社会保障審議会福祉部会報告書~社会福祉法人制度改革

社会保障審議会福祉部会報告書
~社会福祉法人制度改革について~
平成27年2月12日
はじめに
・
本部会は、社会福祉を取り巻く環境が変化する中、その在り方が
問 わ れ て い る 社会 福 祉 法 人 制 度 の 見直 し に つ い て 検 討 す る た め 、平 成
26 年 8 月 27 日 に 議 論 を 開 始 し、計 14 回 に わ た り 審 議 を 重 ね て き た 。
・
本報告書は、これまでの本部会における審議を整理し、社会福祉
法人制度の見直し等について、制度的な対応が必要な事項を中心に
取 り ま と め た もの で あ る 。
1
Ⅰ
・
総
論
我 が 国 の社 会 福 祉 の 黎 明 期 、民 間 社 会 事 業 は 、篤志 家 等 に よ る 慈 善
事業として始まった。戦後、社会福祉事業が公的責任により実施
さ れ る こ と に なる と 、民 間 の社 会 福 祉 事 業 の 自 主 性 の 尊重 と 経 営 基 盤
の 安 定 等 の 要 請 か ら 、 社 会 福 祉 法 人 は 旧 民 法 第 34 条 の 公 益 法 人 の
特 別 法 人 と し て 昭 和 26 年 に 制 度 化 さ れ た 。 社 会 福 祉法 人 は 、 旧 社 会
福祉事業法に基づく規制や監督を受けつつ、主として国からの措置
事業を担う公共的な性格を有する法人として機能してきた。以来長き
にわたり、社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手として、
我が国の社会福祉を支えてきた。我が国の戦後社会福祉の発展は、
社 会 福 祉 法 人 の歩 み そ の も の と い える 。
・
そ の 後 、人 口 構 造 の 高 齢 化 、家 族 や 地 域 社 会 の 変 容 に 伴 い 、多 様 化
す る 福 祉 ニ ー ズへ の 対 応 が 重 要 な 政 策 課 題 と な っ た。委 託 先 の 拡 大 も
図 ら れ 、 供 給 主体 の 多 元 化 が 図 ら れ た 。 平 成 12 年 の 介 護 保 険 法 の 施
行、同年の社会福祉事業法の改正による社会福祉法の成立により、
サービスの利用の仕組みを措置から契約に転換するとともに、株式会社
や NPO な ど 多 様 な 供 給 主 体 を 参 入さ せ る こ と に よ り 、利 用 者 の 選 択
の 幅 を 広 げ る とと も に 、事 業 者 の効 率 的 な 運 営 を 促 し、サ ー ビ ス の 質
の 向 上 と 量 の 拡大 を 図 る 政 策 が と ら れ た ( 社 会 福 祉 基 礎 構 造 改 革)。
・
こうした中で、社会福祉法人の位置付けは大きく変化した。社会
福 祉 法 第 24 条 は 、 経 営 の 原 則 と し て 、 「 社 会 福 祉 法 人 は 、 社 会 福 祉
事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に
行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供
する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らな
ければならない」と規定している。同条は、社会福祉法人の本旨と
して、経営基盤の強化やサービスの質の向上、事業経営の透明性の
確保を通じて、社会福祉事業の中心的な担い手であるとともに、地域
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における多様な福祉ニーズにきめ細かく対応し、既存の制度では対応
で き な い 人 々 を 支 援 し て い く こ と を位 置 付 け て い る も ので あ る 。
・
今日、人口減少社会の到来や独居高齢者の増加、子どもに対する
虐待の深刻化などを背景に、福祉ニーズが多様化・複雑化しており、
高い公益性と非営利性を備えた社会福祉法人の役割が、ますます重要
になっている。
社会福祉法人の今日的な意義は、社会福祉事業に係る福祉サービス
の供給確保の中心的役割を果すとともに、他の事業主体では対応でき
ない様々な福祉ニーズを充足することにより、地域社会に貢献して
い く こ と に あ る。こ う し た 役 割 を 果た し て い く た め、社 会 福 祉 法 人 は 、
これまで以上に公益性の高い事業運営が求められているのであり、
法 人 の 在 り 方 その も の を 見 直 す 必 要が あ る 。
・
また、今後の高齢化等に伴う福祉ニーズの急増に対応するために
必要な人材の確保に当たっては、処遇の改善をより一層進めることが
重要である。社会福祉法人がその役割を適切に果たすためには、率先
して、職員の処遇改善や労働環境の整備等に取り組むことが求められ
る。
一 方 、平 成 18 年 に は 、公 益 法 人 制 度 改 革 が 行 わ れ 、旧 民 法 第 34 条
・
に 基 づ く 公 益 法 人 を 、準 則 主 義 に よ り 設 立 さ れ る 一 般 社団・財 団 法 人
と 公 益 性 の 認 定を 受 け る 公 益 社 団・財 団 法 人 に 区 分 し、後 者 に つ い て
法人の目的・事業内容・組織・財務・財産等に関する公益認定を課する
こ と に よ り 公 益 性 の 高 い 法 人 類 型 とし て 位 置 付 け て い る。
この改革においては、現代の日本社会が公益法人に求める公益性が
具体的な姿として示されており、こうした公益性は、公益法人の一類型
で あ る 社 会 福 祉法 人 に 対 し て も 当 然要 請 さ れ る も の で あ る 。
・
平成 26 年に閣議決定された規制改革実施計画は、こうした社会福祉
事 業 や 公 益 法 人の 在 り 方 の 変 容 を 踏ま え 、他 の 経営 主 体 と の イ コ ー ル
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フ ッ テ ィ ン グ 等の 観 点 か ら 、社 会 福 祉 法 人 制 度 の 改 革 を 求 め た も の で
ある。経営組織の強化、情報開示の推進、内部留保の位置付けの明確化
と福祉サービスへの投下、社会貢献活動の義務化、行政による指導監督
の強化など、社会福祉法人が備えるべき公益性・非営利性を徹底し、
本 来 の 役 割 を 果た す こ と が 求 め ら れて い る 。
ま た 、 こ う し た 社 会 福 祉 法 人 の在 り 方 に 関 し て は 、平 成 26 年 7 月
・
に、厚生労働省の「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」において、
地 域 に お け る 公益 的 な 活 動 の 推 進、法 人 組 織 の 体 制 強 化 、法 人 運 営 の
透 明 性 の 確 保 等に つ い て 意 見 が 取 り ま と め ら れ て い る 。
・
昨今、一部の社会福祉法人による不適正な運営が指摘され、社会福祉
法 人 全 体 の 信 頼を 失 墜 さ せ る 事 態 に 至 っ て い る 。社 会 福 祉 法 人 が 今 後
と も 福 祉 サ ー ビス の 中 心 的 な 担 い 手 と し て あ り 続 け る ため に は 、そ の
公 益 性・非 営 利 性 を 徹 底 す る 観 点 から 制 度 の 在 り 方 を 見直 し 、国 民 に
対 す る 説 明 責 任を 果 た す こ と が 求 め ら れ る 。
Ⅱ
社会福祉法人制度の見直しについて
1 . 基 本 的 な 視点
( 1 ) 公 益 性 ・非 営 利 性 の 徹 底
社会福祉法人は、社会福祉を目的とする、旧民法第 34 条の公益法人
・
の特別法人として制度化され、当初より各種の規制等により高い公益性
と非営利性を担保された法人であった。今日、福祉ニーズが多様化・
複雑化する中、公益性と非営利性を備えた法人として、その役割は
ますます重要となっており、その組織運営等において、その在り方を
徹 底 す る こ と が求 め ら れ て い る 。
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折 し も 、平 成 18 年 に は 、旧 民 法 第 34 条 の 公 益 法 人 に つ い て 、一 般
・
社 団・財 団 法 人 と 公 益 認 定 を 課 せ られ る 公 益 社 団・財 団 法 人 に 区 分 す
る 公 益 法 人 改 革が 行 わ れ て い る 。社 会 福 祉 法 人 は 、その 創 設 の 経 緯 や
公益性の高い社会福祉事業を主たる事業とする法人の目的等に照らし、
公 益 財 団 法 人 等と 同 等 以 上 の 公 益 性・非 営 利 性 を 確 保 す る 必 要 が あ る 。
( 2 ) 国 民 に 対す る 説 明 責 任
・
今日、多様な事業主体により福祉サービスが供給されるようになって
いること、また、一部の社会福祉法人による不適正な運営のため、
社会福祉法人全体に対する信頼が揺らいでいることから、社会福祉法人
の 存 在 意 義 が 問わ れ て い る 。
・
社 会 福 祉法 人 の 公 益 性・非 営利 性 を 担 保 す る 観 点 か ら 、経 営 組 織 の
強化、運営の透明性、財務規律の確立を図り、社会福祉法人のあるべき
姿について国民に対する説明責任を果たすための制度改革が急務で
ある。
( 3 ) 地 域 社 会へ の 貢 献
・
社会福祉法人は、その解散や合併に所轄庁の認可が必要であり、解散
した社会福祉法人の残余財産の帰属について制限があるなど、地域社会
と と も に 存 在 し、 地 域 福 祉 を 支 え る使 命 を 制 度 上 も 担 保 さ れ て い る 。
・
前述したとおり、社会福祉法人の今日的な意義は、他の事業主体では
対応できない様々な福祉ニーズを充足することにより、地域社会に貢献
することにある。こうした社会福祉法人の使命を責務として明らかに
し て い く 必 要 があ る 。
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2 . 経 営 組 織 の在 り 方 の 見 直 し
( 1 ) 経 営 組 織の 現 状 と 課 題
・
理事、評議員会、監事など社会福祉法に規定されている社会福祉法人
の 経 営 組 織 は、社 会 福 祉 法 人 制 度 発足 当 初 以 来 の も の であ り 、今 日 の
公益法人に求められる内部統制の機能を十分に果たせる仕組みとは
なっていない。
・
昨今、一部の社会福祉法人において指摘される不適正な運営には、
こ う し た 法 人 の内 部 統 制 に よ る 牽 制が 働 か ず 、理 事・理 事 長 の 専 断 を
許 し た 結 果 生 じた も の が み ら れ る 。
・
平 成 18 年 の 公 益 法 人 制 度 改 革に お い て は 、 一 般 社団 ・ 財 団 法 人 、
公 益 社 団・財 団 法 人 に つ い て 新 た な 機 関 設 計 が 導 入 さ れて い る 。そ の
基本的な考え方は、役員等の権限・責務・責任の明確化、評議員会
(社団の場合は社員総会)による理事等の牽制、外部の専門家・専門
機関を活用した会計監査人の監査の強化によるガバナンスの強化を図る
ことにある。
こ う し た 状 況 を 踏 ま え 、 規 制 改 革 実 施 計 画 ( 平 成 26 年 6 月 24 日
・
閣 議 決 定 ) に おい て は 、
○ 社 会 福 祉 法 人の 内 部 管 理 を 強 化 す る た め 、 理 事 会 や 評議 員 会 、
役 員 等 の 役 割 や 権 限 、 責 任 の 範 囲 等を 明 確 に 定 め る 。
○一定の事業規模を超える社会福祉法人に対して外部機関による
会計監査を義務付ける。
とされている。
・
社会福祉法人が備えるべき公益性・非営利性を徹底するためには、
公益法人制度改革を参考にしながら、公益財団法人と同等以上の公益性
・ 非 営 利 性 を 担 保 で き る ガ バ ナ ン スが 必 要 で あ る 。
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(参考)
・
現行の社会福祉法人の経営組織の主な枠組みは、以下のとおりである。
①全ての理事が社会福祉法人の業務の全てについての代表権を有
す る ( 法 令 上 理 事 長 の 規 定 が な い)。
② 法 人 の 業務 の 決 定 は 、理事 の 過 半 数 を も っ て 決 する( 法 令 上 理 事
会 の 規 定 が な い )。
③ 評 議 員 会の 設 置 は 法 令 上 任 意と さ れ て お り、重 要 事 項 に つ い て は、
定 款 で 評 議 員 会 の 議 決 を 得 る こ と がで き る こ と と さ れ てい る 。
・
これに対し、一般財団法人・公益財団法人においては、以下のとおり、
法 令 に お い て、各 機 関 の 役 割 や 責 任 を 明 記 し 、牽 制 機 能 が 働 く よ う な
仕 組 み を 設 け てい る 。
① 代 表 理 事は 、 法 人 を 代 表 し 、業 務 の 執 行 を 行 う 。
② 理 事 会 は、法 人 の 業 務 執 行 の 決 定 、理 事 の 職 務執 行 の 監 督 、代 表
理事の選定・解職を行う。
③ 評 議 員 会は 必 置 と さ れ 、議 決 機 関 と し て 位 置 付 けら れ て い る( 定
款 の 変 更 、理 事 等 の 選 任・解 任、役 員 の 報 酬 の 決 定 等 の決 議 事 項
を 法 定)。
このほか、一般財団法人・公益財団法人においては、現行の社会福祉
法 人 制 度 に は ない 会 計 監 査 人 制 度 が 設 け ら れ て い る 。
( 2 ) 理 事 ・ 理事 長 ・ 理 事 会 に つ い て
( 理 事 ・ 理 事 長・ 理 事 会 の 位 置 付 け・ 権 限 ・ 義 務 ・ 責 任 )
・
現 行 の 社会 福 祉 法 人 制 度 に お いて は 、法 令 上、理 事 会 に 関 す る 規 定
がなく、全ての理事が社会福祉法人の業務についての代表権を有し、
法人の業務の決定は理事の過半数をもって決定することとされている。
ま た 、 理 事 の 責任 に 関 す る 規 定 も 整 備 さ れ て い な い 。
理 事 ・理 事 長 の 役 割 ・権 限・義 務 ・ 責 任 を 明 ら か にし 、理 事 会 に よ
る理事・理事長に対する牽制機能を制度化するため、以下の方向で
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見 直 す 必 要 が ある 。
-
理 事 の 義 務 と 責 任 ( ※ ) を 法律 上 明 記 す る 。
※ 善 管 注 意義 務 、忠 実 義 務、法 人 に 対 す る 損 害 賠 償責 任 、特 別 背 任
罪の適用等
-
理 事 長 に つ い て 、代 表 権 を 有す る 者 と し て 位 置 付け 、権 限 と 義 務( ※)
を 法 律 上 明 記 する 。
※ 業 務 の 執行 、 理 事 会 へ の 職 執行 状 況 の 報 告 等
-
理 事 会 を 法 人 の 業 務 執 行 に 関す る 意 思 決 定 機 関 と し て 位 置 付 け 、そ
の 権 限 ( ※ ) を法 律 上 明 記 す る 。
※業務執行の決定(重要事項(重要な財産処分等)は理事に委任で
き な い 。)、 理 事 の 職 務 執 行 の 監 督 、 理 事 長 の 選 定 及 び 解 職 、 計 算
書類・事業報告の承認等
-
一 般 財 団 法 人・公 益 財 団 法 人 と 同 様 に 、理事 等 に 対 す る 特 別 背 任 罪 、
贈収賄罪が適用される法制上の枠組みや欠格事由に関する規定を
整備する。
・
ま た 、法 人 業 務 の 適 切 な 執 行 のた め 、一 般 財 団 法 人・公 益 財 団 法 人
と同様に、理事長以外に、特定の業務の執行を行う業務執行理事を
置 く こ と が で き る よ う に す る こ と が必 要 で あ る 。
・
一 般 財 団法 人 ・公 益 財 団 法 人 と 同 様 に 、理 事 の 職務 執 行 に つ い て の
コ ン プ ラ イ ア ンス( 法 令 遵 守 等 )を 確 保 す る た め の 体 制整 備 に つ い て、
理事会の議決事項とし、一定規模以上の法人については、その体制整備
を義務付けることが必要である。
(理事の定数)
・
理事の定数については、租税特別措置の適用の要件に合わせて、
通 知 に お い て 6 人 以 上 と い う 取 扱 いと し て い る( 法 律 上 は 3 人 以 上 )。
適 正 な 運 営 を 確保 す る 観 点 か ら 、内 部 統 制 を 実 効 性 あ るも の と す る 必
要 性 を 考 慮 し 、現 行 の 6 人 以 上 と い う 定 数 を 法 律 上 明 記 す る 必 要 が あ
る。
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(理事の構成)
・
理 事 の 構 成 に 関 し て は 、親族 そ の 他 特 別 の 関 係 が ある 者 の 理 事 へ の
選任について、社会福祉法人の公正な運営を確保するため、運用に
お い て 法 律 よ り 厳 し く 制 限 し て い る ( 理 事 定 数 が 6~ 9 名 の 場 合 は
1 名 、10~12 名 の 場 合 は 2 名 、13 名 以 上 の 場 合は 3 名 )。ま た 、社 会
福祉事業について学識経験を有する者又は地域の福祉関係者、社会福祉
施設を経営する法人にあっては施設長等の事業部門の責任者を理事
と し て 参 加 さ せる こ と を 通 知 に よ り 求 め て い る 。
社会福祉法人の高い公益性に鑑み、同族支配の禁止の趣旨を徹底する
とともに、地域ニーズに即した質の高いサービスを機動的な経営により
提供するため、こうした現行の理事の構成に関する取扱いを法令上明記
す る 必 要 が あ る。
( 3 ) 評 議 員 ・評 議 員 会 に つ い て
( 評 議 員 ・ 評 議員 会 の 位 置 付 け ・ 権 限 ・ 義 務 ・ 責 任 )
・
現 行 の 社 会 福 祉 法 人 制 度 で は 、通 知 に お い て 、措 置 事 業 、保 育 所 を
経営する事業、介護保険事業のみを行う法人以外の法人に対し評議員会
の 設 置 を 求 め てい る が 、法 令 上 、評 議 員 会 の 設 置 は 任 意と さ れ て お り、
原 則 諮 問 機 関 とし て 位 置 付 け ら れ て い る た め 、理 事・理 事 長 に 対 す る
牽制機能が十分に働かないという課題がある。また、通知において理事
の 選 任 は 、 理 事総 数 の 2/3 以上 の 同 意 を 得 て 理 事 長 が 委嘱 す る こ と と
さ れ て い る た め、法 人 の 業 務 執 行 の決 定 機 関 が 執 行 機 関の 人 選 を 行 う
こ と に な り 、 恣意 的 な 法 人 運 営 を 招 く お そ れ が あ る 。
このため、社会福祉法人の高い公益性に照らし、一般財団法人・
公益財団法人と同様に、必置の評議員会を議決機関として法律上位置
付け、理事・理事長に対する牽制機能を働かせるため、評議員会に
理事、監事、会計監査人の報酬や選任・解任等の重要事項に係る議決
権を付与する必要がある。また、このように重要な役割を担う評議員
の権限・責任(評議員会の招集請求権、善管注意義務、損害賠償責任
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等 ) を 法 律 上 明記 す る 必 要 が あ る 。
( 評 議 員 の 定 数等 )
・
評 議 員( 任 期 2 年)は 、理 事 と の 兼 職 が 認 め ら れ てお り 、そ の 定 数
は 、 理 事 の 定 数の 2 倍 を 超 え る 数 とさ れ て い る 。
理事と評議員会の適切な牽制関係を築くため、理事と評議員の兼職
を禁止し、評議員の定数については、「理事の定数を超える数」とすべき
である。また、任期については、一般財団法人・公益財団法人を参考
に 、 中 期 的 な 牽制 機 能 を 確 保 す る 観点 か ら 、 4 年 とす べ き で あ る 。
・
評議員の定数については、規模の小さい法人において、適任者を確保
す る こ と が 容 易で は な い と の 指 摘 が あ り 、小 規 模法 人 に つ い て 定 数 の
特 例 を 設 け る 経過 措 置 が 必 要 と の 意 見 が あ っ た 。
( 評 議 員 の 選 任)
・
現 行 の 取 扱 い( 通 知 )で は 、評 議 員 は 、理事 会 の 同 意 を 得 て 理 事 長
が委嘱することとされている。このように理事・理事長が評議員の選任
に関わる仕組みでは、評議員が理事・理事長に対し、独立した立場から
牽 制 機 能 を 働 かせ る こ と が 困 難 と い う 課 題 が あ る 。こ の た め 、評 議 員
の 選 任・解 任 に つ い て は 、一 般 財 団・公 益 財 団 法 人 を 参 考 に 、定 款 で
定 め る 方 法( 選 任 委 員 会・ 評 議 員 会 の 議 決 等 )に よ る こ と と し 、理 事
又は理事会が評議員を選任又は解任できないようにすることが必要
である。
( 評 議 員 の 構 成)
・
現行の取扱い(通知)では、評議員には地域の代表を加えること、
利用者の家族の代表を加えることが望ましいこととしているが、評議員会
を 議 決 機 関 と して 位 置 付 け る 場 合 に は 、そ の 重 要 な 権 限 に 鑑 み 、事 業
に 対 す る 識 見 を有 し 、中 立 公 正 な 立 場 か ら 審 議 を 行 え る者 で あ る こ と
を 重 視 し た 構 成と す る こ と が 適 当 であ る 。
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(「 運 営 協 議 会 」)
・
評議員会が議決機関として位置付けられることに伴い、現行の評議員会
が担っている諮問機関としての機能の一部を代替する仕組みとして、
各法人が地域の代表者や利用者又は利用者の家族の代表者等が参加
す る「 運 営 協議 会 」を 開 催 し 、意 見 を 聴 く 場 と し て 位 置付 け る こ と に
よ り 、地域 や 利 用 者 の 意 見 を 法 人 運 営 に 反 映 さ せ る こ と が 適 当 で あ る 。
( 4 ) 監 事 に つい て
( 監 事 の 権 限 ・義 務 ・ 責 任 )
・
社 会 福 祉法 人 の 財 務 会 計 に 関 して は 、例 え ば、財 務 諸 表 が 不 正 確 と
い っ た 実 態 が あり 、監 事 機 能 が 十 分に 機 能 し て い な い と の 指 摘 が あ る 。
実 効 性 あ る 監 事監 査 が 行 わ れ る よ う 、一 般 財 団 法 人・公 益 財 団 法 人 と
同 様 に 、理 事 、職 員 に 対 す る 事 業 報告 の 要 求 や 財 産 状 況の 調 査 権 限 等
の 監 事 の 権 限 を法 律 上 規 定 す る と と も に 、理 事 会 へ の報 告 義 務 、監 査
報告の作成義務や監事の責任についても、法律上明記し、適正かつ公正
な 監 事 監 査 を 促す べ き で あ る 。
(監事の選任)
・
理 事 会 が 監 事 を 選 任 す る 現 行 の仕 組 み で は 、独立 し た 立 場 か ら 監 査
を行うことが困難という課題があることから、一般財団法人・公益財団
法 人 と 同 様 に、監 事 の 選 任・解 任 は 評 議 員 会 の 議 決 事 項 と す る こ と が
必要である。
(監事の構成)
・
監 事 の 構 成 に つ い て は 、財 務 諸 表 等 を 監 査 し 得 る 者 と 社 会 福 祉 事 業
についての学識経験者又は地域の福祉関係者とする現行の取扱いを
法 律 上 明 記 す るこ と が 適 当 で あ る 。
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( 5 ) 会 計 監 査人 に つ い て
( 会 計 監 査 人 の設 置 義 務 )
・
社会福祉法人のガバナンスの強化、財務規律の確立の観点から、公益
財 団 法 人 に お ける 取 組 を 参 考 に 、一 定 規 模 以 上 の 法 人 に対 し て 、会 計
監 査 人 に よ る 監査 を 法 律 上 義 務 付 け る 必 要 が あ る 。また 、設 置 義 務 の
対象とならない法人においても、定款で定めるところにより、会計
監 査 人 を 置 く こと が で き る よ う に す る 必 要 が あ る 。
・
会 計 監 査 人 に つ い て は 、実 効性 あ る 会 計 監 査 を 行 うた め 、そ の 権 限 、
義 務 、責 任( 監 事 へ の 報 告 義 務 、損 害 賠 償 責 任 等 )を 法 律 上 明 記 す べ
きである。
( 会 計 監 査 人 の設 置 を 義 務 付 け る 法 人 の 範 囲 )
・
会 計 監 査 人 の 設 置 を 義 務 付 け る法 人 の 範 囲 に つ い ては 、監 査 に 対 応
で き る 事 務 処 理の 態 勢 と 監 査 費 用 の 負 担 能 力 、所轄 庁 の 監 査 と の 役 割
分 担 等 を 考 慮 し、以 下 の 要 件 の い ずれ か に 該 当 す る 法 人 と す る こ と が
適当である。
① 収 益 ( 事業 活 動 計 算 書 に お ける サ ー ビ ス 活 動 収 益 ) が 10 億 円 以
上 の 法 人 ( 当 初 は 10 億 円 以 上 の 法 人 と し 、 段 階 的 に 対象 範 囲 を
拡大)
② 負 債 ( 貸借 対 照 表 に お け る 負債 ) が 20 億 円 以 上 の 法 人
( 会 計 監 査 人 の設 置 の 義 務 付 け の 対象 と な ら な い 法 人 に対 す る 対 応 )
・
会 計 監 査 人の 設 置 の 義 務 付 け の対 象 と な ら な い 法 人 に つ い て は 、
-
公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人による財務会計に
係る態勢整備状況の点検等
-
監事への公認会計士又は税理士の登用
を指導し、こうした取組を行う法人に対する所轄庁による監査の効率化
を 進 め る こ と が適 当 で あ る 。
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3 . 運 営 の 透 明性 の 確 保
( 1 ) 情 報 開 示の 現 状 と 課 題
(情報開示の取組)
・
社会福祉法人は高い公益性と非営利性を備えた法人であり、その運営
の状況について、国民に対する説明責任を十分に果たす必要がある。
このため、法令上、毎会計年度終了後 2 月以内に、事業報告書、
財 産 目 録 、貸 借 対 照 表 、収 支 計 算書 を 作 成 し 、監 事 の意 見 を 記 載 し た
書 類 を 付 し て 各事 務 所 に 備 え 置 き、福 祉 サ ー ビ ス の 利 用を 希 望 す る 者
そ の 他の 利 害 関 係 人 か ら の 請 求 が あ っ た 場 合 には 閲 覧 に 供 し な け れ ば
な ら な い と し てい る 。
さ ら に 、 情 報 の 公 表 を 推 進 す る 観 点 か ら 、 平 成 25 年 に 業 務 及 び
財務等に関する情報を公表するよう指導するとともに、平成 26 年には、
現況報告書並びにその添付書類である貸借対照表及び収支計算書に
ついて、インターネットを活用して公表することを通知により指導して
いる。
( 公 益 法 人 制 度改 革 に お け る 情 報 開示 )
平成 18 年の公益法人制度改革においては、法人運営を社会的に監視
・
するという基本的な考え方から、積極的に情報を開示する仕組みを導入
し、役員報酬の総額や役員報酬基準を含む広範な書類の備置き・閲覧
を義務化した。
( 社 会 福 祉 法 人に お け る 対 応 )
規 制 改 革 実 施 計 画 ( 平 成 26 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 ) に お い て は 、
・
財務諸表のほか、補助金や社会貢献活動に係る支出額、役員の区分ごと
の報酬等の総額、親族や特別の利害関係を有する者との取引内容などの
公 表 を 義 務 付 ける と さ れ て い る 。
・
社 会 福 祉 法 人 に つ い て は 、 旧 民 法 第 34 条 の 公 益 法 人 の 特 別 法 人
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と し て 制 度 化 され た 経 緯 や 、公 費 や 保 険 料 を 原 資 と す る多 額 の 事 業 費
が支出されていることから、公益財団法人等と同等以上の運営の透明性
の確保が求められる。また、規制改革実施計画を踏まえ、積極的に情報
を 公 表 し 、その 運 営 を 社 会 的 監 視 の下 に 置 く こ と に よ り、適 正 な 法 人
運 営 を 担 保 す ると と も に 、国民 に 対 す る 説 明 責 任 を 果 た す こ と が 期 待
される。
( 2 ) 情 報 開 示の 方 向 性
・
定 款 、事 業 計 画 書 、役 員 報 酬基 準 を 新 た に 閲 覧 対 象と す る と と も に 、
閲 覧 請 求 者 を 国民 一 般 に 拡 大 す る 必 要 が あ る 。
・
定款、貸借対照表、収支計算書、役員報酬基準を公表対象とすること
を 法 令 上 位 置 付け る 必 要 が あ る 。
・
既に通知により公表を指導している現況報告書(役員等名簿、補助金、
地 域 の 福 祉 ニ ーズ へ の 対 応 状 況 に 係る 支 出 額 、役 員 の 親 族 等 と の 取 引
内 容 を 含 む 。) に つ い て 、 役 員 区 分 ご と の 報 酬 総 額 を 追 加 し た 上 で 、
閲 覧 ・ 公 表 の 対象 と す る こ と を 法 令 上 明 記 す る こ と が 必要 で あ る 。
・
公 表 の 方 法 に つ い て は 、国民 が 情 報 を 入 手 し や す いイ ン タ ー ネ ッ ト
を 活 用 す る こ とが 適 当 で あ る 。
4 . 適 正 か つ 公正 な 支 出 管 理
( 1 ) 適 正 か つ公 正 な 支 出 管 理 に 係る 基 本 的 な 視 点
・
社 会 福 祉 法 人 は 、そ の 高 い公 益 性 と 非 営 利 性 に ふ さわ し い 財 務 規 律
を 確 立 す る 必 要が あ る 。社 会福 祉 法 人 の 財 務 規 律 に 関 して 社 会 的 要 請
が 強 い も の と して は 、ま ず は「適 正 か つ 公 正 な 支 出 管 理 」が 挙 げ ら れ
る。
14
・
規 制 改 革 実施 計 画 ( 平成 26 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 )に お い て は 、
○社会福祉法人の役員に対する報酬や退職金などについて、その
算定方法の方針や役員区分ごとの報酬等の総額(役員報酬以外の
職 員 と し て の 給 与 等 も 含 む ) の 開 示を 義 務 付 け る 。
○ 社 会 福 祉法 人 と 役 員 の 親 族・特 別 の 利 害 関 係 を 有す る 者 と の 取 引
について取引相手・取引内容を開示する等、調達の公正性や妥当性
を担保する仕組みを構築する。
○一定の事業規模を超える社会福祉法人に対して外部機関による
会計監査を義務付ける。
と さ れ て い る。
・
こうした状況を踏まえ、適正かつ公正な支出管理としては、特に
以 下 の 事 項 に 取り 組 む こ と が 必 要 であ る 。
① 適 正 な 役員 報 酬 を 担 保 す る ため の 役 員 報 酬 基 準 の策 定 と 公 表 等
②関係者への特別の利益供与の禁止と関連当事者との取引内容の
公表
③ 会 計 監 査人 の 設 置 を 含 む 外 部監 査 の 活 用 ( 2 . に お い て 記 述 )
( 2 ) 適 正 な 役員 報 酬 に つ い て
・
役 員 報 酬 等 に つ い て は 、理事 会 の 議 決 を 経 て 理 事 長が 定 め る 現 行 の
取 扱 い を 改 め 、公 益 財 団 法 人 等 と 同様 に 、定 款 の 定 め又 は 評 議 員 会 の
決 議 に よ り 決 定 す る こ と と す る 必 要が あ る 。
・
公 益 財 団 法 人 等 と 同 様 に 、不 当 に 高 額 な も の と な らな い よ う な 理 事、
監事及び評議員に対する報酬等の支給基準を法人が定め、公表すること
を 法 律 上 義 務 付け る こ と が 必 要 で ある 。
・
国 民 に 対す る 説 明 責 任 を 果 た し、適 正 な 水 準 を 担 保す る た め 、役 員
等の区分ごとの報酬総額(職員給与又は職員賞与として支給される
15
分 を 含 む 。) を 公 表 す る と と も に 、 個 別 の 役 員 等 の 報 酬 額 ( 職 員 給 与
又 は 職 員 賞 与 と し て 支 給 さ れ る 分 を 含 む 。) に つ い て は 、 勤 務 実 態 に
即 し た も の で ある か を 確 認 す る 観 点 か ら 、所 轄 庁へ の 報 告 事 項 と す る
ことが必要である。
( 3 ) 関 係 者 への 特 別 の 利 益 の 供 与の 禁 止 等
・
公益財団法人等と同様に特別の利益供与を禁止する規定を法令上明記
することが必要である。
・
関 連 当 事 者 と の 取 引 内 容 の 情 報開 示 に つ い て 、現 況 報 告 書 及 び 現 行
の社会福祉法人会計基準における財務諸表の注記事項において開示
の 対 象 と な る 関連 当 事 者 の 範 囲 に つ い て 、公 益 財 団 法 人 制 度 を 参 考 に、
①当該社会福祉法人を支配する法人若しくは当該社会福祉法人に
よ っ て 支 配 さ れ る 法 人 又 は 同 一 の 支配 法 人 を も つ 法 人
② 当 該 社 会福 祉 法 人 の 評 議 員 及び そ の 近 親 者
に 係 る 要 件 を加 え る こ と が 必 要 であ る 。
・
現況報告書及び現行の社会福祉法人会計基準における財務諸表の注記
事項として関連当事者との取引内容の開示の対象となる取引の範囲
に つ い て 、公 益法 人 会 計 基 準 と 同 様に 取 引 額 が 100 万 円 を 超 え る 取 引
と す る こ と が 必要 で あ る 。
・
なお、開示の対象となる取引の範囲が取引金額の要件により拡大する
こ と に 伴 い 法 人の 事 務 負 担 が 増 大 す る と の 懸 念 が あ り 、効 率 的 な 運 用
に つ い て 検 討 する 必 要 が あ る と の 意 見 が あ っ た 。
16
5 . 地 域 に お ける 公 益 的 な 取 組 の 責務
( 福 祉 ニ ー ズ の多 様 化 ・ 複 雑 化 と 社会 福 祉 法 人 の 役 割 )
・
社会環境の変化に伴い、福祉ニーズが多様化・複雑化し、既存の制度
で は 十 分 に 対 応で き な い 者 に 対 す る 支 援 の 必 要 性 が 高 まっ て い る 。
こうした福祉ニーズに対しては、様々な事業主体が各々の創意工夫
により対応していくことが必要であるが、その中で社会福祉法人に
ついては、その本旨に従い、他の事業主体では対応が困難な福祉ニーズ
に 対 応 し て い くこ と が 求 め ら れ る 。
( 社 会 福 祉 法 人の 本 旨 と 地 域 に お ける 公 益 的 な 取 組 )
・
社会福祉法人は、社会福祉事業に係る福祉サービスの供給確保の
中心的役割を果たすだけでなく、既存の制度の対象とならないサービス
に対応していくことを本旨とする法人と解されている。地域福祉に
おけるイノベーションの推進は、社会福祉法人の社会的使命である。
社会福祉法人には、営利企業等では実施することが難しく、市場で
安 定 的・継 続 的 に 供 給 さ れ る こ と が望 め な い サ ー ビ ス を 供 給 す る こ と 、
すなわち、既存の制度の対象とならないサービスを無料又は低額な料金
に よ り 供 給 す る事 業 の 実 施 が 求 め られ る 。
( 地 域 に お け る公 益 的 な 取 組 を 実 施す る 責 務 )
規 制 改 革 実 施 計 画 ( 平 成 26 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 ) に お い て は 、
・
こうした社会福祉法人の在り方を徹底する観点から、生計困難者に
対する無料・低額な料金の福祉サービスの提供などの社会貢献活動の
実 施 の 義 務 付 けを 求 め て い る 。
これらを踏まえ、社会福祉法において、日常生活・社会生活上の支援
を必要とする者に対して無料又は低額の料金により福祉サービスを提供
す る こ と を 社 会福 祉 法 人 の 責 務 と して 位 置 付 け る こ と が必 要 で あ る 。
・
地 域 に お け る 公 益 的 な 取 組 を 責 務 と す る に 当 た り、措 置 費 や 保 育 の
委託費の使途制限について見直すほか、本部経費について弾力的な運用
17
が 必 要 と の 意 見が あ っ た 。
6 . 内 部 留 保 の明 確 化 と 福 祉 サ ー ビス へ の 再 投 下
( 1 ) 内 部 留 保に 関 す る 基 本 的 な 視点
・
社 会 福 祉 法 人 に つ い て は 、そ の 高 い 公 益 性 と 非 営 利性 に ふ さ わ し い
財務規律を確立することが求められる。社会福祉法人に求められる
財 務 規 律 と し ては 、第 1 に 、適 正 な 役 員 報 酬 や 関 係 者 への 利 益 供 与 の
禁 止 を 含 む 「 適 正 か つ 公 正 な 支 出 管 理 」 で あ り ( 4. に お い て 記 述 )、
そ の 上 で 、法 令 や 最 低 基 準 に 即 し た事 業 運 営 が 求 め ら れ る 。事 業 運 営
の 中 で 発 生 す る収 支 差( 利 益 )につ い て は 、配 当 す るこ と は 禁 止 さ れ 、
社 会 福 祉 事 業 又は 公 益 事 業 ( 社 会 福 祉 法 第 26 条) に 再 投 下 す る こ と
が求められる。
・
このように社会福祉法人の収支差(利益)の使途については、公益性
の高い非営利法人としての財務規律が制度的に講じられているが、
収支差(利益)の蓄積である、いわゆる内部留保(利益剰余金)の
在り方については、その実態を明らかにし、適正な活用を促す仕組み
はない。
・
規 制 改 革 実施 計 画 ( 平成 26 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 )に お い て は 、
○ 内 部 留 保の 位 置 付 け を 明 確 化 し 、福 祉 サ ー ビ ス へ の 再 投 資 や 社 会
貢献での活用を促す。
とされている。
・
い わ ゆ る 内 部 留 保 ( 利 益 剰 余金 )は 、過 去 の 収 支差 ( 利 益 )の 蓄 積
であり、事業に活用する土地、建物等に投資した資産や将来支出が必要
となる資金の形をとっている。基本的には事業継続に必要な財産であり、
そ の 存 在 自 体 が余 裕 財 産 を 保 有 し て い る こ と を 意 味 し てい な い 。
18
他方、社会福祉法人は、公費等を原資とする介護報酬や措置費・
委託費により社会福祉事業等の事業を運営しており、また、公益性の
高 い 法 人 と し て税 制 優 遇 措 置 が 講 じら れ て い る 。
こ う し た 法人 の 公 益 性 等 を 考 慮す れ ば 、いわ ゆ る 内 部 留 保 の 実 態 を
明 ら か に し 、 国民 に 対 す る 説 明 責 任 を 果 た す こ と が 求 めら れ る 。
・
また、いわゆる内部留保の実態を明らかにし、現在の事業継続に必要
な 財 産 以 外 に 活用 で き る 財 産 を 保 有 し て い る 場 合 に は 、社 会 福 祉 法 人
の趣旨・目的に従い、これを計画的に福祉サービス(社会福祉事業
又は公益事業により供給されるサービス)に再投下し、地域に還元する
こ と が 求 め ら れる 。
・
なお、公益財団法人等に適用される遊休財産保有制限においては、
一定の額(1 年分の公益目的事業費相当額)の遊休財産の保有を認めて
いる。
しかし、社会福祉法人については、公費等を原資とした報酬や措置費
に よ り 運 営 さ れて い る こ と 、介 護保 険 、措 置 制 度 等 の 公 的 制 度 に よ り
安定した収入を得られるという事業の特性を踏まえ、必要最低限の財産
を除き、社会福祉事業又は公益事業に再投下することが適当である。
・
他 方、公 益 財 団 法 人 等 に は 、公 益 目 的 事 業 の 公 益 性を 担 保 す る 制 度
と し て 収 支 相 償の 基 準 を 導 入 し て お り 、公 益 事 業 の 実 施 に 要 す る 適 正
な費用を償う額を超える収入を得てはならないこと(収支相償)を
公 益 認 定 の 基 準と し て 設 け て い る 。
し か し、社 会 福 祉 法 人 に 関 し ては 、そ も そ も 社 会 福祉 事 業 が 公 益 性
の高い事業であること、介護報酬、措置費等が事業に要する費用を賄う
の に 必 要 な 額 とし て 設 定 さ れ て い る こ と 等 を 踏 ま え れ ば、収 支 相 償 の
基 準 そ の も の を適 用 す る の で は な く 、中 長 期 的 な 事 業 運 営 を も 考 慮 し 、
福祉サービスへの計画的な再投下により、公益性を担保することが適当
である。
19
( 2 ) 内 部 留 保の 明 確 化
・
いわゆる内部留保の実態を明らかにするに当たっては、社会福祉法人
が 保 有 す る 、全 て の 財 産( 貸 借 対 照 表 上 の 純 資 産 か ら 基本 金 及 び 国 庫
補助等積立金を除いたもの)を対象に、当該財産額から事業継続に
必 要 な 最 低 限 の財 産 の 額( 控 除 対象 財 産 額 )を 控 除 した 財 産 額( 負 債
との重複分については調整)を導き、これを福祉サービスに再投下可能
な 財 産 額 と し て位 置 付 け る こ と が 適 当 で あ る 。
・
控除対象財産額は、①社会福祉法に基づく事業に活用している
不 動 産 等( 土 地 、建 物 、設備 等 )、② 現 在 の 事 業 の 再 生 産 に 必 要 な 財 産
(建替、大規模修繕に必要な自己資金)、③必要な運転資金(事業未収金、
緊急の支払いや当面の出入金のタイムラグへの対応)を基本に算定する
ことが考えられる。これらは、内部留保を的確に明確化するに当たって
の要となる部分であるので、その詳細な内容については、制度実施まで
の 間 に 、 専 門 的 な 見 地 か ら 検 討 の 上、 整 理 す る 必 要 が あ る 。
・
控 除 対 象 財 産 額 の 算 定 に つ い ては 、社 会 福 祉 法 人 が国 の ガ イ ド ラ イ
ンに従い、使途を明記した財産目録及び「控除対象財産計算書」を
作 成 し 、 所 轄 庁に 毎 年 度 提 出 す る こと が 必 要 で あ る 。
( 3 ) 福 祉 サ ービ ス へ の 計 画 的 な 再投 下
・
控除対象財産額を算定し、いわゆる内部留保から控除した結果、
再 投 下 可 能 な 財産 額(「 再 投 下 財 産 額 」と い う。)が あ る 社 会 福 祉 法 人
に つ い て は、地 域 に お け る 公 益 的 な取 組 を 含 む 福 祉 サ ー ビ ス に 計 画 的
に 再 投 下 財 産 を投 下 す る こ と を 求 める 仕 組 み の 導 入 が 必要 で あ る 。
・
具体的には、「再投下財産額」がある社会福祉法人に対し、社会福祉
事 業 又 は 公 益 事業 の 新 規 実 施・拡 充 に 係 る 計 画(「 再 投 下 計 画 」とい う 。)
の 作 成 を 義 務 付 け る こ と が 必 要 で ある 。
20
・
「再投下計画」には、社会福祉法人が実施する社会福祉事業又は
公益事業により供給される福祉サービスへの再投下の内容や事業計画額
が計上されるが、計画を検討するに当たっての優先順位については、
以下のとおり考えるべきである。
① 社 会 福 祉法 人 は 、社会 福 祉 事 業 の 実 施 を 主 た る 目的 と す る 法 人 で
あることから、社会福祉事業への投資(施設の新設・増設、新たな
サービスの展開、人材への投資等。社会福祉法人による利用者負担
の軽減など社会福祉事業に関する地域における公益的な取組を
含む。)を最優先に検討する。なお、実質的に社会福祉事業と同じ
機 能 を 担 う 、 いわ ゆ る 小 規 模 事 業 につ い て も 併 せ て 検 討す る 。
② 更 に 再 投 下 財 産 が あ る 場 合 には 、社 会 福 祉 法 人 は、社 会 福 祉 事 業
の 主 た る 担 い 手 で あ る と と も に、既 存 制 度 で は 対 応 で きな い 地 域
ニーズにきめ細かく対応することを本旨とする法人であること、
規 制 改 革 実 施 計 画( 平 成 26 年 6 月 24 日 閣 議 決 定 )は、こ う し た
社 会 福 祉 法 人 の 在 り 方 を 徹 底 す る 観点 か ら、生 計 困 難 者 に 対 す る
無料・低額の福祉サービスの提供などの社会貢献活動の実施を
義務付けるとしていることから、社会福祉事業として制度化されて
い な い 福 祉 サ ー ビ ス ( 社 会 福 祉 法 第 26 条 の 公 益 事 業 によ り 供 給
さ れ る サ ー ビ ス )を 地 域 の ニ ー ズ を踏 ま え て 無 料 又 は 低額 な 料 金
に よ り 供 給 す る 事 業(「 地 域 公 益 事 業 」と い う。)へ の 投 資 を 検 討
する。
③ 更に再投下財産がある場合には、その他の公益事業への投資を
検討する。
・
したがって、再投下財産がある法人においては、上記の考え方に
従 い 、① 社 会 福 祉 事 業 等 投 資 額( 利 用 者 負 担 の 軽 減 措 置や 小 規 模 事 業
への投資額を含む。)、②「地域公益事業」投資額、③その他の公益事業
投 資 額 の 順 に 検討 の 上 、再 投下 計 画 を 作 成 す る こ と と す る 必 要 が あ る 。
そ の 際 、再 投 下 財 産 額 及 び ① ~ ③ の投 資 額 等 に つ い て は 、国 の ガ イ ド
ラ イ ンに 従 い 適 切 に 記 載 さ れ て い る か ど う か につ い て 公 認 会 計 士 又 は
税理士による確認を求めるべきである。また、「地域公益事業」に
21
つ い て は 、後 述 の「 地 域 協 議 会 」を 活 用 す る な ど し て 事業 を 行 お う と
す る 地 域 の 住 民等 関 係 者 の 意 見 を 聴 く こ と が 必 要 で あ る 。
・
「 再 投 下 計 画 」 に つ い て は 、議 決 機 関 化 し た 評 議 員会 の 承 認 を 得 た
上で、公認会計士又は税理士の確認書を付して所轄庁の承認を得ること
とすることが必要である。所轄庁による承認は、地域のニーズに応じた
機 動 的 な 対 応 を阻 害 し な い よ う 配 慮し 、国 が 示 す 統 一 した 基 準 に 従 い、
主 と して 以 下 の 視 点 か ら 計 画 の 妥 当 性 を チ ェ ック す る こ と と す る 必 要
がある。
-
再投下財産額と事業規模の合理性(公認会計士又は税理士による
確認を経たもの)
-
社会福祉事業等については、自治体計画(介護保険事業(支援)
計 画 等 ) や 人 口 動 態 を 踏 ま え た 地 域の 需 給 に 照 ら し た 合理 性
-
「 地 域 公 益 事 業 」につ い て は 、
「 地 域 協 議 会 」に お け る 協 議 結 果 等
と の 整 合 性 、 公 益 事 業 と し て の 妥 当性
( 4)「 地 域 協 議 会 」 に つ い て
・
社 会 福 祉 法 人 が「 地 域 に お ける 公 益 的 な 取 組 」を実 施 す る に 当 た り 、
地 域 に お け る 福 祉 ニ ー ズ が 適 切 に 反 映 さ れ る よ う 、「 地 域 協 議 会 」 を
開 催 す る こ と が適 当 で あ る 。
・
「 地 域 協 議会 」 の 機 能 と し て は、
① 社 会 福 祉法 人 が 実 施 す る「 地 域 に お け る 公 益 的 な取 組 」に 係 る 地
域における福祉ニーズの把握、
②「 地 域に お け る 公 益 的 な 取 組」の 実 施 体 制 の 調 整等( 複 数 の 法 人
が 連 携 ・ 協 働 し た 事 業 の 実 施 に つ いて の 検 討 ・ 調 整 )
③ 「 地 域 にお け る 公 益 的 な 取 組」 の 実 施 状 況 の 確 認
が 考 え ら れ、
「 地 域 協 議 会 」が 社 会 福 祉 法 人 に よ る 地 域福 祉 活 動 の 推 進
の 基 盤 と な る こと が 期 待 さ れ る 。
22
・
「 地 域 協 議 会 」 は 、所 轄 庁 が 地 域 ケ ア 推 進 会 議 等 の既 存 の 協 議 会 を
活 用 す る な ど して 開 催 す る こ と と し、そ の 運 営 に つ い ては 、社 会 福 祉
協 議 会 が 中 心 的な 役 割 を 果 た す ケ ー ス が 想 定 さ れ る 。
具 体 的 に は 、各 協 議 会 の 代 表 者 、地 域 住 民 、所 轄 庁・ 関 係 市 町 村 等
が 参 加 し 、「 地 域 に お け る 公 益 的 な 取 組 」を 実 施 し よう と す る 社 会 福
祉 法 人 が、可 能 な 範 囲 で 制 度 横 断 的 に 地 域 に お け る 福 祉ニ ー ズ を 把 握
で き る 場 を 設 ける こ と が 基 本 で あ る が 、各 地 域 に お け る 福 祉 に 関 す る
協 議 会 の 設 置 状況 、活 動 状 況 を 踏 まえ た 柔 軟 な 運 用 を 認 め る 必 要 が あ
る。
ま た 、既 存 の 福 祉 に 関 す る 協 議会 の 多 く は 地 方 公 共 団 体 が 設 置 す る
ものであることから、円滑に地域ニーズを把握する機会を得られるよう
所 轄 庁 に お い て関 係 市 町 村 と 連 携 す る こ と が 求 め ら れ る。
( 5 ) 財 務 規 律に お け る ガ バ ナ ン ス
・
社 会 福 祉 法人 の 公 益 性 を 担 保 する 財 務 規 律 に つ い て 、
Ⅰ
適正かつ公正な支出管理
Ⅱ
内部留保の明確化
Ⅲ
福 祉 サ ー ビ ス へ の 計 画 的 な 再 投下
について仕組みを構築することを提言するものであるが、実効性ある
ものとするためには、社会福祉法人の内外からのガバナンスを強化する
ことが必要である。
具体的には、
Ⅰ
適 正 か つ 公 正 な 支 出 管 理 に 関 して は 、
・ 役 員 報 酬 等 に 関 す る 評 議 員 会 に よる 牽 制
・ 役 員 報 酬 基 準 、 関 連 当 事 者 と の 取引 内 容 の 公 表
・会計監査人等の外部監査の活用
Ⅱ
内部留保の明確化に関しては、
・会計制度の整備と浸透
・評議員会による内部牽制
・会計監査人等の外部監査の活用
23
等
・財務諸表等の公表
Ⅲ
等
福祉サービスへの再投下
・ 公 認 会 計 士 又 は 税 理 士 に よ る 再投 下 計 画 の 記 載 内 容の 確 認
・「 地 域 協 議 会 」 に よ る 地 域 の 福祉 ニ ー ズ の 反 映
・所轄庁による再投下計画の承認
・実績の所轄庁への報告と公表
等
の取組を制度的に講ずることが必要である。また、このような制度が
実質的に機能するよう、その運用に当たり、専門性を発揮し、中立公正
な立場から牽制機能を働かせることができる体制等を確保する必要が
ある。
7 . 行 政 の 役 割と 関 与 の 在 り 方
( 1 ) 行 政 の 役割 と 関 与 の 在 り 方 につ い て の 基 本 的 視 点
・
福 祉 ニ ーズ が 多 様 化 ・ 複 雑 化す る 中 、高 い 公 益 性と 非 営 利 性 を 確 保
する法人運営が求められることから、専門的な見地に立って適正な
法人運営を担保する仕組みが必要である。このため、所轄庁による指導
監 督 を 実 効 性 のあ る も の と す る た めの 制 度 的 な 整 備 が 重要 で あ る 。
・
他 方、所 轄 庁 に よ る 指 導 監 督 につ い て は 、地 域 によ っ て 異 な る 規 制
や 必 要 以 上 に 厳し い 規 制 に 基 づ く もの が あ る と の 指 摘 があ り 、法 人 の
自主性を阻害し、福祉ニーズに柔軟に対応しようとする際の支障と
なっているとの意見がある。ガバナンスの強化や外部監査の導入による
法人の自律性を前提とした指導監督の在り方を実現することが必要
である。
・
地 方 分 権 が 進 む 中 、 国・ 都 道 府 県・ 市 等 は、 そ れ ぞ れ の 機 能 と 役 割
を 明 確に し て 相 互 の 連 絡 調 整 や 支 援 を 行 う 観 点か ら 重 層 的 に 関 与 す る
仕 組 み が 必 要 であ る 。ま た 、社 会 福 祉 法 人 の 財 務 や 運 営 に 関 す る 情 報
24
を、指導監督に活用するほか、都道府県において収集分析の上、サービス
利用者や法人経営者の利用に供する等活用する仕組みが必要である。
( 2 ) 指 導 監 督の 機 能 強 化 に つ い て
・
法令違反等の不適正な運営が行われていないかを確認し、実効性ある
是 正 措 置 等 を 講ず る こ と が で き る よ う 、立 入 検 査 等 に 係 る 必 要 な 権 限
規定を整備するとともに、経営改善や法令遵守等について柔軟かつ
機 能 的 に 指 導 監督 す る こ と が で き る よ う 勧 告・公 表 に 係 る 規 定 を 整 備
することが必要である。
・
法 人 運 営 の 中 で 行 政 が 関 与 す べ き 範 囲 を 明 確 に し て重 点 的 に 監 査 等
を行うとともに、専門性を要する分野等においては外部の機関等を
積 極 的 に 活 用 する こ と に よ り、全 体 と し て 指 導 監 督 の 機 能 強 化 を 図 る
ことが必要である。
具体的には、専門的な見地と地域住民・利用者の視点から、適正な
法人運営を効果的に確保するため、以下の要件を満たす法人については、
定期監査の実施周期の延長や監査項目の重点化等を行う仕組みを導入
することが適当である。
① 社 会 福 祉法 人 改 革 に 即 し た ガバ ナ ン ス や 運 営 の 透 明 性 の 確 保、財
務 規 律 の 確 立 等 に 適 切 に 対 応 し て いる 法 人
② 財 務 諸 表や 現 況 報 告 書 の ほ か、会 計 監 査 人 が 作 成す る 会 計 監 査 報
告 書 及 び「運 営 協 議 会 」の 議 事録 を 提 出 し て 、所 轄庁 に よ る 審 査
の 結 果 、適 切 な 組 織 運 営・会 計 処 理 の 実 施 や 地 域 等 の 意見 を 踏 ま
えた法人運営が行われている法人
・
ま た、所 轄 庁 は 、会 計 処 理 等に 係 る 指 導 監 督 や 再 投下 計 画 の 承 認 等
を行うに当たっては、公認会計士など財務・会計に関する専門的な知見
を有する者の意見を聴くことなどにより、適切な指導監督等を実施する
こ と が 適 当 で ある 。
25
( 3 ) 国 ・ 都 道府 県 ・ 市 の 役 割 と 連携 の 在 り 方 に つ い て
・
社会福祉法人の指導監督について、国・都道府県・市それぞれの役割
に 応 じ て 、 連 携・ 支 援 す る 仕 組 み と す べ き で あ り 、
① 都 道 府 県に お い て は 、広域 的 な 地 方 公 共 団 体 と して 、管 内 の 市 に
よる指導監督を支援する役割
② 国 に お いて は 、 制 度 を 所 管 し、 適 正 な 運 用 を 確 保 す る 役 割
を担うこととし、そのために必要な連携等に係る規定を整備すること
が必要である。
・
特 に 、 平成 25 年 度 に 社 会 福 祉 法 人 の 指 導 監 督 権 限が 都 道 府 県 か ら
市に移譲され、市の職員に、法人の指導監督に必要な会計や福祉に
関 す る 専 門 的 な知 識 が 求 め ら れ て い る こ と か ら 、都 道 府 県 に は 広 域 的
な 立 場 で 研 修 を行 う な ど 、市に お け る 指 導 監 督 を 支 援 する 必 要 が あ る。
また、国においては、指導監督が法定受託事務であることに鑑み、
所轄庁全体の指導監督について、指導監督に係る基準の明確化等を徹底
する必要がある。
・
財務諸表、現況報告書等の財務や運営に関する情報については、
所 轄 庁 と し て 法人 の 指 導 監 督 等 に 活 用 す る ほ か 、
① 都 道 府 県は 、広 域 的 な 地 方 公共 団 体 と し て 、管 内 の 法 人 に 係 る 書
類 を 収 集 の 上 、法 人 規 模 や 地 域 特 性に 着 目 し た 分 析 等 を行 う 等 に
よ り 、管 内所 轄 庁 の 支 援 、地 域住 民 の サ ー ビ ス 利 用、法 人 に よ る
経 営 分 析 に 活 用 で き る よ う に す る こと
② 国 に お いて は 、都 道 府 県に お い て 収 集 し た 情 報 を基 に 、全 国 的 な
データベースを構築すること
が必要である。
・
法 人 の 広 域 的 な 事 業 展 開 に 対 応す る た め 、社 会福 祉 法 人 の 所 轄 庁 に
よ る 法人 監 査 と 当 該 法 人 の 事 業 所 が 所 在 す る 区域 の 行 政 庁 に よ る 施設
監査との連携を図るために必要な規定を整備することが必要である。
26
8.その他
・
社 会 福 祉法 人 の 合 併 に つ い て、一 般 財 団 法 人・公益 財 団 法 人 と 同 様
に 、議 決 機 関化 し た 評 議 員 会 の 議 決( 特 別 議 決 )事 項と す る と と も に 、
必 要 な 規 定 を 整備 す る こ と が 必 要 であ る 。
Ⅲ
社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直しについて
1 . 制 度 改 革 の基 本 的 視 点
・
社会福祉施設職員等退職手当共済制度は、社会福祉施設等に従事する
人 材 を 確 保 し、福 祉 サ ー ビ ス の 安 定的 供 給 と 質 の 向 上 に 資 す る こ と を
目的とした制度である。その給付水準などの制度設計については、民間
との均衡を考慮しつつ、長期加入に配慮した給付水準など、職員の定着
に 資 す る よ う な仕 組 み と す べ き で ある 。
・
措置制度から契約制度への移行、多様な経営主体の参入など社会福祉
事業の在り方が変容する中、社会福祉法人と他の経営主体とのイコール
フッティングの観点等から、社会福祉法人を対象とした公費助成の
在り方を見直すべきとの意見があり、国民に対し説明責任を果たせる
制 度 の 在 り 方 を 検 討 す る 必 要 が あ る。
2 . 給 付 水 準 につ い て
・
制 度 創 設 時 は 、民 間 の 社 会 福 祉施 設 職 員 と 公 立 の 社会 福 祉 施 設 職 員
の 処 遇 面 で の 均衡 を 図 る 観 点 か ら、国 家 公 務 員 退 職 手 当制 度 と 同 様 の
支 給 水 準 と し て い た が 、 前 回 の 制 度 改 正 ( 平 成 18 年 ) に お い て 、
民 間 と の 均 衡 や制 度 の 安 定 化 を 図 る 等 の 観 点 か ら 、当 面 の 措 置 と し て
当時の国家公務員退職手当制度の支給水準から概ね 1 割引き下げた。
27
・
その後、国家公務員退職手当制度において、民間との均衡を考慮して
支 給 水 準 の 見 直し が 行 わ れ 、平 成 26 年 7 月 か ら 本 格 施 行さ れ て お り 、
社 会 福祉 施 設 職 員 等 退 職 手 当 共 済 制 度 と 比 較 し て 長 期 勤 続 に 配 慮 した
支 給 乗 率 に な って い る 。
・
社 会 福 祉 施 設 職 員 等 退 職 手 当 共済 制 度 の 支 給 水 準 につ い て は 、民 間
と の 均 衡 を 考 慮 し つ つ 、職 員 の 定 着 に 資 す る よ う 長 期 加入 に 配 慮 し た
ものとすることが適当であることから、国家公務員退職手当制度に
準 拠 し た 支 給 乗率 と す る と と も に、そ の 際 、既 加 入 職員 の 期 待 利 益 を
保 護 す る 観 点 から 、 適 切 な 経 過 措 置 を 講 ず る こ と が 必 要 で あ る 。
3 . 合 算 制 度 につ い て
・
現 行 制 度 で は 、被 共 済 職 員 で あ る 期 間 が 1 年 以 上 で あ る 場 合 、退 職
し た 日 か ら 起 算し て 「 2 年 以内 」 に 、 退 職 手 当 金 を 請 求し な い で 再 び
被共済職員になり、かつ、その者が福祉医療機構に申し出たときは、
退 職 手 当 額 の 計算 に 際 し 、 前 後 の 期 間 を 合 算 し て い る 。
・
福 祉 人 材 の 確 保 に 当 た り 、社 会 福 祉 事 業 の 職 場 へ の定 着 を 促 進 す る
こ と が 重 要 で ある と こ ろ 、出 産、育 児 、介 護 そ の 他 の 事由 に よ り 退 職
した職員が、社会福祉事業の職場に復職しやすい環境を整える観点から、
合 算 制 度 を よ り利 用 し や す い 仕 組 み と す る こ と が 必 要 であ る 。
・
こ の た め 、被 共 済 職 員 が 退 職 した 日 か ら 「 2 年 以 内 」 に 再 び 被 共 済
職 員 に な っ た 場合 、前 後 の 期 間 を 合算 す る 規 定 に つ い て 、現 在 、中 小
企業退職金共済制度の通算制度において見直しが検討されている
方 向 性 と 同 様 に、 期 間 を 「 3 年以 内 」 に 見 直 す こ と が 適当 で あ る 。
28
4 . 公 費 助 成 につ い て
( 公 費 助 成 に 係る 見 直 し の 経 緯 )
・
公費助成については、前回改正において、介護保険における民間との
イ コ ー ル フ ッ ティ ン グ の 観 点 か ら、介 護 保 険 制 度 の 対 象 と な る 高 齢 者
関 係 の 施 設・事 業 に つ い て は 、公費 助 成 が 廃 止 さ れ た( 経 過 措 置 と し
て 、 既 加 入 者 につ い て は 引 き 続 き 公 費 助 成 の 対 象 )。
前 回 改 正 を 審 議 し た 福 祉 部 会 の意 見 書( 平 成 16 年 12 月 )に お い て
・
は、
「 児 童・障 害 等 の そ の 他 の 施 設・事 業 に 係 る 公 費 助 成 に つ い て は 、
今 回 あ わ せ て 見直 す べ き と の 指 摘 も あ っ た が 、高齢 者 関 係 と は 異 な り 、
社会福祉法人がサービスの中核的な担い手となっている現状もあり、
また、公費助成の見直しの閣議決定の経緯や、さらには障害者関連施策
な ど 制度 自 体 の 枠 組 み の 変 更 が 検 討 さ れ て い る中 で 同 時 に 結 論 を 得 る
こ と は 困 難 で ある こ と な ど か ら、今 回 は 公 費 助 成 を 維 持す る こ と と し、
そ の 取 扱 は 将 来の 検 討 課 題 と す る こ と が 適 当 で あ る。」 と さ れ た 。
( 見 直 し の 方 向)
・
障害者総合支援法等に関する施設・事業(児童福祉法に基づく障害児
を対象とする事業を含む。以下同じ。)及び保育所については、介護関係
施設・事業において公費助成が廃止されていること、他の経営主体と
のイコールフッティングの観点などから、以下のとおり、公費助成の
在 り 方 を 見 直 すべ き で あ る 。
① 障 害 者 総 合 支 援 法 等 に 関 す る 施 設・事 業 に つ い て は 、前 回 改 正 時
に公費助成を維持する理由とされた障害者関連施策に係る制度
移 行 が 完 了 し た こ と 等 か ら 、前 回 改 正 時 の 介 護 関 係 施 設・事 業 と
同様に、既加入者の期待利益に配慮した経過措置を講じた上で、
公費助成を廃止する。
② 保 育 所 につ い て は 、
-
子 ど も ・ 子 育 て 支 援 新 制 度 が 平 成 27 年 度 か ら 本 格 施 行 さ れ
ること
29
-
平 成 29 年 度 ま で 待 機 児童 解 消 加 速 化 プ ラ ン に 取 り 組 む こ と
な ど を 踏ま え 、公 費 助 成の 在 り 方 に つ い て 更 に 検討 を 加 え 、平 成
29 年 度 ま で に 結論 を 得 る こ と と する 。
③ 措 置 施 設・事 業 に つ い て は 、他 の 経 営 主 体 の 参 入が な い こ と 等 か
ら 、 今 回 の 見 直 し で は 公 費 助 成 を 維持 す る 。
・
社 会 福 祉 施 設 職 員 等 退 職 手 当 共済 制 度 は 人 材 確 保 の上 で 重 要 な 制 度
で あ り 、公 費 助 成 の 見 直 し に 当 た って は 、事 業 者 の 人材 確 保 に 影 響 を
及ぼさないよう、公費助成の見直しに伴う法人の掛金負担の増分の
影響を、見直し後の報酬等の改定において、適切に報酬等に反映される
よ う に す べ き であ る 。
30
おわりに
・
我が 国の社会福祉を支えてきた社会福祉法人については、昭和 26 年
の制度創設以来、抜本的な制度の見直しが行われてこなかった。この間、
我が国の社会福祉を巡る状況は大きく変化し、社会福祉法人の在り方
そ の も の を 見 直す こ と が 必 要 と な っ て い る 。
・
本報告書では、社会福祉法人が、その公益性・非営利性を高め、本来
の使命を果たし、国民に対する説明責任を果たすことができるよう制度
の見直しを求めている。社会福祉法人に関係する者には、それぞれの
立場から、制度改革の趣旨を踏まえ、国民の信頼に応える社会福祉法人
の 在 り 方 を 実 現す る よ う 求 め る 。
・
特に、社会福祉法人は、その本旨を踏まえ、地域のニーズにきめ
細かく対応し、事業を積極的に地域に展開することにより、喫緊の課題
となっている地域包括ケアシステムの構築において中心的な役割を
果 た す こ と が 求め ら れ る 。
・
今 後 の 福祉 ニ ー ズ の 多 様 化・複 雑 化 を 見 据 え た 場 合、公 的 セ ク タ ー
や 市 場 に お け る福 祉 サ ー ビ ス の 供 給だ け で は 、こう し た ニ ー ズ に 十 分
に 対 応 す る こ とは 困 難 で あ る。公 益 性 と 非 営 利 性 を 備 え た 民 間 法 人 で
ある社会福祉法人が、地域のニーズにきめ細かく対応し、それらを充足
し て い く こ と が 重 要 で あ る が 、効 率 的・効 果 的 に 福 祉 サー ビ ス を 供 給
し て い く 観 点 から 、適 切 な 法 人 の 在り 方 に つ い て 、今後 議 論 を 深 め て
いくことが重要である。
31
参考
社会保障審議会福祉部会
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幸
一
と
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子
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美
弘
こ
みち子
全 国 知 事 会 社 会 保 障 常 任 委 員 会 委 員( 神 奈 川 県 知 事 )
公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会会長
公立大学法人大阪府立大学地域保健学域教育福祉学類教授
社会福祉法人日本保育協会保育問題検討委員会委員長
全 国 福 祉 高 等 学校 長 会 理 事 長
社 会 福 祉 法 人 全国 社 会 福 祉 協 議 会
全 国 社 会 福 祉 法人 経 営 者 協 議 会 副 会 長
公 益 財 団 法 人 日本 知 的 障 害 者 福 祉 協会 会 長
慶 應 義 塾 大 学 名誉 教 授
つ し ま 医 療 福 祉グ ル ー プ 代 表
日 本 労 働 組 合 総連 合 会 総 合 政 策 局 長
公 益 社 団 法 人 全国 老 人 福 祉 施 設 協 議会 参 事
上 智 大 学 総 合 人間 科 学 部 准 教 授
社 会 福 祉 法 人 全国 社 会 福 祉 協 議 会
全 国 児 童 養 護 施設 協 議 会 会 長
独 立 行 政 法 人 労働 政 策 研 究 ・ 研 修 機 構 研 究 員
株 式 会 社 明 治 安田 生 活 福 祉 研 究 所 主席 研 究 員
一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
放送大学副学長
のぼる
好
川
桃 山 学 院 大 学 社会 学 部 社 会 福 祉 学 科 教 授
ゆ き ひ ろ
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間
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ま つ や ま
よ
や
也
の り あ き
ゆ
み
み
しげる
ま つ ば ら
○ 宮
治
さとし
か
い
公 益 社 団 法 人 日本 社 会 福 祉 士 会 会 長
じ
福太郎
聰
松
孝
い
ふく た ろ う
田
松
俊
芳
ふ
井
株 式 会 社 読 売 新聞 東 京 本 社 社 会 保 障部 部 長
よ し た か
文
ま
治
公 益 社 団 法 人 日本 介 護 福 祉 士 会 会 長
み つ と し
居
橘
な
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たちばな
た
子
か つ ひ で
か
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律
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二
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小
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倉
く ろ い わ
黒
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真
委員名簿
昇
じゅんいち
純
一
全国市長会社会文教委員会副委員長(江別市長)
日 本 商 工 会 議 所社 会 保 障 専 門 委 員 会 委 員
( ダ イ ヤ ル・サ ー ビ ス 株 式 会 社
シニアマネージャー)
( 平 成 27 年 2 月 12 日 現 在 、 五 十 音順 、 敬 称 略 )
( ◎ は 部 会 長 、○ は 部 会 長 代 理 )
32
「社会保障審議会福祉部会」開催経過
日時
回数
議事内容等
平 成 26 年 8 月 27 日
第1回
○
○
○
社 会 福 祉 法 人 制 度 の 見 直 し に つい て
福祉人材確保対策について
福祉部会における主な検討事項
平 成 26 年 9 月 4 日
第2回
○
○
社 会 福 祉 法 人 制 度 の 見 直 し の 論点
経営組織の在り方について
平 成 26 年 9 月 11 日
第3回
○
運 営 の 透 明 性 の 確 保 の 在 り 方 につ い て
平 成 26 年 9 月 30 日
第4回
○
社 会 福 祉 法 人 の 財 務 運 営 に 関 する 規 律
○
業 務 運 営 ・ 財 務 運 営 の 在 り 方 につ い て
( 地 域 公 益 活動 )
○ 委員からのヒアリング
( 高 橋 英 治 委 員 、 武 居 委 員 、 橘 委 員、
福 間 委 員 、 藤 野委 員 、 対 馬 委 員 、
関川委員)
平 成 26 年 10 月7 日
第5回
平 成 26 年 10 月 16 日
第6回
○
業 務 運 営 ・ 財 務 運 営 の 在 り 方 につ い て
( 余 裕 財 産 の明 確 化 、 再 投 下 計 画)
平 成 26 年 10 月 20 日
第7回
○
業 務 運 営 ・ 財 務 運 営 の 在 り 方 につ い て
( 地 域 公 益 活動 、 再 投 下 計 画 )
平 成 26 年 11 月 10 日
第8回
○
平 成 26 年 11 月 19 日
第9回
○
社会福祉施設職員等退職手当共済制度
の見直しについて
平 成 26 年 12 月 19 日
第 10 回
○
業 務 運 営 ・ 財 務 運 営 の 在 り 方 につ い て
(適正かつ公正な支出管理)
平 成 27 年 1 月 16 日
第 11 回
○
業 務 運 営 ・ 財 務 運 営 の 在 り 方 につ い て
( 地 域 公 益 活動 、 会 計 監 査 人 の 設置 等 )
行政の関与の在り方について
○
社会福祉法人制度改革に関するその他
の論点について
(地域協議会、法人の合併等)
平 成 27 年 1 月 23 日
第 12 回
平 成 27 年 2 月 5 日
第 13 回
○
平 成 27 年 2 月 12 日
第 14 回
○
とりまとめに向けた議論
社会福祉法人制度改革について
(報告書案)
33