講演 就職問題懇談会 立教大学総長 吉 岡 知 哉 ただ今ご紹介いただきました、立教大学の吉岡でございます。平成 26 年度の全国キャ リア・就職ガイダンス開催にあたり、主催者の一員である就職問題懇談会を代表いたしま して、私からは大学側の立場から、学生のキャリア教育、就職採用活動についてお話をさ せていただきます。先ほど遠藤理事長のお話にもありましたが、この会は昨年までは全国 就職指導ガイダンスという名称で行われて参りましたが、今年から全国キャリア・就職ガ イダンスという名称に変更になりました。ここにいらっしゃる皆様には申し上げるまでも ないことですが、かつては大学等の教育機関と社会との接点は就職という「点」で捉えら れていましたが、現在では、キャリアというより長い「線」で考えられ、就職もそのよう なキャリア形成過程の一段階として位置づけられるようになりました。多くの教育機関で 就職部という名称がキャリア・センターという名称に変えられていったのはこのような事 情を反映しているものと思われます。けれども、その後キャリア教育が次第に正課教育の なかに取り入れられるようになる一方、就職活動の時期が早まっていき、就職支援とキャ リア教育とが分離していく傾向が生じたようにも思います。このたびこの会の名称が全国 キャリア・就職ガイダンスと変更されたのは、あらためてキャリア教育と就職支援との結 びつきを考えていくことの重要性が認識されたためであろうと考えます。 さて、私たちを取り巻く状況の変化のなかで最も重大かつ喫緊の問題であるのが、申す までもなくグローバリゼーションの問題です。情報通信技術の急速な発達と結びついたグ ローバリゼーションによって、私たちの眼前にはこれまで見たこともない世界が開けてお り、膨大な情報が文字通り一瞬にして地球を駆けめぐっています。しばしばグローバリゼ ーションを日本の外側で起こっている現象であるかのような表現がされることがあります が、グローバリゼーションは、好むと好まざるとに関わらず日本社会を含む世界全体の構 造を内部から急速に変えつつあり、それに伴って企業も大学も大きく変化しつつあります。 このように大きく根源的な変化のなかで、質の高い教育の重要性が改めて強調されるよ うになり、教育全体、とりわけ高等教育の転換が生じています。学生時代という決して長 いとはいえない時期は、学生が新たな自己発見をし、将来への飛躍の準備をするかけがえ のない時間です。正課の授業や学習はもとより、スポーツや文化活動等の課外活動、ボラ 1 ンティアやインターンシップ等の課外教育活動、あるいは留学や海外研修を通じて、学生 がどれほど成長するかはいくら強調してもしすぎることはありません。けれどもここ何年 かに渡って、就職活動、いわゆる「就活」が早期化・長期化し、学生生活全体を圧迫する事 態が生じていました。大学教育の国際化にとって必要不可欠な留学という 1 点を取ってみ ても、就職活動との関係で学生が留学を断念し、あるいは意欲を削がれてしまう状況が続 いていました。 これに対して、就職問題懇談会は、正常な学校教育と学生の学習環境を確保するため、 大学等関係団体の総意として、企業側に対して、大学等の卒業終了予定者の就職・採用活動 の早期化の是正等について要請をして参りました。就職・採用活動時期の後ろ倒しについて は昨年 4 月、安倍内閣総理大臣から経済団体に対して、平成 27 年度卒業終了予定者つま り現在の大学 3 年生から、広報活動の開始時期は 3 年生の 3 月から、また採用選考活動の 開始時期は最終学年の 8 月から、という要請がなされました。また、これに続いて 4 月 22 日には、下村文部科学大臣から私たち大学等関係団体に対し、後ろ倒しによって得られた 時間を有効に活用して、国民や社会の期待に答える人材を育成するよう要請がありました。 具体的には、大学等が主体的に大学改革を実行し、大学教育の質的転換を図ること、イン ターンシップを始めとした、初年次からのキャリア教育、職業教育の充実、地域、産業界 からのニーズを踏まえたカリキュラムの策定、学生の海外留学の促進とそのための体制準 備等に、早急に取り組んでいただきたいとのことでした。就職・採用活動時期の後ろ倒しに ついては、昨年 6 月 14 日に閣議決定された日本再興戦略にも盛り込まれ、これに則った 形で、日本経済団体連合会が、同年 9 月 13 日に採用選考に関する指針を改定し、就職問 題懇談会においては、同年 9 月 27 日に申合せを策定し公表いたしました。 グローバリゼーションは非常に激しい変化を生み出しています。このような変化の時代 だからこそ、基礎的な知力、長い時間軸と広い視野で物事を理解する思考力、変化を受け 入れ自分と社会とをよりよいものへと変えていく勇気、さらに、自分とは異なる文化的背 景や価値観を持つ人々と共に働き共に生きていくことのできる共生力とリーダーシップを 身につけることが大切です。先ほども述べましたが、このような資質は、いわゆる正課の 授業はもとより、様々な課外活動、ボランティアや課外教育等を含む学生生活全体を通じ て育まれていきますが、これからはとりわけインターンシップが重要になってくると思わ れます。企業の皆様方には、キャリア教育の一環としての、早い段階からのインターンシ ップへのご協力をお願いいたします。 2 先ほども申しましたけれども、現在の大学 3 年生から、いよいよ就職・採用活動時期が 後ろ倒しされることになります。新しいスキームが円滑に実現していくためには、企業側、 大学側双方が、学生が学業に専念し、留学等の多様な経験ができる環境を整えるという、 この後ろ倒しの趣旨を踏まえて協力していくことが大切であることはいうまでもありませ ん。私たち大学側としては、全教職員が連携協力し、学生に不安と混乱が生じないよう努 めることが重要と考えます。皆様方におかれましてもご協力等をお願いいたします。また、 採用選考の際には、少なくとも卒業前年度の学業成果を適切に評価していただくよう、改 めてお願いいたします。 私たちは、グローバル化のなかのキャリア・就職支援という、これまで経験したことの ない状況におかれています。今後、日本から海外へ出ていく学生も海外から日本に留学し てくる学生も、急速に増加し、質的にも大きく変わっていくことが予想されます。日本か ら海外に出かけていき、帰国してから日本で就職する学生だけでなく、海外の企業に就職 する学生も増えていくと思われます。また、海外から日本に来る留学生も、自国に戻って 就職する学生、日本の企業に就職する学生など多様です。私たちの課題は様々ですけれど も、1 人 1 人の学生が自分の人生をよく考え、激しく変化する社会のなかで、十全な自己 実現ができるよう支援していくことが、私たちの社会的な役割であると考えます。本日の ガイダンスが、企業側と大学側との相互の理解を深め、次の時代を担う青年たちの育成に 役立つ意見交換の場となることを期待しております。本日はご来場ありがとうございまし た。 3
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