、マレーシア KTJ もし
くはモンゴル IET における教員数と授業時間数
の削減による課題を解決することが可能である
との着想に至った.
4.アクティブラーニングを活用した職業教育 サレジオ高専とマレーシア KTJ との間では、
2011 年度から鏡型データベースを利用した双方
向型通信の授業を展開可能とする、物理教育を事
例とした【新たな遠隔教育システム】の 1 モデル
の構築を目指している.本研究の企画の段階から、
将来的に物理の座学のみならず、遠隔授業として
図2 電気工学実習での授業(IET) の実験授業や理科教室の展開も織り込んでいた.
2014 年度から新たにモンゴル IET において、
3.マレーシアとモンゴルへの遠隔授業の展開 実験授業や理科教室を実施している.今年度から
サレジオ高専では、2011 年からサレジオ修道
の取組みである理科教室は、3カ年計画としてサ
会系列に属さない海外の高等教育機関とも遠隔
レジオ高専における中学生向け公開講座と連動
授業の展開を推進している.その事例が、マレー
している.つまり、学生 TA は、事前に日本国内
シ ア マ ラ 工 科 大 学 国 際 教 育 セ ン タ ー ( UiTM,
において中学生向け公開講座のアシスタントと
INTEC)高専予備教育コース(KTJ)と、モンゴ
して参加することで、展開上の諸注意を確認して、
ル工業技術大学高専コース(IET)との遠隔授業で
モンゴル IET における理科教室へ備えることに
ある.
なる.特にモンゴルに高専にて実施した「理科教
室」は、1.教員によるインターネットを用いた双
方向通信でのオリエンテーション、2. 学生紹介
と学生 TA が参与した実習、3.実習後の日本人・
モンゴル人学生が協働したプレゼンテーション
の3部構成からなる.実習では、受講生徒やモン
ゴル人学生が実習を受ける際に、学生 TA が支援
した.
5.日・蒙—ものつくり理科教室の実施 今年度の理科教室は、表1の 3 つの Step を経
図3 マレーシア(KTJ)での遠隔授業 マレーシア高専留学プログラムでは、アジア経
済危機(1997—1998 年)以降の高専留学プログラ
ムにおいて、教員の雇用体系が変更され、理数教
科の教員数と授業時間数の削減となり、その結果、
指導内容の一部を削減して授業展開しているこ
とを伊藤(2011)にて報告した.またモンゴル IET
て展開した. Step 1:(サレジオ高専公開講座-ものつくり理科
教室) (1)ものつくり科学教室実施案の策定.および
授業アイテムを準備する.(6 月末)
(1) 学生 TA へ指導マニュアルを配布し公開
講座実施前に確認(7 月末)
(2) ものつくり科学教室実施(8 月上旬)
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(3) 実施後の反省会と、モンゴル IET での実
施に向けた事前確認 (8 月下旬)
Step 2:(モンゴル工業技術大学-ものつくり科学
教室) (1) ものつくり科学教室実施案の策定.およ
び授業アイテムを準備する.(6 月末)
(2) 学生 TA へ指導マニュアルを配布し公開
講座実施前に確認(7 月末)
(3) ものつくり科学教室実施(9 月中旬)
(4) 年次協議会の実施(12 月下旬)
本研究の各種課題を討議する場として、
インターネットを用いた年次協議会を日
本とモンゴルを繋いで実施する.
Step 3:(学生 TA による各種学会での成果発表)
各年度当初に、サレジオ高専-ものつくり科学教
室、モンゴル工業技術大学-ものつくり科学教室の
成果報告担当の学生 TA を事前に選出して、各種
学会にて情報を発信させる.
本取組みである実験授業や理科教室は、遠隔授
業の一環に留まらずアクティブラーニングとし
て、日本人学生 TA と現地学生とが共同作業する
ことにより、将来エンジニアとして求められる国
際的知見や異文化適応能力の育成を目指してい
る.
6.まとめ サレジオ高専と海外教育機関との遠隔授業は
2011 年度から開始して 2014 年度で 4 年目の取組
みとなった.教材開発においては、課題の洗い出
しに伴う改訂の作業が毎年進んでいる.本研究の
開始当初の目標である、発展途上国において e ラ
ーニングによる継続的な遠隔授業の実施に関し
て、一定の目処を付けることが出来た.
今年度は、学生 TA を活用した実験授業や理科
教室を展開することで、国際職業人養成を目的と
した【新たなアクティブラーニングによる教育シ
ステム】の 1 モデルの構築を目指している.
日本とモンゴルとの2国間における理科教室
は、8月(図4)と、9月(図5)に実施した.
本理科教室の実施後には、受講生へのアンケート
調査から基礎的なデータを得て分析の結果、1) 学生の持つ技術・技能の伝達力の向上と、2) 語
学力の向上が、来年度以降への改善事項として明
らかになった.本年度の成果から次年度は、スパ
イラルアップした活動の必要がある. 謝辞 本研究は、科学研究費補助金・基盤研究(C)
(代表者:伊藤光雅、課題番号:24501235)の
助成を受けている.Institution of Engineering
and Technology の Sergelen Munkh-Ochir 理事、
中西祐二博士、西山明彦博士には、高専コースの
担当者として、様々な局面において協力・助言を
頂いていますこと、ここに記して感謝します.
注記
図4. サレジオ高専での理科教室 注1) 鏡型データベース:添削指導済みコン
テンツを、あらかじめサテライトとサー
バーの双方に置き、コンテンツデータそ
のもの転送を伴わずに、そのコンテンツ
データに付けた番号のみを両局で同期
を取りながら送信し、少量の情報送信で
会話型 e ラーニングを実現するデータベ
ース. 図5. モンゴル高専での出前理科教室 注2) モ ン ゴ ル に 日 本 式 高 専 を 創 る 支 援 の
会:2009 年 10 月に、モンゴル国の発展
を担う実践的技術者を育成する日本式
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高専の創設を支援するとともに、青少年
参考文献
のものづくり教育を通したモンゴル国
1. 伊藤光雅:マレーシア東方政策による高専予
と日本両国の教育・文化交流の発展に貢
備教育における課題と展望 -高専留学プ
献することを目的として設立された(設
ログラムでの物理教育を例に-、『サレジオ
立趣旨より一部改略). 工業高等専門学校、研究紀要』、第 37 号、
http://mongolkosen.org pp.1-11、2011.
実施
Step1 サレジオ高専 年度
2014 年度 開発期間
2015 年度 改善期間
2016
Step2 モンゴル工業技術大学 (ものつくり理科教室)
テーマ:光センサーロボットを活用した ライントレース競技 スケジュール 運営担当 a)
オリエンテーション、講義 教員 b)
ものつくり実習 学生 TA c)
結果・表彰 学生 TA (ものつくり理科教室)
テーマ:光センサーロボットを活用した ライントレース競技 確認
スケジュール 展開上の注
意点を事前
に確認する
テーマ:簡易リニアモーターカーの作成と 周回レース競技 確認
スケジュール 運営担当 a)
オリエンテーション、講義 教員 b)
ものつくり実習 学生 TA 展開上の注
c)
結果・表彰 学生 TA 意点を事前
に確認する
テーマ:3原色 LED を使った電子工作 スケジュール 運営担当 a)
オリエンテーション、講義 教員 b)
ものつくり実習 学生 TA c)
結果・表彰 学生 TA 年度 完成期間
Step3 確認
展開上の注
意点を事前
に確認する
運営担当 a)
b)
c)
d)
オリエンテーション、講義 教員 ものつくり実習 学生 TA 結果・表彰 学生 TA 2国間学生協働のプレゼン
教員 テーション テーマ:簡易リニアモーターカーの作成と 周回レース競技 スケジュール 運営担当 a)
オリエンテーション、講義 教員 b)
ものつくり実習 学生 TA c)
結果・表彰 学生 TA d)
2国間学生協働のプレゼン
教員 テーション テーマ:3原色 LED を使った電子工作 スケジュール 運営担当 a)
オリエンテーション、講義 教員 b)
ものつくり実習 学生 TA c)
結果・表彰 学生 TA d)
2国間学生協働のプレゼン
教員 テーション 最終報告書の作成と成果発信
(研究の成果は、本学のホームページにおいて外部公表し、本研究に関連する学会において情報発信する) 表1 3カ年計画表(日・蒙-ものつくり理科教室) ― 66 ―
成果発表 è 成果を
まとめる
è 成果を
まとめる
è 成果を
まとめる
学生 TA によ
る学会発表
および論文
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る学会発表
および論文
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る学会発表
および論文
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