本文ファイル - NAOSITE

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
「金融商品」会計の基準化
Author(s)
今田, 正
Citation
経営と経済, 70(3), pp.43-64; 1990
Issue Date
1990-12
URL
http://hdl.handle.net/10069/28445
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
経営と経済第70巻第3号1990年12月
43
「金融商品」会計の基準化
今田正
1 はじめに
FASBは,1984年設立の緊急問題タスク・フォース(EmergingIssues
TaskForce)の助けもかりて,1986年,その討議項目に「金融商品およびオ
フ・バランスシート・ファイナンス」(financialinstrumentSandoff−balance−
Sheetfinancing)に関する新たなプロジェクトを加えた。
この「金融商品およびオフ・バランスシート・ファイナンス」なる用語の
内容とはいかなる会計問題を含んでいるのか。
こんにち,これら新しい諸金融取引に代表される取引は,その多くが,い
わゆる「オフ・バランス取引」を形成し,これら取引の貸借対照表計上の論
理化が会計問題の焦点をなしている。すなわち,資産,負債,とりわけ後者
の「オフ・バランス」実務とその「オン・バランス」化の論理化こそアメリ
カ現代会計制度の焦点をなしている。
その囁矢は偶発損失計上の論理化に求めることができる。現代会計理論は
その論理化の視点を費用から負債へ転換させることによって偶発損失計上を
論理づけたのである。
偶発事象は当期の債務ではなく,潜在的将来債務である。FASB『財務会
計基準ステイトメソト』第5号「偶発事象の会計」は,偶発事象に関する見
積損失は派の条件に合致する場会にのみ勘定に認識されるべきであるとし
た。
a)財務諸表の発行日以前の情報によって,資産が損傷されているか,負債が発
生している可能性が高い(probable)こと。
b)損失の額が合理的に見積られること。
4
4
経営と経済
このように,偶発損失計上の条件として,資産の損傷と負債の発生という,
資産,負債の観点からの論理づけがなされたのである。
オフ・バランス取引の要因を考える場合の第二の特質は,実際の財貨や用
役の受取りが未だ生じていない未履行契約としての取引の性質である。この
性質に購入契約,貸借契約といった契約債権・債務が上げられるが,一般に,
これらはその未履行契約としての性質から,会計基準上,資産,負債として
の認識の基礎は与えられていない。たとえば,
APBは WAPBオピニオン』
第 5号「リース賃借人の財務諸表におけるリースの報告」において未履行契
約についてつぎのように述べた。
未履行の契約部分に関する権利と義務は現在理解されているように一般に認めら
れた会計原則のもとでは資産,負債として認識されない。一般に認められた会計原
則はもし当該情報を省く場合財務諸表を誤導する場合,付属明細書か財務諸表脚注
において権利,義務の開示を要求している。
特にこれらの未履行契約に関して特徴づけられるのは,予約および先物契
約,スワップ契約,オプション契約といったいわゆる新金融商品がこれらの
性質を有していることである。
現代会計制度が当面する会計問題は,まさに未履行契約の性質を有する諸
取引の認識・測定の基準化とその論理化にある。すなわち,それら取引の貸
借対照表上への資産,負債としての計上を如何に計るかにあるとみられるの
である。
本稿は,
r
オフ・バランス」項目の「オン・バランス」化の過程を,先の
FASBプロジェクトの課題となっている新金融商品およびオフ・バランス
シート・ファイナンスに関する諸取引の基礎をなす幅広い概念の構築と基準
化の方向性に求め,その論理化過程がもっ会計的意味を検討せんとするもの
である。
(注)
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(
2
) 加藤盛弘著『現代の会計原則』森山書庖,
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6頁参照。
「金融商品」会計の基準化
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2 オフ・バランスシート・ファイナンス取引の特徴
「オフ・バランスシート・ファイナンス」とは,一般に,資産およびその
関連債務を貸借対照表上に計上しない方法で資金調達を行う手法とされ
る。この数年,種々のオフ・バランスシート・ファイナンスが展開されてき
た。これらに共通する手法は, GAAPの許容範囲である種の債務をオフ・
バランスとすることである。その特徴は, (
1
)
個別の実体聞の関係に依拠する
2
)ある契約について未履行契約としての性質を有すること, (
3
)その多
こと, (
くが新金融商品であることである。
先づここでは,従来からオフ・バランスシート・ファイナンスとされてき
たいくつかの取引について,その基準化過程に即して検討しよう。
(1)非連結金融子会社 (uncosolidatedfinancesubsidiaries)
1
9
5
9年の『会計研究公報』第5
1号「連結財務諸表」ゐ規定のもとで,従来,
連結会計実務上,ほとんど例外なく,金融子会社は連結から除外され,持分
法によって処理された。持分法のもとでは,連結貸借対照表上,子会社の資
産・負債は連結資産・負債に合算されない。非連結子会社への投資は連結貸
借対照表上, I
非連結子会社投資」という単一の勘定で計上される。このよ
うに持分法のもとで,非連結子会社の負債は連結貸借対照表上に含められな
い。この「特に金融子会社の多額の負債の除外,それら子会社を連結しない
ことは“オフ・バランスシート・ファイナンス"と呼ばれることの重要な要
因となるという批判を呼び越したのである」。
かくて,この非連結金融子会社に関して, 1
9
8
7年 1
0月; FASBW
財務会計
基準ステイトメント』第9
4号「すべての過半数株所有子会社の連結」は『会
計研究公報』第 5
1号を修正し,すべての過半数株所有子会社 (all-majority-
4
6
経営と経済
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)の連結を要求した。すなわち,連結にあたって子会社
が「非同質的 J“
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在,あるいは海外のものであれ,過半数株所有子会社の連結が要求されたの
である。すなわち,子会社を利用した資金調達等が「オフ・バランスシート
-ファイナンス」を形成するとしその排除の論理をもって金融子会社の連
結を合理づけたのである。
(2)プロジェクト・ファイナンス (
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企業は財貨ないし用役の実際の受取りが発生していないいわゆる未履行契
約をとり結ぶが,それらは財務諸表上に表示されない場合が多い。また未履
行契約はオフ・バランスシート・ファイナンスを形成している。まず,プロ
ジェクト・ファイナンスについて検討する。
これは,ある企業実体がその貸借対照表上に関連債務を計上することなく
設備資産の資金調達を可能とする買入協定である。この買入債務の例にティ
ク・オア・ペイ契約 (
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)および、スループット契約(t
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)があげられる。
ティク・オア・ペイ契約の一つは,買入者と売却者との聞の協定 (
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)で,買入者は製品ないしサービスを受取る権利の見返りに定期的に一
定金額を支払うものである。買入者によって支払われるべき金額は最少限度
額が定められており,製品や用役の受取りがない場合でも,その額が支払わ
れねばならない。このような協定が用いられる例は生産設備の建設あるいは
その建設資金の保証の基礎とする場合であるとされる。
スループット契約もティク・オア・ペイ契約と概念的には同じであるが,
製品ではなく,パイプライン,加工施設といった設備によって提供されるサー
ビスについて用いられる。例えば,原材料の所有主はそれの製品加工と引き
換えに設備所有主に対して定期的に一定額を支払うことを協定する。原材料
所有者は契約数量が加工に供給されない場合でも設備所有者への支払を義務
づけられることになる。スループット契約はまた原材料の海運業者および運
輸手段の所有者に対する場合も含む。
「金融商品」会計の基準化
4
7
これら二つの契約は,当該企業によって設備が所有されていなくとも生産
能力が得られるという意味で,一つのオフ・バランスシート・ファイナンス
であり,これに関連する無条件買入債務であり,これらは従来,商品ないし
サービスに関して未履行契約を意味し,負債として計上されないものであっ
た
。
かくて,
FASBは 1
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財務会計基準ステイトメント』第 4
7号「長期
債務の開示」を表わし,これに対応したのである。ただし,そのタイトルが
示すように,それは「開示」を要求したに止まり,その協定についての債務
の貸借対照表計上を要求したわけではない。
(3)プロダクト・ファイナンス (
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これは商品・製品を将来買い戻す約束で第三者に「売却」することによっ
て資金を調達する方法である。これによって貸借対照表から当該棚卸資産が
除去される一方,調達資金も負債に計上されないことから,オフ・バランス
シート・ファイナンスの例であるとされる。
1
)
たとえば,プロダクト・ファイナンスは,ある会社(スポンサー)が, (
棚卸資産(製品)を他の実体へ売却し,これと関連して製品(実質的に同ー
2
)スポンサーのために他の実体をして製品
の製品)を買い戻すか,あるいは (
を買収するように調整し,同時に他の実体からの製品を買収することに合意
する。
つまり,プロダクト・ファイナンスは,ある実体が棚卸資産を売却し,こ
の売却価格に維持費および金融費用を加えた価格で買戻すことに合意する。
この取引の目的は売却者(スポンサー)をして最初の棚卸資産の買収のため
の資金の調達を可能とすることにある。
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1
. 最初の取引においてスポンサーは金融実体に売却価格の送金と引き換えに棚卸
4
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経営と経済
資産を「売却」し,同時に一定の期間にわたって買い戻すことに同意する。
2
. 金融実体はスポンサーに送金される資金を銀行から借入れることによって入手
する。
3
. 金融実体はスポンサーへの実際の資金を送金し,スポンサーは最初の棚卸資産
の購入に伴う債務の支払をなす。
4
. スポンサーは資金を入手した時点で,特定された価格・プラス・金融費用でも
って棚卸資産の買戻しを行う。
この資金調達契約においては,スポンサーは製品によって資金の調達と最
終的な処分権を保有する手段とみることができる。すなわち,この取引にお
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)は金
いては,棚卸資産の測定と評価目的のために,法的所有権(1
融実体に移転されるが,棚卸資産は実質スポンサーによって所有されるとさ
れるものである。
かつて,プロダクト・ファイナンス協定に関する会計処理については二つ
の方法がなされた。一つは,スポンサーがその貸借対照表上に資産(製品)
および負債(資金調達協定)を計上するとするもの。第二の方法は,財務諸
表の本体から資産,負債として計上することを排除し,契約に関する債務を
脚注に計上する方法である。さらにまた,協定に伴うスポンサーの金融およ
び保有費用の統一的処理法は存在しなかった。
かくて, FASBは
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財務会計基準ステイトメント』第 4
9号「プ
ロダクト・ファイナンス協定の会計」)を表わし,この取引の実質が借入れで
あるとした。すなわち,取引がその実質において,スポンサーが棚卸資産購
入のための第三者による金融を得ることと違いはない。すなわち,法的所有
権は第三者に移転されるが,実質的リスクはスポンサーが負担するという「経
9
済的実質」論をもって論理化したのである。かくて「ステイトメント」第4
号は,適切な会計として,売却価格で最初の棚卸資産の移転に関して資金が
受取られた時点で負債として計上することであるとした。そうして,スポン
サーは棚卸資産の保有および金融費用を通常の会計処理によって計上する。
これら発生費用および負債はスポンサーによって棚卸資産が買い戻された時
に各々除去され,また決済される。
「金融商品」会計の基準化
4
9
(4)実質的ディフィーザンス (in-substancedefesanceo
fdabt)
企業が予定の満期日以前に長期債務を償還するいくつかの方法が存在す
る。企業は,実質的ディフィーザンスにおいて,“リスクのない"資産(現
金ないしは政府証券)を解約不能な信託に預託することによって特定のタイプ
の債務を償還することができる。
すなわち,一度証券が信託に預託されると,政府証券はし、かなる金融リス
クを伴わないのであるから,債務は償還されたとされるのである。すなわち
6号「債務の償還]}は,債務譲渡の規定
『財務会計基準ステイトメント』第 7
のもとで債務者は法的にその負債を免除されることはないにもかかわらず,
資産の移転を債務の償還として取扱うことを認めたのである。同ステイトメ
ントはいう。
一般に,実質的ディフィーザンス取引の効果を認識することは合理的である。な
んとなれば,現金による決済が常に可能ではなく,実質的ディフィーザンスも本質
的に同様の効果をもつからである。したがって,当審議会は,一定の条件のもとで,
債務者は法的には第一義的債務者であるが,財務報告目的には債務は償還されたと
みなされるべきであると確信する,と。
この
FASBのディフィーザンスの論拠は『財務会計概念ステイトメント』
第 6号に求められよう。ステイトメントは負債を「過去の取引ないし事象の
結果,ある実体が将来他の実体に資産を引渡すか用役を提供すべき現在の債
務から生じる見積将来経済便益の犠牲である」とした。しかるに,譲渡者は
債務の支払いに備えて基本的にリスクのない資産を信託に預託し,償還され
るべき債務についての将来の支払の可能性はほとんど稀れである。つまり,
取引はすでに債務者としての責務を十分満足している。そのような契約方法
は「見積将来経済便益の犠牲」でないことは明らかであり, したがって,債
務は債務者の貸借対照表から除去されるべきであると,このように論理化さ
れるのである。
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経営と経済
(5)償還請求権付受取債権の譲渡 (
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企業は資金の調達,受取勘定についての回収上のリスクを外部者にシフト
するといった目的のため,手持ちの手形または受取勘定の回収にむけ,それ
を第三者に売却することがある。この受取債権の譲渡はつぎのような方法の
どれかとして行われる。
アサインメント(一つの借入協定であり,ここでは受取債権は付帯的に担保に付
される),ファクタリング(償還請求権のない受取債権の売却),および償還請求
権付受取債権の譲渡である。
前二者の処理方法は明解である。まず,アサインメントにおいては,貸与
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)に与えられた約束手形(担保に付された受取勘定で裏打ちされた)
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の金額でもって負債が譲渡者の貸借対照表上に計上される。一方,アサイン
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)の資産とし存続し,その貸
メントに付された受取債権は借入者 (
借対照表上に計上され,それについての開示が付されることになる。
ファクタリングにおいては,ある第三者が譲渡者から償還請求権なしの基
準で,ある受取勘定を“買取る"のである。伝統的に,ファクタリングは,
ファクターとして知られる金融機関に対して受取勘定を直接に売却すること
として展開されてきた。
ファクタリングは所有権を移転する。償還請求権の規定もないのであるか
ら,受取勘定が借入者の貸借対照表から除去することが是認されるのであ
る
。
つぎは,受取債権の譲渡が償還請求権付きで行われる場合である。この取
引の実質がアサインメントと同じように,受取債権を保証とする「借入れ」
(
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)であるのか,あるいはファクタリングと同じ性質の「売却 J(
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)で
あるのか, といった問題が存在する。その区分は重要であり,前者の場合,
譲渡者の貸借対照表上の負債が計上されることになる。
受取債権が償還請求権付きで譲渡される場合,この契約は本来,受取債権
のファクタリングとアサインメントの混合した性質を有している。この取引
の性質から,従来からその実務は多様な方法をもって行われてきた。
5
1
「金融商品」会計の基準化
かくて,
FASBは『財務会計基準ステイトメント』第 7
7号「償還請求権
付受取債権の譲渡の報告」をもって規定したが,同ステイトメントは,この
取引の実質は次の 3つの条件の全てが存在する場合「売却」とみなされると
したのである。
1.受取債権の将来経済便益に対する支配権が被譲渡人に移転されている
こと。
2
.償還請求権条項のもとでの譲渡者のコストが合理的に見積られること。
3
. 被譲渡者は償還請求権条項以外の方法で譲渡者に受取債権の買戻しを
請求できない。
もし
3つの全ての条件が満されれば取引は売却として処理されるが,も
し,いずれかの一つを満さない場合は借入れとし取扱われることになる。す
なわち,譲渡が売却として取扱われれば,譲渡者の貸借対照表上に負債は計
上されない。逆に,これらの条件が存在しない場合,譲渡に伴う相当額が負
債として計上されることになる。
貸借対照表に資産,負債が計上されない金融取引,すなわち,オフ・バラ
ンスシート-ファイナンス取引は,近年大きな会計問題として登場してきて
いる。以上に掲げた例はその典型例にすぎない。しかも,これらの取引は従
来からオフ・バランスシート・ファイナンス取引として知られているもので
ある。これらの取引に対する
FASBの対応は,それらが GAAP化されると
はいえ,その内容は多様である。取引に関し負債(あるいは資産)を認識計
上するものもあれば,貸借対照表からの負債を除去することを合理づける基
準もある。また,認識計上にいたらず,ディスクロージャーに止まっている
領域もあるのである。しかし,このような
FASBによる会計問題への個別
的対応にかかわらず,そのアプローチの基底にある一つの特徴は「経済的実
質」の論理である。
歴史的原価に基づく伝統的会計モデルは交換ないし取引に規定づけられた
ものであった。また,事象は交換が行われた時に会計上認識された。負債の
認識規準もまた交換指向のものであった。すなわち,負債は企業が既に受取
った便益に対して将来に資源を犠牲とすべき義務が生じた時点で認識された
経営と経済
5
2
のである。かくて,相互未履行契約は単に契約の交換にすぎないという理由
でもって負債として認識されないとされたのである。これに対して,負債会
計の概念展開は法的支払義務が直ちに生じないとしても契約の交換が経済的
実質をもちうることを認識するとしたところに特徴がある。また企業が資産
の経済的便益を享受するか経済的リスクが発生する場合,資産とそれと関連
する金融もまた認識されるべきとされる。
しかし相互未履行契約の会計は十分に展開されているわけではない。上
にかかげた一般原則はそれら全ての契約について統一的に適用されるわけで
はない。しかもまた,近年,先物,スワップ,オプションといった新しい金
融取引が登場してオフ・バランスシート取引を構成する至っている。かくし
て FASBの対応の第 2の特徴は,これらオフ・バランスシート・ファイナ
ンスの諸取引についてピース・ミール的に対応し,それらの取引を基礎づけ,
新金融商品をも包括しうる認識・測定の概念的枠組みを未だ開発するに至っ
ていないことである。
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3 FASBの「金融商品」会計への対応
(1)FASB金融商品プロジェク卜
前述のように新たな金融商品によって生じた会計問題についてはそのいく
つかについては FASB,とりわけ緊急問題タスク・フォースによって,その
1
9
8
4年の結成以来取り組まれてきた。 FASB は1
9
8
6年に,新たなプロジェ
クトをその審議日程に加えたのであるが,当プロジェクトは金融商品の会計
問題に関する解決のための一貫した概念的基礎を提供する幅広い基準を開発
するとするものである。それはつぎの 3つの段階で金融商品に関する会計問
題に関する接近法を採用している。
1.開示
5
4
経営と経済
2
. 認識と測定
3
. 負債と持分との区分
まず, FASB は金融商品に関する情報開示をいかに改善するかに焦点を
置いた。 1
9
8
7年 1
1月
, FASBは公開草案「金融商品に関する開示」を公表
したが, 1
9
8
9年には,オフ・バランスシート問題および与信リスクに焦点を
絞った同改訂公開草案を表わした。そうして, 1
9
9
0年に, W財務会計基準ス
テイトメント』第 1
0
5号「オフ・バランスシート・リスクおよび与信リスクの集中
を伴う金融商品に関する情報の開示」を表わし,オフ・バランスシートとなる
与信および市場リスクを伴う金融商品について,その範囲,性質,条件につ
いての情報開示を規定したのである。
,
また, FASBは
r
開示」に関する最初の公開草案の公表の直後から「認
識および測定」に関する作業を開始している。以来, FASBは金融商品の
認識・測定問題について基礎的商品アプローチ (
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)を展開したのである。すなわち,このアプローチはすべ
ての金融商品が少数のブロック(基礎的金融商品)から積み上げられており,
それら基礎的商品に関する会計問題の解決が複合的金融商品 (compound
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)の認識および測定問題解決の鍵となるというものであ
る
。
プロジェクトの第 3段階は負債および、持分の両方の性質を持つ金融商品に
ついていかなる会計処理がなされるべきかに関係づけられた。したがって,
この問題は必然的に負債および持分商品の区分の問題を含んでいる。それは
WFASB概念ステイトメント』第 6号「財務諸表の要素」に示された負債およ
び持分の定義に依拠するとともに,その見直しをも計るというのである。
(2)基礎的金融商品
FASBの金融商品に関するアプローチはすべての金融商品がいくつかの
異った“ブロック"から成り立っているという前提に基づき,それら基礎的
商品をいかに認識,測定するかを決定することが会計問題の一貫した解決に
到着する鍵となるとした。
5
5
「金融商品」会計の基準化
では,いかなる金融商品が基礎的であるのか,
の定義に立戻る。
FASBは,まず金融商品
FASBは,先の 1
9
8
9年の改訂公開草案において,金融商
品を伝統的手法である受取債権,社債および株式は勿論,金融先物および予
約契約,金利スワップおよび金利キャップ,モーゲージ,金融保証といった
新金融商品を含むものとして定義した。
まず,
FASBの定義は,一方に受取る権利を,他方に引渡義務を伴う商
品と交換すべき権利と義務を伴う商品との区分を行う。もし金融商品が一方
に現金あるいは他の商品を引渡す義務を負わせる場合,その者は負債を他方
は資産を有することになる。すなわち,受取る権利あるいは引渡し義務は一
方向の移転を伴う。反対に,交換すべき権利と義務を伴う金融商品は双方向
の現金およびその他の金融商品の流れからなる。この交換取引が資産となる
か負債となるか,あるいはその両方であるかは有利な結果となるか不利な結
果となるかの可能性によって決定される。
いま一つの基礎的商品聞を区分する特徴は条件つきの権利あるいは義務で
あるか, ということである。現金あるいは他の商品を受取る権利あるいは引
渡すべき義務(一方向の移転)はある事象のもとで無条件であるか条件付き
となる。同様のことは現金あるいはその他の商品を交換すべき権利,義務(多
方向の交換)についてもいえる。かくて,
FASBは次の 6つを基礎的金融商
品として上げている。
無条件受取(支払)勘定
条件付受取(支払)勘定
予約契約
オプション
保証あるいは他の条件付交換
持分商品
(3)金融商品会計の課題
つぎに,認識・測定問題についてはどうか。金融商品およびオフ・バラン
スシート・ファイナンス・プロジェクトは新金融商品や取引と同様に,また
5
6
経営と経済
伝統的金融商品に関してもそれを包括する幅広い基準の開発が要請されてい
るのである
)
l
;かくて,同プロジェクトはいくつかのポイントから成ってい
る
。
a
)一
(1)金融商品および取引に関する財務諸表脚注における開示の改善で, (
つには,現在,貸借対照表上に認識計上されている項目, (
b
)現在,資産,負
債として認識されていない債務,コミットメントおよび保証の双方を含む。
(
2
)償還請求権が存在する場合,なにをもって金融資産が売却され,また資
産が決済のため差出されている場合,金融負債が決済されたと考えるのか。
(
3
)
市場リスク,与信リスクあるいはその双方を移転せんとする金融商品お
よび取引(例えば,先物および予約契約,スワップ,オプション,コミットメント,
アレンジメント,保証)はいかに会計処理されるべきか。同様にリスク移転に
関係して基礎となる資産,負債はいかに処理されるべきか。
(
4
)金融商品が L、かに測定されるべきかを検討すること。たとえば,時価か,
原価か,あるいは低価法か。
(
5
)負債と持分との両方の性質を有する証券の発行はし、かに処理されるべき
か
, といった問題として提起されたのである。
最初の開示の問題を除けば, FASBプロジェクトの焦点は,本質的に財
務諸表上の認識計上と測定にある。
まず,認識問題に関しては,金融商品に関する一貫した解決の重要なステ
ップは FASB概念構造における定義,規準に求められることになる。これ
ら認識規準はまた測定問題と密接に絡んでいる。たとえば,
r
ヘッジ会計」
手法においては先物契約等に伴う実現損益の認識を繰延べる処理が登場して
いる。かくて,ヘッジ商品およびヘッジ対象商品の両方に時価か原価のどち
らかを一貫して用いるとすればヘッジ会計を用いる動機そのものが減じてし
まうことになるのである。
(注)
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4 ヘッジ会計
(1)ヘッジ会計の特徴
FASBが種々の金融商品を関係づけるもっとも重要な会計問題のーっと
して掲げるのがヘッジング (
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)である。
一般に,それは価格,外国為替,あるいは金利リスクを回避せんとする者
からそれを引受けようとする者へ移転する用具である。特に,ヘッジは,先
物,予約,オプションあるいはスワップといったヘッジ手法をリスクにさら
される現物ポジションと反対のポジションを組むことである。
ヘッジングは一定の期間において所有または債務を負う項目についての価
格やレートの変動からの損失を減じることであるが,逆にまた有利な変動か
らの利益を制限することにもなるのである。これらのヘヅジ対象項目として,
1)商品,金融商品といった保有資産,
2) 外貨建債務といった保有負債,
3)商品あるいは金融商品といった項目の売買の契約上の(確定)コミット
メント,
4) 債務の売買や発行あるいは借り替えといった契約上のものでは
ない,見積られた取引が上げられる。
. スチュアート
では,ヘッジ会計が必要とされている根拠はなにか。].E
5
8
経営と経済
(
S
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)はつぎのように理論づける。
「ヘッジに関して特別の会計を要求する根拠は,一つには,歴史的原価,
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)会計システムに求められる,という。こ
取引に基づいた (
のシステムの下では,価格ないし金利の変動の保有資産,負債に対する効果
は後における取引において実現するまでは利益として認識されない。もし,
ヘッジ対象資産,負債に関する損益が,それら資産,負債のヘッジに用いら
れた商品に関する損益と異った期間に報告されるとすれば,異った会計期間
に利益について相殺勘定となる会計結果をもたらす」と,このようにいう。
いずれにしても,伝統的会計のもとでは先物取引等に関する未実現損益は実
現するまで財務諸表上に表示されない。
FASBの対応は L、かなるものか。そのテ
では,これら会計問題に関する
ンポはけっして速いものではない。
FASBは
, 1
9
8
1年
,
~財務会計基準ステ
イトメント』第 5
2号「外貨換算」を表わし,外国為替予約,先物,スワップ
に関するヘッジ会計について規定した。また,
1
9
8
4年には,
~ステイトメン
ト』第 8
0号「先物契約の会計」を発表したが,それは外貨を除くすべての型
の先物取引に対応したものであった。だが,多くの新金融商品・取引にとっ
ての問題は,全体として会計指針が欠如していることである。例えば,残さ
れた領域として,
1) 金利予約,
2) 全てのタイプのオプション,
3) 金利
スワップがある。
金利スワップについてみれば,その会計規準は結局いかに会計処理がなさ
れるべきかについては何も云っていない。同様に,商品,外貨,金融商品,
および先物契約に関する多くの型のオプションの市場は近年急成長をしめし
ているが,唯一オプション会計については普通株についての規準のみが設定
されているにすぎない。
2号,第 8
0号はヘッジ会計を規定した。これらステイト
ステイトメント第 5
メントの基礎をなす幅広い概念はヘッジ商品とヘッジ対象の資産,負債ない
し取引との聞のある種の調和を計ることである。もし,特定の規準に合致す
れば,ヘッジ商品の損益はヘッジ対象項目の損益と同じ期間に,同じ手法で
計上される。もし,ヘ、ソジ対象の項目が繰延べられるとすれば(例えば,資
「金融商品」会計の基準化
5
9
産が原価で計上され,あるいは先物取引である場合),ヘッジ商品に関する損益は
当期の利益として認識されるのではなく,ヘッジ対象項目の簿価の修正とし
て繰延べられる。同様に,もしヘッジ対象項目の市場価格の未実現変動額が
利益に含められるか,株主持分の構成要素に含められるとすれば,ヘッジ商
品に関する損益もまた発生した期間の利益ないし株主持分の一要素として認
識される。より具体的に検討しよう。
(2)為替予約会計
アメリカにおいてヘッジ会計の明確な出現は外貨建取引における為替予約
の処理に関するものであるとされる。ところで,外貨建取引は実体の機能通
貨以外の通貨で換算される取引であり,この機能通貨と取引が建てられてい
るところの通貨との聞の為替レートが変動する場合,一般的に為替レートが
変動した期の純利益の決定に含めなければならない為替差損益である,とさ
れる。一方,
r
財務会計基準ステイトメント」第 5
2号はし、う。先物為替予約
は異なる通貨を将来の特定の日に特定のレートで交換する協定である。予約
契約は外貨取引である。予約契約に関する損益は純利益の決定に含めらねな
ければならない,と。そうして,この為替差損益について,
FASBは,取引
の決済時あるいは他のある中間日にではなく,為替レートの変動時の利益に
反映されるべきであり,これは発生主義会計に適っているとしたのであ
2号は為替差損益について次のように認識するとし、ぅ。為替予約契約
る。第5
に関する損益は貸借対照表日における直物レートと契約締結時の直物レート
の差額(と予約契約の外貨額の積)であり,一方,予約契約の割引額ないしプ
レミアム額(すなわち,契約の締結時における予約レートと直物レートの差額と契
約外貨額の積)は為替差損益と区別され,予約契約期間にわたってその期間
利益の決定に含められる,とされる。
このように第5
2号の特徴は,為替予約自体を外貨建取引のーっとみること
である。
それは為替予約そのものを認識計上する一方で,一般的外貨建取引の基準,
すなわち外貨取引から生じた項目はその取引が認識された時点の直物レート
6
0
経営と経済
で換算するとともに,直物レートの変動はそれが生じた期の損益として認識
するという基準を為替予約に適用することを意味する。では,ヘッジ会計と
しての予約会計の具体的特徴はなにか。
予約会計において,為替レートの変動による損益が,為替予約とヘッジ対
象物たる外貨建債権・債務について等額の損失・利益が同時に認識されて相
殺される。これは予約契約というヘッジ会計の導入によってはじめて可能で
あった。いま一つの特徴は,為替予約はその性質において完全未履行契約で
ある。しかるに第 5
2号は,予約契約自体を会計認識の対象とし,予約契約に
伴う権利・義務を資産,負債として計上し,為替レートの変動がこれらの資
産,負債の変動として認識されるのである。
(3)先物契約会計
「財務会計基準ステイトメント」第 8
0号は為替予約を除く,すべての先物
契約の会計処理を定めた。
先物契約会計の場合,先物契約自体を資産または負債として認識すること
を要請していない。その理由として,第 8
0号は先物契約が現物の受け渡しに
よって決済されることは殆ど希であり,通常は引渡日以前に決済されること,
第二に,先物契約の下での現物の引渡しにかかわる個々の権利および義務は
ほとんど完全未履行契約に近く,これら完全未履行契約にかかわる権利,義
務は,通常,財務諸表上認識されない,という二つのことを上げる。
先物為替予約がそれ自体を認識計上するのに対して,第 8
0号は先物契約を
認識対象とせず,先物契約にかかわる損益のみが認識され,証拠金(勘定)
にかかわらしめて処理されることになる。
いま,ヘッジ目的の先物契約については, (
A
)ヘッジ対象項目が時価で評価
されている場合,ヘッジ対象項目の認識時点に合せ,変動が生じた期間の損
益として認識するとされ,
(
B
)ヘッジ対象項目が原価で評価されている場合,
先物契約の市場価値の変動損益は,ヘッジ対象項目の簿価の修正として繰延
べ,将来においてヘッジ対象項目の売却等による損益認識に対応せしめると
する。これによってヘッジの経済効果が会計上も反映されるとするのであ
「金融商品」会計の基準化
6
1
る
。
このように,先物取引のもつ特殊性から,その市場価値の変動に基づく損
益は原則として実現利益とみなされる。ただし,ヘッジ目的の先物契約の損
益はヘッジ対象項目の損益に対応しせしめて認識するとした。
0号は,それをいわゆる値洗
では,先物取引に特有な性質とはなにか。第 8
法
(
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)に求めるのである。すなわち, I
先物契約の市場価値
の有利な変動は仲介業者に請求できる額が直ちに増加し企業の資産が増加
する。委託証拠金の増加額は先物契約の決済をまたず現金で引出すことがで
きるし,引出されている」という。つまり, FASBは
, I
先物契約の市場価
値変動の目的適合性と信頼性,そして先物取引のユニークな特徴一利益また
は損失の日々の決済ーが,未決済の先物契約に基づく利益を認識することを
支持すると確信する」というのである。
本来,未履行契約たる予約契約,先物契約に係わる損益自体は認識されな
いものである。ヘッジ取引を契機とするヘッジ会計の導入はヘッジ取引をそ
れ自体独立の取引としてではなく,ヘッジ対象物(の取引)とヘッジ取引と
を一体とみなして,それらに係わる損益の認識の期間的対応の論理をもって,
ヘッジ取引,たとえば先物取引の損益を実現損益(あるいは実現可能利益)と
して早期に認識することを可能とし,また現物取引の損益との相殺効果を果
したのである。
それを論理づけたのが,先物取引(市場)においては「日々値洗いによっ
て証拠金が増加し,直ちに現金で引出すことができる」と L、ぅ先物取引に特
有の日々の決済という「値洗基準」の措定であり,また,為替予約について
過去の為替レートの変動は歴史的事実であり,……レート変動が起つ
は
, I
た時点で会計処理することが最もよく財務諸表の利用者達に奉仕する」とい
う発生主義の論理である。すなわち,損益認識の根拠がヘッジ取引に特有な
反対売買取引や差金決済に求められるのである。換言すれば,ヘッジ会計が
ヘッジ取引の経済的効果を忠実に表わしているという経済的実質反映の論理
がその基底をなしている。
6
2
経営と経済
(注)
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5 会計認識拡大の会計的意味
オフ・バランス取引をめぐる会計問題は,取引の資産,負債としての認識
計上と取引から生じる損益認識というこつの側面を有している。先ず,会計
的認識の意味は,資産,負債を帳簿上に記録計上し,その結果を実体の財務
諸表上に計上することである。認識されない資産,負債についての情報は財
務諸表に注記または付属書類にて開示される。
「金融商品 j 会計の基準化
6
3
だが,会計機能の第一義的意味が利益数値の決定にあるとすれば,いわゆ
るディスクロージャーと認識とはその会計効果において峻別される。
いわゆるオフ・バランス取引は急速に会計問題として登場してきた。こん
にち,会計問題の焦点の一つがオフ・バランス取引のオン・バランス化にあ
ることは疑問の余地はない。それらの中にあって,たとえばリース取引につ
いては,その基準化は比較的早い期に着手され,キャピタル・リースについ
ての資産・負債の両建計上をもってオン・バランス化が果された。前述のご
とく,企業会計の中心的役割は利益の測定・開示にあるが,問題は認識のも
つこれらに対する会計上の効果である。かかる意味で,オフ・バランス取引
のオン・バランス化は資産,負債の構成を変えるだけではない,それらの償
却と償還過程を通じて以降の会計期間の利益に影響を及ぼす。
また,この資産,負債計上の領域拡大の例として,非連結金融子会社につ
いて,それが,子会社を通じた資金の調達等,オフ・バランスシート・ファイ
ナンスを構成するとし,実質的経済的実体の財政状態の反映として,これら
金融子会社の資産,負債の連結を論理づけた。しかし,この拡大された資産,
負債計上は単なる情報の拡大を意味しない。連結会計は一方において会社間
債権,債務の相殺,クソレープ会社問利益・損失の相殺を可能とするのである。
第二に,オフ・バランス取引のオン・バランス化に共通の特徴は負債の認
識計上にかかわり,不確実な将来事象の予測と見積りに基づく早期の認識計
上にある。その稿矢は偶発事象の会計に求められる。いうまでもなく,複式
記入の会計システムのもとでは負債の認識計上は他方における資産の計上
か,費用の計上を意味し,以後の会計期間における利益数値に対する会計効
果を有している。
また,これら負債会計の延長上に伝統的な諸オフ・バランスシート・ファ
イナンス取引の会計問題も,それらの認識計上の基準化の再構築が関われて
いる。すなわち,伝統的オフ・バランスシート・ファイナンス取引について
はその基準化自体が多様である。実質的ディフィーザンス,償還請求権付受
取債権の譲渡においては基準自体をもってオフ・バランス処理を規定づけ
た。一方,負債の認識計上にいたらず開示にとどまるプロジェクト・ファイ
経営と経済
6
4
ナンスの事例もあれば,また負債の計上化を計ったプロダクト・ファイナン
スの事例等にみるように多様であり,
r
何をもって金融資産が売却され,金
)といった FASB金融商品プロジェクト
融負債が決済されたと考えるのか j
の課題に代表されるような一貫した基準化が関われている。
また,資産,負債の計上とその結果を通じた損益の認識に対して,オフ・
バランスのままでも,契約が履行される時点で損益の認識が行われる。一般
的には未履行契約は取引とはみなされないのである。その取引の例について
は先物契約についてみた。
そこでは,契約の権利,義務に対応した資産,負債の計上はなく,一般に
は契約が履行されたとき実現する。かかる意味では,通常は,反対売買によ
る差金決済時に損益が認識される。だが FASBは,未決済の残高について
相場の変動に応じた値洗いが日々に行われ,差金決済をまたず評価益相当額
(証拠金の増加額)を引出すことができる。すなわち,実現利益とみるとし
たのである。一般に未実現の評価益の認識は排せられる。「値洗基準」は不
確実性を伴う変動損益を実現損益と見なすことに他ならず,実現基準の拡大
化が計られたことに他ならない。
(注)
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) FASB
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(
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) FASB
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1Financ必1AccountingStandardsNo.5.AccountingforContingen-
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(
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) FASB.S
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