新世代 栃木の酒 下野杜氏 経済調査レポート 関東財務局 宇都宮財務事務所 財務課 近年、日本では急速な少子化と高齢化が同時に進行しており、様々な業種で高齢化や後継者不足に関する声が聞かれるが、県内においても同様な状況にある。 こういった厳しい状況の中、栃木県の酒造業界においては杜氏の高齢化や後継者不在を背景に「下野杜氏」による次世代杜氏の育成に力を入れており、その成果をあげていること から本取組について検証したい。 取組成果 栃木県における高齢化の状況 ➣栃木県における高齢化は概ね全国並みに進行する 見通し ➣併せて、栃木県内企業における高齢化も進行 している 栃木県の老年人口(65歳以上)割合 人 口 割 合 ( % ) 栃木県内企業の65歳以上の常用労働者数 (31人以上規模企業)【栃木労働局】 36.0 全国 33.0 栃木 30.0 国立社会保障・ 人口問題研究所 「日本将来推計 人口」参照 27.0 24.0 21.0 2010年 2015年 2025年 2040年 栃木県酒造組合の取組 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 (人) ➣平成18年に下野杜氏1期生が誕生し、これまでに20名(14蔵元)の下野杜氏を輩出。 (26年11月末時点)なお、複数の下野杜氏を有する蔵元も。 ➣下野杜氏の拡大により県内杜氏の担い手不足が概ね解消したことで生産体制が安定。 ➣26年度の関信国税局酒類鑑評会で受賞した県内蔵元のうち約8割に下野杜氏が在籍。 ➣蔵元間の交流により酒造技術の共有化を図ることで県全体の酒質レベルが安定。 今後の見通し・課題 H21年 H22年 H24年 H26年 ➣栃木産地酒の需要拡大が課題。若者のアルコール離れや酒類の多様化は進むものの、 地酒消費量は持ち直しの兆しもみられるため、この流れを一過性とすることなくリピーター の確保や県外、海外を含めた新規需要の掘起しを探る。 ➣また、このところの円安を背景とした原料高は酒造りにも影響するものの、ブランド力の 向上を目指し、更なる酒質の向上やPR活動に力を入れる。 蔵元の取組 栃木県の酒造の状況 「栃木の米で世界一!」 ㈱井上清吉商店 ➣本県は日光、那須連山等からの伏流水の水質が異なるため多様な酒造りが可能。 ➣本県の清酒生産量及び蔵元数は全国と同様、昭和30年代をピークに減少傾向にあるもの ➣同社は栃木産の酒米にこだわった酒造りにより、2010年 の、このところの地酒ブームもあり生産に持ち直しの兆しもみられる。 IWC日本酒部門で優勝。現在、米国、香港等に輸出する他、 世界約40か国の日本大使館で乾杯酒として採用。 下野杜氏とは ➣また、同社は2名の下野杜氏有資格者による安定した ➣栃木県酒造組合が独自の認証制度を設け、若い杜氏 酒造りを行うが、今後の新たな有資格者の誕生も視野に (酒造責任者)を育成することにより古来からの酒造技術 入れる。 の伝承、酒質レベルの向上を目的とする。 ➣最終的には地域への来訪者増加のため「酒造ツーリズ 酒造作業の様子 取組の端緒 ム」による活性化を念頭に日々、酒造技術の向上を目指す。 ➣栃木の酒造りはこれまで新潟県の「越後杜氏」や岩手 行政の側面支援 県の「南部杜氏」に託していた蔵元が多く、高齢化による 平成26年度下野杜氏認証式 ➣近年、全国各地で地元産のお酒の普及を目的としたいわゆる「乾杯条例」が普及してき 後継者不足が業界最大の課題。 ており、栃木県においては「とちぎの地元の酒で乾杯を推進する条例」を26年1月1日から ➣なお、杜氏には高い酒造技術が求められるが故、地元杜氏の育成には時間を要す。 施行したほか、大田原市、佐野市、小山市でも同様の条例が制定されており、県内におけ 取組内容 る地酒の消費拡大も期待されるところ。 ➣栃木県酒造組合が平成13年より酒造技術者育成講座による下野杜氏の育成開始。 ➣また、栃木県では酒造好適米「とちぎ酒14」の開発など官民一体となった取組を展開し なお、講座はポイント制のため、資格の取得が早い人でも4~5年を要する。 ており、現在は大吟醸等に適した酒造好適米とすべく更なる品種改良に取り組む。 ➣人材の安定雇用の観点からこれまで冬季のみの雇用であった杜氏や蔵人(酒造職人)を 通年雇用とする。 ➣栃木県の酒造業界においては杜氏の高齢化による危機を次世代杜氏の育成を図るこ ➣蔵元間の交流・情報交換の促進を図るため、取組当初は複数の蔵元で研修を実施。 とでこれまで以上の成果をあげつつあり、また、官民一体となった取組による更なる地域 ➣また、下野杜氏には酒造技術の習得以外に広報・販売に必要な教養等も求めており、栃 の活性化も見込まれるところ。なお、今後も高齢化が進む見通しのため、他業種におい 木産地酒のブランドイメージ向上を目指す。 ても担い手不足解消に向けた取組による雇用の創出や地方創生の進展が期待される。
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