01 答申(表紙)

これからの本県家庭科教育の在り方について
(答
申)
平成27年2月10日
宮崎県産業教育審議会
目
はじめに
Ⅰ
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
専門学科における生活産業のスペシャリスト育成の在り方
1
概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
現状と課題
3
目指す生徒像
4
充実に向けた方向性
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(1) 魅力と特色のある職業教育
・・・・・・・・・・・・・・・・
ア
「生活情報科」「生活工学科」「生活文化科」の整理
イ
調理や食に特化した学科・コースの調査・研究
(2) 衣食住・保育等のスペシャリスト育成のための学習の高度化・・
ア
専門的な知識や技術を将来の職業に結びつける学習
イ
地域社会との連携
ウ
専門家との連携
(3) 高度な知識と技術を有する指導者の育成
Ⅱ
2
・・・・・・・・・・
ア
専門知識・技術の高度化及び生活産業の変化への対応
イ
指導者の専門研修の充実
4
5
7
共通教科である「家庭科」の学びの在り方
1
概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
現状と課題
3
目指す生徒像
4
充実に向けた方向性
8
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
(1) 共通教科である家庭科教育の充実
・・・・・・・・・・・・・
10
ア
生活的、社会的、経済的、精神的に自立する自覚や責任感の醸成
イ
持続可能な社会を目指し、周りの人々や環境に配慮して生活する力の育成
ウ
生徒の実態に即した学習内容の精選及び学習の充実
(2) 生徒の実態と社会的ニーズを踏まえた指導力の向上・・・・・・
ア
生徒の実態を踏まえた教科指導力向上のための取組
イ
社会の変化に対応した授業を実践するための取組
11
はじめに
平成25年10月、宮崎県産業教育審議会は、宮崎県教育委員会から「これ
からの本県家庭科教育の在り方について」の諮問を受け、専門学科における生
活産業のスペシャリスト育成の在り方、共通教科である「家庭科」の学びの在
り方という2つの視点で検討を行うよう求められました。
現在我が国は、少子高齢化の進展や消費者問題の増加・複雑化、家庭の教育
力の低下への懸念など多くの課題を抱えております。また、東日本大震災を機
に、家族の絆、地域コミュニティの重要性が再認識されるとともに、持続可能
な社会の実現が望まれております。
このような状況を踏まえ、本審議会では、家庭に関する専門学科で学ぶ全生
徒に加え、全県立高等学校及び中等教育学校において、生徒及び家庭科教職員
へのアンケート調査を実施し、その実態を把握するとともに、課題を整理しな
がら家庭科教育の在り方について審議を重ねてきました。
その結果、今回の答申では、家庭に関する専門学科においては、魅力ある職
業教育を行うこと、スペシャリスト育成のため学習の高度化を図ること、それ
らを実践できる指導者を育成すること、また、共通教科においては、教育内容
の充実と指導力の向上について提言しております。
本答申を受けて、家庭科教育の振興を図る効果的な施策が策定されますとと
もに、本答申がこれからの家庭科教育の方向性を示すものとなり、今後の本県
家庭科教育がますます充実することを期待します。
-1-
Ⅰ
専門学科における生活産業のスペシャリスト育成の在り方
1
概要
現状
○ 家庭に関する学科は、平成元年度の15校21学科から現在の6校6学科に減少している。
○ 全ての学科においてほぼ定員を満たし、安定した志願倍率を維持している。
○ 学科で学んだことに誇りをもっている生徒の割合が90%を越えており、満足度が高い。
○ 卒業者の約3割が就職であり、約7割が専門性を高める目的で進学している。
課題
○ 生活工学科、生活情報科、生活文化科共に家庭科の専門学科であることが分かりにくい。
○ 4校に設置されている生活情報科において、専門学習の内容が統一されていない。
○ 専門的な学習で身に付けた知識や技術を生かすことができる進路の実現が充分でない。
○ 高校での学習が将来の進路に結びついていない生徒もいる。
【答申】
目指す生徒像
○ 向上心をもって専門的な知識や技術を習得し、努力し続ける生徒
○ 専門学科で学んだ知識や技術に自信をもち、それを表現・活用することができる生徒
○ 生活産業*¹ に携わる職業人としての倫理観を備え、ビジネスの視点と環境に配慮する視
点の両面から物事を捉えることができる生徒
○ 専門学科での学習を生かし、地域文化の継承や地域に貢献する志をもった生徒
魅力と特色のある
職業教育の実践
充実に向けた方向性
ア
「生活情報科」「生活工学科」「生活文化科」の整理
① 3学科の学習内容を見直し、一つの新たな学科へ改変
② 職業を意識させる学習の研究
イ 調理や食に特化した学科・コースの調査・研究
① 調理を職業とし、県産食材の良さを発信できる人材育成についての調査・
研究
② 食に特化した学科・コースの調査・研究
衣食住・
保育等のスペシャリス
ト育成のための学習の高度化
ア
高度な知識と技術を
有する指導者の育成
専門的な知識や技術を将来の職業に結びつける学習
① 各分野の学習を基に、それらをコーディネートする力を育てる取組
② 倫理観を備え、経済面と環境面からも物事を捉えさせる取組
③ 社会的認知度が高く、将来の進路に有用な新たな資格・検定の調査・検討
④ 各種コンテストへの積極的な挑戦の推進
⑤ 生徒が興味のある専門分野を深化させるための教育内容の改善・充実
イ 地域社会との連携
① 地域産業界等と連携を図り、地域産業への理解を深める取組
② 専門的な学習を深めさせるための産業現場等との連携
③ 専門学科の学びを地域貢献に結びつける学校家庭クラブ活動などの充実
④ 習得した知識と技術を生かすことができる就職先の開拓
ウ 専門家との連携
① 各分野の専門家による講習会などの実施
② 生活産業のプロの外部講師による継続的で専門性の高い授業の導入
ア
専門知識・技術の高度化及び生活産業の変化への対応
① 大学や専門学校等と連携を図り、知識・技術を高める研修機会の設定
② 生活産業の変化への対応
イ 指導者の専門研修の充実
① 充実した授業ができる指導技術を高める研修
② 教職員間の自主的な研修の推進
*¹ 衣食住、保育、家庭看護や介護など、人間の生活に最も密接にかかわる産業
-2-
2
現状と課題
【現状】
○
家庭に関する学科の設置状況は、平成元年度に15校21学科であったが、
少子化に伴う学校再編整備計画等により漸減し、平成26年4月現在は6校6
学科と減少しており、1学年の定員は全県立高校生の3%にあたる240名で
ある。
○ 全ての学科においてほぼ定員を満たし、安定した志願倍率を維持している。
○ 卒業前のアンケート調査では、「学科で学んだことに誇りをもっている」と
回答した生徒の割合が、毎年90%を越えるなど満足度は高い。
○ 卒業後の進路は約3割が就職、約7割が進学であり、進学の理由としては、
「専門知識と技術を高めるため」とする割合が高い。
【課題】
○
工業科と併設されている「生活工学科」、商業科又は普通科と併設されてい
る「生活情報科」、農業科と併設されている「生活文化科」と、それぞれの学
科名では家庭に関する学科であることが分かりにくい。
○ 4校に設置されている「生活情報科」において、専門学習の内容が統一され
ていない。
○ 専門的な学習で身に付けた知識や技術を生かすことができる進路の実現が充
分でない。
○ 将来、生活産業に就きたいと考えている生徒の割合が54%であり、専門の
学習が将来の進路に結びついていない生徒もいる。
3
目指す生徒像
○
○
向上心をもって専門的な知識や技術を習得し、努力し続ける生徒
専門学科で学んだ知識や技術に自信をもち、それを表現・活用することがで
きる生徒
○ 生活産業に携わる職業人としての倫理観を備え、ビジネスの視点と環境に配
慮する視点の両面から物事を捉えることができる生徒
○ 専門学科での学習を生かし、地域文化の継承や地域に貢献する志をもった生
徒
-3-
4
充実に向けた方向性
(1) 魅力と特色のある職業教育
少子高齢化への対応、食育の推進、消費者教育の推進などの社会の要請に対
応するため、家庭に関する学科においては、生活産業への消費者ニーズの把握
や必要なサービス提供等を行う企画力・マネジメント能力を身に付けさせるこ
とが求められる。家庭に関する学科で学ぶ生徒は、3年間の学習に対する満足
度が高い一方、高校での学習と職業が結びついていない生徒も見られ、生活産
業のスペシャリスト育成の観点から、学科の改変や新たな学科・コースを視野
に入れた学習内容の見直しが求められる。
ア
「生活情報科」「生活工学科」「生活文化科」の整理
本県においては、平成6年度以降、女子教育のイメージが強い「家政科」
の募集停止を開始し、男女が共に学ぶ新たな学科として「生活情報科」「生
活工学科」「福祉生活科」の3学科を設置した。その後、福祉科の新設によ
り「福祉生活科」は募集停止となり、20年が経過した現在、「生活情報科」
4校、「生活工学科」1校が存続している。また、平成16年度には宮崎農
業高校に「生活文化科」が新設された。しかし、3学科共に男子生徒の割合
は低く、男女が共に学ぶ学科とは言い難く、加えて、職業への結びつきが薄
いことから、学科の整理と学習内容の検討が必要である。また、将来の職業
人を育成する観点から、習得した知識と技術を生かした商品開発等の学習な
ど、将来的な起業を視野に入れた学習の導入も求められる。
① 3学科の学習内容を見直し、一つの新たな学科へ改変
(例)家庭に関する学科であることが伝わりやすい学科名を検討し、現在の6
校3学科を統一した学科名とし、時代に即した学習内容とする。
② 職業を意識させる学習の研究
(例)1年次に学習する「生活産業基礎」*² の内容を発展させ、2、3年次の
「課題研究」において、ものづくりの知識や技術を生かした商品開発な
どの将来の起業を視野に入れた学習を導入する。
イ
調理や食に特化した学科・コースの調査・研究
食材の豊富な本県には、食に関する知識や技術を生かす数多くの産業があ
り、近年、フードビジネスを核として地域活性化を図る取組も行われており、
平成26年4月には、農業の学科としてフードビジネス科が新設された。し
かしながら、調理技術をもって宮崎の食材の良さを発信できる人材を育成す
る学科やコースは県立高校には設置されていない状況にあることから、県の
産業を担う人材育成のため、調理技術の習得を基盤とし、豊富な県産食材を
PRできる人材を育てる教育課程や、食に関する知識や技術の高度化に対応
する学科やコースについて調査・研究が求められる。
①
調理を職業として、県産食材の良さを発信できる人材の育成についての
調査・研究
*² 生活産業に関連する職業への関心を高めるための科目であり、家庭に関する学科の生徒は必ず履修する
-4-
(例)調理に関する知識や技術を習得し、本県の食材の良さを発信できる人
材を育成する教育課程について研究する。
②
食品の生産や流通・販売までの流れを学習し調理に生かす等、食に特化
した学科やコースの調査・研究
(例)食に関する専門科目である「フードデザイン」「食文化」「調理」の
学習を主とする食に特化した学科・コースについて調査・研究する。
(例)食に関する基礎的な学習に加え、生産から販売の流れを学び、宮崎の
食材をコーディネートできる力を育成する宮崎ならではの学科・コー
スについて研究する。
(2) 衣食住・保育等のスペシャリスト育成のための学習の高度化
衣食住、保育、家庭看護や介護など、生活に最も密接に関わる生活産業は、
ものの豊かさからこころの豊さへ、画一・均質から多様性・選択性へと変化し
ている。消費者のニーズに対応するため、高い専門性が必要となるとともに、
職業人としての規範意識や倫理観が求められる。
ア
専門的な知識や技術を将来の職業に結びつける学習
平成21年3月に改訂された学習指導要領において、家庭科の専門科目で
は、生活産業に対する消費者ニーズを的確に把握して必要な商品を企画する
能力や、それらを提供していく上で、必要なマネジメント能力を育成するこ
とを重視している。更には、習得した知識や技術を高めながら、環境に配慮
しつつ、生活を豊かにする付加価値の高い商品やサービスを将来提案できる
力を育成することも求められている。
①
各専門分野の知識や技術を基に、それらをコーディネートし、生活を豊
かにする力を身につけさせる取組
(例)衣食住、保育、家庭看護や介護等の各分野の内容を横断的な学習の視
点で結び、生活を豊かにするための総合的なコーディネートを考える
授業内容を設定する。
②
生活産業に携わる職業人としての倫理観を備え、経済面だけでなく、生
産・流通・消費・廃棄が環境に与える影響の両面から物事を捉えさせる取
組
(例)生徒が調査や研究を進めながら、考えを深められる授業を研究する。
③
社会的認知度が高く、将来の進路に有用な新たな資格・検定の調査・検
討
(例)高校生を対象とした検定に限らず、社会的認知度が高い検定や資格に
ついて調査・検討する。
(例)衣食住の各分野で生かすことのできるカラーコーディネーターなどの
色彩に関する資格や検定について調査・検討する。
④
各種コンテストへの積極的な挑戦の推進
(例)高校生を対象としたコンテストはもちろんのこと、全国規模で実施さ
れる各種コンテストに積極的に挑戦させる。
-5-
⑤
イ
個々の生徒が興味のある専門分野を深化させるための教育内容の改善・
充実
(例)全ての学科において、2年次以降のコース選択性の導入を検討する。
地域社会との連携
地域社会との連携による様々な取組は、生徒の学習意欲の喚起、主体的な
実践能力の育成、異世代とのコミュニケーション能力の向上など、教育的効
果が高い。また、家庭科において従前から取り組んでいる学校家庭クラブ活
動では、地域が抱える課題を高校生と地域の人々が共に連携を深め、解決し
ていこうとする実践も見られる。そのため、学校と地域がそれぞれの役割を
認識し、連携を深めることが重要である。
①
地域産業界や地元自治体等と連携を図り、地域産業への理解を深める取組
(例)「生活産業基礎」「消費生活」の授業の中で、生活産業を中心とした
地域産業について学習する機会を取り入れる。
(例)地域の企業、施設等でのインターンシップを更に充実させる。
②
専門的な学習を深めさせるための産業現場等との連携
(例)2、3年次の「課題研究」において、ものづくりの経験を生かした商
品開発等を地元産業界と連携して行う。
③
専門学科で学んだことを地域貢献に結びつける学校家庭クラブ活動など
の充実
(例)福祉施設におけるボランティア活動、子どもや高齢者とのふれあい活
動、小・中学生への食育活動など継続的な地域貢献を行う。
(例)地域社会の抱える課題の解決に地域と共に取り組む。
④
習得した知識や技術を生かすことができる就職先の開拓
(例)生徒が習得した知識や技術を企業等に伝えるための情報発信の方策を
研究する。
ウ
専門家との連携
家庭に関する学科で学ぶ生徒が、将来スペシャリストとして活躍する分野
は、食生活、衣生活、住生活、保育、家庭看護や介護など多岐にわたってい
る。また、卒業後進学し、更に高度な専門分野について学ぶ生徒も多いため、
高校時代に生徒が各分野の産業の内容や職業を理解し、将来働くイメージを
もつことが重要であり、そのためには、プロの外部講師等専門家との連携が
必要である。
①
各分野の専門家による講習会などの実施
(例)調理師や専門調理師、製菓衛生師による実技講習会等を更に充実させ
る。
(例)アパレル産業やファッション小売産業に携わっている専門家からファ
ッションコーディネートを学ぶ機会を設ける。
-6-
②
生活産業のプロの外部講師による継続的で専門性の高い授業の導入
(例)「課題研究」の授業に継続的に招へいし、少人数指導において専門性
を高める。
(3) 高度な知識と技術を有する指導者の育成
家庭科教育の充実のためには、今日の技術革新に対応した指導力を高めるこ
とが大切である。そのため、大学や専門学校等と連携し、高度な知識と技術を
有する講師による講義や実習、長期派遣研修等を行うとともに、研究部会等に
おける自主的な研修を推進するなど、指導者の支援体制の構築が必要である。
ア
専門知識・技術の高度化及び生活産業の変化への対応
生活産業においては、従来からある資格や職業に加え、フードコーディネ
ーター*³、フードスペシャリスト*⁴、インテリアプランナー*⁵など新たな資格
や職業が増えている。そのため、様々な資格や職業に必要な資質、能力、知
識や技術を学ぶとともに、産業構造の変化による社会的ニーズの変化に対応
できる指導力を身に付ける必要がある。
①
大学や専門学校等と連携を図り、専門的な知識や技術習得のための研修
機会の設定
(例)県内にある食物系の大学や専門学校、被服系の専門学校等と連携し、
知識や技術を高める研修を設ける。
②
生活産業の変化への対応
(例)産業界の現状を知るため、生活産業の現場における長期派遣研修等の
機会を設ける。
イ
指導者の専門研修の充実
平成14年度の学習指導要領の改訂により、小学校「家庭科」及び中学校
「技術・家庭科」の授業時数が減り、知識や技術の定着が十分でないことから、
家庭に関する学科に入学する生徒において、基礎的な内容の学習に多くの時
間を割いている現状がある。そのため、効果的な学習方法を研究し、3年間
の学びの質を高める必要がある。
①
実習だけでなく座学においても充実した授業ができる指導技術を高める
研修の実施
(例)知識と技術の背景にある理論を理解させ、実験・実習で検証させる等
の指導方法の研究を行う。
②
専門的な知識や技術を伝承するための教職員間の自主的な研修の推進
(例)高度な技術を必要とする作業は、短期間の研修で高まるものではない
ため、教職員同士で教え合う自主的で継続的な研修を推進する。
*³ 食の各分野を複合的にコーディネートする専門家(日本フードコーディネーター協会認定)
*⁴ 大学や短大等において食分野の必要単位を取得した専門家 (日本フードスペシャリスト協会認定)
*⁵ 企画・設計・工事監理を行うインテリアに関する専門家(建築技術教育普及センター認定)
-7-
Ⅱ
共通教科である「家庭科」の学びの在り方
1
概要
現状
○
高等学校において家庭科は全生徒が履修することとなっており、履修科目は学校ごとに設
定することになっているが、本県高校生の67%が「家庭基礎」(2単位)、33%が「家庭
総合」(4単位)を履修している。
○ 家庭科に興味がある生徒の割合は84%であり、多くの生徒が授業に意欲的に取り組んで
いる。
課題
○ 教育課程全体を考えると、家庭科の学習に充分な時間を充てることが難しく、家庭総合を
履修する学校が減ってきている。
○ 授業を通して知識や技術を学んでいるが、生活に生かすところまでには至っていない生徒
も見られる。
○ 小・中・高校における発達段階に応じた知識や技術の積み重ねが充分でない。
【答申】
目指す生徒像
○
家族・家庭の意義を理解し、男女が協力して家庭生活やライフプランを考えることの重要
性を認識している生徒
○ 自立を見据え、生活に関する知識と技術を習得しようとする意欲をもった生徒
○ 生命・自然・もの・金銭を大切にする心をもち、生活の全てが環境に影響を与えていると
いう自覚をもった生徒
○ 異なる世代と関わりながら地域社会の一員としての役割と責任を果たすことができる生徒
充実に向けた方向性
共通教科である家庭
科教育の充実
ア
生徒の実態と社会的ニーズ
を踏まえた指導力の向上
生活的、社会的、経済的、精神的に自立する自覚や責任感の醸成
① 男女が協力して家庭や地域の生活を創る意欲の育成
② 衣食住、保育、家庭看護や介護などに関する基礎・基本の定着
③ 消費者トラブル等に関する基本的な知識の定着
イ 周りの人々や環境に配慮して生活することのできる力の育成
① 生活と環境との関わりを科学的に理解させる取組
② 生徒が自分の生活を見直し、改善しようとする態度を育てる学習
ウ 生徒の実態に即した学習内容の精選及び実習の充実
① 子どもや高齢者とふれあい、共生する力を育てる取組
② 生徒の実生活に近い実習環境の確保
ア
生徒の実態を踏まえた教科指導力向上のための取組
① 小・中学校及び大学との連携を図る取組
② 組織的・継続的な生徒の実態把握と授業研究
イ 社会の変化に対応した授業を実践するための取組
① 消費者教育、環境教育の研修
② 生涯生活設計や資産管理、リスク管理等の研修
-8-
2
現状と課題
【現状】
○
高等学校において家庭科は全ての生徒が履修することとなっており、「家庭
基礎」「家庭総合」「生活デザイン」のうちから一つの履修科目を学校ごとに
設定することになっているが、本県の高校生のうち67%が2単位の「家庭基
礎」を、33%が4単位の「家庭総合」を履修している。
○ 生徒へのアンケート調査によると、家庭科に興味がある生徒の割合は84%
であり、多くの生徒が授業に意欲的に取り組んでいる。
【課題】
○
教育課程全体を考えると、家庭科の学習に充分な時間を充てることが難しく、
家庭総合(4単位)を履修する学校が減ってきている。
○ 授業を通して知識や技術を学んでいるが、実際の生活に生かすところまでに
は至っていない生徒も見られる。
○ 小学校・中学校・高等学校における発達の段階に応じた知識や技術の積み重
ねが充分でない。
3
目指す生徒像
○
家族・家庭の意義を理解し、男女が協力して家庭生活やライフプランを考え
ることの重要性を認識している生徒
○ 自立を見据え、生活に関する知識と技術を習得しようとする意欲をもった生
徒
○ 生命・自然・もの・金銭を大切にする心をもち、生活の全てが環境に影響を
与えているという自覚をもった生徒
○ 異なる世代と関わりながら、地域社会の一員としての役割と責任を果たすこ
とができる生徒
-9 -
4
充実に向けた方向性
(1) 共通教科である家庭科教育の充実
平成21年3月に改訂された高等学校学習指導要領において、家庭科につい
ては、家庭を築くことの重要性、食育の推進、子育て理解や高齢者の肯定的な
理解や支援など少子高齢社会への対応、日本の生活文化にかかわる内容などを
重視している。また、生涯賃金や働き方、年金等に関する指導も加え、生活を
総合的にマネジメントする力の育成を目指しており、自立を見据えた学習の充
実が求められている。そのため、家庭科の目標を確実に達成するためには、時
間数の充分な確保と指導内容の改善・充実を図る必要があり、生徒の実践力に
結びつく実習の時間数を確保できる4単位の科目の履修が望まれる。
ア
イ
生活的、社会的、経済的、精神的に自立する自覚や責任感の醸成
便利な生活用品があふれる中、衣食住生活、消費生活など生活の自立を求
められる場面が減少している一方、生徒の周りには、膨大な商品・サービス
とそれらに関する情報が氾濫している。このため、生活に必要な知識と技術
を身に付けさせ、一人の人間として自立する自覚や、社会の一員として地域
の生活を創造する責任感を育てる必要がある。
①
男女共同参画社会の推進を踏まえ、男女が協力して家庭や地域の生活を
創る意欲と態度の育成を図る学習の研究
(例)ライフプランについて考えを深める授業の時間を確保し、男女で協力
して家庭を築くことの意義や、家族のつながりの大切さを気付かせる
学習内容を研究する。
②
衣食住に関する基礎・基本を定着させる取組
(例)中学校での学習を踏まえ、手作りの良さを実感する実習を取り入れる
ことで、生活に関する基礎・基本の重要性を感じる授業の工夫につい
て研究する。
③
金銭トラブルや消費者トラブルに関する基本的な知識の定着を図る取組
(例)消費者問題に詳しい専門家等から話を聞かせるなど、生徒達が現状を
知る機会を設定する。
持続可能な社会を目指し、周りの人々や環境に配慮して生活する力の育成
平成24年12月に施行された「消費者教育の推進に関する法律」におい
て、一人一人の消費者が、自分だけでなく周りの人々や、地球環境にまで思
いをはせて生活し、社会の発展と改善に積極的に参加する消費者市民社会の
形成の必要性が示されている。将来にわたって充実した消費生活を送るため、
家庭科の学習の中で、こうした知識や技術を身に付けさせることは必須であ
る。
①
生活と環境との関わりについて、科学的に理解させ実践する意欲を高め
る取組
- 10 -
(例)科学的根拠に基づきながら生活に生かしていくため、実験・観察を取
り入れた授業を行う。
(例)調理技法等を科学的に捉え直すことや、再利用可能な着物の特性など
の環境に配慮してきた伝統的な生活文化を学習に取り入れる。
②
ウ
生徒が自分の生活を見直し、改善しようとする態度を育てる学習の充実
(例)ホームプロジェクトの取組を校内外に発表する機会を設定し、達成感
や自己有用感を醸成するとともに、継続して取り組む意欲を高める。
(例)卒業後自立して生活することを想定した授業を展開し、生活の改善点
に気付かせることができるような学習を取り入れる。
生徒の実態に即した学習内容の精選及び実習の充実
家庭科での学びが生徒達の生活に生かされているのかや、学習内容が定着
しているのかを検証するため、全県立高等学校及び中等教育学校においてア
ンケート調査を実施した。その結果、学習したことを家庭において充分に実
践していない実態が見えてきた。また、核家族化が進み、子どもや高齢者と
ふれ合う機会が減っている中、保育に関する学習の充実を期待する生徒も多
かった。そのため、生徒の実態に即した学習内容の精選及び実習の充実が求
められる。
①
子どもや高齢者とふれあい、共生する力を育てる取組
(例)家庭クラブ活動を生かした子どもや高齢者とのふれあい活動を推進す
る。
(例)保育人形や高齢者疑似体験器具などを活用し、ふれあい活動に必要な
知識や技術の習得を図る。
②
生徒の実生活に近い実習環境の確保
(例)実生活に即した機器・設備の導入や更新を推進する。
(例)着実に技術を習得させるため、より少人数での実習を行うことができ
る環境を整える。
(2) 生徒の実態と社会的ニーズを踏まえた指導力の向上
今回実施したアンケート結果によると、「将来の生活に生かすことができる
授業を行っている」と思っている教職員が約8割である一方、「家庭科の授業
は将来の生活に生かすことができる」と思っている生徒の割合は約6割に留ま
っており、それぞれの認識に大きな開きがある。このことは、社会生活が日々
変化する中、指導者が生活の現状と生徒の実態を正確に把握できていない可能
性があることを示している。生徒の実態を踏まえた指導力の向上が求められる。
ア
生徒の実態を踏まえた教科指導力向上のための取組
アンケート結果で明らかとなった「100人中15人は、高校生になって
も自分で炊飯ができない」という生徒の実態は、教職員が想定しているもの
- 11 -
と開きがある。小・中学校での学習の定着度を確認するとともに、継続的に
生徒の実態を把握し、分析した上で、反復学習も含めた授業での定着が必要
である。また、家庭科教員の配置が一名のみの学校も増えてきているため、
研究部会等の組織の活用や大学との連携によって、抱えている課題を解決し
ていくことも大切である。
①
小・中学校及び大学との連携
(例)小・中学校の各研究部会や大学と連携を図り、公開授業の相互参観や
地区研修会における情報交換や共同研究等を推進する。
②
組織的・継続的な生徒の実態把握と授業研究
(例)小・中学校での学習の定着度や生活の実態を把握するため、研究部会
におけるアンケ ート調査・分析等を推進し、授業の改善に生かす。
イ
社会の変化に対応した授業を実践するための取組
市場のグローバル化の進展の中で、商品・サービスの流通や販売方法も複
雑化、多様化していることに伴い、消費者のリスクも高まっており、適切な
判断力を育成することが求められている。また、雇用や経済の変化が激しい
社会において、生涯を見通した長期的な経済計画の必要性も高まっている。
このような日々変化する社会に対応した授業を実践するためには、具体的
な事例などを把握することや、新たな情報を収集するなど、指導者として教
材の研究に努める必要がある。
①
消費者教育、環境教育の研修
(例)全国各地で開催される消費者教育、環境教育に関する研修への参加を
推進する。
(例)教育ネットひむか等を活用した教材の共有化を推進する。
②
生涯生活設計や資産管理、リスク管理等の研修
(例)ファイナンシャルプランナー*⁶等の専門家による研修会等を実施する。
*⁶ 住居・教育・老後などの生活設計に即した資金計画やアドバイスを行う職業(日本FP協会主催)
- 12 -