本文ファイル - NAOSITE

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
養殖ノリ色彩変異型の光合成色素
Author(s)
藤田, 雄二; 右田, 清治
Citation
長崎大学水産学部研究報告, v.56, pp.7-13; 1984
Issue Date
1984-11
URL
http://hdl.handle.net/10069/30393
Right
This document is downloaded at: 2015-02-01T01:34:59Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
長 崎 大学 水 産 学部 研 究 報 告
7
第56号7∼13(1984)
養殖 ノ リ色彩変異型の光合成色素
藤田
Photosynthetic
雄二
Pigments
of Porphyra
・右田
清治
of the Different
yezoensis
Color
UEDA and P. tenera
Types
KJELLMAN
Yuji FUJITA and Selji MIGITA
The thalli of red (two types, I and II), orange, green, yellow and wild types of Porphyra
yezoensis
Ariake
UEDAand green type of P. tenera KJELLMAN
were simultaneously
Sea for the same period,
Chlorophyll
contents
a, carotenoids,
and were analyzed
phycoerythrin
were spectrophotometrically
content differed significantly
were about the same.
were, by colors
and phycocyanin
determined.
in descending
order,
was also
laboratory
under
similar
resembled
closely the green type of P. yezoensis in phycoerythrin
observed
conditions.
but the former
Phycoerythrin,
among Conchocelis-thalli
On the other hand,
type was different
of P. yezoensis
but phycoerythrin
and green
differed
gels.
type in those
from
and column chromatography
As a result,
red I, green and yellow
and/or
phycocyanin
types of red II and orange types of P. yezoensis
of allophycocyanin
養殖 ノ リの 色彩 変 異 型 は,最 初,三 浦(1976,1979)
type of P. tenera
were isolated
were the same as those of the wild type.
spectrra
in the
and phycocyanin content
from the wild type in phycoerythrin
and phycocyanin
type of P. tenera
ences in absorption
levels
cultured
from the latter
each type of thalli by means of ammonium sulfate precipitation
types,
the green
phycocyanin and allophycocyanin
on Sephadex G-100 and on calcium phosphate
types
a and carotenoids
orange > red I > red II > wild > yellow > green.
of ratios
contents of the thalli.
and their
in all type of thalli of P. yezoensis
The same order
of Conchocelis-thalli,
in the
(PE) and phycocyanin (PC)
but chlorophyll
observed
cultured
pigments.
were extracted
Phycoerythrin
among the specimens,
The ratios of PE/PC
for photosynthetic
among all specimens
Significant
differ-
were not observed.
色彩 変 異型 につ い て は光 合 成 色素 の特 徴 が 明 らか に さ
に よっ て スサ ビノ リ赤 色,緑 色,黄 色 型 が分離 され,
れ て い るが(Kikuchi
これ ら変 異 型 お よ び野 生色 型 間 の 交配 に よ る色 彩 の遺
が分 離 した各 変 異型 の光 合 成 色素 は まだ十 分 に究 明 さ
伝 が 研 究 さ れ て い る(三 浦1978,1979,三
れ て いな い.
浦 ・国藤
1980).著 者 らは,三 浦 とは別 途 にスサ ビ ノリの赤 色,
et a1.1979,有
賀1980),著 者 ら
本 研 究 で は,先 に報 告 した スサ ビノ リ色 彩 変異 型(右
緑 色,黄 色 お よび禮 色 型 を得,こ れ らの室 内培 養や 海
田 ・藤 田1980)の 他 にア サ クサノ リ色 彩 変異 型 も加 え,
での 養 殖試 験 を行 い,生 長,形 態 お よ び病 原菌 の寄 生
これ ら変異 型 の 葉体 と糸 状 体 の光 合 成色 素 含有 量 や フ
率 な どの相 違 につ いて 報告 した(右 田 ・藤 田1983).
ィコ ビ リ ン色 素 の性 状 を調 べ た ので その結 果 を報 告す
これ らの色 彩 変異 型 は,産 業 上 の 実 用性 は 少 な い が,
る.
ノ リの 交配,色 彩 の遺 伝 あ る いは 光合 成 色 素系 な どの
研 究 にお け る有 用 な材 料 とな っ てい る.色 彩変 異 型 を
用 いて この よ うな研 究 を行 う場 合,各 変 異 型 につ いて
光 合 成色 素 の 特徴 を理 解 す る必 要 が あ る.三 浦 に よ る
材 料 と 方 法
ノ リ葉体 と糸 状体:先
に報 告 した スサ ビ ノ リの各 色
彩 変 異 型,野 生 色 型(右 田 ・藤 田1983)と
そ の後 新 た
8
藤田・右田 養殖ノリ色彩変異型の光合成色素
に有明海の養殖スサビノリの区分状斑入りキメラ体の
移した.以後,クロロフィル・カロチノイドの場合と
赤色葉体片から分離した赤色皿型(先の赤色型を赤色
同様に磨砕抽出の操作を繰り返し,最後に試料津もメ
1型として区別する)のいずれも当研究室にフリー糸
状体として種が保存されているものを用いた.また,
スフラスコに移して,リン酸緩衝液を加えて25mlに定
容した.冷蔵庫に1晩放置した後,遠心分離(10,000
福岡県有明水産試験場から分与されたアサクサノリ緑
×g,40分)し,上澄みを測定に供した.フィコエリ
色型(品種おおばグリーン)のフリー糸状体も用いた.
スリン,フィコシァニン量は土屋ら(1961)の式によ
分析のための門葉体は,研究室で試験網に採苗し
って求めた.
1982年10月1日から約1カ月間佐賀県鹿島市沖の漁場
フィコビリン色素の分離
で養殖した長さ約10∼15cmのものである.漁場で採取
細切葉体の約5gをトルエン添加のリン酸緩衝液
した葉体は研究室に持ち帰り水道水で軽く洗浄した後,
(1mM, pH6.5)に入れ,冷蔵庫に1週聞放置し色素を
室内で乾燥させた.
溶出させた.布ろ過お・よび遠心分離(10,000×g,40
また,糸状体は,各フリー糸状体を家庭用ミキサー
分)によって得た上澄みをフィコビリン色素の粗抽出
で細断したものを200mlの培養液を入れた三角フラス
液とした.粗抽出液は,常法に従って硫安分別を行い,
コに接種し,20℃,白色蛍光灯下2,0001x,12:12時
硫安0.2∼0.4飽和(フィコエリスリンを多く含む)と
間の明暗周期で培養した.フリー糸状体のi接種量は,
0.4∼0.7飽和(フィコシアニンとアロフィコシアニン
ミキサー細断前の湿重量で三角フラスコ1本当り100
を多く含む)分画に分けた.これらの各分画は少量の
mgとした.培養液には海水1,000mlに硝酸ナトリウム
リン二二i衝液(1mM, pH6.5)に溶解しセロハンチュ
100mg,リン酸ニナトリウム(結晶)20mgと微量元素
ーブに入れ,同緩衝液に対して透析を行った.次いで,
液(須藤1960)lmlを添加した補強海水を用い,培養
Siegelman and Kycia(1978)に従って,各分画はセ
開始14日後に一度換言した.30日間培養したフリー糸
ファデックスG100カラム(2.6×80cm)でゲルろ過
状体は培養液から取り出し布で脱水した後,デシケー
し,得られた各色三三はひき続きリン酸カルシュウム
ター中で乾燥し分析に供した.
ゲル(Siegelman et al.1965)のカラム(2.1×21cm)
光合成色素の定量
にかけた.両カラムの平衡化およびセファデックスゲ
ノリ葉体(乾のりを含む)の光合成色素の定量につ
ル・カラムでの展開には0.2M塩化ナトリウムを含むリ
いては多くの報告(土屋ら1961,新間・田口1966,朴
ン酸緩衝液を用いた.リン酸カルシュウムゲル・カラ
ら1973,斎藤:・大房1974,天野・野田1978)がみられ
ムでの展開は,0.1M塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝
るが,アマノリ糸状体の光合成色素を定量した報告は
液(pH6.5)の1mMから0.1Mまでのりニアグレジェ
少ない.本誌では,葉体と糸状体の光合成色素の定量
ント(総量400ml)によって行った.また,リン酸カ
には少量の試料で測定ができる斎藤・大房(1974)の
ルシュウムゲルからのアロフィコシアニンの溶出には
方法に従い,次のように実施した.
0.2M塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液(0.25M,
クロロフィルαとカロチノイド:細切試料30mgを少
pH6.5)を用いた.リン酸カルシュウムゲル・カラム
量の海砂と共に乳下中で十分に磨砕し,次いで,90%
からの各色素分画は,280∼750nmにおける吸収スペク
アセトン5・mlを加え色素を抽出した後静置し,試料津
トルを測定し,他色素の混入が認められる場合はリン
が沈下するのを待って上澄みをメスフラスコに移した.
酸カルシュウムゲル・カラムでの分別を繰り返した,
試料津は再び同量の90%アセトン中で磨砕し,色素を
分離フィコエリスリン,フィコシアニンおよびアロフ
抽出した.この磨砕抽出の操作を3∼4回繰り返し,
ィコシアニン分画の吸光スペクトルは,いずれもリン
最後に試料澤もメスフラスコに移して,90%アセトン
酸緩衝液(50mM, pH6.5)に対して透析したものにつ
を加え全容を25mlに定肥した.次に,50℃の温浴中で
いて測定した.
5分間加温した後,遠心分離(10,000×g,20分)し,
なお,吸光値および吸収スペクトルは日立分光光度
上澄みを測定に供した.クロロフィルα,カロチノイ
計220A型で測定した.
ド量はStrickland and Parsons(1972)の式によっ
実 験 結 果
て求めた.
フィコビリン色素:細切試料30mgを平針中で少量の
光合成色素量
蒸留水で平めらせ,約1時間冷蔵庫に放置した後,少
養殖漁場および網の管理などの条件を同じくして得
量の海砂と共に磨砕した.次いで,リン酸緩衝液(50
た各葉体,また室内の同一条件下で培養した各フリー
mM, pH6.5)5mlを加え色素を抽出した後静置し,
糸状体の光合成色素量をそれぞれTable 1,2に示し
試料津が沈下するのを待って上澄みをメスフラスコに
た.
.長崎大学水産学部研究報告 第56号(1984)
9
Table 1. Comparison of pigment contents of thalli in different color types of P. yezoensis
and P. tenera cultivated in the sea. (mg/g dry weight)
Type
P.
P.
Chloro.
垂?凾撃激ソ
Carote.
獅盾奄р
Phyco・
Phyco・
?窒凾狽?窒奄氏iPE)
モ凾≠獅奄氏iPC)
Total
PE/PC
o
Fye20θη5ZS
Wild
8.1
2.2
54.9
29.6
94.8
1.85
Red I
8.5
2.4
59.6
20.4
90.9
2.92
Red II
8.8
2.6
68.0
27.3
106.7
2.49
Orange
Green
Yellow
8.2
2.7
46.8
14.8
72.5
3.16
8.2
2.5
22.0
33.2
65.9
0.66 唱
8.1
2.1
22.7
29.2
62.1
0.78
8.0
2.0
31.7
21.3
63.0
1.49
孟eηeヅα
Green*
*The thallus of green type of P. tenera actually appears violescent browva in color,
but the Conchocetis−thallus appers to be green.
Table 2. Comparison of pigment contents of Conchocelis−thalli in different color types of
P. ye20ensis and P. tenera cultured in laboratory. (mg/g dry weight)
Type
Phyco・
Phyco・
Chloro.
Carote−
垂?凾撃激ソ
@ ’(PE)
@noids erythrln
モ凾≠獅奄氏iPC)
Total
PE/PC
P.yeβoεπsゴs
Wild
7.8
2.1
43.1
33.8
86.8
1.28
Red I
8.1
2.3
50.1
27.5
8810
1.82
Red II
7.7
2.2
55.2
31.5
96.6
1.75
Orange
Green
Yellow
7.6
2.2
30.8
11.4
52.0
2.70
8.5
2.2
26.2
44.0
80.9
0.60
7.2
1.9
23.3
25.9
58.3
0.90
7.1
1.9
28.7
41.1
78.8
0.70
P.オεπe7α
Green
各変異型の葉体では,野生色型と比較して,クロロフ
色,黄色,緑色型の順であった,アサクサノリ緑色型
ィルαとカロチノイド量においては近似したが,フィ
ではPE/PCがスサビノリ緑色型よりもかなり高く,
コエリスリンあるいはフィコシァニン量においては顕
葉体は紫褐色を呈した.また,各色素の合計量で比較
著な相違が認められた。すなわち,赤色1型ではフィ
すると,赤色1,皿型は野生色型と同程度かあるいは
コエリスリンが野生色型と比較してやや多かったが,フ
野生色型より多いが,その他の変異型はいずれも野生
ィコシアニンはかなり少なかった.赤色II型では,フ
色型より著しく少ない.
ィコシアニンは野生色型と同程度であったが,フィコ
各変異型と野生色型のフリー糸状体でも,葉体の場
エリスリは他のいずれよりも多かった.寸心型は,フ
合と同様にフィコエリスリンあるいはフィコシァニン
ィコエリスリン,フィコシァニン共に野生色型より少
量の相違が顕著であった.各糸状体のクロロフィル,
なく,とくにフィコシアニンは他と比較して最も少な
カロチノイド量は各葉体とそれぞれ近似し拳が,フィ
かった.スサビノリ緑色,黄色型では,フィコシァニ
コエリスリン,フィコシアニン量は各糸状体と葉体と
ン量は野生色型と著しく配達しないが,フィコエリス’
でかなり相違する場合が認められた.したがって,各
リンは野生色型の半分以下であった.アサクサノリ緑.
糸状体のPE/PCは三葉体の場合と必らずしも一致し
色型はスサビノリ野生色型よりもフィコエリスリン.!.
なかった.しかし,スサビノリ各回異型と野生色型の
フィコシアニン共に少なく,とくにフィコエリスリン
糸状体でのPE/PCによる序列は榿色,赤色1,赤色
がかなり少なかった.スサビノリ各変異型と野生色型
II,野生色,黄色,緑色型の順となり,葉体のPE/PC
・におけるフィコエリスリンとフィコシァゴン0)含有比
による序列と一致した.一方,アサクサノリ緑色型の
(PE/PC)による序列は榿色,赤色1,赤色皿,野生
糸状体は,フィコシアニンが葉体より著しく多く,
10
藤田・右田 養殖ノリ色彩変異型の光合成色素
O.6
tA
.ハ ハ,,繍
P. yezoensis
、締ヨ
0 4
Oり⊆Oρ﹂Oω﹂く
0。
2
Green 一・一
Yetlow 一一一一一一一一一
P. tenera
Green 一一一
\/医
愚》 レ、
k..
\ \こ賢、
S一,x...一.一... NNx
、叫’齢%、.. ミ遷敵
0 、・...榊髄.
MN......
700 400
400
500 600
Wavelength (nm)
500 600 700
Wavetength (nm )
Fig. 1. Absorption spectra of crude phycobilin pigments extracted with phosphate
buffer (50 mM, pH 6.5) from thalli in different color types of P. orezoensis
and P. tenera,
PE/PCではスサビノリ緑色型に近似し緑色を呈し,
540nmにも吸収極大があり,また3番目の吸収帯の極
葉体の紫褐色とは相違した.
大が617nmに認められ野生色型の場合より長波長側にず
粗フィコビリン色素の吸収スペクトルと分離フィコ
れていた.赤色II型では1,2番:目の吸収帯の吸光度
エリスリン,フィコシアニンの型
が野生色型より著しく高く,また榿色型では各吸収帯
各葉体からリン酸緩衝液で抽出された粗フィコビリ
の吸光度が野生色型よりかなり低いが,いずれの場合も
ン色素の可視部吸収スペクトルをFig.1に示した.
吸収波形による野生色型との相違は認められなかった.
野生色型では明瞭な3つの吸収帯がみられ,短波長側
スサビノリ緑色,黄色型では野生色型でみられた1番
から1∼3番目め吸収帯ではそれぞれ495,564,615nm
目の吸収帯がほとんど認められず,また2番目の吸収
に吸収極大があり,また2番目の吸収帯では540nm
帯の吸光度は野生色型より低いが,3番目の吸収帯の
付近にショ)レダーが認められた.これらの吸収帯のう
吸光度は野生色型より高かった.さらに,黄色型では
2番目の吸収帯に赤色1型と同様に2っの吸収極大が
認められ,3番目の吸収帯の極大(617nm)は野生色
ている.赤色1型では2番目の吸収帯に564nmの他に
型の場合より長波長側にずれていた.アサクサノリ緑
燃料
ち1,2番目の吸収帯にはフィコエリスリンが,3番目
の吸収帯にはフィコシァニンが,それぞれ主に関与し
P. yezoensis
P. yezoensis
O. 6 f・
ハ
Yellow 一一一一一一一一
Red ll 一一一一
.Orange
P. tenera
Green 一四一
@ @ @ A、
@ 虹
嵐\
@ ・β!/
’\,ギ\
ロ ロ も
N、 、、
.し﹂\︶
ロへ ロもロも
ハ
かγ
し渓
ロ もロ
し 一−∼
ノ記./.
〆ろ/
@ zノ
巡\
@\
き
_誉、
\W\\
//ド
㌦
@ @ @ @ @ @ @ @ .ノノ
Vに記
ii//”
Green 一・一
Red 1 一一.一
へ㌧.〆〆
ノ コ ノ ケロ
ジ
ヒ ノノ ・孤燃媚≡
A、㌧
@ ノ ゼ
@ /7.
@ ∠4
Φり‘σ﹄﹂Oωaく
@ こ
\
\ ㌦
∼\
Wild
、
0
400
500 600
Wavetength (nm)
700 400
500 600
Wavelength ( nm )
Fig. 2. Absorption spectra of crude phycobilin pigments extracted with phosphate
buffer (50 mM, pH 6.5) from Conchoceli’S−thalli in different color types of
P. ye20ensis and−P. tenera.
700
11
長崎大学水産学部研究報告 第56号(1984)
色型では各吸収帯の吸光度が野生色型より低いが,各
収帯が明瞭に認められることによってスサビノリ緑色
吸収帯の波形によるスサビノリ野生色型との相違は認
型とは相違した.
められなかった.各フリー糸状体から抽出された粗フ
なお,葉体と糸状体のアセトン抽出液の吸収スペク
ィコビリン色素の吸収スペクトルはFig.2に示すよ
トルは,変異型および野生色型間で顕著な相違は認め
うに,各吸収帯の吸光度による序列は葉体の場合と必
られなかった.
らずしも一致しないが,変異型と野生色型の各糸状体
次に,各葉体から分離されたフィコエリスリンとフ
間の相違は葉体の場合とよく類似していた.アサクサ
ノ ノ
イコシアニンについて, OCarra and O hEocha
ノリ緑色型の糸状体では2,3番目の吸収帯の吸光値
(1976)に従い,可視部吸収スペクトルの特性からそれ
においてスサビノリ緑色型と近似したが,1番目の吸
ぞれの型を判定した結果をTable 3に示した.また,
Table 3. Occurrence of phycobilin pigments in thalli of
different color types of P. blezoensis and P.
tenera.
Phyco・
Type
Phyco・ ・cyanln
Allophyco一 ・
?窒凾狽?窒奄
@cyanln
P.ツe20eη8ゴ3
Red I
C一
R一
C一
C一
C一
R一
C一
一ト
十
十 十 十
Red II
Orange
Green
Yellow
R一
R一
R一
R一
B一
B一
十
Wild
Rr
十
P.オeηeγα
Green
R一, B一 and C一: Types of phycoerythrin or phycocyanin.
十: Present but no significant difference in absorption
spectrum among specimens.
O,4
R−phycoerythrin
B−phycoerythrin 一一一一一一一一一
O,4
R−phycocyanin
C−phycocyanln 一一一一一一一一
O,3
AIIophycocyanln 一璽一
1粗
淵
// ili
O,1
)k.・IX
_ノ■
e
/
’}ktsN..
ヒ∼惑
Φり⊆0ρ﹂OのOく
400 500 600 700
Wavelength (nm)
巳
OL一一.一一一一一一一一一一
A
ハ
2
Aーーーlllーーー1−Il−ll
、
、.
一1一、、
,’
︶ ’,ーーーーー
,’
,’
!ノ
ノ’
’
!
!
ノ
’
り
、
、
、
\
、
、
飼
甑
2
のO⊆OΩ﹂OのΩく
0 1
r
へ
ー∼
ノ1
x
O,3
0
400
500 600
Wavelength (nm)
700
Fig. 3. Absorption sp6ctra of R一 and BTphycoery−
Fig. 4. Absotption spectra of R一 and C−phycocy−
thrins isolated from thalli・ in different
anins and allophycocyanin isolated from
thalli in different color types of P.
color types of∫).二yezoensis and P tenera:
both in 50 mM phosphate buff’er (PH 6.5).
ore20ensis and P. tenera: all th・ree in 50
mM phosphate buffer (pH 6.5).
12
藤田・右田 養殖ノリ色彩変異型の光合成色素
分離されたフィコエリスリン,フィコシアニンおよび
葉体と糸状体間でフィコシアニン量の相違が顕著に認
アロフィコシァニンの可視再吸収スペクトルはFig.3,
められた.養殖ノリの種苗特性分類報告書(のり品種
4に示した.スサビノリ野生色型はR一フィコエリス
特性調査研究協議会1980)によると,アサクサノリ緑
リンとC一フィコシアニンを含むのに対して,赤色1
色型(品種おおばグリーン)の葉体は息女・紫褐色と
型はR一フィコシァニンを,黄色型はB一フィコエリ
記載されており,アサクサノリ緑色型の葉体と糸状体
スリンとR一フィコシアニンを,またスサビノリ緑色
の色彩は本質的に一致しないもののようである.アサ
型はB一フィコエリスリンを含むことで野生色型と相
クサノリ緑色型の場合,葉体と糸状体における色の遺
違した.赤色皿,榿色型およびアサクサノリ緑色型は
伝,発現機構は他の変異型や野生色型の場合と相違す
いずれもスサビノリ野生色型と同様にR一フィコエリ
ることが推察される.なお,アサクサノリ緑色型の光
スリンとC一フィコシアニンを含んでいた.アロフィ
合成色素量,フィコビリン色素の型をスサビノリ野生
コシアニンはすべての葉体から検出されたが,いずれ
色型と比較したヴ,スサビノリとアサクサノリの野生
の場合も吸収スペクトルによる相違は認められなかっ
色型間では光合成色素量,フィコビリン色素の性状に
た.
おいてとくに相違が認められないことが報告されてい
察
考
る(天野・野甲1978).
色彩変異型および野生色型間の交配においては区分
ノリ葉体の色素量は産地,養殖方法などによって変
状斑入りキメラ体が高頻度で出現するが(三浦1976,
動し(斎藤:ら1975,天野・野田1978),また糸状体でも
1979,右田・藤田1983),これらの研究では野生色型と
培養時の照度,培養液の交換などの条件によって色が
フィコビリン色素の型が相違する変異型が交配試験の
変ることは経験的に知られている.このようなことを
主な対象とされている.フィコビリン色素の型で野生
考慮して,同一漁場で同一管理のもとで養殖された葉
色型と相違が認められないスサビノリ赤色皿,榿色型,
体と室内の同一条件下で培養された糸状体について,
アサクサノリ緑色型のような変異型および野生色型間
各車異型と野生色型の光合成色素を比較した.
での交配による色の遺伝はまだ検討されていないよう
各車異型と野生色上間では,葉体と糸状体のクロロ
である.また,スサビノリ赤色1,緑色,黄色型葉体
フィル,カロチノイド量においては近似したが,フィ
から分離されたフィコビリン色素の型はKikuchi et
コビリン色素量においては顕著な相違が認められた.
α1.(1979)による赤色,緑色,黄色下葉体での結果と
また,フィコエリスリンとフィコシアニンの型におい
それぞれ一致することは先に述べたが,有賀(1980)
て,スサビンリ赤色1,緑色,黄色型は野生色型と相
は緑色,黄色型ではKikuchi etα1.(1979)の結果と
違したが,スサビノリ赤色9,榿色型およびアサクサ
は相違する型のフィコビリン色素を含む場合がある可
ノ、リ緑色型は野生色型と一致した.赤色1,緑色,黄
能性を指摘している,さらに,色彩変異型および野生
色型は葉体,糸状体の生体可視部吸収スペクトルにお
色詫間の交配によって出現するキメラ体では各色三型
いて,三浦(1978,1979)や有賀(1980)によって報
の一つの葉色にしてもすべて同色ではなく若干の変異
告されている赤色,緑色,黄色型の特徴とそれぞれよ
が認められる(右田・藤:田1983).このようなことを考
く類似していたが(右田・藤:田1983),これら各行体か
慮すると,色彩変異型のフィコビリン色素の型におけ
ら分離されたフィコエリスリン,フィコシアニンの型
る変異と量にお・ける変異との対応関係,あるいはこれ
はKikuchi et al.(1979)の赤色,緑色,黄色三葉体
ら両形質の遺伝などについてはなお検討を要するよう
での結果とそれぞれ一致した.また,赤色1,緑色,
である.
黄色型と野生色型葉歯間でのフィコビリン色素:量にお
ける相違は,有賀(1980)が赤色,緑色,黄色型と野
終りに,アサクサノリ緑色型のフリー糸状体を分与
生色型葉体間で認めた相違とそれぞれよく類似するよ
していただいた福岡有明水産試験場の安部 昇氏,ま
うである.スサビノリ赤色皿,血色型およびアサクサ
た養殖試験網の管理,ノリ葉体の採取などでご協力を
ノリ緑色型のようなフィコビリン色素の型において野
いただいた佐賀県鹿島町海苔研究会の諸氏に感謝の意
生色型と相違が認められない変異型の存在は,これま
を表する.
で明らかにされていなかった.
スサビノリの各変異型および野生色型では,葉体と
文 献
糸状体はそれぞれ相応する色彩を呈し,PE/PCによ
天野秀臣・野田宏行(1978). 日水誌,44,911−916.
る序列は葉体と糸状体で一致した.一方,アサクサノ
有賀裕勝(1980). 遺伝,34,8−13.
リ緑色型では,葉体は紫褐色で糸状体の緑色と異なり,
Kikuchi, R., Ashida, K., and Hirao, S. (1979).
長崎大学水産学部研究報告 第56号(1984)
13
Bu”. 」αpαn Soc. Sci. Fish., 45, 1461−1464.
斎藤宗勝・大房 剛(1974). 藻類,22,130−133,
右田清治・藤:田雄二(1983).本誌,54,55−60.
新間弥一郎・田口脩子(1966). 日水誌,32,946−
三浦昭雄(1976).海洋科学,8,447−454.
949,
三浦昭雄(1978). 遺伝,32,11−16.
Siegelman, H. W., Wieczorec, G. A., and Turner,
三浦昭雄(1979). 水産生物の遺伝と育種,水産学シ
B. C. (1965). Anal. Biochem. 13, 402−404.
リーズ26,日本水産学会編.恒星社厚生閣,東京,
Siegelman, H. W., and Kycia, J. H. (1978). ln
78−79,
“Handbook of Phycological Methods. Phycol−
三浦昭雄・国藤恭正(1980). 遺伝,34,14−20.
ogical & Bioehemical Methods” (Hellebust, J.
のり品種特性調査研究協議会(1980).昭和54年度種
A., and Craigie, J. S. ed.). Cambrige Univ,
苗特性分類調査報告書(あさくさのり,すさびのり).
Press, London, 71−80.
日本水産資源保護’協会,26−27.
Strickland, J. D. H., and Parsons, T. R. (1972).
ノ ノ
OCarra, P. and O hEocha, C,(1976). In‘‘Chem・
In “A Practical Handbook of Seawater Analisis.
istry and Biochemistry of Plant Pigments”
Bull. 167 (Second ed.)’1 Fish. Res. Bd. Canada,
(Goodwin, T. W. ed.). Academic Press, London,
Ottawa, 185−192.
328−376.
須藤俊造(1960). 水産増殖,7,7−11.
朴 栄浩・小泉千秋・野中順三九(1973). 日水誌,
土屋靖彦・鈴木芳夫・佐々木召力(1961).日水誇一p27,
39, 1045−1049.
919−933.
斎藤宗勝・荒木 繁・桜井武磨・大房 剛(1975).
日水言志,41, 365−370.