第 4 回 わが国の 食料確保の問題 食品の安全性や品質を科学 的な視点で解説し、食品表 示の見方や課題、「食品表 示法」などを紹介します。 板倉 ゆか子 Itakura Yukako 消費生活アナリスト 元国民生活センター商品テスト部調査役。放送大学非常勤講師、 公益社団法人全国消費生活相談員協会関東支部食の研究会顧問。 健やかな食生活を営むために、消費者が求め 供給のあり方については、 「外国産より高くて るのは、まず食の安全だと思われます。 も、食料は、生産コストを引き下げながら、で 食の安全を守るには、①食料確保 (Food Se- きるかぎり国内で作る方がよい」と回答した人 curity)②食品の安全性 (Food Safety) ③食品防 が 53.8%と半数を超え、 「外国産の方が安い食 *1への対策が必要です。 御 (Food Defense) 料については、輸入する方がよい」と回答した 人は 5.1%に過ぎませんでした。 この中で、欧米の先進国とわが国に大きな違 いがあるのは、①の食料確保でしょう。わが国 その他、 「食料自給力 (国内生産による食料供 では、消費量に比べて国内での食料生産量が大 給能力)を向上させ、緊急時における食料の安 きく不足し、海外から輸入しなければ、国民が必 定供給を確保するよう取り組むこと」が 「必要」 要な食料を確保することが難しい状況です*2。 と回答した人は 95.6%でした。 食料供給に対する不安 国産食品と輸入食品との価格差 わが国の食料自給率はカロリーベースで39%、 政策金融機関である株式会社日本政策金融公 生産額ベースでは 65%です (後述) 。 庫 (以下、日本公庫)のアンケート調査*4 によ *3 「 『食料の供給に関する特別世論調査』 の概要」 ると、 「輸入食品に比べて割高でも国産食品を選 によると、わが国の 「カロリーベースの食料自 ぶ」 と回答した人は 61.6%でした。ただし、 「3 給率」は「低い」と回答した人が 69.4%、また、 割高を超える価格でも国産品を選ぶ」と回答し た人は 18.8%と少なく*5、現実には、輸入品 「生産額ベースの食料自給率」 を 「高めるべき」 と 回答した人が 80.6%でした。 との価格競争で苦戦を強いられる国産品*6がか さらに、将来のわが国の食料供給について 「不 なりあると思われ、自給率を上げることは容易 安がある」 と回答した人は 83.0%にも及びます。 ではないと推察されます。 そのせいでしょうか、わが国の食料の生産・ *1 悪意を持って意図的に食品中に有害物質等を混入することを防 ぐこと。 *4 日本公庫・平成 26 年度上半期消費者動向調査 http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_140911a.pdf *2 「食糧需給表 平成 25 年度」農林水産省大臣官房食料安全保障課 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/pdf/zyukyu_ 140805-2.pdf *5 ち なみに、米は 37.0%、野菜は 21.3%、きのこは 20.5%と比 較的割合が高い。 *6 全国主要都市における主要野菜の価格調査。農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/tokei/sokuhou/seisen_q13_3/ *3 内閣府政府広報室 http://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h25/h25-syokuryo.pdf 2015.1 国民生活 19 食品の安全・品質と表示を考える どからも明らかです。 食料確保への課題 自給率低下は、米を主食とした和風の献立か 農林水産省が公表している平成 25 年度*7の ら洋風化、多国籍化へと変わったため、畜産物*11 カロリーベース食料自給率は、1人1日当たり の摂取量の増加などの消費の変化に国内の生産 国産供給熱量(939kcal)/1人1日当たり供給 が対応しきれなかったことも要因のひとつとい 熱量 (2,424kcal) = 39%、生産額ベース食料自 われています。 給率は、食料の国内生産額 (約 9.9 兆円) /食料 先の日本公庫の調査*4によると、 「食料品を購 の国内消費仕向額 (約15.1兆円) =65%で、年々 入するとき」 は77.4%、 「外食するとき」 が 35.6% 低下傾向にあります (図)。 と、外食時は国産品かどうかを気にかける人が 上記の式の分母には、 廃棄量が含まれており、 低いという結果になっています。また、 「手作 また、仮に栄養不足であっても輸入量がゼロに り志向」より 「簡便化志向」の人が多く、しかも 近ければ自給率が 100%になるので、この計算 若い世代にその傾向が強いことなどを考え合わ 方法で食料自給力をみることが妥当か、といっ せると、外食や調理加工済み食品を製造する事 た批判もあります。また、多くを輸入に頼って 業者が求める要望に、十分に応えられる国産の いる原油などのエネルギー*8 を使うなどして 農産物の生産が進まなければ、自給率を上げる 生産コストが高い農業生産 (ハウス栽培など) を のは難しいことも予想されます。 今後も継続できるかという問題もあります。し なお、わが国では、年間約1700万トンの食品 かし、いずれにしろ、わが国では不測の事態に 廃棄物が排出され、このうち本来食べられるの 備えるべき食料自給力が低下傾向にあることは に廃棄されているものが年間約500 万~ 800 万 耕地面積 *9 および農業就業人口 * 10 の減少な トン含まれると推計されています*12。この量は 世界の食料援助量* 13 の約 83 食料自給率 (%) 100 86 90 80 70 73 60 50 40 30 20 10 0 1965 図 54 82 1.5 倍に当たるとか。 食料自給率 (生産額ベース) 74 53 43 69 40 69 67 67 65 39 39 39 39 食料自給率 (カロリーベース) 1975 1985 1995 2005 私たち自身がどう行動す れば食料の安定供給につな げていけるのか、さまざま な方向から考えていく必要 がありそうです。 2010 2011 2012 2013(年度) 食料自給率の推移 *7 「平成 25 年度食料自給率をめぐる事情」農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/25mekuji.pdf *11 牛や豚などのエサとなるたくさんの飼料穀物を海外から輸入し ている。肉類や鶏卵1㎏を作るのに3〜 11㎏の飼料穀物が必要。 「肉や卵を生産するためにはどれくらいの家畜のエサが必要なの でしょう」農林水産省東海農政局 http://www.maff.go.jp/tokai/kikaku/tokaijikyu/nani_2_2.html *8 原油、天然ガス、水力などの一次エネルギー。わが国の一次エネ ルギー自給率はわずか6%。 「平成 25 年度エネルギー⽩書 概要」 資源エネルギー庁 http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2014gaiyou/ whitepaper2014pdf_h25_nenji.pdf *12 「食品ロス削減に向けて~ NO-FOODLOSS PROJECT の推進~」 (平成 26 年 12 月) 農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/ losgen.pdf *9 「農林水産統計」 農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/menseki/ pdf/menseki_kouti_14-1.pdf *13 WFP 国連世界食糧計画「WFP の活動」 http://119.245.211.13/activities *10 「農業労働に関する統計」 農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html 2015.1 国民生活 20
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