第6回の本稿では、改正事項の中でも注目度が高いOEM生産にお ける商標の使用と権利侵害に関係のある48条と、商標権侵害と救 済の規定の中から62条を取り上げる。OEM生産については、判例 も交えて詳しく解説する。 1.はじめに 第三次改正中国商標法の注目点の一 2.改正商標法48条 「本法でいう商標の使用とは、商品、 商品の包装あるいは容器および商品の 取引文書に使用、もしくは商標を広告 つは、商標の使用の定義が商標法の条 商品の包装あるいは容器および商品の 宣伝、展覧およびその他の商業活動に 文に加わったことである。この関係で 取引文書、もしくは宣伝広告、展覧お 使用することを含む」と規定するのみ OEM生産の取り扱いについて日本企 よびその他の商業活動に用いて商品の で、商標法上には「商標の使用」に関 業から質問を受けることが多い。 出所を識別する行為を指す」 する定義規定はなかった。 OEM生産は、相手先企業のマーク 同条は、商標の使用について定義し を付けて販売される完成品や半製品の た規定である。改正商標法57条は商 昇格し、「商品の出所を識別する行為」 受注生産、相手先ブランド生産、相手 標権侵害行為について、「(1)商標権 という要件が新たに加わった。 先商標製品製造を指す。中国では、海 者の許諾を得ずに、同一の商品にその なお、不使用取消しについては別の 外の納入先 (依頼者)からの注文を受 登録商標と同一の商標を使用している 機会で取り上げるが、商標の使用の定 け、依頼者のブランド製品を製造する 場合、 (2)商標権者の許諾を得ずに、 義に 「商品の出所を識別する行為」 が追 OEM生産が現在も広く行われている。 同一の商品にその登録商標と類似の商 加されたことに伴い、 名目的な使用では 本稿の前半ではOEM生産と関連の 標を使用し、または類似の商品に登録 登録商標の使用に該当しないと判断さ ある48条について取り上げる。OEM 商標と同一または類似の商標を使用 れるケースが増えることが予想される。 生産の取り扱いは従来から法曹界にお し、混同を生じさせやすい場合、(3) ● 旧法下での「侵害」の判断 いて議論になることが多く、改正後の 以下省略」としており、商標の「使用」 裁判の動向も含め、注目に値する。 でなければ、57条に該当せず、商標 利侵害について、法上、直接的に規定 権 侵 害 で は な い。 同 条 に つ い て は したものがなく、実務において2000 2014年5月号で取り上げたが、(2) 年の前半までは、旧商標法実施条例3 の「混同を生じさせやすい場合」は、 条の内容からすると、OEM生産でも 本稿の後半では、商標権侵害と救済 本改正で新たに加わった要件である。 商標を商品に使用していることには違 における規定の中から行政ルートと司 改正前は商標法の下位の法である商 いなく、行政機関・司法機関は共に「商 法ルートの調整に関連のある62条に 標法実施条例3条に 「商標法と本条例の 標の使用であり、侵害」と認定するケー ついて解説する。 定義された商標の使用は、商標を商品、 スが少なくなかった。 本稿では、 OEM生産が中国において 「使用」に当たるか否かが争点となっ た有名な事件を2つ紹介する。 42 The lnvention 2015 No.1 本改正で使用の定義規定が商標法に OEM生産における商標の使用と権 そのため、 外国企業(中国企業以外) 一方、前記司法解釈ではOEM生産 り方が日本とは全く異なる中国では、 が、自国のみにおいて合法的な商標権 者にも「注意義務」を果たすことを求 判断基準の統一化は難しいことを理解 を有している場合(中国国内では商標 めており、OEM生産における商標の しておく必要があるであろう。 登録を行っていない場合) 、商標権侵 使用について明確に規定したというよ 害によって行政処罰が科されるケース り、 「個別具体的な事情を加味する」 用であれば、商標権侵害等の問題は生 や、訴訟提起を受けることが珍しくな という、裁判では当然のことを規定し じないという考え方は短絡的であると かった。 たにとどまるという見方もある。 いわざるを得ない。 ● 司 法における個別具体的な事情に ● 行政・司法ルートでの判断の乖離 応じた判断や非侵害の判断の増加 また、OEM生産における商標の使 商標の使用に該当するためには「商 中国では知的財産権の保護につい 品の出所を識別する行為」であること て、行政ルートと司法ルートの2つが の必要性が明確になり、類似範囲での OEM生産における商標の使用につい 用意されている。行政機関の判断につ 商標権侵害については「混同を生じさ て、個別具体的な事情に鑑みて判断す いては2000年後半になっても「侵害」 せやすい場合」という要件が本改正で るケースや、中国での使用を否定し、 であると判断されるケースが少なくな 加わったことにより、改正前に比べ、 非侵害と判断するケースが増加した。 かったのに対し、前記のとおり、司法 OEM生産における商標の使用につい の 場 で は、OEM生 産 の 場 に お い て、 て、非侵害の主張が成立しやすくなっ 年に公布した司法解釈「現在の経済状 個別具体的な事情に鑑みた判断や非侵 たというのが現状である。 況下における知的財産権審理業務の大 害との判断が多く見られるようになっ 先取り出願をして買い取りなどの要 局に関する若干問題についての意見」 てきた。近時、裁判所がOEM生産は 求がなされる問題などが依然として存 にも表れている。 商標の使用に当たらないと判断する傾 在し、このような事態への対応コスト 向が一段と強くなっている。 は決して安くないことからすると、今 司法の場では、2000年後半になり、 この動向は、最高人民法院が2009 同司法解釈では、 「商業ロゴの保護 を強化し、ブランド品の発展を積極的 当然、裁判所間のレベルでも見解等 後の判例の蓄積を待ちつつ、可能な限 に促進し、市場秩序規範化および公平 に差はあるが、それ以上にOEM生産 り、積極的に中国において商標登録を 競争を保護する。一般消費者が関係商 における商標の取り扱いについて、行 行うのが望ましい。 標を客観的に区別できる市場の実態を 政と司法で見解の差が明確になってき ● 侵害リスク軽減のための情報収集 尊重し、市場秩序の安定を図ることが た。 重要である。 OEM生産における商標権侵害紛争 を適切に処理し、OEM生産者が注意 なお、行政機関には地方の工商行政 OEM生産のみを行うため、中国国 内で商標登録をしないという選択には 管理局の他、税関も含まれる。 リスクが伴う。特に、行政ルートと司 ● 判例の蓄積を待つ必要性 法ルートのダブルトラック制度を有す 義務を怠ったか否かを考慮したうえ 本改正により、ユーザーとしては各 るなかで、迅速に結果を出すことが重 で、権利侵害に関わる責任を合理的に 地の裁判所間や行政・司法ルートでの 視される行政ルートにおいて、 「OEM 分担する」という内容があり、形式的 判断基準の統一化が図られることを期 生産であり、非侵害」と行政機関に必 な判断に歯止めをかけようとしている 待したいが、日本の10倍以上の人口 要な説明をし、求められた資料等を速 姿勢がうかがえる。 と広大な国土を有し、行政と司法のあ やかに提出するのは容易ではない。 2015 No.1 The lnvention 43 「商標の使用」ととられる行動をし ないように内部での徹底した管理を行 (1)関 係当事者に尋ね、商標権侵害 について取り調べる。 り、旧商標法では55条に規定されて いた。同条2項は本改正で新たに規定 い、さらに権利行使を受けた場合の対 (2)関 係当事者の侵害行為に関する 応に向け、有効な証拠や立証に使えそ 契約、領収書、帳簿およびその 前述のとおり、中国では知的財産権 うな証拠を日ごろから収集しておくこ 他の関連資料を調べ、写しを取 侵害に遭った場合、権利者は行政ルー とが重要である。 る。 トと司法ルートの2つを用いて、保護 これまでの裁判実務に鑑みると、例 (3)関 係当事者が商標権侵害に対し えば、以下のような資料を収集してお て行った被疑侵害行為の現場を くことが有効であろう。 調査する。 された内容である。 を求めることができる特有の制度が存 在する。 行政ルートは、損害賠償請求ができ ① 外 国企業が自国において合法的な (4)侵 害行為に関する物品を調査す ず、差止めのみが可能であるといった 商標権を有することを示す商標登 る。他人の有する商標権を侵害 特徴の他、結論が出るまでの期間が比 録証 するために使用されたことが明 較的短く、司法ルートに比べ、コスト ② OEM生産者と外国企業間の公証済 らかな物品については、それを が安いうえに手続きが簡便であると みの加工締結契約書および商標使 封印し、差し押さえることがで いった特徴がある。 用許可証の授権委任状、注文書、 きる。工商行政管理部門が前段 税関の輸出証明書 落 に い う 職 権 を 行 使 す る 場 合、 れたケースにおいて、司法ルートで同 ③ 加 工生産のみを行い、中国で一切 関係当事者は協力しなければな 時に侵害訴訟が提起された場合、地方 販売しておらず、中国における商 らず、かつ、これを拒絶し、ま の工商行政管理局は行政ルートのほう 標の使用により出所識別機能を発 たは妨げてはならない。 を中止できることを商標法上規定し 揮する可能性がないことを示す証 商標権侵害事件を調査、処理する過 前記改正で、行政ルートで手続きさ た。ただし、中止は義務ではない。 程において、商標権の帰属に関して争 同規定の有効性については今後の実 ④ 外 国企業が自国において合法的に いがあり、または権利者が同時に人民 務の確立を待つ必要があるが、OEM 登録した商標が著名商標に該当す 法院に商標権侵害訴訟を提起する場 生産における商標の使用の問題のよう る証拠 合、工商行政管理部門は事件の調査・ に、行政と司法で見解に差が生じるの 中止をすることができる。中止の原因 は好ましい状況とはいえず、本規定が が消滅した後、事件の調査・処理を回 ダブルトラックによる弊害の是正とし 復させるか、終了しなければならない」 て有効に機能することが望まれる。 拠 ⑤ 加 工生産行為が中国の商標権者に 損害を与えていない証拠 3.改正商標法62条 OEM生産としての商標の使用問題 4. 「HENKEL」事 件(2006年 「県またはそれ以上のクラスの工商 とも関連性があるので、ここで改正商 行政管理部門は、登録商標に対し被疑 標法62条を取り上げておく。同条1 侵害行為を取り調べる際に、違法と疑 項は、地方の工商行政管理局が商標権 A社は中国で11類の指定商品「車 われる証拠または通報により、以下の 侵害に関し、職権での調査、取り調べ 両のライト」などについて「HENKEL」 職権を行使することができる。 等を行うことができる旨の規定であ という商標権を有している。 44 The lnvention 2015 No.1 2審訴訟まで) 2002年、A社は税関で前記商標権 て9類の指定商品「スピーカー」など 裁判所は、判決中で、問題となった について税関での登録(保護)のため について「MACKIE」の商標権を有 製品は中国で販売されるものではない の届け出を行った。B社は外国企業で する。B社は「MACKIE」ブランド製 ため、中国市場において商品の出所識 あり、自国で11類の指定商品「車両 品の加工をC社に依頼していたが、中 別性を発揮することはないとして、中 のライト」などについて商標権 国で同ブランド製品の販売は一切行っ 国の消費者に商品の出所誤認混同を生 ていなかった。 じさせないと認定した。また、C社の 「HENKEL」を有していた。 C社は中国広東省の企業であり、B C 社 は 中 国 広 東 省 の 企 業 で あ り、 行為がA社の中国市場のシェアと業界 社の注文を受け、B社の製品「車両の 2011年10月 に 税 関 へ「MACKIE」 ブ での地位に悪影響を与えたことは十分 ラ イ ト 」 を 製 造 し、 同 製 品 に 商 標 ランドである63件のラッパの輸出届 に証明できていない点も指摘した。 「HENKEL」を付していた。その後、 け出を行った。税関は審査でこれらの そのため一審は非侵害であると判断 C社は同製品をすべてB社に輸出しよ ラッパの取り締まりを行い、C社に罰 し、同判決は、二審でも支持された。 うとしたが、広東省の税関が取り締ま 金8000人民元を科した。 りを行った。2005年、C社は税関を これを不服として、C社は裁判所に 相手に訴訟を起こし、行政処罰の取り 商標権の不侵害を確認する訴訟を提起 消しを求めた。 した。 6.おわりに 今 回 は、 改 正 商 標 法48条、62条 の 規定について取り上げ、48条につい 一審で裁判所は、原告C社は許可を 一審では、C社のOEM生産はA社 ては関連する判例も紹介した。OEM 得ず輸出対象製品に「HENKEL」を の商標権を侵害しないと認定した。そ 生産における商標の使用の取り扱いや 使用しており、A社の商標権を侵害し の理由として、① 外国企業であるB 基本的な裁判動向についての理解に役 たと認定した。 社が自国において合法的な商標権を有 立てば幸いである。 二審では、一審の判決を維持した。 し、C社はそれに対して必要な審査を 次回(3月号)は、今回取り上げた その理由として、知的財産権には地域 行ったこと、② A社の登録商標がC 規定以外の商標権侵害および救済につ 性があり、海外の商標権は国内では保 社のOEM生産行為によって害された いて紹介する予定である。 護されないものであり、中国での生産 事実はないことを挙げた。 は商標の使用行為に当たるとして、侵 害と判示した。 5. 「MACKIE」事件(2013年 2審訴訟まで) 中国においてA社は9類の指定商品 「録音・録画設備、スピーカー」など について「MACKIE」という商標権を 有している。 B社は米国企業であり、米国におい 2015 No.1 The lnvention 45
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