中性子ラジオグラフィを用いたセメント硬化体の含有水分量測定

中性子イメージング専門研究会
2014年12月27日(土)
中性子ラジオグラフィを用いた
セメント硬化体の含有水分量測定
茨城大学大学院 久保 美春
茨城大学
沼尾 達弥
研究背景
水分逸散
含有水分分布
低 高 低
圧縮
収縮
引張
引張
ひび割れ
コンクリート
これまでセメント硬化体の水分移動に伴う収縮特性に関する研究は、
水分分布を考慮せずに行われた。しかしこれでは、水分移動を正確に
捉えることができない。
非破壊で水分分布を可視化できる
中性子ラジオグラフィ技術が開発された。
2
研究目的
中性子線を照射し非破壊で内部の水分存在状態を捉える
ことが検討されている。
しかし
コンクリート分野に用いた研究事例が少なく、
含有水分量を定量化する手法が確立されていない現状である。
本研究では、
セメントペーストとモルタルの硬化体を対象として、
中性子ラジオグラフィ画像から硬化体内の含有水分量
を定量化することを目的とする。
3
中性子線の物質透過時の減衰
I
I0
コンバータ
透過中性子強度
コリメータ
入射中性子強度
試験体の厚さδ
試験体
コンバータ距離
I = I0
e(-µδ)
I/I0 =
e(-µδ)
I0:入射中性子強度
I:透過後の中性子強度
I/I0 :中性子強度変化率
δ:試験体の厚さ (mm)
《中性子透過画像》
µ:線吸収係数 (1/mm)
[構成元素によって決まる]
4
中性子ラジオグラフィ画像に影響を与える要因
・中性子源とその強度(エネルギー分布)
・試験体の構成成分による散乱線
・コリメータ通過後の中性子線の非平行特性
・ビームハードニング(線質硬化)
・コンバータの特性
・カメラの解像度や歪み
幾何学的要因
本来の含有水分量より少なく見積もってしまう。
よって、含有水分量を定量化するために補正する必要がある。
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実験の流れ
実験1:透過画像に及ぼす影響要因の把握と
その影響要因の補正
実験2:セラミック試験体(Al2O3)を用いた多孔
質材料の含有水分量の同定
実験3:セメントペースト硬化体の含有水分量
の同定
実験4:モルタル硬化体の含有水分量の同定
6
実験1:透過画像に及ぼす影響要因の把握
【実験1の目的】
中性子ラジオグラフィの透過画像から含有水分量の定量化
を行うために、透過画像に及ぼす影響要因を把握する。
そして、その補正を行う。
【試験体概要および実験水準】
5 MW
撮影時間
30s, 60s,
120s, 180s
6s, 12s, 24s,
36s, 60s
コンバータ 0~100 mm
(10mm間隔)
距離
0~100 mm
(20mm間隔)
試験体の
形状
10mm
100mm
コンバーター
1 MW
蒸留水
中性子線
原子炉出力
アルミ容器
I0
三角形のアルミ容器に
蒸留水を入れた試験体
(10×100×30 mm)
100mm
0mm
コンバータ距離
7
実験1:透過画像に及ぼす影響要因の把握
* 中性子ラジオグラフィ画像から含有水分量の定量化を行う
ため、透過画像に及ぼす影響要因を把握した。
• 撮影時間が長くなると実験値のバラツキが小さくなる。
• 試験体とコンバータ間の距離は大きくなるほど、
非並行特性により画像の拡大と幾何学的不鮮明度を生じ
させる。
• 試験体とコンバータ間の距離により中性子強度変化率
が変る。その影響は中性子線の散乱による可能性が高い。
• ビームハードニングにより試験体の厚さが増すほど理論値
との差が生じる。
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実験1:透過画像に及ぼす影響要因
《コンバータ距離と試験体の厚さによる影響》
計測位置
中性子強度変化率
水の厚さδ水
0~10mm
コンバータ距離
1.2
0mm
1.0
10mm
0.8
20mm
0.6
40mm
60mm
0.4
80mm
0.2
I/I0
100mm
0
0
2
4
6
8
10
理論値 : I/I0 = e(-µδ)
µ水=0.347 (1/mm)
水の厚さδ水 (mm)
各コンバータ距離での中性子変化率I/I0と厚さδ の関係
(例:1MW・撮影時間180s)
9
実験1:透過画像に及ぼす影響要因
《コンバータ距離と試験体の厚さによる影響》
計測位置
中性子強度変化率
水の厚さδ水
0~10mm
コンバータ距離
1.2
0mm
1.0
10mm
0.8
20mm
0.6
40mm
60mm
0.4
80mm
0.2
I/I0
100mm
0
0
2
4
6
8
10
理論値 : I/I0 = e(-µδ)
µ水=0.347 (1/mm)
水の厚さδ水 (mm)
各コンバータ距離での中性子変化率I/I0と厚さδ の関係
(例:1MW・撮影時間180s)
10
実験1:透過画像に及ぼす影響要因
《コンバータ距離と試験体の厚さによる影響》
µ水=0.347 (1/mm)から算出した水の中性子強度変化率の理論値と
実験値から求めた中性子強度変化率の差で補正を行う。
∆(I/I0) = (理論値 I/I0) - (実験値 I/I0)
中性子強度変化率
コンバータ距離
1.2
0mm
1.0
10mm
0.8
20mm
0.6
40mm
60mm
0.4
80mm
0.2
I/I0
100mm
0
0
2
4
6
8
10
理論値 : I/I0 = e(-µδ)
µ水=0.347 (1/mm)
水の厚さδ水 (mm)
各コンバータ距離での中性子変化率I/I0と厚さδ の関係
(例:1MW・撮影時間180s)
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実験1:透過画像に及ぼす影響要因の補正
《補正式の提案》
∆(I/I0) = (理論値 I/I0) - (実験値 I/I0)
《近似式から得た関係性》
∆(I/I0) = -α×ln(I/I0) +β
理論値と実験値の
中性子強度変化率の差
∆(I/I0)
0.4
(α 、β :係数)
∆(I/I0)=-0.334ln(I/I0)+0.0325
コンバータ距離
R2=0.9045
0.3
0.2
∆(I/I0)=-0.133ln(I/I0)+0.0192
0mm
R2=0.909
10mm
20mm
40mm
0.1
∆(I/I0)=-0.047ln(I/I0)+0.023
60mm
R2=0.8434
80mm
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
100mm
-0.1
実験値から求めた中性子強度変化率 I/I0
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実験1:透過画像に及ぼす影響要因の補正
《補正式の提案》∆(I/I0) = -α×ln(I/I0) (α:係数)
コンバータ
距離 L'
コンバータ
試験体
《コンバータ距離と係数の関係》
α= 1
1.73 (2 + L')
0.45
0.4
係数
α
0.35
近似式から
得られたαの値
0.3
0.25
α= 1
1.73 (2 + L')
0.2
0.15
0.1
0.05
0
0
20
40
60
80
100
コンバータ距離 L' (mm)
補正式の係数α とコンバータ距離の関係
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実験1:透過画像に及ぼす影響要因の補正
《補正式の提案》
(I
(I
I 0 )′
I 0 )′ = (I I 0 ) + 1
× ln (I I 0 )
1.73 (2 + L')
:補正した中性子強度変化率
L' :試験体とコンバータ間の距離 (mm)
(I I 0 ) :実験より得た中性子強度変化率
中性子強度変化率
I/I0
1.2
1.0
実験値
0.8
補正した値(0~6.8mm)
0.6
理論値 : I/I0 = e(-µδ)
0.4
0.2
0
0
2
4
6
水の厚さδ水 (mm)
8
10
(例:1MW・撮影時間180s・コンバータ距離60mm)
14
実験2:多孔質材料の含有水分量測定
【実験2の目的】
任意の含水率に設定したセラミック試験体の透過画像を
撮影し、多孔質材料の含有水分量測定を行う。その結果
に補正式を適応させ、補正式の有用性を検証する。
アルミ粉末
カーボング
ラファイト
混合
溶射
焼結
酸化
セラミック試験体
多孔質セラミック
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実験2:多孔質材料の含有水分量測定
【実験2の目的】
任意の含水率に設定したセラミック試験体の透過画像を
撮影し、多孔質材料の含有水分量測定を行う。その結果
に補正式を適応させ、補正式の有用性を検証する。
【試験体概要および実験水準】
試験体
記号
含水率
形状
水
W100
100 %
内径:11mm
高さ:10mm
C10
9.89 %
C20
17.9%
C30
31.2 %
セラミック
直径:13mm程度
高さ:10mm程度
原子炉出力
1 MW
コンバータ
距離
0~100 mm (10mm間隔)
撮影時間
60 s
W100
(水+アルミ容器)
水の試験体
C10
C20
C30
セラミック試験体
16
実験2:多孔質材料の含有水分量測定
湿潤状態
絶乾状態
C10 C20
C10
C30 W100
C20
C30
W100
(アルミ容器)
計測位置
中性子強度変化率
I/I0
C10
1.2
C20
C30
W100
1.0
湿潤状態
0.8
絶乾状態
0.6
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
計測位置の左端からの値 (mm)
(例:1MW・撮影時間60s・コンバータ距離60mm)
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実験2:多孔質材料の含有水分量測定
湿潤状態
中性子強度変化率
I/I0
絶乾状態
C10
1.2
C20
C30
含有水分
W100
1.0
湿潤状態
0.8
絶乾状態
0.6
含有水分の中性子
強度変化率となる
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
計測位置の左端からの値 (mm)
(例:1MW・撮影時間60s・コンバータ距離60mm)
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実験2:多孔質材料の含有水分量測定
水の厚さδ水○%
水
中性子線
水の厚さδ水100%
水の厚さから求めた
含有水分量
(g)
試験体厚さδ
セラミック
試験体
0.016
C30
0.014
W100
C20
0.012
0.01
0.008
C10
0.006
0.004
0.002
0
0
2
4
6
8
10
12
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試験体の厚さδ (mm)
各試験体厚さと計測位置おける含有水分量の関係
(例:1MW・撮影時間60s・コンバータ距離60mm)
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実験2:多孔質材料の含有水分量測定
0.014
0.012
0.012
W100
0.01
C20
0.008
0.010
0.008
0.006
C10
0.004
0.006
0.004
0.002
0.002
0
0
(g)
水の厚さから求め含有水分量
水の厚さから求め含有水分量
C30
0.014
2
4
6
8
試験体の厚さδ (mm)
10
0
0
(g)
20
40
60
80
100
試験体の含水率 (%)
計測位置の試験体厚さ6mm程度
における含有水分量
(例:1MW・撮影時間60s・コンバータ距離60mm)
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まとめ
* 中性子ラジオグラフィ画像から含有水分量の定量化を行う
ため、透過画像に及ぼす影響要因を補正する補正式を提案
した。
補正式: (I
× ln (I I 0 )
I 0 )′ = (I I 0 ) + 1
1.73 (2 + L' )
* 任意の含水率に設定したセラミック試験体の透過画像から
得られた実験結果に補正式を適応させ、補正式の有用性を
検証した。
* 補正値から算出した計測位置における含有水分量は、
セラミック試験体の含水率と良い相関を示したため補正式
が有用であると示唆された。
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