「起業家誘致」する日南市

 企業誘致が地方都市の経済を活性化させる有効な手段であることは言う
までもないが、企業の進出意欲を刺激する魅力を発信することは難しい。一
方、地方が都市部並みの競争力を持ちうる分野の一つが情報通信(IT)分
野だと言われる。日南市はこの点に着目し、起業家誘致に取り組んでいる。
昨年11月からは、国登録有形文化財「油津赤レンガ館」を「コワーキング・ス
ペース」として活用する地方都市では珍しい手法も取り入れながら、新しい
ライフスタイルや働き方を前面に打ち出した新たな展開を模索している。
建物を無償提供した。
市は 年に約 億2000万
円を掛けて耐震補強や改修工事
を行い、施設は美術の展示や演奏
会などを行う施設として活用さ
れてきた。 年には、国が認定し
た中心市街地活性化基本計画の
中で観光中間拠点施設に位置付
けられた。 階フロアは、油津地
区の歴史ガイダンスを兼ねた休憩
スペースとして活用されている。一
方、 階フロアは「時折、見学者
管する目的で1922(大正 )
時代の地元の豪商が家財などを保
油津赤レンガ館(1998年国
登録有形文化財に登録)は、大正
策を検討課題の一つに挙げていた。
﨑田恭平市長も 年 月の就
任 当 初から、赤レンガ館の活 用
持管理費も大きな課題だった。
年間300〜400万円という維
はいるものの具体的な活用策は講
りの蔵だ。飫肥杉とマグロ漁業で
市が活用 策を検 討していた昨 年
び
年に建造した 階建てのれんが造
お
じてこなかった」
(市商工観光課)
。
栄えた油津地区の歴史をしのばせ
月に、飫肥杉製品の開 発や施
4
年に当時の所有者が手放す
ことになり存続が危ぶまれたが、
から広く親しまれている。
業「GRAND DESIGN」の
などに取り組むITベンチャー企
設 受け入れ、県の人材育 成事業
る建造物の一つとして、今も市民
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斉藤潤一社長から活用策の一例と
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11
有志 人が「合名会社油津レンガ
97
円は、それぞれ月額 万5000
組んだ。買い取り費用3000万
館」を設立して保存活動に取り
グ・スペース」だった。
して話を聞いたのが「コワーキン
年間にわたり支払う契約
1
た2004年、同社は市に土地と
で銀行から融資を受けた。完済し
交換する場のことを指す。 年代
仕事をしたり、アイデアや情報を
円を
コワーキング・スペースとは、業
種業態に関係なく人々が集まって
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往時をしのばせる文化財
新たな活用で交流拠点に
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街の
〝資産〟
を情報の交流拠点として活用
日南市油津地区にある
「赤レンガ館」を活用
して昨年11月に開所
した「コワーキング・
スペース」
09
2
新手法で
「起業家誘致」
する日南市
宮崎
昨年11月のオープニング
セレモニーには、多くの市
民が参加し関心の高さを
示した
赤レンガ館は、残す保存
から使う保存へと活用
方法が変わった
に入って米国で始まり、日本では
年ごろから大都市圏を中心に拡
IT関連企業はネット環境さえ
あれば仕事が可能なため地方にも
う」と語る。
今 後の展 開について田 鹿 氏は
「 枠あったインキュベーション施
ーケティング専 門 官の主な役 割
の助言も大きかった」と言う。マ
ケティング専門 官の田鹿 倫 基氏
同観光課によれば「新たな取
り組みに着手するにあたり、マー
判断材料になった。
り、その動線となることも導入の
業支援)施設と役割が異なる点
に開設したインキュベーション(創
援を目的として市テクノセンター
でと変わらない試算した。
「活 用
200万円程度と維持費はそれま
が可能か検討し、設置費が年間
市は、赤レンガ館をコワーキン
グ・スペースとして活用すること
生まれるという点だろう。
環境を共有することで相乗効果が
かった住民などへも個別に訪問し
担当者らは、説明会に参加できな
得るのは容易ではなかった。市の
活用策」
(地元経済人)への理解を
かし「あまり耳慣れない横文字の
民を対象に説明会を開催した。し
づくり協議会や自治会など地域住
赤レンガ館復活のビジョンが描
けたことを受けて、市は地元の街
(同観光課)と考えた。
い人柄も貴重な誘致材料になる」
持つ豊かな自然や食、歴史、温か
ち出した」と言う。さらに「市が
キング・スペースという切り口で打
で仕事ができる環境×公共のコワー
る」
(同観光課)ことも魅力だった。 いた赤レンガ館に着眼し「文化財
することで施設の利用料が見込め
て丹念な説明に努めた。市は「今
鹿氏は、有効活用が急務となって
必要があった」
(田鹿氏)
。そこで田
ないため「別の切り口から攻める
大容量の通信回線が整備されてい
観光課)
。しかも、日南市は高速
れば競争に勝つことはできない」(同
ており、特徴として認知されなけ
様の取り組みは全国でも実施され
速している。起業家支援の独自モ
関連の人材誘致の取り組みが加
として利用を開始するなど、IT
堀川資料館をサテライト研究室
究科が、赤レンガ館の近くにある
ほかにも市には、昨年 月から
慶応大大学院メディアデザイン研
たな拠点を構えた理由に挙げた。
分らしい生活ができる」ことを新
ーフィンや釣りなどが楽しめ、自
アラタナは、
許可証の交付式で「サ
スペースの利用許可
描いている。実際、コワーキング・
を開設してもらう―という流れを
事業を軌道に乗せて市内で事業所
に入居してもらい④
た企業にはインキュベーション施設
③拠点を構えた方が効率的と考え
スで長めに仕事をするようになり
ていた人が②コワーキング・スペー
の上で①出張などで日南市を訪れ
階としての活用」を想定する。そ
ーキング・スペースは「起業の前段
は多い」と考えている。そこでコワ
たことから、新たな活用策の需要
設が募集開始から 週間で埋まっ
誘致することはできる。しかし「同
は、市内の特産品や物産、観光に
でも理解が十分ではない市民もい
デルの構築は、これからが本番だ。
大している。最大の特徴は、職場
関する商品開発、国内外への情報
るだろうが、小さな成功事例を積
優れた仕事環境生かし
他エリアとの差別化図る
月、起業や創業支
発信などであり、起業家やIT・
み重ねることで理解が深まるだろ
年をめどに
号となった
(竹井 文夫)
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また、昨年
Web企業の誘致も含まれている。
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