指による仮想オブジェクトの操作

法政大学大学院工学研究科紀要
Vol.55(2014 年 3 月)
法政大学
指による仮想オブジェクトの操作
OPERATION OF THE VIRTUAL OBJECT USING THE FINGER
大山拓也
Takuya OHYAMA
指導教員
宮本健司
法政大学大学院工学研究科情報電子工学専攻修士課程
The article describes a method to operate a virtual object precisely by bare hands. The operation of the
virtual object by bare hands uses a hand and the region of the overlapping of the virtual object. However,
that cannot suppose the position of the finger-tip exactly when an overlap region grows big. In this study, I
suppose accurate position relations using a virtual marker in pursuit of a finger-tip. The method was able
to operate a virtual object precisely. This method is important because precision to operate a virtual object
barehanded improved.
Key Words: hand motion, augmented reality, body interaction
1.はじめに
張現実による操作はデバイスを使用することがほとんど
手で仮想オブジェクトを精密に操作する方法を述べる.
であり,煩わしい.直接手で仮想オブジェクトを操作する
ユーザ映像やユーザの動作を利用したインターフェー
方法として,Virtual Manipulation Framework(VMF)[2]
スは,直感的で自然なインターフェースとして有効である.
がある.VMF は仮想空間内でユーザとオブジェクト領域
Magic Paddle[1]は厚紙で作られたヘラの形をした物体(以
の包含関係(重なり具合)に従って事象(イベント)を生
後パドルと呼ぶ)をインターフェースデバイスとして用い,
起し,イベントに応じて仮想オブジェクトを応答させる.
ユーザはそのパドルを使って仮想オブジェクトの操作を
しかし,VMF は手と仮想オブジェクトの重なりの重心を
行う. Magic Paddle のユーザ視点の操作風景を図 1 に示
見ているので,仮想オブジェクトと手の接触領域が大きく
す.
なるにつれて,重心は指先から離れてしまい,仮想オブジ
ェクトと手がどのような関わり合いをしているのか推測
するのが難しい(図2).
図1
Magic Paddle による仮想オブジェクトの操作.
左からパドルですくい上げる,置く,押す操作をしている.
図2
しかしながら,Magic Paddle をはじめとする一般的な拡
接触領域が大きくなり,重心が指先から離れて
いく
本稿で提案する「Visual Marker Operation(VMO 法)」は
カメラの映像に映った手の指先に仮想的なマーカー(以後,
(4)
回転モード
仮想オブジェクトの重心とマーカ1.2の距離が一定以
仮想マーカと呼ぶ)を張り付けて,それらの仮想マーカの
上近いとき.マーカ1とマーカ2を結ぶ直線の角度の変位
位置から指の動きを推定することで,より正確に仮想オブ
に応じて仮想オブジェクトを回転させる.
ジェクトと手の関わり合いを推定できるように VMF を改
良した.
VMO 法により仮想オブジェクトの精密な操作が可能と
なった.
3.結果
VMO 法を用いて仮想オブジェクトに対し.生成.移動.
伸縮.回転操作を行うアプリケーションを実装した.
本研究により,手における仮想オブジェクトの操作性を
仮想マーカはユーザがカメラに映った手にマウスでポイ
向上できた.本手法により,仮想オブジェクトの整形など
ンティングすることで装着することができる.マーカ装着
精密さを必要とされる操作が可能なインターフェースと
の様子を図3に示す.
して期待できる.
2.Visual Marker Operation(VMO 法)
Visual Marker Operation(VMO 法)はカメラに映った手
に仮想マーカを付けて,その仮想マーカから手の推定を行
い,仮想オブジェクトにインタラクションするものである.
ユーザはディスプレイを見ながら指先に仮想マーカを付
け,仮想マーカはユーザの指先の動きを追跡し,正確な位
置情報を取得する.仮想マーカと仮想オブジェクトがイン
タラクションすることで,ユーザは疑似的に手で仮想オブ
ジェクトを,ディスプレイを見ながら対話的かつ直感的に
操作できる.
(1) VMO 法の操作
仮想オブジェクトの重心に一定以上近い仮想マーカの
動きによって,VMO 法は仮想オブジェクトに対して,生
成,移動,伸縮,回転の操作を行える.それぞれの操作に
対して,生成,移動モードと伸縮モードと回転モードを持
つ.モードは仮想オブジェクトを操作する前に指定する.
(2) 生成,移動モード
生成,移動モード中は仮想オブジェクトが無い状態でマ
ーカ1,2を一定以上近づけると仮想オブジェクトを生成
する.また,生成した仮想オブジェクトの重心とマーカ1,
2の距離が一定以上近いとき,仮想オブジェクトを移動で
きる
(3) 伸縮モード
仮想オブジェクトの重心とマーカ1,2の距離が一定以
上近いとき,マーカの動きの変位に応じて仮想オブジェク
トが伸縮する.伸縮モードの操作中は仮想マーカが仮想オ
ブジェクトから離れても伸縮モードを保持する.
図3
仮想マーカの装着
(1) 生成.移動モード
生成.移動モード中における生成の操作の様子を図4に
示す.
図6
図4
仮想オブジェクトの生成
(3)
仮想オブジェクトの伸縮
回転モード
回転モード中における回転の操作の様子を図7に示す.
生成.移動モード中における移動の操作の様子を図5に
示す.
図5
仮想オブジェクトの移動
(2) 伸縮モード
伸縮モード中における伸縮の操作の様子を図6に示す.
図7
仮想オブジェクトの回転
4.議論
(1) まとめ
本研究では.ユーザのライブ映像内における手と仮想オ
ブジェクトとの精密なインタラクションを実現する方法
(4)
将来研究
将来研究として物体認識技術を使い.仮想マーカを自動
的に装着できる研究や.追跡が破綻してしまった仮想マー
カの位置を修正する研究などが考えられる.
を提案した.VMO 法は重なり領域の重心の変位を用いる
方法と比べ正確なインタラクションが可能であり.仮想オ
謝辞
ブジェクトとユーザ映像とを用いた幅広い分野において
本研究を進めるにあたり多大なご助言.ご指導をいただ
利用可能である.
きました宮本健司准教授に心から厚く御礼申し上げます.
(2) 適用限界
参考文献
暗闇など特徴点を取得できないような場合を想定して
いない.また追跡が破綻するような環境では誤作動を起こ
1)Kato.H. Billinghurst.M. Poupyrev. I. Tetsutani.
してしまう.
N. Tachibana. K : Tangible Augmented Reality for
(3) 関連研究
Human Computer Interaction. Nicograph. 2001
「投影手による仮想物体との 3 次元的接触」[3]は映像
に映った手に仮想マーカを付け.3 点の面積を利用して手
の奥行きを推測し.仮想オブジェクトを 3 次元的に接触す
ることができる.図8は仮想オブジェクトを奥行き方向に
移動させフレームごとに変化を表したものである.
図8
仮想オブジェクトを奥行き方向に移動させた様子
2)橋本真秀:複合現実感のためのインタラクション設計.
2007
3)木村紘二:投影手による仮想物体との 3 次元的接触.
2010