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リバビリン
2.4 非臨床に関する概括評価
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減少がみられている39)–43)。リバビリンのこの免疫抑制作用はリバビリン治療を受けた HCV 患
者でみられる ALT の低下現象を説明する根拠となっている44)–47)。一方,T 細胞の増殖阻害作
用の結果として,全身性の免疫抑制又は感染に対する感受性の増大が懸念されたが,現在のと
ころ臨床ではそのような報告はない48),49),参考資料:5.3.5.1-2)。
2.4.2.1.4
リバビリンの免疫調節作用
ウイルス感染時には Naive ヘルパーT 細胞(Thn, CD4+)は抗原提示細胞による MHC-II 型の
抗原提示を受けて,感染初期には Th1細胞へ,感染後期には Th2細胞へと分化誘導される(図
2.4.2.1.4-1)。IL-12や IL-4はそれぞれ Th1及び Th2細胞の分化誘導剤である。活性化された
Th1細胞は IL-2,IFNγ,TNFα を産生することで,1) MHC-I 型に応答する CD8陽性 CTL 細胞
を活性化したり,2) 感染部位への NK 細胞やマクロファージを動員することで感染細胞を破壊
するか,若しくは3) 感染細胞を破壊することなしにウイルスを除去する。一方,Th2細胞が活
性化されると,Th2サイトカインである IL-4, 5, 6, 10, 13などが産生し,ウイルス抗原特異的な
B 細胞を活性化させ,ウイルス特異的抗体を産生するプラズマ細胞やメモリー細胞へと分化・
増殖する20)。T 細胞フェノタイプを Th2から Th1にバイアスすることで CTL 活性を高めること
を目的とした免疫調節剤は,ウイルス感染細胞からのウイルス除去又は宿主細胞の破壊作用が
期待できる。
図 2.4.2.1.4-1 ウイルス感染に対する宿主免疫応答性とリバビリン及び IFNα の作用機序
(参考文献20)より改変引用)
(1) リバビリンの Th1/Th2サイトカイン産生に及ぼす影響
(評価資料:4.2.1.1-3)
正常ヒト PBMC を Staphylococcal enterotoxin B(SEB)で刺激した in vitro 試験で,リバビリ
ンは最大0.3~1 μM で Th1サイトカインである IL2, IFNγ, TNFα の分泌量を高めた。この条件下
で,リバビリンは Th2サイトカインである IL-10の分泌量については有意な影響を与えなかっ
た。一方,正常ヒト PBMC を phorbol ester と ionomycin で刺激した場合では,リバビリンは最
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大0.1~1 μM で Th1サイトカインである IL-2, IFNγ, TNFα の分泌量を高めるとともに,Th2サイ
トカインである IL-4や IL-10の分泌量を減少させた。
また,免疫調節作用を示すリバビリン濃度は,報告されている C 型肝炎患者の定常状態にお
けるリバビリンの血清中濃度である10 μM 以下であることから37),38),臨床における免疫調節
作用が期待された。
リバビリンが in vitro で Th1サイトカインの産生を促進し,Th2サイトカインの産生を抑制さ
せることは多くの文献データにより支持されている33),35),50)–53)。しかしながら,それらの結
果を詳細に分析すると,相違点が認められる。例えば,T 細胞サイトカインの産生はドナーに
よって様々に異なっており52),この試験系を解釈する上で交絡因子となっている。また公表文
献では細胞培養時間として24又は48時間のどちらかを用いている場合が多いが33),35),50)–53),
サイトカインの産生は培養時間に依存しており,本試験では48時間培養においてより確実な結
果を得ることを明らかにした。更に,サイトカイン産生に及ぼすリバビリンの効果は,誘発刺
激剤の種類及び刺激される細胞の種類によっても異なっている33)。これらは多くの変動要因の
一つであることが考えられ,公表文献と本試験結果との乖離原因となっているものと思われた。
一方,リバビリンの免疫調節作用は,リン酸化されていないリバビリン未変化体が介在して
いるものと推定されている53)。L-リバビリンは,糖の非天然 L-異性体で細胞キナーゼの基質に
はなりえずリン酸化されないが,コペガス錠200 mg の有効成分であるリバビリンの D-異性体
と等しい免疫調節作用を示すが抗ウイルス作用を示さないとの報告がある53)。したがって,リ
バビリンの免疫調節作用は,RMP や RTP を介する RdRp や IMPDH を阻害する抗ウイルス作用
又は抗増殖作用とは異なるものと推定された。
(2) C 型肝炎の予後と Th1/Th2サイトカインの影響
C 型肝炎の予後が Th 細胞の特性(Th1対 Th2)によって影響を受けることが公表文献に示さ
れている54)–67)。C 型肝炎患者から採取した T 細胞を HCV 抗原にて ex vivo にて活性化したとき,
T 細胞増殖性や Th1サイトカインへの産生がみられた場合は予後の良好性,自然治癒の可能性,
又は IFNα の持続的な HCV-RNA の陰性化と相関がみられた。これに対し,血清中の Th2サイ
トカインレベルが高い場合や ex vivo で Th2サイトカインの産生がみられた場合は慢性的な肝
疾患や IFNα への感応性の欠如と結びついていた。
一方,リバビリンは C 型肝炎患者の Th2応答性を抑制するとの報告があり54),リバビリンが
IFNα の抗ウイルス活性を増強する最も重要な作用機序であることが示唆されている。実際,C
型肝炎患者では,IFNα 単独又は IFNα とリバビリンとの併用治療において HCV 特異的な T 細
胞反応性(細胞増殖並びに IFNγ 産生)の増大がみられるが,HCV-RNA の陰性化率は,Th2応
答性の抑制が顕著だった患者で優位であった。
IFNα 自身も,Th1細胞上の IL-12受容体のアップレギュレーションを通じて,IFNγ 分泌を促
進させるとともに Th1応答性を増幅させることが知られている68)–72)(図 2.4.2.1.4-1参照)。ま
た,リバビリンは in vitro でマウスの腹腔内細胞の IL-12産生を促進し,IL-12で刺激されたマ
ウス脾臓細胞は Th1サイトカインである IL-2や IFNγ を産生するとの報告がある73)。したがっ
て,この共通のサイトカイン経路を通じて,IFNα とリバビリンは HCV 治療に相乗的に作用す
ることが推察された。
(3) C 型肝炎と HCV-RNA の動態
HCV-RNA の動態を検討した臨床薬理試験から,リバビリンはウイルス陰性化の第二相に重
要であることが示唆されている74)–78)。IFNα 治療における HCV-RNA の動態は,IFN 投与開始
後24時間以内に認められる急峻な減少(第一相)と,それに続く緩徐な減少(第二相)の二相
性を示す。ウイルス特異的な T 細胞反応性は IFNα を投与した後4~8週付近で最大となるが,
無効例と著効例ではサイトカインプロファイルに明らかな差異のあることが報告されている54)。
このことは,ウイルス除去の第二相には重要なエフェクター機序が含まれることを示唆してい
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る。この所見は HCV-RNA の第一相の減少は抗ウイルス治療を開始したほとんどすべての患者
にみられるが,これに反して第二相の持続的なウイルス量の減少は無効例ではみられず,著効
例のみにみられるとの報告と一致している74),75),77)。PEG-IFNα-2a も IFNα とほぼ同様の二相
性の HCV-RNA 動態の推移がみられている79)。
2.4.2.1.5
リバビリンと PEG-IFNα-2a との併用効果
(1) HCV-RNA レプリコン複製に及ぼすリバビリンと PEG-IFNα-2a の併用効果
(評価資料:4.2.1.1-4)
HCV レプリコンシステムを用いてリバビリンと PEG-IFNα-2a との併用阻害効果を検討した
ところ,HCV-RNA レプリコン複製が相加的~準相乗的に阻害されることが示された。
また他のウイルスを用いた in vitro 抗ウイルス試験でもリバビリンと IFNα との併用効果が相
加的23),80)又は相乗的23),81),82)であることが報告されている。
(2) 併用効果の作用機序
リバビリンはウイルスの複製阻害ばかりで
なく,IFNα により誘導される抗ウイルス関
連遺伝子のウイルスによる抑制をも阻害する
ことが最近報告されている 83) 。例えば,in
vitro で,細胞を継続して流行性耳下腺炎ウ
イルスに感染させると,IFNα に対する応答
性が減少するが,これは IFNα で誘導される
抗ウイルス関連遺伝子(2’, 5’-OAS など)の
転写活性をウイルスが直接的に抑制するから
であると考えられている。この感染細胞をリ
バビリンとともに処理するとウイルス複製が
阻害され,IFNα に対する応答性を回復させ
ることができたとの報告がある83)。
一方,高ウイルス患者で,HCV たん白で
ある NS5A や E2(envelope たん白)が過剰
発現すると,IFNα により活性化されるはず
の RNA 依存プロテインキナーゼ(PKR)が
それらの過剰発現たん白質と結合して不活化
されることが明らかとなっている 84)–92) (図
2.4.2.1.5-1)。
図 2.4.2.1.5-1 NS5A/E2過剰産生による
IFNα の PKR 活性阻害
また NS5A のインターフェロン感受性決定域(ISDR)の変異と IFNα 応答性には相関性があ
ることも判ってきており,NS5A 領域に変異が激しい変異型ウイルスは IFNα に対して応答性
を示すが,変異のない野生型のジェノタイプ1b 型の感染患者に対しては IFNα 単独での応答性
は低く,リバビリンとの併用によりこの応答性の回復がみられている93),94)。
リバビリンが RTP として RNA に取り込まれたのちに RNA ウイルスのゲノムの変異を誘発
することはすでに前項で述べた。したがって,リバビリンを併用した場合,変異の少ないジェ
ノタイプ1b 型においても NS5A/ISDR 遺伝子変異が誘発される可能性が期待される。また
NS5A/ISDR 遺伝子の変異体ウイルスが IFNα に対する応答性を回復する機序として,ISDR の
ゲノムが変異してアミノ酸変異を伴った NS5A たん白が合成された場合,構造が変化した
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NS5A 変異たん白は PKR と結合できなくなることが予想され,その結果として PKR の活性化
を介した IFNα によるウイルス mRNA の翻訳阻害活性が回復されるものと推定される。実際,
最近ではジェノタイプ1b 患者に対する IFN 製剤とリバビリンとの併用療法において,HCV 遺
伝子変異促進効果を検討した臨床研究も開始されている95),96)。
2.4.2.2
In vivo 薬理学的特徴
HCV を確実に感染させることができる唯一の動物はチンパンジーだけであるが23),チンパン
ジーを用いた HCV 感染動物実験モデルは未だ確立されていない。また,ヒト IFNα は霊長類
にのみ生理学的に活性を示すことが知られている97)。一方,リバビリンは長年にわたり臨床で
使用されてきており,その特性は既に公表文献中に記載され,明らかとなっている。以上のこ
とから,HCV に対するリバビリン及び PEG-IFNα-2a の in vivo 薬理効果に関して文献情報を基
に考察した。
HCV 感染動物モデルは未だ確立されていないが,HCV 以外の DNA/RNA ウイルスでは種々
の感染動物モデルが検討されている18),98)。Influenza A/Aichi/2/68(H3N2)ウイルス,influenza
B/Hong kong/77ウイルス,parainfluenza(Sendai)ウイルスをマウスに感染させたモデルや,
RSV(Long strain)感染ラットモデル,及び influenzaA/Aichi/2/68,Lassa 熱(Josia),Dengue
(Western Pacific 74)各ウイルスに対するサル感染モデルなどが検討されており,各感染動物
モデルにおいてリバビリンの抗ウイルス作用が確認されている。
一方,リバビリンによる in vivo 免疫調節作用を示した公表文献が報告されている。例えば,
3種のマウス肝炎モデルで,リバビリンは Th1応答の増加と Th2応答の減少をもたらす33),51),
53) , 94) , 99) ,100)
ことが示されている。また,HCV コアたん白とリバビリンを共に免疫したマウ
スでは,脾細胞における NK・CTL 細胞の増加や Th1サイトカインの分泌量増大,並びに,腹
腔内細胞における IL-12分泌量増大がみられたとの報告もある73)。種々の肝炎動物モデルを用
いた非臨床 in vivo データから,リバビリンが Th1と Th2サイトカイン応答のバランスに影響を
与えることができることを示唆している。
臨床研究からも,リバビリン単独又はリバビリンと IFNα-2a 併用時の薬理学的効果が明らか
となっている。リバビリンを C 型肝炎患者に投与したとき,患者の40~50%で ALT の一時的
な減少がみられるが44)–47),リバビリン単剤治療では HCV の陰性化に影響を与えなかった。し
たがって,リバビリン単独では,その抗ウイルス活性及び免疫調節作用は HCV 感染を消滅さ
せるのには不十分であることが確認された。また,IFNα は,単独で約20%程度の著効率
(HCV-RNA の持続陰性化率)を示すが71),101)–103),リバビリンと併用すると IFN の著効率を
更に高めることが明らかとなっている9)–14)。更に PEG-IFNα-2a とリバビリンとの併用療法は,
従来の IFN 療法で治療困難とされているジェノタイプ1b の C 型慢性肝炎に対して優れた効果
を示すことが確認された。
2.4.2.3
安全性薬理試験
リバビリンの中枢神経系,及び心血管・呼吸器系に及ぼす影響を安全性薬理試験にて評価し
た。また,リバビリン及び PEG-INFα-2a 単剤投与毒性試験,並びに併用投与毒性試験から併
用時の安全性薬理作用に関する評価を行った。
2.4.2.3.1
中枢神経系
(評価資料:4.2.1.3-1)
雄性マウスに0, 100, 500, 2000 mg/kg のリバビリンを経口投与し,Irwin の変法に準じて24時
間後まで中枢神経系に及ぼす作用を観察したが,運動量,行動変化,感覚/運動反射等に影響
せず,またいずれの用量においても体温に影響を与えなかった。
リバビリン(0, 50, 100 mg/kg/日)及び PEG-IFNα-2a(0, 600 mg/kg/週2回)のカニクイザルを
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用いた4週間併用毒性試験において,単剤並びに併用投与群共に中枢神経系への影響を示唆す
る症状は認められなかった。
2.4.2.3.2
心血管・呼吸系
(評価資料:4.2.1.3-2)
覚醒ビーグル犬にリバビリン0, 50, 150, 500 mg/kg を1, 5, 9, 13日目に経口投与し,テレメト
リー装置で92時間心血管・呼吸系に及ぼす影響を観察したが,心拍数,血圧,呼吸数,胸部圧
ピーク値,体温,血液ガス,ECG パラメータに対し有意な作用は見られなかった。
リバビリン(0, 50, 100 mg/kg/日)及び PEG-IFNα-2a(0, 600 μg/kg/週2回)のカニクイザルを
用いた4週間併用毒性試験において,ECG の異常はみられなかった。
このように,リバビリン及び PEG-IFNα-2a 単独投与において,明らかな心血管系及び呼吸系
に対する影響は認められず,また,リバビリン及び PEG-IFNα-2a 併用においても心血管系に
対する影響はみられなかった。リバビリン及び PEG-IFNα-2a 併用投与による呼吸系に対する
影響は実施していないが,単独投与で呼吸系に対する影響がないこと,サル4週間併用毒性試
験において一般症状に呼吸系の異状がみられないことを勘案すると,併用投与による呼吸系へ
の影響はないものと推察される。
2.4.2.4
薬力学的薬物相互作用
リバビリンの薬力学的薬物相互作用を検討する際に考慮すべき項目として,リバビリンの細
胞内リン酸化反応,RNA 合成酵素阻害作用,Es トランスポーターによる細胞内取り込み過程
などが考えられる。これらの各過程における,リバビリンと各種臨床使用薬剤との薬物間相互
作用が種々検証されているので,公表文献情報を基に以下にまとめた。
ピリミジン核酸誘導体の in vitro リン酸化では,逆転写酵素阻害剤(RTIs)である zidovudine
や stavudine(2’,3’-dideoxy-2’,3’-didehydrothimidine; Zerit®)がリバビリンにより阻害されるが
104)–106)
,これに反して,プリン RTI である didanosin はリバビリンにより増強されるとの報告
がある107),108)。しかしながら,これらの臨床上の効果は不明である。
また,RNA 合成阻害剤 Actinomycin D がリバビリンのリン酸化を阻害し,細胞内グアノシン
三リン酸化を正常化させることが知られている25)。Es トランスポーター阻害剤もリバビリン
の肝細胞等への細胞内輸送を阻害するので,いずれの場合もリバビリンの臨床効果を弱める可
能性がある109)。
一方,PEG-IFNα-2a は上述したリバビリンの3つの作用に影響を及ぼす可能性がないことか
ら,リバビリンと PEG-IFNα-2a が相互の薬理作用を阻害するような薬物間相互作用はないも
のと推定された。実際,リバビリンと rIFNα-2a の併用投与による臨床試験で,連投時の薬物
動態に及ぼす薬物間相互作用は見られていない110)。また,theophylline111)や didanosin112)とリバ
ビリンの併用でも,薬力学的薬物動態学的相互作用はみられていない。このことはリバビリン
がチトクローム P450に対してヒト又は動物で影響を与えないためと考えられる。
2.4.2.5
薬理学試験のまとめ
リバビリンは,HCV-RNA レプリコン複製に対し阻害活性を示し,PEG-IFNα-2a との併用で
相加的~準相乗的な作用を示した。リバビリンは,更に IFNα のウイルス学的効果を高めるよ
うな免疫調節作用を示した。C 型肝炎の併用療法において,PEG-IFNα-2a によるウイルス学的
効果のリバビリンによる増強作用機序は解明されていないが,抗ウイルス活性と免疫調節作用
はこれまでに明らかとなっている臨床試験成績を合理的に説明することができるものと考えら
れた。また,安全性薬理試験結果から,リバビリン及び PEG-IFNα-2a は単剤及び併用投与時
においても中枢神経系,心血管・呼吸系への影響はないものと推定された。