兵庫県版 第三種郵便物認可 2014 08 18 mon. 03 弁護士法人神戸シティ法律事務所 弁護士 高島 浩 (兵庫県弁護士会所属) 第52回 国家戦略特区の展望 ⑶ ∼関西圏特区の動き∼ 1 前回は、国家戦略特区に指定された養父市 の挑戦について考察しました。今回は、同じ く国家戦略特区に指定された関西圏(大阪府、 兵庫県及び京都府)のうち、兵庫県の取り組 みについて考察します。 2 関西圏は、 「健康・医療分野における国際的 イノベーション拠点の形成を通じ、再生医療 を始めとする先端的な医薬品・医療機器等の 研究開発・事業化を推進するとともに、チャ レンジングな人材の集まるビジネス環境を整 えた国際都市を形成する」ことを目標として 特区の指定を受けました。しかし、その具体 的な計画内容は、大阪、兵庫、京都それぞれ の事情に応じて異なっています。 本年 6 月23日に公表された関西圏の国家戦 略特別区域計画の素案では、兵庫県において は①病床規制に係る医療法の特例(高度医療 提供事業)と、②旅館業法の特例(外国人滞 在施設経営事業)という規制緩和措置を推進 することが表明されています。 このうち①の「病床規制に係る医療法の特 例」については、世界初のiPS細胞を用いた 臨床研究である網膜再生治療をはじめとする 最先端の医療技術の実用化促進を図るため、 眼科病院(新規病床30床)を整備すること等 を内容とするものであり、神戸を中心とする 先端医療技術及びその周辺産業の活性化が期 待されます。 ②の「旅館業法の特例」については、海外 からのビジネス客等の滞在に対応するため旅 館業法の規制を緩和するものであり、東京オ リンピックを控えて観光客の増加が見込まれ る東京圏も同様の特区指定を受けています。 3 例えば、貸アパートの所有者が、空室を旅 行客に対してホテル代わりに貸したいと考え た場合、現行法ではどのような規制があるで しょうか。 旅館等の宿泊施設に関しては、厚生労働省 が所管する旅館業法と、国土交通省が所管す る国際観光ホテル整備法という 2 つの法律が 存在しています。宿泊期間が30日未満の施設 では旅館業法の規制を受け、フロントを設置 するなどの設置基準を満たす必要があり、都 道府県知事の営業許可を受けなければなりま せん。旅館業法の適用を回避するため、入居 者と定期賃貸借契約を締結する「ウィーク リーマンション方式」も考えられますが、全 ての旅行者との間で煩雑な定期賃貸借契約を 締結するのは現実的ではありません。 これに対して国際観光ホテル整備法は、外 国人観光客の接遇という視点から国が一定の サービスレベルを有するホテル・旅館を登録 するものですが、この一定のサービスレベル としても様々な条件が設けられています。そ の中では、洋式の朝食(コーヒー、紅茶、トー スト等のパン類、卵料理等)を提供できるこ とも条件とされており、アジアからの訪日客 が増加する中で、パンと卵料理の朝食を提供 できなければ国際観光ホテルとして認めない という規制は、明らかに時代遅れといえるで しょう。 このような規制の下で、貸アパートの空室 を旅行者向けの宿泊施設として開放する道は、 事実上閉ざされていました。 4 今般、国家戦略特区ワーキンググループが 作成した「国家戦略特区において検討すべき 規制改革事項等について」においては、東京 オリンピックの開催も追い風に、今後我が国 に居住・滞在する外国人が急増することが見 込まれることから、外国人の滞在ニーズに対 応する一定の要件を満たす賃貸借型の滞在施 設については、30日未満の利用であっても旅 館業法の適用を除外することが表明されてい ます。 また、歴史的建築物を宿泊施設として提供 する場合には、フロントを設置する義務を免 除するなどの規制緩和も検討されており、こ れらの建物を宿泊施設として提供する機会 は、今回の特区指定を機に拡大していくと思 われます。 5 旅館業法だけでなく、消防法、食品衛生法 や耐震基準など様々な規制を満たしながら営 業している既存の旅館からは、今回の規制緩 和に対する反発も予想されるところです。 利用者のニーズに対応し、安全かつ満足度 の高いサービスを提供するために国の規制は どうあるべきか。国家戦略特区に限定して適 用されることとなった規制緩和は、我々の身 の回りにある様々な規制の要否についても一 石を投じる機会になると思います。
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