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少子化社会対策大綱アウトラインについての提言
平成16年1月13日
自治医科大学小児科学 桃井 真里子
2.基本的考え方 に関して
○留意すべき事項として挙げるべきは以下であり、(
案)
では、2の子どもに関する施策の重
要性が抜けている。 少子化対策としての育児支援だけではなく、子どもの施策を優先する
ことにより、国民の意識の変革、育児への社会的価値の付加が期待される。
1.少子化に対処する施策の重要性、緊急性(
=育児支援、育児不安への対策)
2.子どもに関する施策の重要性、緊急性
(2)重要課題
上記の1,2の視点から整理されるべきである。
重点項目は、優先順位つけされるべきである。
基本的考え方で、付加した項目2については、 以下が考慮されて付記されるべきである。
2.子どもに関する施策の改善と充実(
医療、保健、福祉、教育)
子どもへの施策は現状では老人施策の後方に存在し、常に削減される傾向にある。こ
のために、方針があっても、実現されることは、少ない。従って、重要課題として、子どもへ
の施策が国家的方針として最優先されることを、明記する必要がある。 少子化対策は、
育児支援という親への視点だけではなく、子どもの支援、子どもの発達の支援、という視点
も同時にあることが重要である。 各国は、子どもをいかによく発達させるためには、環境
をどのようにしたらよいか、という点で、国家的研究を開始している。 このような、子どもの
発達を支援する国家的姿勢が、 大綱に入れられる必要がある。
3. 推進体制等
推進のための実際的方法論と、実効の評価法がないと、推進する、というかけ声だけに終わ
ることが危惧される。
次世代育成支援対策推進法は、実施の義務はない。このようなものを、どう実効あるものにす
るかの方法論がないと、作文に終わることが危惧される。
課題、計画、実施計画、実施のための方法論、実施のための財政計画、評価法、評価時期、
実施できなかった場合の方策、が、ないと、実現は困難である。
国家的危機感がある中で、 5年後に見直しは、非現実的である。 多くの施策、が5年後の
見直しであるが、 実施開始1年目に、施策の問題が明らかになることがある。 施策が現場
にあわず実効のない状況であるにもかかわらず 、5年は不変ということも見られる。 現場の
ニーズに合わない施策が5年間継続的に放置されるのは、国家的損失であり、危機感ある中
での施策にそぐわない。 見直しは、毎年、または、長くても3年とすべきである。
各省庁の案について
政策には、
方針、計画、実施方法(
実現のための方法論)
、実施に必要な財政計画、評価法、評価時期、
があって初めて、実現に向かう。これらが明記されない「
促進」、「図る」の文は、意味がない。
どのようにして、促進するか、が明記される必要がある。
厚生労働省
○促進、普及、図る、すべて、企 業には、財政負担がかかるものであり、それにもかかわらず、
実施させるための方法論が伴わなくてはならない。「
促進」
するために何をするのか、が重要
である。
すべて目標のみで、方法論が記されていないために、実現への見通しがない。
○母子保健医療に関しては、現実を反映していない。
小児救急だけが取り上げられるのは本末転倒であり、時間内病院小児医療の危機が改善さ
れずに、小児救急、医師確保が改善されるはずがない。 まずは、小児医療、小児保健の確
保に必要なあらゆる施策の優先、緊急性を唱う必要がある。
診療報酬の評価の検討、では遅すぎる。 結果はでており、改善するのかしないのか、改善
にはどのようにすべきか、が問われている段階である。 病院小児医療不採算は、 小児医
療に必要な人手を十分に考慮した医師数をつけない状態で、すでに不採算である。 小児
医療に必要な医師数をつけないでも不採算であるために、病院小児科医の激務が問題とな
っているのであり、十分な医師をつけての医療は、より不採算となる。病院小児医療の崩壊、
病床削減、 小児科の撤退が生じている現状はすでに明らかである。さらに、 小児科医の
激務が、 小児救急を、 より困難にしている。 救急だけが課題であると取り上げるのは、医
療の全体の問題を放置することになりかねず、本末転倒であり、 病院小児医療全体の構造
的問題が、まず、緊急課題として改善される必要がある。
「
検討する」
は、現実には、何もしないことを意味する。 病院小児医療の現状認識からは、検
討する、では、危機感が希薄すぎる。
○不妊治療だけが単独で対策が練られるのは、入り口を多くして受け皿を考慮しない医療を
作ることになり、問題がある。 不妊治療の結果の双胎の発達、などで、種々の問題が議論さ
れており、また、現実に不妊治療の結果、 全国の新生児医療は飽和を越えており、医療の
危機的状況がある。双胎を治療する新生児医療とセットで、考慮されるべき問題であり、不妊
治療だけを推進すべきではない。周産期医療への充実としなくては、 受け皿不足を加速す
る結果になり、生まれた児を診る場がなく、医療体制として機能不全に陥ることは明瞭である。
すでに、不妊治療の結果、多くの多胎=低出生体重児が、 NICU を占拠しており、NICU 病
床数の不足を招いている。 新生児医療も含めた、対策でないと、 受け皿のない医療を
作り出すことになり、 多大な問題を生じる。 周産期医療体制の充実がある中で、不妊治
療が語られるべきである。 不妊治療の結果、現状より多数の多胎児が出生した場合の必
要新生児病床についての検討なしに、 軽々に、不妊治療の支援をしてはならない。移植手
術を奨励して、術後免疫療法をしないに等しい。 医療全体への視点をもって施策にあた
るべきである。
文部科学省
○ゆとりある教育の ゆとりの意味が明確にされるべきである。 カリキュラムがゆとりなのか、
教師と生徒の割合がゆとりなのか、わかりにくい語にこだわるべきではない。
「
発達する脳を鍛え、育む」
教育、脳の発達を鍛えられることを楽しむ教育法を緊急の課題と
して、提案すべきである。日本の学校では生徒は先生に対して緊張し、USAではリラックス
して授業を受けているという。その最大の差は、 日本の教育は、答えが一つであることを強
要することにあると言われる。 カリキュラムを削減したために、実験が減り、 記憶量も減り、
が実態であるように感じられる。 日本においては教育の方法論がないのが、最大の問題
点である。のびのびと能力を伸ばすための教育の方法論を、諸外国に学ぶべきである。
○生命への畏敬の念、などのわかりにくい語ではなく、遺伝子と生命、与えられた遺伝子と
環境の重要さ、遺伝子を良く育てることの重要さ、を USA では教育している。 科学的にきち
んと教えないと、実社会との離反が大きすぎる。 生殖医療などの中にいる子どもたちに生命
の尊厳、という語よりも、科学的論拠を持った命と命のつながりの教育をすべき。
○子どもの発達、教育、などについて、イギリス、 カナダ、 USA などでは、大々的な国家的
取り組みがなされている。 その国の子どもの発達を支援するために、また、より良く発達をさ
せるための効果的施策を組むための国家的研究が、10 年、20年の視野で開始されている。
子どもの発達について多大な財政投入があり、 子どもを国の中でいかによく発達させるか、
などが、緊急課題として取り上げられている。 国家的事業として、子どもの発達と環境の研
究、子どもをいかによく発達させるかの研究に、財政投入をしている国は、先進国では多い。
研究事業も含めて、教育への財政投入は思い切った集中投入をしないと、他の先進国から
大きく遅れることになる。 日本は、子ども達への教育、 子どもの発達支援に関する研究、
施策に、緊急に継続的に、財政投入をするべきである。
カナダでは、どこにどのような支援を必要としている子ども達がいるのか、財政投入して研究
し、いかに支援できるかを検討している。 日本の発達障害の支援は、方法論がなく、単に予
算がある程度ついたから、 関係者が集まって、「とまどいつつ、何かをしている」
のが、現状
である。その結果として、自閉症児は、親自ら選択して十分な支援のある USA で育てたいと
いう例も少なくない。子どもの心身の発達の問題に真剣に取り組むだけの財政をつけるべき
である。
国土交通省
各省庁ごとの優先課題ではなく、国家全体としての優先課題は何か、が明記されるべきで
ある。 家が広いからといって、 子どもを多く持ちたいわけではない、と小児科医の多くは観
察し、感じている。広い家だと子どもの数が多いというデータがあるのであろうか。 家よりも、
他の課題が最優先課題であると思う。 生活の中の街のあり方、 交通手段、等に工夫と子ど
も連れへの配慮がなされるべきである。また、バリアフリーに補助金がつくと、 補助金のた
めに、不要なバリアフリーの工事だけが増加する、というのが現実である。 真のバリアフリ
ーは、 人手、であり、 人の手で、身体障害、 高齢、 子ども、 子ども連れ、が優先される、
という社会体制である。 駅でのベビーカーの介助などができる人手の検討など、子どもと
育児する者が暖かさを感じる社会作りをして頂きたい。
まとめ
総じて、 実現への強い意志、国家的危機感、国家的最優先課題として、子どもへの配慮、
育児への配慮が、感じられない。
どの省庁の案も、何が最優先されるべき課題かが明記されていない。
各省庁の取り組みとしてではなく、 内閣府の方針として、それぞれの施策が、最優先課題と
して、莫大な財政投入を明記して、10年計画で語られないと、変化は、期待できない。
育児する側への支援だけではなく、育まれる者への支援(
発達支援体制の充実、医療・
保健
の充実、教育の充実)
を唱っていただきたい。