高分解能3軸加速度計による宮城県はるか沖海底変動の長期

高分解能3軸加速度計による宮城県はるか沖海底変動の長期観測
○深尾良夫・杉岡裕子・伊藤亜紀(海洋研究開発機構),塩原 肇(東大地震研),
Jerome M. Paros (Paroscientific, Inc.)
「かいれい」航海(KR13-09)において、2013 年5月から 2014 年3月まで、2011 年東北沖巨大地震震
源域の直上で海底変動観測を実施した。用いた Paroccientific 社の新型水晶式加速度計は最大加速度
2g から9桁下までを分解でき、擬似直交3成分の出力を重力加速度ベクトルに依拠して完全直交3成
分に変換することができる。この加速度計システム(AOBS)と広帯域海底地震計・差圧計・海底傾斜
計システム(BBOBS/DPG/OBT)とを互いに 35m 離して宮城県はるか沖の海溝内側急斜面の頂上付近(水
深 3400m、傾斜 14.5 度)に設置した。得られた記録の解析から今回は、
(1)海底観測装置の近地強震
によるロッキング現象:その特徴とメカニズム、及び(2)繰り返し起こる海底円弧滑りの検出:そ
の特徴とメカニズム、の2テーマについて概略を報告する。
図1は、
(1)に関する AOBS 記録の例である。4つの地震とも、AY 成分(海底斜面に沿って山側向き:
N290E)は強震加速度の極性がプラスで強震後のオフセットの極性がマイナスを示す。AZ 成分(海底
斜面垂直上向き)の強震加速度の極性はマイナスで強震後のオフセットの極性はプラスを示す。Atotal
(3成分の合力で鉛直上向きの加速度を表す)の強震加速度はマイナスで強震後にオフセットを残さ
ない。これらの著しい特徴を説明するモデルを提案する。震源域近くの海底面に設置した装置は、こ
こで提案するようなロッキング現象を起こす可能性のあることに留意する必要がある。
図2は(2)に関する AOBS 記録及び BBOBS/DPG/OBT 記録の例である。観測期間 10 か月中に 42 イベン
トを検出したが、そのうち2イベントを示す。BBOBS 及び OBT の Z,X,Y はそれぞれ鉛直上向き、水平北
向き、水平東向きを意味する。この2つに限らず検出した全てのイベントは、AOBS の AY 成分の極性が
マイナス、AZ 成分の極性がプラス、Atot に変化はなし、OBT の Y 成分の極性はプラス、AOBS の AX 成
分と OBT の X 成分の極性は同一イベントでは常に同じ、また AOBS の AY 成分波形と OBT の Y 成分波形
とはそっくり(42 イベントの相関係数の平均は 0.89)、立ち上がり時間はごく短いものでも 100 秒以
上あるなど、異なる成分・測器・サイトの間で著しい共通性・整合性を示す。こうした特徴を統一的
に説明する半定量的な海底円弧滑りモデルを提案する。本観測は間歇的に起こる海底地滑りを初めて
捉えた例であり、海底表層活動の解明に重力加速度ベクトルをレファレンスにした固定3軸高分解能
加速度観測が有望であることを示すものである。
図1.4つの近地地震の加速度計記録。各成分はデジタル処理により精確に直交化されている。
図2.2つのゆっくり傾斜イベント。それぞれ間歇的な海底円弧滑りを示す。AY 成分と Y 成分の波形の相似性に注意
。