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(4)効果の低下した漁場機能の再生
1)水産生物の生活史を考慮した漁場機能の回復調査
水産生物の生活史を考慮した漁場機能の回復調査
造成藻場のイセエビ保育機能の解明
目的
造成された藻場が水産資源の維持・回復に果たす役割を明らかにする。初年度は、ポストラー
バとして藻場に着底し、稚エビ期を藻場で過ごすイセエビを対象に、造成藻場の持つイセエビ保
育場機能についての定性、定量的な評価を行う。
方法
イセエビのポストラーバは藻場に来遊して海藻に着底し、岩礁表面に開口する小さな穴を隠れ
場所として利用するため、海藻と穴が重要な環境条件である。長崎市周辺では、岩質の硬い礫場
で藻場が造成されており、小さな穴が限られているため、イセエビ保育場には適していないと考え
られる。そこで、これら 2 つの条件を備えた核藻場礁を野外に設置し、この中でイセエビの着底・生
息状況をモニタリングすることで、小規模な藻場の持つ機能を評価する。
野外実験に用いた核藻場礁は、長崎県などの公共事業で用いられている k-hat リーフ(住友大
阪セメント社製)で、食害防止用のネットを有している。通常 9 個ある海藻ユニットは、観察しやすい
ように 4 個に減らし、かつユニットの礁外側に面する3側面には、稚イセエビ用の3段階の穴(直径
×奥行き:10×30、15×40、20×50mm)を 18 個ずつ穿った(写真1)。海藻ユニットと台座上には、
海藻を中間育成したプレート(20×20cm、24 枚/基)を取り付けて藻場を再現した(写真2)。礁1基
当たりの藻場面積は、2.5 ㎡であった。野外実験は長崎市地先の 2 箇所で行い、三重町地先では
ノコギリモク 2 基、ヤツマタモク 2 基、海藻なし 2 基の計 6 基を、野母町地先ではノコギリモク 2 基、
アントクメ 2 基、海藻なし 2 基の計 6 基を、水深約 10m地点にそれぞれ約 5m離して設置した。各
礁におけるイセエビ加入状況と海藻の生育状況を6~12月の期間中に適宜実施し、合わせて周
辺の天然岩礁域を対象とする調査も実施した。
結果と考察
三重町地先はマメタワラやツクシモクなどが繁茂する春藻場形成域であり、8 月以降は磯焼け様
の景観に転ずる特徴があり、周辺には四季藻場は全く見られない。一方、野母町地先はアントクメ
が繁茂し、三重町地先よりもやや長い 8 月一杯までは藻場が形成されるが、9 月以降はやはり磯焼
け様の景観に転ずる。比較的近い地点にノコギリモクが四季藻場を形成している。
両地とも、設置した核藻場礁にはイセエビのポストラーバが着底した。礁には時折脱皮殻も残さ
れており、大きく成長した稚エビはより大きな穴を利用していた(写真3)。ポストラーバの着底は 7
月から始まり、もっとも遅い例では 12 月まで続いた。三重地先では甲長6~21mmの稚エビ延べ 72
個体が、野母地先でもやはり甲長6~21mmの稚エビが延べ 82 個体観察された(表 1、図1)。着底
数が多かった区は、両地先ともにノコギリモク区であり、ヤツマタモク区・アントクメ区がそれに次い
-178-
だ(表 1)。三重町地先では海藻なし区で稚エビは全く観察されなかったが、野母町地先では 9 月
下旬に若干の加入が見られた。地先別・実験区別のイセエビ加入数と海藻の藻長及び被度の経
時変化を図2に示す。これによると、調査期間中に海藻が存在し続けたノコギリモク区では、イセエ
ビの加入は 7 月から 11 月まで継続した。これに対して、8 月下旬にほとんどの直立部が流失したア
ントクメ区では、それ以降の加入が見られなかった。これらのことは、ポストラーバの着底に海藻が
必要であることを示唆する。一方、夏以降にノコギリモクほど伸びなかったヤツマタモク区では加入
が少数に留まった。
地先別・実験区別に着底数と第 2 令以降の稚エビの生息密度を求めた(表 2)。これによると、ノコ
ギリモク区の着底密度は平均 0.36-0.78 個体/㎡、最大 4.4 個体/㎡、稚エビ生息密度は、最大で
2.02 個体/㎡であった。ヤツマタモクの着底密度は、平均 0,11 個体/㎡、最大 1.21 個体/㎡、アン
トクメ区では平均 0.10 個体/㎡、最大 1.61 個体/㎡であり、いずれも海藻なし区よりも高密度であっ
た(表2)。春藻場形成域である三重町地先の天然岩礁でのモニタリングでは、イセエビの加入は藻
場が形成される 7 月以前に限られることが示された(図3)。この傾向は過去 3 年間においても見ら
れたものである。当地に設置した核藻場礁には 10 月まで加入が継続したことから、春藻場域に夏
以降イセエビポストラーバの加入が生じないのは、ポストラーバが来遊しないからではなく、着底に
必要な海藻が不足したことに起因する可能性と、ポストラーバは広域に広がる擬似磯焼け地から核
藻漁礁を見つけ出すという、海藻探知能力を有する可能性が示唆される。
以上の様に、2.5 ㎡の小規模な藻場であっても、最大で 11 個体のポストラーバが着底し、稚エビ
保育場として機能することが確認された。ただし、そのためにはイセエビに適した隠れ場を、海藻と
共に与えてやることが必要である。
今後の課題
今回の実験では、着底直後の小型個体に焦点を当てたため、礁には甲長約 22mm 以上の稚エ
ビが隠れられるサイズの穴は与えなかった。このため、成長とともに比較的短期間のうちに礁から
出て、周辺の岩礁部に移動したと推測される。より長期間に渡って保育場として機能させるには、よ
り大きなサイズの穴を与えてやれば良い。ただし、礁 1 基で保育可能なイセエビの個体数について
は今後の課題である。
今年度は、ほぼ期待通りの実験結果が得られた。ただし、単年度の成果に過ぎないことから、次
年度も同様の実験を継続してデータの蓄積を図る必要がある。
-179-
写真1. 左:実験に用いた核藻場礁
右:礁の海藻ユニット壁面に穿った稚エビ用の穴
写真 2. 各実験区の設定状況。左より無海藻区(磯焼け)、アントクメ区(春藻場)、ヤツ
マタモク区(春藻場)
、ノコギリモク区(四季藻場)
写真 3. 礁に住み着いた稚エビ.上:第 1 令稚エビ、下左:脱皮殻
下右:成長して大きな穴に移動した稚エビ
-180-
表 1.
野外調査の実施状況と実験地・実験区別のイセエビ生息数.
実験地
三重
2010/6/16
開始
2010/6/24
調査日
終了
調査日数
2010/12/2
10
野母
2010/6/17
2010/6/23
2010/12/1
礁設置
ヤツマタモク
20
ノコギリモク
14
16
18
20
22
6
8
10
20
15
15
着底数
16
18
20
22
10
5
10
5
0
6/21
8/10
9/29
11/18
1/7
2/26
5/2
三重地先・海藻なし区
50
50
0
9/29
平均藻長(最大-最小)
11/18
1/7
藻長 cm
100
被度%
150
8/10
着底数
5
0
1/7
6/21
8/10
9/29
平均藻長(最大-最小)
15
10
11/18
1/7
アントクメ被度
5
0
5/2
2/26
三重地先・ヤツマタモク区
図2.
0
5/2
ヤツマタモク被度
11/18
50
0
0
2/26
10
9/29
100
50
15
8/10
1/7
100
20
6/21
11/18
150
20
5/2
9/29
200
100
6/21
8/10
野母地先・海藻なし区
200
5/2
6/21
6/21
8/10
9/29
11/18
1/7
野母地先・アントクメ区
実験地別・実験区別のイセエビ加入数と海藻の藻長および被度の時系列変化.
-181-
被度%
着底数
14
実験地別・実験区別の稚エビ甲長組成(左:三重、右:野母).
20
5/2
藻長 cm
12
甲長 mm
0
着底数
50
21
11
海藻なし
甲長 mm
図 1.
23
12
6
ノコギリモク
0
12
9
4
0
20
0
10
13
4
4
アントクメ
10
8
5
1
1
Total
60
11
1
30
10
6
2
2
2
40
海藻なし
30
礁数 ポストラーバ
2
6
2
0
2
0
ノコギリモク
アントクメ
無海藻
個体数
個体数
40
10
実験区
ノコギリモク
ヤツマタモク
無海藻
延べ生息数
稚エビ
第1令 第2令 >第3令
29
9
16
5
1
5
0
1
0
50
50
6/21
8/10
9/29
11/18
平均藻長(最大-最小)
1/7
100
150
100
50
50
0
5/2
0
2/26
0
6/21
8/10
9/29
平均藻長(最大-最小)
ノコギリモク被度
20
15
15
着底数
20
10
11/18
1/7
ノコギリモク被度
10
5
5
0
0
5/2
6/21
8/10
9/29
11/18
1/7
5/2
2/26
三重地先・ノコギリモク区
6/21
8/10
9/29
11/18
野母地先・ノコギリモク区
図2.
続き.実験地別・実験区別のイセエビ加入数と海藻の藻長および被度の時系列
表 2.
海藻種別・地先別の着底数と密度、及び稚エビ生息数と密度.
密度は単位藻場面あたりの尾数.
2令以上の稚エビ生息数
平均数 平均密度 最大数 最大密度
尾/㎡
1.39
0.56
4.00
1.61
1.60
0.65
5.00
2.02
0.33
0.13
2.00
0.81
0.80
0.32
3.00
1.21
0.06
0.02
1.00
0.40
0.30
0.12
2.00
0.81
180
平均藻長
藻長 cm
CPUE
120
6
5
4
3
60
2
1
0
2010/5/2
図3.
2010/6/21
2010/8/10
2010/9/29
2010/11/18
稚エビ CPUE( No/h)
着底数(ポストラーバと第1令稚エビ)
地先 平均数 平均密度 最大数 最大密度
尾/㎡
尾/㎡
ノコギリモク 三重
1.94
0.78 11.00
4.44
ノコギリモク 野母
0.90
0.36
4.00
1.61
ヤツマタモク 三重
0.28
0.11
3.00
1.21
アントクメ
野母
0.25
0.10
4.00
1.61
海藻なし
三重
0.00
0.00
0.00
0.00
海藻なし
野母
0.25
0.10
2.00
0.81
海藻
0
2011/1/7
三重町地先の天然岩礁域における稚エビ生息数(CPUE)と大型褐藻類の平
均藻長の経時変化.矢印は春藻場が形成される期間.
-182-
1/7
被度%
100
藻長 cm
150
0
5/2
着底数
200
100
被度%
藻長 cm
200