新年ご挨拶(2015)

新年ご挨拶(2015)
明けましておめでとうございます。年頭に当たり一言ご挨拶を申し上げます。
昨年を振り返りますと、良くも悪しくも第一次産業・地域・協同組合の議論
が活発になされた一年でした。ある意味、我々の調査研究領域に焦点が当たっ
た年だったとも言えます。結構忙しい一年でした。
「走りながら考える」的な仕
事もたくさん舞い込みました。第一次産業に光が当たること自体は、当研究所
は歓迎すべきでしょう。
ただ、残念なことに政府の進める政策議論は当研究所にとっていささか違和
感のある論調で進みました。アベノミクスの第三の矢、成長戦略の農業版は、
「日
本農業は高齢化・担い手不足でドン詰まりだ」
「しかしやり様によっては成長産
業だ、企業参入で成長産業化できる」、よって「現在の農家や団体には任せてお
けない」という論理です。そこでは「非連続な改革」とか「攻めの農業」とい
う勇ましい言葉が並び、規模拡大、六次産業化、輸出等々が過去の政策を突破
するイメージが語られ、スローガン的な目標と戦略が掲げられました。
世代交代期を迎えた第一次産業において、個々の経営が「食っていける」展
望感を持つには何が大切か、まずは政策の経営所得対策の安定、そして農地集
積や新規就農の促進支援といった地域での地道な取組みといった基本的な施策
や地域での努力がベースだと思うのですが、それよりも、外部からの参入や市
場を意識した競争と創意工夫が成長の鍵だ、といった論調です。
こういう流れのなかで、周囲からは農林水産業と地域と協同組合に足場を持
つ当総研への期待、叱咤激励の声をいただく機会も増えました。即ち産業論と
地域論のバランスのとれた議論や、協同組合の価値の再確認等を理論的・実証
的に発信せよ、という声です。
今年を展望するとどうか、直感ですが、今年も変化の激しい、ブレの大きい
年になりそうです。農業関係では目前の農協改革の議論、TPP交渉の行方、
地域創生の論議の行方、エネルギー政策、震災復興の軌道、…JA 大会の年でも
あります。経済金融では緩和からの出口に向かうアメリカと緩和路線を踏襲す
る日本と欧州、軟着陸を目指す中国、揺れる新興国。流動性を背景にした低成
長下の株高で、不気味なマグマも滞留し、いろんなことが岐路に立っている感
じです。
考える視野、ヒント、材料が求められる年でしょう。
当総研は引き続きそれらの材料を系統のメンバーに、そして世の中に提供・
発信することに注力したいと考えています。幸い当研究所には現場調査にお邪
1
農林中金総合研究所
http://nochuri.co.jp
魔できる体制とメンバーと歴史があります。また、第一次産業、地域、協同組
合に関する過去の研究や海外の研究機関との連携・蓄積もあります。マクロ経
済の潮流や比較分析の視点もあります。こういった利点・蓄積を総動員して視
座のぶれない調査研究と発信に努力したいと考えています。
当社にとって今年は中期経営計画の 3 年目、最終年に突入します。中計の基
調テーマ、
「協同組合を核とした地域再生」が真価を問われる時です。協同組合
の組織・事業を通じて、あるいは参加と自治の力でどう農業と地域の内発的な
発展を促進できるのか、それを論理的・実証的に発信していくことが正に今年
の本筋のテーマになる気がします。
地域の多様性に応じて、どんな農業、どんな地域を目指すのか、それを誰が
担い、誰が支えるのか、そういった共通像が地域から内発的に持ち上がってこ
なければ、それぞれ抱えている農業や地域の課題に対して実際の展望は開けま
せん。一律の、理念的な、型にはまった「改革案」では絵に描いた餅です。協
同組合は、それらの課題に人々と地域をまとめることのできる人的組織、そし
て実業を持つ経済組織として役割を持つはずです。
そのためには、まずは多様な一次産業・地域の現場実態、農協・漁協・森林
組合はじめ地域組織と基礎自治体の活動実態を把握する必要があります。さら
にそこで把握された課題に対し、過去の議論や研究はどう整理しているか、海
外では同じ問題をどう解決しているか、目前の課題を客体化する視点も必要で
す。そんな複眼的なアプローチで当総研は第一次産業・農山漁村・協同組合の
構造と変化の態様を明らかにし、その理論化を心がけます。単なる分析ではな
く課題と解決を広く提起し、系統組織の施策や行政の施策にも反映させていき
たいと思っています。
農林水産業、協同組合、震災復興、経済金融の各分野において、引き続き現
場調査をベースとした事実分析の目と、グローバルな視点からの広角・客観的
な分析とを心がけたいと思います。活動面では先を展望してテーマを選定し、
一方でこれまでの蓄積を生かして内外の研究機関や大学とも連携、ネットワー
クを維持拡大し、系統組織・事業に対し、あるいは広く対外的に成果を発信し
ていきたいと思っています。
所員一同、熱い心と冷静な目を持って、信頼される系統組織のシンクタンク
として、調査・研究の質的向上と発信力強化を図っていく所存です。
今年も皆様のご支援・ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
平成 27 年 1 月 5 日
代表取締役社長 古谷周三
2
農林中金総合研究所
http://nochuri.co.jp