IDFA 成果まとめ 塩原史子(AMATELAS) 初参加の IDFA でたくさんの発見がありました。 このような貴重な機会をくださった、天城実行委員長をはじめとする委員の皆様、今村さ ま、事務局の皆様、本当にありがとうございます。 以下、自分なりに成果を共有させていただきたく、まとめます。 素晴らしい講師陣のワークショップに感激した前半、フォーラムを見て刺激を受けた中盤、 携わっている企画のミーティングが出来て有意義だった後半と、非常に盛り沢山で、充実 した 1 週間でした。 ワークショップ(2 日間) 2 日間のワークショップの全編を、伊藤さん(ホームルーム)がしっかり録画してくださっ ていますので、以下は自分なりに印象に残った点をまとめます。 1 日目は、Tokyo Docs でも異彩を放つ、コミッショニングエディター2人組、BBC の Nick Fraser さんと DR の Mette Hoffmann Meyer さんのレクチャーがありました。 それぞれ、ご自分の番組( “Brakeless”, “Google and the World Brain”(BBC)/“Democrats” (DR) )について、企画との出会いから完成までの過程を、強い思い入れと愛情を持って 話されました。Nick さんも Mette さんも年間何本も出資・購入されているので、作品によ って関わり方の深さが異なるはずですが、この 3 本は、彼らが企画の初期段階(ピッチン グ)からこの作品の Director・Producer と強固な信頼関係を築き、かなり長い間(2 年~4 年)かけて見守ってきた(必要時には介入してきた)ことが伺えました。 彼らが見込んだ Director・Producer とは、その後も数本は支援し続けていることも印象的 で、自分たちが育てているような感覚も伺えました。 2 日目は、ITVF(アメリカのドキュメンタリー支援団体)の Claire Aguilar さんがドキュメ ンタリーのストーリーテリングについて、理論的観点からお話されました。 次に、CAT&Docs(セールスエージェント=国際配給会社)の Catherine LeClef さんが、 セールスエージェントという立場から、ドキュメンタリーのマーケットの現状を話されま した。彼女の会社は、ここ数年は中国・韓国のタイトルも積極的に扱っている一方、日本 からのタイトルはまだ無いとのこと。日本の制作者は、セールスエージェントを使って海 外に作品を売っていくという意識が、まだあまり強くないかと思います。もちろん、直接 売ることもできるわけですが、強いネットワークや、マーケティング的戦略の必要性、多 大な手間を考えると、日本の制作者も、今後はもっとセールスエージェントを活用してい った方がいいのではないかと思いました。 最後に、Steven Seidenberg(中国の製作会社のエグゼクティブプロデューサー)さんが、 製作会社のプロデューサーという立場から、アジア(中国)制作のドキュメンタリーを欧 米に売り込む立場として、その苦労や工夫を話してくださいました。わたしたちが欧米と まとめて捉えがちでも、ヨーロッパとアメリカは、ヨーロッパの作品の方が観客を信頼(ま たは挑戦)するのに対し、アメリカの方がよりわかりやすさが求められるなどといった、 売れる傾向の違いが印象的でした。解決策として、スティーブンさんは、各国で異なるバ ージョンを作ることに積極的でした。 以下、共同製作多数経験者にとっては当たり前のことですが、わたしのように共同製作の 経験が少ない人は、海外の人と会うと、「ヨーロッパからの海外ゲスト」「アメリカからの 海外ゲスト」 「アジアからの海外ゲスト」と、まとめてとらえがちだと思います。しかし、 どこの国から参加しているかと同時に、その人がどういうポジションから参加しているの かを理解することが大切なのだと思いました。今回のワークショップでも、それぞれの方 が経験に基づいてお話されているので、ともすると逆の趣旨の発言があったりもします。 例えば、BBC の Nick さんからは、3Acts(ストーリーの 3 幕構成)なんていうことは非常 にバカバカしいという発言がありましたが、Clair さんからは 3Acts の重要性が語られまし た。どちらが正しいということは無く、Clair さんのように、Independent Directors に助 成金を出す立場として、より強いストーリーを公正な立場で見つけるために、ストーリー 構成を非常に重要視する反面、Nick さんのようなエディターからすると、欧米の伝統的な ストーリーテリングを超えるような傑作ドキュメンタリーを求めていることなのだと思い ます。 また、自分の企画を売り込むときも、ただ「海外の会社に売り込む」というのではなく、 放送局に行くのか、製作会社のプロデューサーに行くのか、セールスエージェントに行く のか、明確な意識を持つことが重要だと思いました。製作会社のプロデューサーとしての 大先輩であるスティーブンさんからアドバイスとしては、スティーブンさんのように、各々 の企画の内容に適したプロデューサー・製作会社を国毎に把握している人、既に信頼でき る海外ネットワークを築いてきた人は、まずはその国のプロデューサーにアプローチし、 彼らから自国の放送局に売り込んでもらう方がうまく行くそうです。それに対して、わた しのように、海外のプロデューサとまだ信頼関係が築けていない場合には、的外れな海外 の製作会社に売り込むよりは、Tokyo Docs や IDFA などのピッチングセッションなどの機 会を生かして、各国の放送局のコミッショニングエディターに直接売り込んで行く方が、 敷居は高くなるものの、近道だということでした。 フォーラム セントラルピッチを7つほど、ラウンドテーブルも7つほど観覧することが出来ました。 ちょうど、三宅響子監督が“Tokyo Girls”という企画を BBC の Nick さんと組んでピッチ ングをしていたおかげで、フォーラム自体が身近なものに感じられました。Nick さんによ っては、三宅監督との仕事は 3 本目。ここからも、特定の監督を継続的に支援しようとす る姿が見受けられます。まずそのための、信頼を勝ち得る 1 本を作ることが大切そうです。 フォーラムでの、ピッチング用のトレーラー(ティーザー)のレベルは非常に高く、本編 の予告編のようにストーリーラインが見えるものばかりで、理屈よりも感情に訴えるもの が多かったです。 セントラルピッチとラウンドテーブルを比べると、セントラルピッチの方が厳かで、企画 選出の競争率も圧倒的に高いですが、ラウンドテーブルはその企画に興味がある人たちだ けが着席する仕組みになっており、カジュアル感はあるものの、かえって話が早く進んで いるものもあるのが発見でした。 セールスエージェントとのミーティング NHK 浜野さんから教えていただいた、フランスのセールスエージェント(SHK)、天城委 員長から教えていただいた、イギリスのセールスエージェント(Journeyman Pictures)と、 進行中の企画についてミーティングすることが出来ました。 作品が完成してからセールスエージェントを探す人も多いかと思いますが、話を聞いてい ると、共通してはラフカット段階あたりから付き合い始めたいという思いがあるようです。 完成して映画祭にも出品し終わったものよりも、ラフカット段階あたりから、出品する映 画祭の戦略から(映画祭に出すことが適していない作品もあるので、出すか出さないかも 含めて)立てる方が、彼らもより強くその作品にコミットして、積極的に売り込もうとし てくれる印象を受けました。 現に、今自分が携わっている企画は、制作に入る直前ですが、そのような比較的早い段階 でも、フランスのセールスエージェントは、この企画に合いそうなヨーロッパのプロデュ ーサーを紹介したりしてくれています。まだ海外プロデューサーとのネットワークが弱い 自分たちにとっては、海外の信頼できるプロデューサーを教えてもらえることは、非常に ありがたいことです。 IDFA で出会った人々 立ち話からゆっくり座ってのミーティングまで、下記以外にも色々な人とお話できました が、以下、名刺交換した人のみをまとめます。 ①Kirill Sorokin (BEAT FILM FESTIVAL(ロシア)) ロシアの、比較的新しい映画祭の共同ディレクター。 ②Ketil Magnussen(OSLO DOKUMENTARKINO(ノルウェー)) ノルウェー開催される、映画祭(Human Rights, Human Wrongs)のディレクター。 他の参加者からも、ここのセレクションはセンスがいいと聞きました。 ③Belen Sanchez(Laster Media(スペイン)) スペインの映画製作会社のプロデューサー。ドキュメンタリーとフィクションの両方を制 作。村上龍のベストセラー小説「イン ザ・ミソスープ」も映画開発もしていた(現在は企 画開発権を他社に売却譲渡) 。 ④Emma Simpson(Journeyman Pictures(イギリス)) イギリスのセールスエージェント。取扱いタイトルの強さに定評あり。日本がこのエージ ェントを通じてヨーロッパ映画を購入することも多い。 ⑤Christine Klaver(SHK(フランス)) フランスのセールスエージェント。報道系ドキュメンタリーに強い。 ⑥Min-Chul Kim(Docair(韓国)) 去年の Tokyo Docs でモデレーターを務めた、キム・ミンチョル氏が、韓国で配給会社を設 立した。 ⑦Marica Stocchi(Minimum fax media(イタリア)) イタリアはローマを拠点とする製作会社のプロデューサー。親会社は出版社で、自社で出 版された小説を基に、フィクション映画も制作している。 わたしは、2 年前に設立された製作会社(AMATELAS)所属のプロデューサーとして参加 したので、まだ誰も自分たちの会社名を知らず、また IDFA の公式ピッチにも選ばれてい ない状況での参加でした。このような立場で、忙しそうに次のミーティングに向けて、早 足で歩いている参加者たちにどのように声をかけていいか、最初は戸惑っていました。 以前に映画製作会社にいた時、海外の映画マーケットに参加したことは何回かありました が、その時は、自社のブースを出していたので知り合うのも簡単だったのですが、今回は 単身、背の高いオランダ人に街で埋もれる中、どのように広げていったらいいのか。 結果としては、2方向から会えることが出来ました。 ひとつは、IDFA の公式ガイドからメールをして、会場で待ち合わせして会ってもらうケー ス(④、⑤) 。また、 「海外と積極的に映像制作していきたい」という AMATELAS の紹介 文を読んで、あちらが興味を持って連絡をくれたケースもありました(③、⑦) 。 もうひとつは、映画上映の時に隣に座ったり、朝食の時に隣に座った人たちと、前日に見 たピッチや映画の情報を交換して仲良くなるケースがありました(①、②は名刺交換しま したが、それ以外にも多数) 。フォーラム(セントラルピッチ・ラウンドテーブル)の会場 や、Docs for Sale(マーケット)の会場では、そのエリート感とヒエラルキー感(?)から声 をかけづらかった人たちも、フリータイムでは同じ、ドキュメンタリーが大好きな仲間で す。 このようなオフの時間に意外にもたくさんの人 (首から ID をぶら下げているのが目印) と話すことが出来て、初日は誰とも話せなかったのですが、最終日にはかなり話しかける のが上手になりました。
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