第 3 章 マクロ経済における需要と供給 1 • 分配率:経済全体で生み出された所得が,労働,資 本,土地など,様々な生産要素にどのような比率で 第3章 マクロ経済におけ る需要と供給 分配されるのかを示したもの.労働や資本などの生 産要素が,その経済にどの程度貢献しているかを表 すものと解釈することができる. 労働と資本の分配率がそれぞれ 70% と 30% として,労 働の成長率が 1%,資本の成長率が 4% であるとすると,潜 在成長率は マクロ経済学の見方についての導入的な議論をする. 0.7 × |{z} 0.01 + |{z} 0.3 × |{z} 0.04 |{z} 労働分配率 需要と供給という 2 つの側面 3.1 • マクロ経済における需要:生産された財やサービス がどのような形で使われていくのかを表したもの. 労働成長率 資本分配率 = 0.019 (3.2) 資本成長率 となる.すなわち,潜在成長率は 1.9% となる. 分配率と生産要素の増加率が分かれば,その経済の潜在 成長率を求めることができる.ただし,潜在成長率 ̸= 実 際の成長率1 . • マクロ経済における供給:財やサービスが生産され 供給されるためには,どのような生産要素が投入さ れるかをみたもの. 3.2.2 需要サイドから見た GDP 実際に需要が生じない限り,生産は起こらない.そこで, 供給サイド 消費 資本 需要 生産 投資 −−→ 実質 GDP ←−− 労働 政府支出 土地 輸出入 技術 需要サイド 3.2 3.2.1 GDP をどちらから見るのか 供給サイドから見た GDP 経済に存在する生産要素の量から,その経済の生産の可 能性は決まってくる. • 生産要素:資本,労働,土地など 経済が何 % ぐらいで成長するのかを見るためには,生 需要の個別項目である消費,投資,政府支出,輸出入など がどのような動きを示すのかが,マクロ経済を見るうえで 重要な意味を持つ. 経済成長への寄与度 経済成長率 = 消費シェア × 消費の増加率 {z } | 消費の経済成長への寄与度 + 投資シェア × 投資の増加率 | {z } 投資の経済成長への寄与度 + 政府支出シェア × 政府支出の増加率 | {z } 政府支出の経済成長への寄与度 + 純輸出シェア × 純輸出の増加率 | {z } 純輸出の経済成長への寄与度 産要素である労働や資本が何 % ぐらいで成長するかを見 (3.3) ればよいはずである. 労働や資本の増え方が大きいほど,成長率も高くなる可 能性が大きい. ここで,それぞれの項目のシェアとは,その需要項目が全 体の GDP のどの程度の割合かを示すものである. 消費シェア + 投資シェア 成長方程式 (3.4) +政府支出シェア + 純輸出シェア = 1 経済成長率は,需要の各項目の増加率の加重平均になっ 経済成長率 = 労働分配率 × 労働増加率(成長率) + 資本分配率 × 資本増加率(成長率) (3.1) + ··· ている.平均ウェイトは,それそれの項目のシェアである. (3.3) 式右辺のそれぞれの項,すなわち個々の需要項目 のシェアにその増加率を掛けたものを,その項目の経済成 長への寄与度という2 . 1 もちろん,これはあくまでも潜在的な成長率,つまり実現することが可能な成長率であり,実際の成長率ではあるとは限らない. 2 1988 年前後のバブル景気には消費や民間設備投資など,いわゆる内需の寄与度が大きい.それに対して,バブルが崩壊して景気が低迷している 90 年代のはじめには,消費や投資が景気の足を引っ張り,政府支出でかろうじてしのいでいる. 第 3 章 マクロ経済における需要と供給 3.3 3.3.1 2 需要と供給:どちらがマクロ経済 • 生産量の増加による調整 の動きを決めるのか • 物価水準の上昇による調整 供給サイド 短期間でその状況が大きく変化することはまれである. • 労働者の数,労働者の能力 • 資本設備の規模 数量調整 総需要の増加に対して生産量が変化し総供給が増加する ならば,再び市場は均衡を回復する.この意味で,生産量 の増加は需要増加に対する 1 つの調整方法なのである. • 技術レベル 時間とともに徐々に変化していくものであり,短時間に急 速には変化しない. 供給サイドがマクロ経済で表に出てくるのは,経済成長 や経済発展など,マクロ経済の長期的な動きを見る分野で 価格調整 物価水準の上昇は総需要を減少させる.このため,物価 は総需要を調整する機能を果たすのである. ある. 3.3.2 需要サイド もう少し短期間で大きく動く.消費や投資への需要は, 3.4.2 マクロ経済学の 2 つの考え方 マクロ経済学の 2 つの考え方の基本的な相違は,総需要 いろいろな原因で,短期的に大きく変動をしたり,一定期 の変化に対して,生産量と物価水準のどちらがどれだけ調 間で波をうったりする.輸出入も為替レートの動きによっ 整の役割を果たすものかに関する理解の差から生じる. て大きく動いたりする. 3.3.3 時間的なスケール 供給サイドの要因と,需要サイドの要因ではその動き方 の時間的なスケールが違うため,マクロ経済の動きを見る 新古典派 供給 がマクロ経済を決める. • 供給が GDP の水準を決定するという考え方. 際にも,需要と供給の関係をどのように考えるのかが決定 的に重要な意味を持つ. • 売れ残りが生じれば,すみやかに値下げが行われる. • 失業が生じれば,すみやかに賃金が低下する. 3.4 新古典派経済学とケインズ経済学 生産水準の決定についての考え方は大きく分けると 2 つ 物価が伸縮であるため,供給量は完全雇用3 に対応する GDP に調整されてしまうと考える. ある.その 2 つの考え方の基本的な相違は,総需要の変化 に対する調整の違いにある. ケインジアン 3.4.1 調整 これまで以上に総需要が増加した状況を考える 総需要が増加したとき総供給に変化がなければ,総需要 に比べて総供給は過小になり,需給の均衡は崩れざるをえ ない.(超過需要) 再び均衡を回復するには,何かが調整されねばならない のである. 需要 がマクロ経済を決める. • 需要が GDP の水準を決定するという考え方. • 生産力の余裕があることが前提になっている. • 需要が不足しているために GDP(経済全体としての 生産量)が望ましい水準を下回り,失業が生じると いう考え方. 総需要の増加に伴う需給の不均衡を回復するための調整 には,大きく分けて 2 通りの方法が考えられる. • 需要さえあれば,生産はついてくる. 3 もっとも,完全雇用というのは理論上の言い方であり,文字どおり 1 人の失業者もいないということではない.情報のずれや調整によって生じる 若干の失業を除いて,すべての労働者が雇用されているということである. 第 3 章 マクロ経済における需要と供給 比較 3 3.5.2 表 1:理論的背景の比較 新古典派 ケインジアン 重点 供給側面 需要側面 基本仮定 価格の伸縮性 価格の硬直性 完全情報 不完全情報 価格調整 数量調整 調整変数 経済政策 自由放任 政府介入 有効需要の原理 以上のどちらの場合でも,総需要によって総供給側が変 化して総需要と等しくなる.つまり, • 総需要が総供給を決めるので,これを有効需要 (effective demand) の原理という. 有効需要の原理は ケインズ 経済学の根本的な思想で ある. 有効需要の原理 ケインズ流の考え方は,大きな政府を必要とすることに なり,国家は巨額の財政赤字などの問題を抱えがちとなる. 今日では,ケインズ的政策と新古典派的政策のそれぞれ Y 1 人当たりの生産額が一定だとすると Y の減少は失業に直結することになる. の利点を融合した政策が採られるようになっている. ∥ 3.5 3.5.1 有効需要の原理 C + I 財市場での調整 総需要の大きさにちょうど見合うだけの生産が行われる ように,財市場での調整が行われる. 景気が悪いと給料などが減り,消費も減る. 景気が悪いと投資チャンスが少ないため, 投資が減る. + G 均衡財政を考えると, 不況期には税収が減って政府支出が減る. 一方,政府が借金をして公共投資を行うと, G が増えて Y が増える効果が見込まれる. 総需要 < 総供給 + 財市場が超過供給である場合 (1) 財市場では生産物の売れ残りが発生する. EX − IM (2) 供給側である企業は産出量を減らす. 3.4.2 のケインジアンをもう一度確認すること. (3) すなわち,労働雇用を減らして,生産を縮小する. この結果,総供給は縮小して,総需要と等しくなる. 3.5.3 ニューディール政策(1933∼) 米国のフランクリン・ルーズベルト大統領が 1929 年に 総需要 > 総供給 始まった大恐慌4 克服の為に行った一連の政策をいう(テ ネシー渓谷開発公社による地域開発事業などが有名). 財市場が超過需要である場合 (1) 財市場では品不足が発生する 雇用の創出などケインズ的有効需要政策をとったといわ れるが,制度改革的要素も強く,農作物を買いとって農民 を救出したり,労働者の生活補償などを行った.今日では, (2) 企業は産出量を増やす. (3) すなわち,雇用を増やして生産を拡大する. その結果,総供給が増加して,総需要と等しくなる. 4 こうした政策がはたして本当に不況克服のために役立った のか議論が分かれているところとなっている. ニューディール (new deal) とは新規まき直しの意味が ある. だいきょうこう 大恐慌 1929 年(昭和 4)のニューヨーク株式市場大暴落に端を発し 33 年まで続いて,ソ連を除く世界全体を巻き込んだ恐慌.
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