多様化する公契約条例~公契約条例の現状と今後の課題 1.この 1 年間で策定された条例 「公契約条例」という名称の条例や「契約に関する条例」など、2014 年から 2014 年末ま でに制定された条例は以下のとおり 8 条例になる。また高知市は議員提案によって、従来 の公共調達基本条例から公共調達条例に改正した。また我孫子市が公契約条例案を公表し、 2014 年 12 月 24 日から 2015 年 1 月 22 日までパブリックコメントを実施している。 しかし、公契約条例と銘打っても公契約条例とは言い難い条例もあり、さらに長野県の 条例や草加市のような「基本条例」もあって、この 1 年の特徴は「公契約条例の多様化」 といってもいい状況である。そこで次項以下、課題を整理していきたいと思う。 ○ 2014 年 3 月議会 長野県契約に関する条例(施行:2014 年 4 月 1 日) 三木市公契約条例(施行:2014 年 7 月 1 日) 千代田区公契約条例(施行:2014 年 10 月 1 日) ○ 2014 年 9 月議会 奈良県公契約条例(施行:2015 年 1 月 1 日) ○ 2014 年 9 月議会 高知市が議員提案で公共調達条例に改正(施行:2015 年 10 月 1 日) 草加市公契約基本条例(施行:2014 年 10 月 1 日) 世田谷区公契約条例(施行:2015 年 4 月 1 日) 四日市市公契約条例(施行:2015 年 1 月 1 日) 奈良県公契約条例(施行:2015 年 1 月 1 日) ○ パブリックコメント実施 我孫子市公契約条例案(パブコメ:2014 年 12 月 24 日~2015 年 1 月 22 日) 2.あらためて公契約条例とは何か 課題を整理する上で欠かせないのは、何をもって公契約条例というのかどうかである。 いわば公契約条例の要件を明確にすることである。考えられる要件(条例に規定すべき要 件)は以下の 5 点である。具体的には下表のとおりである(ただし、現段階ではあくまで 伊藤の見解にとどまる) 。 1 ・ 最低賃金 ・ 元請け事業者の連帯責任 ・ 労働者の権利保障 ・ 適用範囲(対象事業) ・ 適用労働者 ・ 第三者機関設置 公契約条例に該当する重要な要件 要件 事 例 最低賃金 ○条例に、作業報酬下限額、労働報酬下限額、賃金下限額などの規定 を置き、その基準となる単価の根拠(地域最低賃金以外)を明示。 *基準の根拠を規則で定める場合もある。 元請け事業者の ○「連帯責任」が条例に成文化されているの 連帯責任 が最も望ましい。 ○条例に「連帯責任」が明示規定されていない場合でも、受注者(元 請者)の責任として「対象労働者」(対象労働者に下請労働者が明 確に規定されていることが必要)に対する労働報酬下限額等の支払 いが明示されていることが必要。(規則に明示する場合も同様) 労働者の権利保 ○労働者(適用労働者すべて)による「申出」規定 障 ○申出た労働者に対する不利益取り扱い禁止規定 適用範囲(対象 ○工事契約 事業) ○委託契約 ○指定管理者との協定 *この 3 種類の契約・協定が対象となっていること。 適用労働者 ○受注者に雇用される者 ○下請者に雇用される者 ○派遣労働者 ○一人親方 第三者機関設置 ○最低賃金を審議するための審議会、委員会等の設置 ○審議会等構成に労働者側委員が入る。 この要件を備えた条例を公契約条例とし、要件を備えていない条例と区別すると次表の ようになる。 * 公契約条例の要件を備えた条例 12 条例 (我孫子市条例案も公契約条例の要件を備えている) * 公契約条例の要件を備えていない条例 9 条例 判断が難しい条例もある。たとえば野田市公契約条例は行政処分型条例であるので「労 働者の申し出」規定がないが、その他の規定を具備していると考えて分類している。また、 世田谷区公契約条例は、名称はともかく内容は「事業者等の責務」等が努力義務であり、 労働者の申し出等の規定もないので下表のように分類した。奈良県公契約条例も、事業者 2 に賃金支払状況等の報告を求め、従わない時は立入調査や過料まで定めているが、最低賃 金そのものは定めていないので、公契約条例の要件を備えた条例とはしていない。四日市 市公契約条例も労働基準法、最低賃金法の順守規定であるので同様とした。したがって、 この分類もあくまで伊藤見解であり、今後のさまざまな意見交換により、あるいは運用状 況によって変わりうるものである。 公契約条例の要件を備えた条例 労働条項に特化した条例 建設工事・業務委託・指 建設工事・業務委託を 定管理を対象 対象 川崎市契約条例 多摩市公契約条例 相模原市公契約条例 厚木市公契約条例 足立区公契約条例 直方市公契約条例 三木市公契約条例 千代田区公契約条例 高知市公共調達条例 野田市公契約条例 ←現在は改正して指 定管理者も対象 建設工事を対象 渋谷区公契約条例 10 総合的条例 予定価格の適正算定、 総合評価入札、労働条 項を規定 国分寺市公共調達条 例 1 1 12 公契約条例の要件を備えていない条例 理念的な条例 長 野 県 契 約 に 関 す る条 例 世田谷区公契約条例 四日市市公契約条例 3 労働環境の整備などを 規定 奈良県公契約条例 秋田市公契約基本条例 前橋市公契約基本条例 草加市公契約基本条例 4 9 建設工事の質の確保 などを規定 山形県公共調達条例 建設工事の総合評 価入札を規定 江戸川区公共調達 基本条例 1 1 3.公契約条例運用の課題 (1) 最低賃金(労働報酬下限額、作業報酬下限額)の基準 現在は次のような状況にある。 ・ 当該自治体の職員給与(野田市、足立区、直方市) ・ 地域最賃(厚木市、三木市。なお相模原市が 2014 年 12 月議会で条例を改正し地域最賃 1 本にする予定) ・ 生活保護基準(川崎市、多摩市、相模原市(ただし上記に注意) 、足立区、高知市) 3 ・ 建築保全業務労務単価(野田市、厚木市) ・ 公的機関が定める基準(厚木市、足立区、三木市) ・ 当該自治体が締結した契約の賃金(野田市) ・ 標準的な賃金(国分寺市) <注> 1 建築保全業務単価は、国土交通省が定めている公共施設(官庁営繕)の単価である。 2 標準的な賃金とは、国分寺市は規則で「厚生労働省が実施する賃金構造基本統計調 査の産業別の基本給のうち,当該受注者と同一職種の額とする」と定めている。 多くは複数の基準を勘案して審議会等で決めることになるが、基準が 1 つだけのところ もある。課題は地域最低賃金をどれだけ上回るかであるが、地域最賃が上昇して生活保護 基準と同額もしくは上回ることになると、かりに基準が地域最賃 1 本であると、その地域 最賃を上回る基準が不明確になることになる。相模原市の今後の運用が注目される。 (2) 職種別最低賃金 建設工事の場合は「公共工事設計労務単価」 (二省単価)が適用され、51 職種ごとに単価 が設定されている。しかし、業務委託の場合は、建築保全業務労務単価など国土交通省が 設定した単価があるものの職種が少なく、保全技師・保全技術員、清掃員、警備員のみで ある。 公契約条例を策定したところでは、唯一野田市が施設の管理に関わる職種のほか、不燃 物処理にかかわる業務、学校給食に関わる業務に限定されてはいるが、職種別賃金を定め ている。定められているのは、次の業務に携わる職種である。 1 施設の設備または機器の運転、管理 2 施設の設備または機器の保守点検 3 施設の清掃 4 施設の電話交換、受付および案内 5 施設の警備および駐車場の整理(機械警備業務に関するものを除く) 6 野田市文化会館の舞台の設備および機器の運転 7 不燃物の処理施設の設備および機器の運転その他の管理 8 学校給食の調理および運搬 (3) 業務委託における対象業務 業務委託については対象となる契約金額も課題であるが、対象を 9000 万円とした結果年 間の対象件数が 1 件もない足立区を例外として、その他の自治体の課題は対象業務である (足立区の場合は、委託業務を実質的に公契約条例から除外しているに等しい) 。 4 対象業務については、前項(2)で触れた野田市のように公共施設管理に関わる業務、す なわち清掃、警備、設備・機器等の保守のほかに、ごみ収集業務、学校給食などが課題に なっている。なお多摩市は、次の業務を対象としている。 1 施設または公園の管理運営業務 2 施設、下水道管渠等の清掃業務 3 街路樹等の維持管理業務 4 可燃物等の収集運搬業務 5 送迎バスの運行業務 6 子育て支援に関する業務 7 高齢者支援に関する業務 8 障がい者支援に関する業務 その他、指定管理協定は、次に掲げる公の施設の指定管理協定を対象としている。 ・多摩市立複合文化施設 ・多摩市立多摩中央公園内駐車場 ・永山駅駐輪場 ・多摩セ ンター駅東駐輪場 ・多摩センター駅西駐輪場 ・多摩市立温水プール ・多摩市総合福祉 センター 永山複合施設駐車場 (4) 長期継続契約(複数年契約) 長期継続契約は、地方自治法第234条の3の規定にもとづき、物品の借入れに関する 契約(リース契約)と役務の提供を受ける契約のうち、条例で定めるものについて,債務 負担行為を設定しなくても複数年契約を締結することができるものである。 公契約条例との関係で課題となるのは、対象業務の拡大である。この長期継続契約(複 数年契約)は雇用の安定のみならず、継続して業務を行うことが市民生活の安定にとって も有益であることを確認することが重要である。たとえば野田市は次の契約を対象として いる。 1 福祉施設等の送迎に関する業務を委託する契約 2 廃棄物の収集及び運搬に関する業務を委託する契約 3 機器の設置を伴う施設の警備に関する業務を委託する契約 4 例規類集の整備に関する業務を委託する契約 5 行政情報システムに係るサービスの利用に関する契約 (5) 継続雇用 継続雇用を条例上規定しているところは、現段階で野田市、多摩市、直方市の 3 自治体 である。また相模原市が、2014 年 12 月議会に提出した条例改正案で継続雇用を新たに追加 する。 5 ただしこれまでの条例では、次の直方市の条例のようにあくまで事業者の「努力義務」 である。しかし、 「努力義務」ではあってもこの継続雇用の規定は労働団体をはじめ高く評 価されている。今後、他の自治体に波及していくことが望まれる。 <直方市公契約条例の継続雇用規定> 受注者は、継続性のある業務に関する公契約等を締結する場合は、当該業務に従事す る労働者等の雇用の安定並びに当該業務の質の維持及び継続性の確保に配慮し、当該公 契約等の締結前から当該業務に従事していた労働者のうち希望する者を特段の事情がな い限り雇用するように努めなければならないこと。 (6) 第三者機関の運用 課題の最後は第三者機関の運用である。第三者機関の名称は作業報酬等審議会、労働報 酬審議会、公契約審議会、公共調達審議会、公共調達委員会、労働報酬専門部会などと多 様であるが、労働者(下請労働者等をふくむ)に支払うべき最低賃金(作業報酬、労働報 酬)を審議する機関である。 最低賃金を審議する機関であるから、当然労働者を代表する委員が構成メンバーとなる。 公契約条例の要件を備えた条例を持つ 12 市区はすべて労働者側委員が入っている (ただし、 人数は一定ではない)。問題は、労働者を代表する委員がどのように選出されるかである。 条例における事業の範囲が建設工事と業務委託、指定管理者であるから、労働者側委員は 建設工事と業務委託(指定管理者をふくむ)に詳しい委員が選出されるのが理想である。 建設工事については全建総連から選出されるので問題はないが、業務委託が問題である。 業務委託を受託する事業者は中小・零細の事業者ということもあって、労働組合が組織 化されていないところがほとんどである。したがって連合組織に加盟している組合はなく、 業務委託に詳しい委員の選出は難しいのが実情である。現在は連合の地域組織から選出さ れている場合がほとんどであるが、そうして選出された委員を支える体制が機能しないと 委員の発言も制約される。 したがって課題は、業務委託を受託する事業者のもとで働く労働者の組織化だといって も過言ではない。地域で働く労働者が労働組合に組織化されていないこと、労働者が労働 組合に入っていないことは、地域にとっても損害なのだということを、日ごろ労働組合の ことを意識していない人々にも改めて認識してもらいたい課題である。 4.基本条例等の課題 (1) 長野県条例と世田谷区条例、四日市市条例 6 両条例を簡単に比較すると次の点を指摘できる。 ① 長野県は基本理念を具体的に列挙している。世田谷区は目的として、公契約において 適正な入札、労働者の適正な労働条件の確保、区内産業の振興及び地域経済の活性化並 びに区民の生活の安全、安心及び福祉の増進を図ることなどを規定している。 ② 長野市は「取組方針」の策定を規定し、世田谷区は「基本方針」の策定を規定してい る。 ③ 長野県は事業者の責務が契約の「履行義務」にとどまり具体的ではない。世田谷区も、 事業者の責務は「たとえば「労働者に適正な賃金を支払い、労働者の適正な労働条件を 確保し、及びその向上を図るよう努めなければならない」のような「努力義務」にとど まっている。 ④ 長野県は諮問に対する審議のみであるのに対し、世田谷区は世田谷区公契約適正化委 員会のほか、労働報酬専門部会を設置している 以上のように、長野県はまさに理念条例であるが、世田谷区も最低賃金(労働報酬下限 額)は定めるものの、支払いは「努力義務」である。いずれにしても「取組方針」「基本方 針」の策定と運用が課題である。 四日市市条例は、次のような特徴がある。 ① 市は、適正な価格による契約の推進その他の施策を実施するとしていること。 ② また公契約の適正化、適正な履行及び良好な品質の確保などを規定していること。 ③ 事業者に対しては、適正な労働条件の確保を規定しているものの、労働基準法、最低 賃金法、その他関係法令を遵守にとどまっていること。 ④ 第三者機関(公契約審議会)は設置するものの、最低賃金の審議ではないこと。 以上のように、奈良県条例は最低賃金法に規定する最低賃金額以上の賃金支払いが特徴 の 1 つである。したがって、 「最低賃金額以上の賃金支払い」がどのように運用されるのか、 課題はその実効性であると思われる (2) 秋田市条例と前橋市条例 秋田市と前橋市の条例を比較すると、次の点を指摘できる。 ① 秋田市の条例は、目的および基本方針において、「労働者の適正な労働条件の確保」等 が明確に謳われている。前倍市の条例は「社会的価値の向上」はあるものの、 「労働環境」 に対する言及はない。 ② 秋田市は、地元企業の活性化等のための仕組みづくり、労働環境の向上のための仕組 みづくり、品質確保のための仕組みづくりに分けて規定し、前橋市は品質及び適正な履 行の確保と公正労働基準の確保に分けている。内容は大きく違いはないから、どちらが 分かりやすいかということになるだろうか。 ③ ただし前橋市は、 「価格算定の適正化」と「適正な賃金」を定めている。いずれも実効 7 性が課題になる。 ④ 両市とも、審議会等の第三者機関は設置していない。 ④で指摘したように、両市とも、審議会等の第三者機関は設置していない。したがって、 この条例をどのように運用していくのかが課題である。 (3) 奈良県条例 奈良県条例は、次のような特徴がある。 ① 総合評価一般競争入札その他公契約の相手方の選定において、適正な労働条件の確保 その他の社会的な価値の実現及び向上に対する寄与の程度を勘案するとしていること。 ② 最低賃金は、最低賃金法に規定する最低賃金額以上の支払いという表現にとどまって いること。 ③ 特定労働者への明示、特定下請負者等への明示等は規定しているが、労働者からの届 出等は規定されていないこと。 ④ 公契約審議会と公契約執行適正化委員会という2つの第三者機関を設置するものの、 最低賃金の審議をするものではないこと。 ④ 最大の特徴は、賃金支払い状況の報告、説明等の要求、立入調査、過料等の規定であ り、特に過料の規定は公契約条例では初めてであること。 (4)草加市条例 草加市条例の特徴は、条例の対象範囲、適用労働者、「労働賃金基準額」、労働者の申し 出や不利益禁止、立入調査などを規則で定めることである。条例本体における事業者の責 務は、たとえば「履行の確保」などもふくめて「努力義務」にとどまっているので、やは り公契約審議会の運用もふくめて実効性が課題だと思われる。 なお草加市条例は、予定価格の適正化について「市長等は、品質及び適正な履行を確保 するため、取引の実例価格等を適切に反映させた合理的な積算根拠に基づき、契約金額を 決定する基準となる予定価格を算出するものとする」と定めている。この条文の運用にも 注目していきたい。 5.要綱による行政指導の課題 公契約条例のように条例による整備だけでなく、要綱によって行政指導を行う自治体も 多い。その現状と課題を述べる。 8 (1) 労働環境の整備等を規定 現在、要綱等に労働環境の整備を規定し、運用している自治体は以下のとおり。 ○ 函館市発注工事に係る元請・下請適正化指導要綱(2001 年4月1日施行、2011 年4月 1日改正施行) 、適正な工事の施工を!-工事,委託の施工上の留意事項-函館市土木 部長 ○ 旭川市の公契約に関する方針達成の推進措置(2008 年 8 月 21 日) ○ 新宿区が発注する契約に係る労働環境の確認に関する要綱(平 2010 年 7 月 1 日施行) ○ 杉並区公契約等における適正な労働環境の整備に関する要綱(2012 年3月 28 日) ○ 佐賀市長が発注する工事請負契約に係る労働環境の確認に関する要綱(2013 年 6 月 3 日施行) (2) 総合評価制度に労働環境等の評価項目を規定 ○ 豊中市総合評価一般競争入札(2006 年度から本庁舎をはじめ市有施設における清掃・ 有人警備等業務委託) ○ 豊田市建設工事総合評価方式実施要綱(2006 年 6 月 1 日、以降順次改正) 、豊田市物品 購入等一般競争入札等実施要領(2007 年 4 月 1 日施行) 、豊田市工事関係委託低入札価 格調査等試行要綱(2011 年 3 月 1 日施行)、豊田市業務委託低入札価格調査等実施要綱 (平成 23 年 1 月 1 日施行) 、豊田市業務委託総合評価方式実施要綱(2011 年 11 月 1 日 施行) ) ○ 日野市総合評価方式実施ガイドライン(2008 年 9 月 1 日策定、第四次改定 2011 年4 月1日) ○ 堺市本庁舎清掃業務において総合評価入札を試行実施(2007 年度から) ○ 小平市総合評価方式ガイドライン(2011 年 4 月 1 日、2013 年度版改定、本格実施)) ○ 大阪市業務委託契約総合評価一般競争入札(政策提案型)実施要領(2012 年 12 月 1 日施行) (参考) ○ 大阪府市町村庁舎清掃業務委託総合評価入札(2012 年度、大阪府調査) (3) 要綱等による取組みの特徴 ① 労働環境等の整備規定 函館市 対象事業 建設工事 全工事が対象 適正な賃金等 二省単価に留意 し、適正な賃金の 支払いに配慮する よう土木部長名で 通知 9 労働環境の確認 雇用通知書(労働 条件通知書)の完 全発行の徹底など その他 建設業退職金共済 事業の普及促進を 求める 旭川市 建設工事 委託事業 物品購入 新宿区 建設工事 2000 万円以上 委託事業 2000 万円以上 豊田市 建設工事 委託事業 物品購入 建設工事 委託事業 指定管理者 杉並区 佐賀市 建設工事 5000 万円以上 相談窓口の設置(市が発注した契約に ついて,下請業者や被雇用者からの相 談に応じられる窓口を開設する。2012 年までは未設置) 最低賃金額を別途 労働環境チェック 定める シートの提出、調 建設工事=二省単 査・改善の指示・ 価の 80% 報告の聴取・指名 委託事業=900 円 停止等の措置(当 該契約の条項「労 働環境の確認に関 する特記事項」に 定める) 総合評価の評価項 ― 目 労働環境の整備に 関し必要な事項は 別に定める(確認 できていない) 二省単価の 80% 労働関係法令遵守 に関する報告書の 提出(モニタリン グ対象業務) 、特に 必要と認める業務 について社会保険 労務士による調査 労働環境チェック シートの提出、改 善の指示・報告の 聴取・指名停止等 の措置(契約条項 による) 総合評価、適正価格 での発注なども規 定 建設業退職金共済 事業の普及促進を 求める 建設業退職金共済 事業の普及促進を 求める 建設業退職金共済 事業の普及促進を 求める 以上のように、公契約条例とほぼ同様な規定と運用を行っているのは新宿区と佐賀市 である。なお、新宿区、佐賀市における労働者の範囲は以下のとおりである。 ・ 新宿区 労働環境チェックシートとともに提出を求める「労働者の確保計画」では、 「本契約における工事に主として従事する労働者、公共工事設計労務単価で区分され る 51 職種に該当する労働者」で「雇用形態(日雇い、短期雇用等)に関係なく、専属 的に当該工事に従事している者」とされている。 ・ 佐賀市 次に掲げる労働者のうち、公共工事設計労務単価で区分される 51 職種に区 分される 51 職種に該当するものとする。 (1) 労働基準法第 9 条に規定する労働者 (2) 自らが提供する労務の対償を得るために請負契約により従事する者 ② 労働環境等の評価項目 労働環境等の評価項目がどのように設定されているかについては、以下のとおりであ る(要点のみ) 。 10 ○ 豊中市 全体 500 点(価格評価 250 点、技術的評価 110 点、公共性<施策反映>評 価 140 点 公共性評価のうち、 「福祉への配慮」として、①障害者に対する就労支援事業への取 組み、②就職困難者の新規雇用、③障害者の雇用率及び雇用者数がそれぞれ 30 点、合 計 90 店が配点されている。 (全体の 18%) ○ 豊田市 評価(審査)項目として「労働者への賃金の上乗せ、労働条件の向上、雇 用の創出及びその検証方法」があり、具体的には①労働者への法令を上回る賃金等の 支払いに関する提案及びその検証方法、②労働者に対する法令を上回る労働条件に関 する提案及びその検証方法、③雇用の創出に関する提案及びその検証方法の 3 項目が ある。評価項目の評価に応じて得点を与える(加算点) 。 ○ 日野市 国土交通省の「市町村向け簡易型」に加え、市の独自評価として「格差へ の取組み」があり、①建設労働者の適正な労務単価確保、②市内企業への下請け状況、 ③法定外労働災害補償制度への加入、④退職金制度、⑤障害者雇用、⑥男女共同参画 推進があげられている。 ○ 堺 市 本庁舎清掃業務について、①障害者の就職困難層における雇用に関する取 組みの観点、②環境問題への取組みの観点、③男女共同参画への配慮の観点が盛り込 まれている。 ○ 小平市 工事、委託ともに「格差是正への取り組み」があり、工事では①労務単価 (2 省協定以上の労務単価が確認できる場合、2 点の加点)②建設業退職金共済制度等 の加入又は退職一時金制度等導入の有無 (導入後 3 年で 2 点、 導入済みで 1 点の加点)、 委託では支払賃金(別に定める当該業務の標準的な賃金と認められる額の場合、2 点の 加点)の評価項目がある。また「社会貢献」として「障害者雇用の取組み」がある。 工事における労務単価は、 「公共工事設計労務単価」以上の労務単価を確認できること を条件とする。 ○ 大阪市 予定価格 1,500 万円以上の庁舎清掃業務委託契約及び病院清掃業務委託契 約で、落札者決定基準は評価会議の審議を経て定めることとされている。 (4) 課題 ① 自治体による確認行為の有効性・強制力 ② 元請け事業者の連帯責任 ③ 労働者の権利擁護 ④ 第三機関の設置(旭川市は入札監視委員会を設置) 11 6.官制ワーキングプアを根絶するために 最後に、官制ワーキングプアをなくすための課題を提起しておきたいと思う。私は、公 契約を広く考えると(広義の公契約)、3つの段階に分けて考えるべきだと主張してきた。 それは、次の3段階である。 □ 第一段階-自治体が事業を発注し、または業務を委託するとき、必ず予定価格の積 算を行う。予定価格とは、入札を実施する際に自治体が、競争入札や随意契約に付す る事業・業務の価格について、その契約金額を決定する基準として、あらかじめ作成 しなければならない価格のことである。この予定価格が適正に算定されないと、不当 な低価格を事業者に負わせることになるので、適正算定が課題となる。 □ 第二段階-入札は競争入札が原則である。しかし、最低制限価格制度や低入札価格 調査制度が導入されていないと、低価格競争、すなわちダンピングになる恐れが多く、 現に多くの自治体で低価格競争、ダンピングが横行している。すなわち、入札改革が 必要な理由である。 □ 第三段階-いわゆる公契約条例(狭義の公契約条例)であり、この課題については これまで縷々述べてきたところである。 そこでここでは、第一、第二段階の課題について簡単に述べておきたいと思う。そして もう1つ、指定管理者制度についてワーキングプアとの関連に絞って課題を提起したい。 (1) 予定価格の適正算定 ここで課題になるのは業務委託である。建設工事(公共工事)は国土交通省と農林水産 省が運用している「公共工事設計業務単価」 (二省単価ともいう)があり、都道府県、市町 村もこの単価に準拠して積算・算定を行っている。もちろん公共工事積算においても、下 記のような問題意識が浮上してきている(国土交通、発注者責任を果たすための今後の 建 設生産・管理システムのあり方に関する懇談会資料) ・現在の予定価格の算定手法は「取引の実例価格」を重視していることから、価格の上 昇 局面において、受注者側と価格が折り合わず、入札不調・不落を引き起こすことに なって ないか。 ・現在の予定価格の算定手法においては、例えば、資材単価においては一定規模の取 引 がなされることが前提となっており、「数量の多寡」の要素が十分反映されていないの はなかで はないか。 しかし、業務委託には、国においても野田市などが基準の1つにしている「建築保全業 務労務単価」や設計委託の単価などがあるに過ぎない。したがって自治体の業務委託の予 定価格は、 「見積もり合わせ」や「前年度契約金額」などが用いられ、市場価格とは著しく かい離する場合がほとんどであった。ようやく近年、自治体の中にもこの課題に対する問 12 題意識が広がりつつある。ただし、現段階では「建築保全業務労務単価」に準じて算定す るものであり、清掃や設備管理などの限られた業務に限定されている(青森県、島根県な ど) 。 最近の例でいえば、公契約条例策定自治体ではないが、帯広市の人件費の積算は注目さ れる(帯広市・委託業務および指定管理業務実施上の留意事項) 。それは次のような「積算 根拠」を一覧にして明示しているからである。 帯広市・委託業務の労務単価-積算根拠一覧(職種と単価は省略) ア 二省(国土交通省、農林水産省)設計労務単価、北海道労務単価 イ 建築保全労務単価(国土交通省) ウ 設計業務技術者単価(国土交通省) エ 賃金日額単価(帯広市)-職種のみ紹介 事務補助、技術補助、運転手、保育士、保育所事務補助員、公園・街路作業員、草 刈清掃作業員、用務員 オ 保育所職員の本俸基準額等(児童福祉法による保育所運営国庫負担金交付要綱) カ 介護労働実態調査所定内賃金( (財)介護労働安定センター) キ ソフトウェア開発、システム開発、システム管理業務技術者単価(積算資料) ク し尿及び汚水収集運搬業務単価(事務所雇用実態調査報告書資料) (指定管理者業務の労務単価等は別項) 帯広市・委託業務および指定管理業務実施上の留意事項 http://www.city.obihiro.hokkaido.jp/soumubu/keiyakukanzaika/nyusatu.data/120 601-5.pdf また公契約条例において、国分寺市公共調達条例や前橋市公契約基本条例、草加市公契 約基本条例など、予定価格の適正化などを条文化するところも出てきている。課題はやは りその運用である。帯広市などを参考に、自治体において「業務委託算定基準」のような ものを作成できるかどうかが問われている。 (2) 最低制限価格制度の業務委託への適用 この課題も業務委託が問題である。建設工事は多くの自治体で最低制限価格制度もしく は低価格入札調査制度が導入されている。しかし業務委託の場合、導入自治体はごくわず かである。都内は次のような状況である。 ・最低制限価格制度-新宿区(福祉サービスなど)、国立市 ・変動型最低制限価格制度-立川市(試行) 、八王子市(一部導入) <立川市の算定方法> 1.有効な入札の参加者数の 60%を求める。(1 未満の端数切り上げ) ※ 有効な入札の参加者数が 5 者未満の場合は、「最低制限価格」を設定しません。 13 2.入札金額の低い札から順に、1 で求めた数までの入札金額について平均額(1 円未満の 端数切り捨て)を求める。 3.2 で求めた平均額の 85%の価格(1 円未満の端数切り捨て)を、 「最低制限価格」とする。 この「最低制限価格」未満で入札した札は無効となり、 「最低制限価格」以上で入札し た札の中で、最も金額の低い札が落札予定者となる。 公契約条例をみても、秋田市公契約基本条例が次にように規定しているのみである。 <秋田市の条文> 市は、公契約の締結に当たり、低価格入札による受注を排除し、適正な価格による契 約を推進するため、最低制限価格制度および低入札価格調査制度を適正に活用するもの とする。 私は変動型最低制限価格制度には疑問を持っている。やはり、予定価格を適正に算定し た上で、その価格の 85%とか 90%の水準に最低制限価格を設定すべきだと考える。全国的 には、業務委託への最低制限価格制度の導入自治体が増え続けているので、さらに増加し ていくことが期待される。 (3) 指定管理者制度の課題 指定管理者制度にかかわって、これまで述べてきた課題の範囲でいえば、次のようか課 題がある。 ① 対象となる指定管理協定の拡大 ② 対象となる労働者(職員・スタッフ)の拡大 ③ 施設および事業運営に関わる労働者(職員・スタッフ)の処遇改善 この2つの課題のうち②については、指定管理者自身が雇用する労働者と、再委託事業 者が雇用する労働者の2つの課題がある。後者については、公契約条例が適用する労働者 が適用されるから、公契約条例全般の課題である。そこで課題となるのは前者である。た とえば市民会館を考えてみると、館長的な職務、課長的な職務、数人を束ねる係長・主任 的な職務、事務職員などが考えられる。しかしこのような職務に従事する労働者(職員・ スタッフ)は、現在策定されている公契約条例の対象ではない。 ③に関わっては、先に述べた「予定価格の適正算定」と同様な課題がある。②において 市民会館を例述べた職務、職種にかかわって、指定管理者選定の際の指定管理料の予定価 格の算定を適正に行うという課題である。この課題については、従来から熊本市の算定方 法が注目されてきた。 熊本市・ 指定管理に係る管理運営経費の「積算総額」の算定 http://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=335&sub_id=4&f lid=35003 その他の自治体では、帯広市が先述した「委託業務および指定管理業務実施上の留意事 14 項」の中で、 「指定管理業務における労務単価等の積算について」方針を明確にしている。 その内容は、人件費、修繕料、光熱水費及び燃料費、一般管理費の 4 項目にわたるが、こ こでは人件費の積算について取り上げておきたい。 ■ 帯広市の指定管理業務における人件費の積算について 指定管理業務における基準管理費用の積算のうち、人件費の積算については、職種、 勤務体系などから「業務委託」の労務単価が参考となる場合は、その単価を採用し、参 考となる単価がない場合は、帯広市の一般職員給与、嘱託職員の報酬及び厚生労働省賃 金構造基本統計調査(北海道分)を参考にした以下の単価で積算します。 ただし、施設の特殊性、職種の専門性、勤務の変則性などにより個別の判断が必要な 場合には、別途積算します。 なお、必要な共済費(社会保険料、介護保険料、労働保険料)については、別途積算 に加えるものとします。 また、施設の管理運営形態や職員の職務などを勘案し、人件費単価の区分を設けるこ とができるものとし、その場合、正規職員については、定期昇給を加えることを基本と します。 (ア) 労働時間が週 38 時間 45 分を基本にした者の給与月額単価 次の 4 区分を基本とし、4 区分で積算できない場合には、各区分の給与月額に補正 係数(0.9~1.1)を乗じることができるものとします。 区 分 高度あるいは専門的な業務を指導、統括する能力を有する者 業務に精通し、部下を指導して複数の業務を担当する者 一般的な業務を複数担当し、また上司の指導のもとに高度な業務を担当 する者 上司の指導のもとに一般的な業務の一部を担当する者 金 額 341,800 269,400 228,100 174,100 (イ) 労働時間が週 38 時間 45 分に比べて基本的に短い者の月額単価 区 分 相当の知識、経験若しくは専門的技術を要し、常時勤務を要しない職 金 額 177,300 指定管理者制度については、ここで述べた人件費積算のほかに、帯広市が留意事項とし て示している修繕料、光熱水費・燃料費、一般管理費などの指定管理料積算の課題ある。 さらに制度全般の課題として、協定、指定・再指定、指定期間、モニタリング・評価など、 多くの課題があるここでは触れない。公共施設管理や運営のあり方が問われている今日、 公の施設の指定管理者制度も全般的な再検討が必要な時期にきていることを指摘するにと どめたい。 15
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