Invitation To Railway Technology

Invitation To Railway Technology
ミリ波による速度情報活用に向けた開発
1.はじめに
鉄道車両の速度認識は、車軸に直結した駆動ピンの回転
より求めるため、空転・滑走が発生した場合に正確な速度を
取得できないという欠点があります。そこで、空転・滑走等の
影響を受 けない 高 精 度 な 速 度 検 知 手 法として、車 輪 の回転
数に依らない、非接触方式にて検出する技術を確立し、更な
る安全性の向上を目指しています。
2.装置開発の概要
ミリ波速度センサは、30∼300GHz帯のミリ波 ※1を対象物
(2)ミリ波速度計の試作
に照射し、
ドップラ効果により反射波の周波数が相対速度差
ミリ波を対象物(レール踏面)に照射する、ミリ波速度セン
に応じて変化することを利用して速度を検出します。この方
サを床下に設置します。また、ミリ波速度と速度発電機速度
式をドップラ方式と言います。これまで、
ミリ波速度センサを
を表示・記録する速度補助計(速度計測装置)を室内に設置
試作し、走行試験による課題の洗出しと対策を重ね、速度検
しました。
出精度の向上に取組んできました。
実用化に向けて、これまで走行試験による性能試験と課題
の把握、長期試験による鉄道車両の使用環境下(振動・温度・
汚損・路面状況等)での使用に伴う測定精度の低下等を確認
し、装置の耐久性及び動作安定性を評価しました。
※ 1 ミリ波:周波数30∼300GHz、波長1∼10mm、の電波
3.ミリ波速度計
写真 1:ミリ波速度センサ
写真 2:速度補助計 (1)ミリ波速度計の原理
鉄道車両におけるミリ波速度センサの照射イメージを図1
に示します。
レール踏面にミリ波を照射し、
レール踏面からの
反射波との周波数の差(ドップラシフト量)から速度を算出し
ます。走行速度Vは数式(1)から求められます。
4.走行試験の実施
(1)試験概要
これまでの走行試験時で明らかになった残件課題の対策
の効果を確認するとともに、装置の耐久性及び動作安定性の
評価を行うため、2編成を使用して長期間の走行試験(モニ
タラン)を実施しました。
モニタラン①
・実施時期:平成25年10月∼平成26年3月
・試験車両:207系
・走行線区:神戸線、京都線、片町線、宝塚線など
・試験目的:アーバン線区を走行する営業列車にて、
加減速や停車、またお客様の乗降による
車両の揺れ等の影響の検証を行う
モニタラン②
・実施時期:平成25年12月∼平成26年3月
・試験車両:キヤ141
・走行線区:山陽本線、山陰本線など
・試験目的:管内の多種多様な線区を走行し、様々な
図1:ミリ波照射イメージ
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技術の泉 No.31
条件下でのデータを取得し、比較・検証を
行う
鉄道本部 車両部
車両設計室
阿部 雅俊
(現 株式会社ジェイアール西日本テクノス)
(2)これまでの走行試験時における残件課題
6.対策の効果の検証
踏切通過時にレールと通路の段差によるフェージング※2現象
対策を施したミリ波速度センサにて走行試験を行った結果、
により、
ミリ波の反射波強度が弱まり速度欠測※3が発生している
踏切通過時の速度欠測を解消できたことを確認しました。
また、
ことが明らかになりました
(図2)。
速度誤差※4もおおむね±2 km/hに収まっていることを確認し
※2フェージング:送信源が同じ電波でも位相がずれて
ました(図4)。
干渉しあうことで、電波レベルの強弱
※4速度誤差:速度発電機の速度と、
ミリ波速度計の計測差
に影響を与える現象
※3欠測:走行時瞬時速度0km/h を計測する現象
図2:山陽本線 新井口 → 五日市駅間
走行チャート図(平成24年223系)
図4:山陽本線 新井口→五日市駅間
走行チャート図(平成25年キヤ141)
5.課題解決方法の検討
踏切の段差によるフェージング現象(位相干渉)による利得低
下を補うために、速度算出アルゴリズムの修正による速度演算
の安定化を行うとともに、
ミリ波速度センサのレンズ改良を行
い、
エネルギーを集約して利得改善を図ります。
(1)ソフト対策
速度算出アルゴリズムの修正による速度演算安定化
(FFTによるドップラ波形取得区間を増やし、速度算出精度を向上)
写真3:センサ設置状態(長期試験時)
7.結果と評価
(2)ハード対策
ミリ波センサのレンズ改良による利得向上
(ミリ波の照射範囲を絞ったレンズを適用し、電波密度を高めた
改良センサを投入し、S/N比を向上)
対策の結果、踏切通過時の速度欠測を解消することが出来ま
した。
また、約6ヶ月間の走行によりセンサに汚損が見られたも
のの、計測性能には影響はなく安定した出力が得られ、長期使用
における耐久性および動作安定性を確認することができました。
また、
センサで計測した瞬時値に、400msの移動平均処理を行う
ことで、速度発電機の速度に対して±2 km/hの性能を有するこ
とを確認しました。
8.今後の展開
長期走行試験の結果より、
ミリ波速度計の実用化の見通しを
得ました。今後は、現行の速度計補償器※5に代わり、速度発電機
とミリ波の速度信号の両方を活用することで、高信頼性の速度計
システムの実用化を目指し、開発を進めます。
図3:新旧レンズ比較
※5速度計補償器:車輪径の変化によって生じる速度計の誤差を
補正する機器
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