平成 23 年度事業計画 1. 基本方針 「平成の開国」といわれているTPP参加は日本農業の根幹を揺さぶり、多くの農業者を不安 に陥れている。加えて酷暑、集中豪雨、豪雪、噴火、地震等々の自然災害も頻発し、農業者の モチベーションを維持することが極めて難しい環境におかれている。生産意欲の低下はその まま農業収入の減少につながり、再生産のための投資は年々少なくなり、本研究所育成の野 菜種子配布量も年間3~5%減少傾向にある。 本年度からは種子生産・配布に専従してきたこれまでの事業内容を改め、採種効率のあま り良くない品種においては、栄養繁殖による苗生産法を開発し配布するまでの一連の基礎研 究と実際試験に取り組む計画である。 新公益法人法への移行準備はこれまでの間、役員主導と研究所職員主導の両面から検討 してきたが、本年度は両者の意見を調整して、外部に接触できる体制を整え、手続き提出へ の環境を整備したいと考えている。 2. 研究に関する業務 1)育種業務 多様化する消費、流通、生産現場に対応し、果菜類 4 品目について育種を継続する。ま た、育成品種および栽培技術の普及に努める。 果菜類 4 品目について下記のとおり育種を継続する。 トマト:普通種および小果種について、高品質、多収、省力、病虫害抵抗性品種、栽培面・採 種面で省力的品種の育成、および病害抵抗性台木品種を育成する。葉かび病抵抗性普通 種、小果種の試交 F1 の採種および試作を行う。配布品種の原々種採種を行う。また、選抜 方法の効率化、採種の効率化等を検討する。 ピーマン:ウイルス抵抗性の未熟果収穫(緑)品種、中型完熟果収穫(カラー)品種、および 土壌病害抵抗性台木品種について、苗生産現場適応性を考慮した育成を行う。また配布品 種の原々種採種を行う。 メロン:消費面で外見から品種名と果実品質がわかり、可食部の多い品種、栽培面で、省 力・安定生産できる品種、流通面で貯蔵性、輸送性がある赤肉・緑肉品種の育成、および土 壌病害に複合抵抗性穂木品種・台木品種の育成、巻ひげの無い品種の育成を行う。台木用 複合抵抗性系統の試交 F1 採種および試作を行う。配布品種の原々種・原種の採種を行う。 カボチャ:消費面では加熱調理後も果肉色良く、高粉質で栄養価が高く、外観に特色のある 品種、栽培面では集約栽培および粗放栽培にそれぞれ適応し、少肥、省力となる品種、お よび病害抵抗性品種を育成するとともに試交 F1 採種および試作を行う。 2)研究開発に関する業務 (1)トマト・ピーマン種苗生産に関する研究:採種効率の悪いトマト・ピーマンについて効率的 な種苗生産法を開発する。 (2)ウリ科果内発芽に及ぼす土壌成分などの影響:果内発芽に関するこれまでの試験成果 をまとめ、他の要因を検討するとともに、成果を発表する。 (3)ナス科果実形質に関する研究:果実形質と細胞の倍数性に関するこれまでの成果をまと め、他の要因を検討するとともに、成果を発表する。 (4)機能性成分の研究:辛味成分・カロテノイドなどに関するこれまでの試験の追試を行い、 成果をまとめる。 (5)低濃度エタノールを用いた土壌消毒:エタノール処理土壌による土壌や土壌細菌群集構 造に対する影響を調査し、実用化への検証を行う。外部との共同研究により、外部資金 援助を受ける。 (6)種子由来の病気に関わる研究:引き続き情報収集を行い、新たな病気及び品種に対し て種子消毒法の検討を行う。 (7)種子の純度検定法に関わる研究:既存の方法に関して引き続きコストダウンをはかると ともに、新たな DNA マーカーや検定法に関する情報収集を行う。 (8)カボチャ病害抵抗性に関わる業務と研究:引き続き、外部からの病害診断を行うと共に、 新たに問題となる病気の検出方法を検討する。 (9)メロン病害虫抵抗性育種に関わる業務と研究:引き続き、外部からの病害診断を行うと 共に、新たな病害虫抵抗性に関する選抜法を検討する。 (10)トマト病害抵抗性育種に関わる業務と研究:引き続き、外部からの病害診断、所内の接 種選抜を行うと共に、DNA マーカーを用いた病害抵抗性遺伝子近傍マーカーの検出法 を検討する。 (11)ピーマン病害虫抵抗性育種に関わる業務と研究:引き続き、外部からの病害診断を行う と共に、接種選抜の補助を行い、DNA マーカーを用いた抵抗性遺伝子の検出法等を検 討する。 (12)千葉大学園芸学部をはじめとする国内外の大学や研究所、千葉県や松戸市などの公 的機関、中・高校の理科など教育・研修・見学に関する対応、地方自治体の審議会への 委員としての参加、普及記事の連載を引き続き行う。 3.普及に関する業務 1)種子の生産・配布 品種改良に関する研究の成果として育成された品種を普及するため、前年の結果をふ まえて、種子の生産および配布を継続事業として計画を実施する。 生産する種子は、5 種(カボチャ、メロン、ピーマン、トマト、エンドウ)を春作で 18 品種、秋 作でメロン 4 品種を所内外で実施する。メロン種子の採種においては、引き続き土壌病害 対策として、接木栽培を現地と協力しながら行い、採種圃場の清浄に努める。またその他 種子伝染性病害についても、原種から一貫した衛生管理に心がけ清浄な種子生産に努め る。また、検査体制充実、種子の純度検定、発芽率の向上にも努める。 配布取扱い品種はキュウリ、エンドウを加え 6 種 47 品種であり、配布量については横這 いか、やや減少するのではないかと推測する。 2)講習会、説明会等への講師派遣 育成品種の栽培技術の講習・説明会はこれまで通り大きく変えずに実施する。また、主 産地では現地指導員の養成を検討する。 4.教育・研修に関する業務 1)学会・講演会等への参加 職員の資質の向上のため関係学会及び国内外の学術研究会等に派遣する。 2)研修生の教育 長期研修生 2 名を継続予定している。 5.情報公開・社会活動に関する業務 1)オープンデイの開催 当所の事業公開の一環として、第 9 回オープンデイを 6 月 17 日(金)、18 日(土)に開催 する。第 1 日目は、第 17 回園芸技術講演会と併せて維持会員、農業関係者を対象に、第 2 日目は一般市民を対象に開催する。 2)園芸技術講演会の開催 当所主催及び関係機関との共催による園芸技術講演会を 2 回開催する。維持会員から の要請による講演会の開催を周知させるとともに、その内容の充実を図る。 6.編集・出版に関する業務 1)年報・要覧の編集発行 「平成 22 年度日本園芸生産研究所年報」を発行する。 2)「蔬菜の新品種」第 18 巻(2012)の発行 2008 年 10 月から 20011 年 9 月までに育成された蔬菜品種を対象に、公的機関および 民間育種関係者に採録品種の照会を行い、「蔬菜の新品種第 18 巻」(2012 年版)として、 2012 年 6 月発行を目標に、編集作業を行う。
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