Clin Eval 42 Suppl XXXIII 2014 巻 頭 言 縦割行政の弊害は,そもそも,合理性・客観性に立脚せずしては成り立たぬ科学・技術 4 4 4 行政においてさえ,目に余るものがあった.ここに過去形を取ることができることを本巻 頭言を記す喜びとしたい. 2007 年より開始された文部科学省による橋渡し研究支援推進プログラムの成功,すなわ ちアカデミア橋渡し拠点における大学発シーズの医師主導治験の順調なる開始に触発され て,厚生労働省は文部科学省に遅れること 4 年,2011 年,早期・探索的臨床試験拠点整備 事業,続く 2012 年,臨床研究中核病院整備事業を開始した(Fig. 1) . ことの発端は,治験促進はそもそも厚生労働省の「所管」ないし「責任」であり,文部 科学省に先を越されるのは耐えられないということであったろうが,いざスタートしてみ ると文部科学省による拠点すべてが厚生労働省による拠点と完全にダブってしまうことに なった.今更,一体全体厚生労働省はいかなる戦略・ビジョンでもってこの事業を始めた かなどと改めて問うよりも,むしろポジティブに捉えたい. Fig. 1 わが国アカデミアにおけるイノベーション創出事業の歴史 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2012年∼ 厚労省 日本主導型グローバル 臨床研究体制整備事業 2012年∼ 文科省 TR加速ネットワークプログラム 2011/2012年∼ 厚労省 早期・探索的臨床試験拠点整備事業 臨床研究中核病院整備事業 臨 2006∼2007年 第一次安倍内閣 2007∼2011年 文科省 TR支援推進プログラム 2004∼2008年 文科省 がんTR事業 文部科学省と神戸市によりTranslational Research Informatics Centerを設置 2014 年 9 月末日現在,厚生労働省による拠点は合計 15(国立がん研究センター,大阪大学, 国立循環器病研究センター,東京大学,慶應義塾大学,北海道大学,千葉大学,名古屋大学, 京都大学,九州大学,東北大学,群馬大学,国立成育医療研究センター,名古屋医療セン ター,岡山大学)であり,文部科学省の拠点は新規拠点を加えて 9(北海道臨床開発機構 ≪北海道大学・札幌医科大学・旭川医科大学≫・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都 大学・大阪大学・九州大学・慶應義塾大学・岡山大学)である. 両事業において,PDCA(plan-do-check-act)マネジメントは適用されているものの,予 算の二元管理は誰の目にも煩雑・矛盾を孕むものとして映っていた.幸い,両事業の PD(プ ログラムディレクター)である猿田享男先生(慶應義塾大学名誉教授)の尽力によって, 2013 年度よりサイトビジットの統合,そして成果報告会の合同開催が実現したのであった. 本号は,両事業の 2013 年度成果報告会の記録である. −5− 臨 床 評 価 42 巻 別冊 2014 省みれば 2012 年度末,厚生労働省評価委員会において,厚生労働省の事業では,ARO (academic research organization)として各拠点を整備するという方針がまとまり,この 方針は,政府の健康・医療戦略(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/senryaku/ senryaku.pdf)に明記されたのであった.よって 2014 年度には,2015 年度 4 月の新独立行 政法人日本医療研究開発機構の発足を睨んで,文部科学省と厚生労働省は合体して,上記 の事業を革新的医療技術創出拠点プロジェクトとして両省合議による指揮のもとに進める ことになった.ARO の機能と実務内容については Fig. 2 の通りである.こうして 15 拠点は ARO として整備を進め,ネットワーク形成に向けて動き始めた.ここに日本再興戦略の目 指すアカデミアのイノベーション創出拠点がくっきりと姿を現わしたのである.各 ARO に おいて,シーズ開発は R&D パイプライン管理システムによって一元的に一貫管理がなされ, PDCA マネジメントが適用される.そして全 ARO のシーズは,国家ベースでも一元管理・ 一貫管理が可能となるのである. Fig. 2 ARO の機能と実務内容 文科省・ 厚労省 拠点整備 事業 Ⅰ期 機能 マネジメント オペレーション 研究・診療・教育機能 スポンサー機能 知財管理 薬事管理 研究開発マネジメント ナレッジマネジメント IPマネジメント 研究の棚おろし CRO機能 データセンター モニタリング・QA SMO機能 CRC 治験病床 Ⅱ期 リソースマネジメント 開発候補選択 プロジェクトチーム形成して R&Dフローにのせる 進捗管理/R& 進捗管理/R&Dパイプライン プロジェクトマネジメント 管理システム IND治験届 ライセンシング・契約 グローバルアライアンス ライセンスアウト (企業への 受け渡し) NDA承認申請 Ⅲ期 各アカデミア拠点における全シーズの一気通貫・一元管理とPDCA かくして,国としてどこに予算を投入すれば国民利益を最大にすることができるかさえも, 予めシミュレーションできるようになる.これはわが国の科学・技術行政史上まさしく革 命である.健康・医療分野における研究開発について,PDCA マネジメントによって一元 管理・一貫管理を正しく実施するならば,わが国は間違いなく世界に冠たるライフサイエ ンスイノベーション創出国となるであろう. なお,健康・医療戦略に提示された PDCA マネジメントについては,本誌 42 巻 2 号に健 康・医療イノベーション・マネジメント教本として出版されたので参照されたい. 福島 雅典 文部科学省・厚生労働省事業サポート機関 代表 公益財団法人 先端医療振興財団 臨床研究情報センター センター長 −6−
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