平成26年度福島県教職員研究論文 入選 「地域で共に学び、共に生きる教育につなげる、 児童主体の交流及び共同学習の実現をめざして」 ~学校間交流・居住地校交流におけるタブレット端末を活用した取組を通して~ 平成26年度公益財団法人福島県学術振興財団助成対象事業 福島県立相馬養護学校 小学部 ※ダイジェスト版 1 主題設定の理由 (1)交流及び共同学習の重要性 相馬養護学校(以下:本校)は、相双地域で唯一の特別支援学校であり、児童生徒が「地域で 共に学び、共に生きる教育」をめざして取り組んでいる。その取組の一つとして、交流及び共同 学習(以下:交流)において、小学部では現在、近隣小学校二校との学校間交流、及び、児童の 居住地の小学校一校との居住地校交流を実施している。これまでの取組から交流には以下のよう な意義があると考えられる。 ①本校児童における交流の意義 交流場面で児童は、同世代または学年の違う児童とのふれ合いに期待を持ち、自分の気持ち をいろいろな方法で表現しようする様子、共に活動する中で喜びや満足感を味わっている姿を 多く見せる。このことから、交流は人とのかかわり合いの喜びを味わいながら友達と共に様々 な活動に進んで取り組む態度を育てることができると考える。 ②小学校児童における意義 小学校の児童は交流において、本校児童がそれぞれの方法で積極的に活動する姿にふれるこ とで仲間意識を持ち、ふれ合いを通して共に活動する喜びを感じ、さらには自分たちの地域社 会を構成している友達という意識を持って、思いやりの気持ちも育つことが期待できる。 ③双方にとっての意義と交流推進の目的 ①、②から、交流は好ましい人間関係を構築し、社会性を育むことが期待できるという点か ら双方にとって非常に有意義であると考える。そこで、交流を一人一人に応じて工夫しながら 推進し、児童主体の取組となるようにして、地域で共に学び、共に生きる教育につなげたいと 考えた。 (2)児童主体の交流の実現のために ①交流の現状における課題 本校の小学部は、障がいの多様化が顕著であり、発達の段階の差も大きい。また、各交流で は、児童同士が直接ふれ合える機会が年1~2回であることから、児童によっては障がいの状 況や発達の段階から、小学校での初めての環境に慣れることに時間を要したり、自分の気持ち や意思を十分に表現できない状態で終えてしまったりする場面があった。さらに教材研究が充 分でないためか、共に行う活動内容の理解が不十分で、ふれ合いが深まりにくい場面もあった。 ②課題解決の方策 ①の課題は、交流当日の支援のあり方だけではなく、事前・事後学習も含め、交流学習の単 元全体を通して改善する必要があり、また、学校・学部組織として共通した新たな方策が必要 と考えた。その一つとして、交流の場面においてタブレット端末を一人一人の状態に合わせて 使い方を工夫し、友達とのやりとりに生かしたり、写真やVTR・音声を端末に保存し事前・ 事後の学習で活用したりすることが有効となるのではないかと考えた。 タブレット端末の交流場面も含めた学習活動で期待できる具体的な効果は次の内容が想定で きる。 『操作をしやすい』 ・手に持ったり、補助具で固定したりして、自分で見やすい、操作しやすい位置 を設定できる。 ・アプリケーション(以下:アプリ)は内容を表すシンボルで示されていて、目 的 に 沿 っ て 選 び 「 押 す 、 触 れ る 、 補 助 具 で 触 れ る 、 音 声 」で 起 動 と 操 作 が で き る 。 ・多くのアプリがあり、目的に応じて選び、端末のソフトウエアに追加できる。 ・ボタンはホームボタン1つで、押すとホーム画面に戻る・他のアプリ起動等、 活 動 の 切 り 替 え (リ セ ッ ト )を 児 童 自 身 が 行 い や す い 。 一人一人の障がい・発達の段階に応じた操作方法で、目的に沿った活用が 可能となる ◎操作への興味と意欲が高まる。児童自身の行動が増え目標達成に近付く。 ◎ 使 い 方 に よ っ て は 、 人 (先 生 、 友 達 )と 一 緒 に 使 っ た り 、 ア プ リ を 通 し て ふ れ 合 ったりとコミュニケーションツールとなる。 これらの効果から課題解決のための方策を以下の通りに設定し、「計画(Plan)・実施(Do)・ 評価(Check) ・修正(Action)」(以下:PDCA)で推進し、主題に迫ることをめざすことと した。 ◎ タ ブ レ ッ ト 端 末 の 交 流 全 体 を 通 し た 活 用 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ツ ー ル 及 び 写 真 ・ V T R 機 能 の 活 用 ◎ 2 学 校 ・ 学 部 の 組 織 的 ・ 計 画 的 な 交 流 の 推 進 研究の実際 (1)交流の推進における重点の共通理解 1の②における「学校・学部の組織的な推進」の方策において、交流の推進では、以下の内容 を重点として共通理解した。 「なぜ・なんのために・どのように」の視点による推進 ○ 継続している交流の「なぜ、なんのために」の目標を年度ごとに検証する ○ 目標から「どのように」の内容・方法を年度ごとに児童に応じて計画する ○ 一人一人に応じた「どのように」の適切な手立て・状況を整える。 「子ども・保護者・地域からのニーズ」に応えて実施につなげる ○ 新たな交流は、子ども・保護者・地域のニーズから開始する。 ○ 新たな交流では、両校の児童のニーズに応じて相手校と調整をはじめ、計画的・具体的に 推進する。 ○ 新たな交流でも、「なぜ、なんのために、どのように」という目標・計画・内容・手立て・ 状況を明確化して推進する。 交流で端末を活用していなかった、昨年度(平成25年度)の経過を考察して、今年度(平 成26年度)一学期の交流において、1の方策と2の重点を下に各交流を推進してくこととした。 (以下:平成は略す) (2)取組と考察 小学部における交流は、以下の通りの計画で実施している。 <学校間交流> 年間回数:時期 Ⅰ 相馬市内本校近隣小学校4年生(以下:A小学校) 2回:1、2学期各1回 Ⅱ 相馬市内本校近隣小学校特別支援学級児童 1回:2学期 (以下:B小学校) Ⅲ B小学校6年生(Ⅱの小学校) 1~2回:1、2学期 ※25年度から開始 経過 継続 継続 新 <居住地校交流> Ⅳ 相馬市内の本校児童の居住地小学校同学年 2回:1,2学期各1回 (以下:C小学校) ※26年度から開始 新 Ⅰ【25年度の交流の経過と考察】 ※各交流は、上記のⅠ~Ⅳの記号で示す。 ①姉弟の声をきっかけに小学校児童のニーズではじめた交流(Ⅲ:B小学校6年生 ※以下:B小) 経過)24年度に、B小5年生の本校児童の姉が、「身近でがんばっている人」のテーマで、弟と 母親の作文を書いて発表し、学級児童が本校に関心を持つこととなった。同年10月の相馬・新 地地区小・中学校音楽祭で、本校は学部全員で合唱を発表した。その姿を見たB小5年生が感動 し、「養護学校の児童たちと交流したい」という気持ちになり、その声を担任が受け止め、実施 に向けて両校で調整を開始した。新たに開始する交流ということで、交流の係だけではなく、学 部組織として以下の流れで推進した。 1 教育課程上の計画:B小教務主任と本校小学部主事(以下:主事)で両校児童のニーズ と目標を確認 2 担当者間の打合せ:25年度当初に、B小6年担任と主事で打合せを実施 ○ 6年生との交流という点から本校4~6年の「音楽・体育」で 交流することを決定 3 B小での事前授業:養護学校の学習の様子、児童についての理解を深めるために、B小 の事前学習では本校職員も参加して実施 ○ 音楽・体育の授業VTRを一教材として、「授業の様子、児童の 発達の段階、かかわる時・共に活動する時の配慮点」を指導 交流の実際と考察) ○ 交流当日、B小児童は、音楽・体育の授業で、本校児童が協力して活動する様子を見て感心 し自分から進んでかかわりを持って共に活動し、同じ班の本校児童に、手本を示したりと「共 同学習」の効果があった。後半には、やりとりしながら一緒に活動する場面が増え、ふれ合い を深めていた。 ○ これらの交流における両校児童の様子から、また、B小児童のニーズに応えて交流を実現で きた点は大きな成果であった。しかし、以下の点が課題として挙がった。 △ 直接の交流は1回であり、本校児童の活動への理解と交流した実感は十分であったか △ 両校における目標の事後評価と次回計画への反映は十分であったか ②継続の交流から、「なぜ、なんのために、どのように」を分析(Ⅰ:A小学校4年生 ※以下:A小) 経過) A小との交流は本校が市立学校の時から二十年近く継続していて、ここ数年間は次項の計画で 展開してきた。 Ⅰ A小4年生3~4学級と小学部全児童とで1、2学期に1回ずつ実施する。 Ⅱ 本校児童1名とA小3~5名程度が一班を構成して(2回とも同じ)交流する。はじめ の会・終わりの会は、A小児童が進行する。 Ⅲ A小の体育館・多目的教室等を利用し、A小児童が事前授業で計画し、準備した活動 を行う。 Ⅳ 本校児童の障がい等の状況から、24年度から本校も会場として、いくつかの班は交 流する。 Ⅴ 係間で、「連絡調整・1回目前の打合せ・1回目の反省・2回目の打合せ・2回目と当 該年度の反省と共通理解・教育課程の計画」の流れで推進する。 これまでの交流を分析)※英数字は展開の数字と対応 ○ Ⅰ、Ⅱでは、児童主体の交流という視点から両校で検討を重ねてきて、数年間変わっていな い。Ⅳでは、共通理解を図りながら本校も会場とできたことで、目標達成の状況づくりにでき たと考える。 ○ 「児童主体の交流」の目標達成をめざし、Ⅲの班ごとの活動内容を決める過程を係間では特 に配慮してきた。本校児童の実態や興味関心等の情報資料を担任用・児童用に準備してA小で はそれを下に交流で行う内容を班ごとに検討し、その内容を本校でさらに検討して修正を加え 当日の交流に臨むようにした。 ○ このような推進で、25年度はほとんどの班で本校児童に応じて無理のない活動となり、2 回目も同じ友達との活動で、ふれ合いを深めて楽しんでいる姿が見られた。 しかし、児童一人一人の主体的な姿の適切な評価は難しく、実現のためには児童の障がいの 状態、発達の段階等から以下の点が課題として挙がった。 △ 事前:本校児童への交流についての学習とA小児童への情報資料が十分であるか △ 当日:交流で共に活用できるような児童主体となるようなツールは十分か △ 事後:ニーズに応じて、2回目に・次年度へつなげるツールは十分か △ これら3点を両校間でどのように共通理解を図って推進していくのか ③25年度の交流における課題解決のために A小との交流における課題は、B小との交流にも当てはまり、また「2⑵ⅡのB小特別支援学級 との交流」でも、本校の学部行事レクリエーション1回に共同参加、という内容と回数から同様の 課題となる。これらの課題を解決し、児童のニーズに応えるため、「タブレット端末の交流全体を 通した活用」を方策とし、推進することとした。 端末を効果的に活用するためには、必要な台数の確保と学校としての「端末の取扱いと管理等の 体制づくり」が必要であった。この点と、本校の地域における特別支援教育のセンター的機能を果 たす取組でも端末を効果的に活用できることを期待して、小学部・教務部・地域支援部・情報教育 部で共同し、教育課程編成と並行して以下の事業計画を作成した。(以下:事業) 「養護学校におけるインクルーシブ教育の構築をめざしたタブレット端末の有効活用」 ~交流及び共同学習における児童生徒に応じたタブレット端末を活用する取組~ ※平成26年度公益財団法人福島県学術振興財団助成事業の対象となる。 Ⅱ【端末を活用した26年度の取組】 ①交流における端末活用の計画 交流で端末を有効に活用できるように事業計画を下に、学部・学校組織で効果的に連携し、PD CAで展開できる体制で実施した。また、端末の活用方法を以下の通りとした。 「タブレット端末の活用事業計画の一部から」 1 事前事後の担当者間の打合せ ・端末活用の目的、方法の説明と打合せ ・本校児童生徒の学校生活の様子を紹介 2 交流相手校、本校の事前学習 ・自己紹介 、当日の活動説明VTRの作成と視聴 ※要望に応じて本校職員が事前授業に協力 3 交流当日 ・活 動 内 容 の 説 明 、 自 己 紹 介 V T R 、 写 真 の 視 聴 ・ア プ リ を 活 用 し た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ツ ー ル 4 交流の事後学習 ・当日の振り返り(写真、VTR) ・感想、メッセージVTRの作成、視聴 5 関係機関との連携 ・地域の「幼稚園、保育所、小・中学校、高等学校」、 「医療・保健・福祉・労働機関」との相談・連携 6 研修、講習会、事業の広報 ・研修、伝達、講習会の実施、Web等広報 ※5,6は事業全体にかかわる取組 ②A小学校との交流1回目の実際 交流の事前における取組) ○ 担当者間の打合せでは、事業の計画を説明し、共通理解を得た。互いの交流の目標を確認し、 自己紹介・メッセージを端末で作成・視聴し合うこととした。 ○ 本校では、朝の会・音楽・体育・遊びの様子、運動会練習のVTRと写真を撮影し、学級ごと に1~2台の端末に保存した。 ○ A小の事前授業に本校職員が協力参加し、端末も活用して以下の内容を実施した。 ・ 端末の使い方(写真とVTRの見方、撮影方法・アプリの操作方法) ・ 自己紹介、本校児童に向けてのメッセージVTRの撮影 ・ 交流の目標とかかわりにおけるの配慮点の説明 授業では、班ごとに本校児童の様子を真剣に見たり、意欲的に端末を操作し て写真やVTRを撮影したりしていた。事前に配布した資料も参考にして、当 日の活動内容を積極的に話し合っている様子が見られた。 ○ 本校の事前学習でもA小からのVTRに関心を持ち、端末に顔を近づけて見 ていて、交流する友達や体育館などの施設への見通しを持つことができた。 さらに、本校のニーズに対応し、一人一人の障がいの状態に応じた端末操作及びアプリの活用 を検討した。特性を生かし、交流場面では端末をコミュニケーションツールとして活用すること を考えた。そこで、画面の「写真をタップすると対応する音声が出る機能」のアプリを端末ソフ トウェアに追加した。 端末を活用し、学級ごとに、自分の班のA小児童の顔写真をタップして名前を聞いたり、自分 の好きな遊具写真を登録し、触れて自分の意思表現の練習をしたりしている児童がいた。肢体不 自由児が在籍する学級では、端末を補助具で固定するなどして児童が画面に触れやすい状況設定 をした。 当日の様子) ○ A小4年生3学級の1、2組がA小を会場に本校児童を迎えて、また本校も会場としてA小 3組の児童を迎えて実施した。A小では、ボウリングや新聞紙遊び、手作り紙芝居、ダンス、 学校探検等の活動で交流した。 事前学習の成果が出たのか、車椅子使用の児童が活動しやすい場所で行ったり、大きな集団 が苦手な児童とは静かな場所で交流したりと、児童に応じて交流しているように感じた。 本校では、端末を互いに交換しながらタップして名前を呼び合ったり、遊びたいことをタッ プし伝えてから共に行ったりしていた。また、児童が乗った台車をやさしく引っ張る、端末を 一緒に見て耳元でやさしく話すなど、本校児童の状態に合わせながらも 共に楽しみ主体的に活動していた。両会場で班ごとに楽しく交流し、終 わりの会ではそれぞれ気持ちの込もった感想を発表し合っていた。 事後学習と次回の打合せ) ○ 1回目の思い出と自分の班の友達をより実感として振り返りやすいように、 学級で1~2台の端末に2~4名分の内容について、当日の写真とVTRを保 存し、事後学習で活用した。端末操作を覚えた児童も増え、自ら操作して振り 返る様子が見られた。 ○ A小では、一人一人が本校児童に「楽しかった。2回目が楽しみ」等のメッセージや折り紙 など飾りをつけて手紙を作成した。本校では、その手紙を手に取って見て笑顔になっている児 童も多く、2回目への期待が高まっているようであった。手紙のやりとりだけでなく、係間で 直接の打合せも行い、1回目の反省・2回目の計画を検討する機会も持った。 A小との端末を活用した交流の成果) ○ 今回は、事前・当日・事後と目標・場面に応じて端末を活用して、児童一人一人が主体的に 活動する場面が多く見られた。活用において以下の方法が効果的であった。 ◎ 学級ごとに1~3人で1台の割合で端末を活用でき、個に応じた専用の使い方ができ、 数人で使っても待つ時間が無い又は短く、関心が持続しやい。 ◎ アプリの機能により、「タップして名前を呼ぶ、意思表現をする」という、自分の行動 で交流を成立させることができる。 ◎ 上記2点は、一人一人の状態やニーズに応じた「合理的配慮」となり、自ら学習に取り 組む意欲を高めた。 また、これらの成果によってA小児童にも相乗効果が生まれ、本校児童に対する理解が深ま り、相手のペース、気持ちに合わせて交流しようとする思いやりを持った行動が数多く見られた。 ③保護者と児童のニーズからはじめた居住地の小学校での交流(2(2)Ⅳ居住地校交流:C小学校) 経過) ○ 25年度に保護者の一人から、「居住地小学校の同級生と交流したい」との話があった。幼稚 園時に一緒に遊んでいた同級生と休日等に近所で顔を合わせた時、互いにどのようにかかわって 良いか迷っている様子を目にして、また、今後も地域の同世代の子どもたちとより良い関係で生 活して欲しいという願いからであった。要望の具体的内容、児童の気持ちの確認のため、改めて 保護者と懇談を実施し、ニーズと方法を次項のように焦点化した。 ◎ 居住地校地域の対象が本児童だけである。 ◎ 居住地校同級生との年間数回の継続的な交流を行いたい。 ◎ 本児童も時々、小学校体育館で兄弟・保護者の活動等に一緒に参加して いる。近所で出会った時にも同級生を意識している。 ◎ 学校は、本校から徒歩で行き来できる近隣学校ではない。 <このニーズから交流の概要を以下の通りに話し合った。> ○ 居 住 地 校 交 流 と し て 次 年 度 (2 6 年 度 )か ら 実 施 で き る よ う に 学 校 間 調 整を行い、実施決定後、具体的ニーズに応じて計画する。 ○ 送迎は保護者とし、担任も授業に参加する。なお保護者も参観する。 懇談記録を基に、学校間・相馬市教育委員会との調整を開始した。保護者、児童のニーズと目 標をC小学校(以下:C小)に説明して共通理解を持ち、26年度に実施することを決定した。 推進と事前学習) ○ 25年度3学期の教育課程編成の時期に、担任と主事でC小に出向き、対象学年担任・教務主 任と打合せを行った。保護者、児童のニーズ等をまとめた資料を基に検討し、以下の概要で居住 地校交流として実施することを決定した。 ◎ 1、2学期各1回、計2回で実施する。 ◎ 児童の実態、興味関心から体育で実施する。新年度になってから担任同士の打合せで題 材、活動内容を検討する。 ○ 26年度に入ってから、担任同士の打合せを行い、児童に応じた内容と授業の年間指導計画か ら検討し、題材と期日を決定した。端末活用事業に関しても共通理解を得て、事前学習で端末を 活用してメッセージVTRを両校で撮影して互いに見ることとした。 ○ 本校では、児童が利用したことがある小学校の体育館、校舎内の写真を端末で見せて交流の説 明を行うと、自宅近くの小学校に行くという見通しにつながり、意欲的に自己紹介VTRを端末 に記録した。端末と資料をC小に届けると、学級で視聴し、当日のこと等を話し合った。全員で メッセージも撮影し、その端末を受け取り、本校で児童に見せると、近所の友達の顔を見つけ、 C小で交流することの理解にもつながり、楽しみにしていた。 当日と事後学習) ○ 当日は、体育館で学級児童の温かい出迎えがあり、体育の授業がはじまった。題材「からだ つくり運動」に参加し、太鼓の音に合わせた運動や風船を使った運動・ゲームを行った。打合 せで児童は風船遊びが得意なことを伝えていたことから体育の中心的な活動として組み込まれ ていて、風船を見て児童の緊張は解けて笑顔になり、数人と輪になってアタックして、落とさ ないようにパスし合っていた。友達が代わりながら、人数が増えたり、風船が2個になったり しても熱心に追いかけて、友達と協力して取り組んでいた。風船運びリレーでは、ペアの友達 と息を合わせ上手に運んでいた。両校児童が身体をたくさん動かし活発に交流し、あっという 間に終わりとなって、共に楽しむことができたという満足感を感じられた。 ○ 事後学習で本校児童は、小学校の友達からもらった手紙を担任と一緒に読ん だり、端末で交流の写真やVTRを見たりして楽しかった思い出を振り返り、 2回目の交流を楽しみにしている様子が伺えた。 居住地校交流の成果) 本校では居住地校での交流は今回が初めての試みであり、保護者の願いから、計画を具体化し て推進し、児童に応じた内容・方法で実施できたことは成果である。また、当日の両校児童の 体育の様子から、共同学習の目標達成にも近づき、給食、昼休みも通して、ふれ合いを深めな がら、同級生同士として仲間意識を持ち、共に主体的に活動できたことも成果であった。また、 写真・VTRの端末活用は、A小交流と同様に児童の確かな見通しと振り返りに効果があった。 3 まとめ (1)成果 ①組織的・計画的に取組を推進した成果 25年度の課題から、交流ごとの係分担・手順ごとの内容の整理を行い、主事が全体的な視点 で携わり、端末活用事業との調整をしながら適時・適切に展開した。随時、校長、教頭の指導を 受け、修正を加えながらPDCAで組織的・計画的に推進した。 結果、学校間の連絡調整、手順に沿った展開を双方の学校の共通理解の下で円滑に推進できた。 さらに、当日だけでなく、事前・事後も含めた適切な授業づくり、具体的な評価、反省が行われ、 一貫性のある交流となった。 ②端末活用事業の成果 端末活用を方策として推進したことで、両校児童に次のような姿が見られた。 <本 校>◎ 事前:確かな交流の見通しと期待の高まり ◎ 当日:「自分から、自分で」の場面が増えたことによるふれ合いの深まり ◎ 事後:確かな振り返りと次回への期待 <相手校>◎ 事前:養護学校の児童と学習についての理解、当日の目標の理解と児童に応 じた活動の準備 ◎ 当日:児童の状態、ペースに応じたかかわり、共同の活動、思いやりを持っ ての交流 ◎ 事後:「本校児童へ気持ちを伝えたい」という意欲的な活動 これらの点から、端末が見通しと振り返りのツールに、当日のコミュニケーションツールにな り、単元全体を通して、児童が自分の活動と友達との交流に確かな目的を持つことができた。ま た、今回の取組から本校児童にとって端末活用で以下の点が効果的であった。 ◎ 伝える楽しさと伝わる喜びを味わうことができた ・ これまでのコミュニケーションで自分の思い通りの表現が難しかった児童が、端 末をツールとしたことで交流がより活発になった。 ◎ 伝えられた・伝わった・交流も深まった経験から自己肯定感が高まった。 ・ 自分のアクションで交流が成り立つことの喜び、満足感があった。 ◎ 上記2点から、自ら進んで人とのかかわりを持とうとする・いろいろな活動に取り 組もうとする、意欲が高まった。 これらの効果から今後さらに期待できる観点 ◇ より児童主体の交流となる教育の可能性が高まる ◇ より一人一人に応じた「合理的配慮」の充実ができる (2)課題 ①なぜ・なんのために・どのようにの再検討 先述した成果と合わせて、今後、取組の一層の充実を図るため以下の点を再検討したい。 △ 各交流「事前・当日・事後」の児童の姿、目標の達成状況をより具体的に評価し、各計 画を再検討する。 △ 「体育、生活単元学習等」で交流授業を実施してきたが、「どのような目標で、どのよう な授業で行うのか・交流と共同学習の目標をどのように活動に反映し計画するのか」、を 検証する。 △ 小学校の教育課程の目標、学習、計画等と合わせ、両校間でさらに共通理解して推進する。 これら3項目をPDCAによる推進、学校間の連携から検証し、手順ごとに改善策を加えなが ら見直して行き、各交流において目標達成をめざすことが大切である。 ②より児童主体の交流をつないでいくために 今回、端末活用で交流の事前の見通しと事後の振り返りは全体的に行えたが、当日の交流場面 での活用方法、新たなアプリの工夫は一部の児童だけで、今後さらに活用方法の検討が必要であ る。その一つとして、ネットワークシステムを活用して、両校同時に端末等で交流する取組があ り、直接交流の機会だけでなく、事前・事後で『今』を共有することができると、よりつながる 交流に近づくと考える。さらに、端末活用をもう一歩進めるために、以下の課題を挙げたい。 △ 端末操作とアプリへの関心が強くなり、交流という目標から離れる可能性 △ 指導、支援する教員個々の端末も含めたICT活用能力の違いによって学習効果に差が 出る可能性 この課題解決は、個人ではなく、学部や学校として対応するものであり、研修の体制作りや実 施のための整備が必要となってくる。 (3)最後に「地域で共に・・」をめざして 交流の終わりの会で本校の先生が話をする機会には、毎回「交流をスタートとして、地域で子ど もたちに出会った時も声を掛けてください。」と話している。また、今回、家族や地域小学校児童 の願いから新たに学校間・居住地校での交流も実現できた。取組全体を通して、 「地域で共に学び、 共に生きる教育」の実現に近づけられたのではと考える。 今後、より「地域で共に」を実現できるように、学校、学部そして教員一人一人のさらなる努 力も求められるのではないか。そして、成果と課題が明らかになった端末 活用では、本校児童のニーズに応じた周辺機器等の活用方法、一人一人を 生かすアプリの開発をめざして自己研鑽に努めたい。 最後に、共に交流を推進している各小学校の校長先生をはじめ諸先生方 に、改めて感謝を申し上げたい。
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