不純物を添加した a-As₂Se₃ の光電流長時間減衰

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不純物を添加したa-As₂Se₃の光電流長時間減衰
佐藤, 健二
静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 14, p. 177-179
1993-03-25
http://hdl.handle.net/10297/1739
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氏名 。(本 籍)
佐
藤
健
学 位 の種類
博
士
(工
学位記 番号
工博甲第
学位授与の日付
平 成
学位授与の要件
研究
警表の名称
学位論文題目
学位規則第 4条 第 1項 該当
論文審査委員
二
(福 島県)
学)
66
号
4年 3月
電子科学研究科
25日
電子材料科学専攻
不純物 を添加 した a"AsaSe3の 光電流長時間減衰
(委 員長)
教 授
畑
教 授
藤 安
洋
教 授
助教授
喜多尾道 火児
教 授
論
文
中 義
内
容
式
の
要
稲 垣 訓 宏
山 田 祥 二
旨
アモルファス半導体は結合距離や結合角にゆらぎがあり結晶半導体のような長距離秩序はなく,短
距離秩序 しか持たない。そしてバ ンドギャップ内に欠陥準位が存在 し,光 導電電流の減衰は分散型伝
導特性を示す。本研究では,ア モルファス As2Selに 銀,銅 及びタリウムを添加 した試料の暗電流
定常光電流,長 時間にわたる光導電電流の減衰を測定 し,局 在状態及び導電機構の変化を調べた。こ
,
れは,今 までの測定で不明であった a― As,Se3の 固有欠陥である正孔捕獲準位の不純物添加濃度依存
性を明 らかにし,キ ャリアの輸送における再結合過程や トラップとしての働 きを解明しようと意図 し
たものである。測定した試料 は融液凍結法で作製 したバルク試料で,不 純物濃度は銀及び銅に対 して
は,0.0∼ 1.5at.%で ,従 来から添加効果が鈍いとされているタリウムに対 しては,0.0∼ 5,Oat。 %で
ある。カルコゲナイド系アモルファス半導体の定常光により励起 した後の長時間にわたる光導電電流
の減衰 は,分散型伝導を考慮した拡張指数型関数 exp(‐ Bt4)の 形で減衰することが報告されている。
この式を用いて測定結果に対 してフィッティングを行い分散パ ラメーター α及び再結合速度パ ラメー
ターBの 値を決定 した。
暗電流 の測定か らは以前から指摘 されているように銀においては約0.lat.%程 度の低濃度の添加 で
アクセプター準位が生成 しフェル ミ準位が価電子帯側へ向か って下へ移動す ると考えられる結果が得
られた。銅 においては0.lat。
%程 度の添加でいったん活性化 エネルギーは増加,そ の後減少す る。 タ
リウムにおいて も銅 と同様 に活性化 エネルギーは低濃度 の添加で増加す る。 これ らのことよ り銅やタ
リウムは低濃度添加において母材 の a‐ As2Se3の 構造 に乱れを引き起 こすと考えられる。
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定常光電流 は少量 の不純物添加 で著 しく減少 しその後不純物濃度 とともに緩やかに増加する。 これ
は長時間光導電電流減衰曲線から得 られた結果である不純物 の低濃度添加 における再結合定数 の増加
とも対応 しており,再 結合中心が低濃度 の添加で生成すると考えられる。定常光電流 の緩やかな増加
は報告 されている光学バ ン ドギャップの減少 と対応 している。実験で用 いた入射波長 680nm(約
1.8o
V)に おける正孔生成 に対す る量子効率 は,0。 1程 度 で量子効率が 1に なるのは約2.3eVで ある。光学
バ ンドギ ャップが合金効果 によって狭 くなると量子効率 は増加する。すなわち非局在状態 に励起 され
る電子 と正孔 の密度 は増加す る。その結果定常光電流が増加すると考え られる。また1.Oat.%以 上 の
銅添加 においては再結合中心 の減少 も定常光電流 の増加 に寄与 していると考えられる。
銀 と銅 に対 して得 られた長時間光導電電流減衰曲線 は純粋な a― As2Se3に 比べて温度依存性 は弱 く
,
減衰曲線 の傾 きは強 くなっている。温度依存性 の弱 さは光導電電流減衰 における活性化 エネルギーの
減少を表 してお り,キ ャリアの捕獲準位が不純物添加 によって浅 くなることを意味 している。減衰曲
線 の傾 きが強 くなることは不純物添加 によって再結合中心が生成す ることを意味 している。なおタリ
ウムに対 しては定常光遮断後の減衰が速 く測定限界を越えており長時間光導電電流減衰曲線を得 るこ
とができなかった。 このことか らタリウム添加 は銀や銅 とは異 なる影響を母材 に及 ぼしていると考 え
られる。
フィッティングか ら得 られた過剰 キ ャリアの再結合の確率 を表す再結合パ ラメーターBは 低濃度 に
おける銀 と銅 の添加で増加 した。添加濃度範囲に対 して銀 については再結合パ ラメー ターBの 濃度依
存性 はみられなか った。銅 については再結合パ ラメーターBは 高濃度で明 らかに減少す る。 この結果
か ら銀よりも銅のほうが母材である a‐As2Se3の 組成変化 に及 ぼす影響 は大 きいと考 え られる。実際
に銅 の場合 においては EXAFSや
NMRの 実験から,銅 が 4配 位組成 を形成す る ことや,
6 ate%の
添加で CuAsSe2や Cu3AsSe`な どの合金効果 による異相 の形成が確認されている。
キ ャリアの分散 の度合を表す分散パ ラメーター αは銀添加 によ りわずかに増加 したが銅添加 におい
ては有意 な差 はみられなか った。分散パ ラメーター αの増加 は分散 の度合が減少す ることを表 してお
り,キ ャリアの通過点 となるある種 の局在状態が銀添加 によって生成 されると考え られる。
銀及び銅で得 られた長時間減衰 における活性化 エネルギーは銀,銅 の不純物添加 とともに減少する。
活性化 エネルギーの減少 は銅添加 の方が銀添加の場合よ りも大 きい。 この結果か ら銅添加 によ って生
成 される正孔捕獲準位 は銀添加 によ り生成 される捕獲準位 よ りもバ ン ドテイル側 に近いと考えられる。
このことは光吸収 のUrbach― tailの 測定 より銅 の添加 はバ ンドテイル付近に影響を及 ぼすと指摘 さ
れていることと‐致す る。銅添加 によって,バ ン ドテイル付近 に生成する正孔捕獲準位 は再結合中心
よ りも トラップとしての働きが強いと考えられる。
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論 文 審 査 結 果 の 要 旨
非晶質半導体は近年急速に研究の進展 しつつある分野であるが,特 にカルコゲナイ ド系非品質半導
体では非品質 に固有の欠陥や添加不純物 によって生 じる欠陥については未知 の事柄が多 く, これが広
範 な応用 への妨げとなっている。本論文は代表的な非品質 カルコゲナイ ドの一つである As2Se3の 光
導電電流 の長時間減衰 を測定 し,不 純物 として添加 された銀,銅 及 びタリウムの減衰特性 に及ぼす効
果 を研究 したものである。
不純物 を添加 しないAs2Se3及 び銀または銅を添加 した試料 について測定された光電流 の長時間減
衰 は分散型伝導 と一分子反応型再結合 とに基づ く拡張指数型減衰特性 を示 した。求 められた減衰特性
の解析から,分 散パ ラメータ及び再結合パ ラメータを求 めた。分散パ ラメータは温度依存性を示 さ式
このことか ら分散型伝導 は局在準位間のホ ッピングに基づ くものと推論す ることがで きる。再結合パ
ラメータは0。 lat.%程度 の銀または銅の添加 によ り顕著 に増大 し,こ の結果 は添加 された銀及び銅 が
再結合中心を形成す ることを意味する (ド ー ピング効果), しか しそれ以上不純物添加量 を増加 して
も再結合パ ラメータはあまり変化 しない。 したがって高濃度 の銀及び銅 は再結合中心 を形成せず,む
しろ添加不純物 は母材 に組み込まれるものと考えられる。なお,光 電流の大 きさは高濃度 の銀及び銅
の添加 によ り緩やかに増加す る傾向がある。 これは不純物添加 による光学 ギ ャップの減少 礎詮効果 )
によるものと解釈 される。
種 々の温度で測定された光電流減衰特性 を比較す ることによ リホ ッピング伝導 に関与する局在準位
と価電子帯 の移動度端 とのエネルギー差を求めた。 このエネルギーは銀及 び銅添加 によ り減少す る。
これは不純物添加 による局在準位の変化 と移動度端 の移動の複合効果と解釈 される。
なお,タ リウム添加試料 では光電流 はαlat%の 添加 によ り著 しく減少 し,光 電流 の減衰 は速 く
,
長時間減衰特性 を実験的に観測す ることはで きなかった。したがってタリウムの作 る局在準位 は強 い
再結合作用をもつ と考え られる。 これはⅢ族不純物 の分散型伝導 に対す る ドー ビング効果の最初 の研
究である。
以上本論文 は非品質 カルコゲナイ ド半導体である As2Se3の 光電流 の減衰特性 の解析 の基づ き添加
不純物 の作用 に関 して新 たな知見を得たものであって,博 士 (工 学)の 学位を授与するに十分な内容
を持つ ものと認定する。
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