14-a-18 - Osaka University

自然換気用チムニーを有する建築における冬期室内上下温度分布メカニズム
(その 2)ブロックモデルを用いた室内上下温度分布計算
東階段室チムニー
西階段室チムニー
N
17400
研究室B
断面1
教員室A
64000
断面2
3000
図1 3階平面図
建物概要
地上 4 階建 建築面積 1,484m2
3200[mm]
2
RC 造
延床面積
4,098mLouvre
Aluminum
鋼製扉
廊下
アルミガラリ
アルミガラリ 鋼製扉
350 300
450
7200
1200
廊下側
測定点
床上高さ[mm]
2200
2月6日
1700
開放時
廊下側
12:00
10:00
図 4 教員室 A 平面図
図3 断面2
図2 断面1
窓側
測定点
24 時間
換気口
屋外
2月6日
18:00
10:00
16:00
開放時
窓側
12:00
16:00
1100
14:00
14:00
600
18:00
100
0 10
20
15
2200
床上高さ[mm]
室内上下温度分布,コールドドラフト,ブロックモデル
1.はじめに
近年、省エネルギーの観点から、自然換気用チムニーを
採用した建物が増えてきた。本報では自然換気用チムニー
を有する学校建築を対象とし、ブロックモデルを用い、冬
期における室内上下温度分布メカニズムについて調査し、
その結果について報告する。なお、本報は既報1) を一部
再検討し、加筆した上で再構成したものである。
2.研究背景
香川県高松市内の T 大学校舎を対象建物とした。図 1 に
対象建物の 3 階平面図を、図 2,3 に西・東階段室型チムニー
の断面図を示す。既往研究2) により、この建物には冬期
に室内上下温度分布現象が生じたことが分かっている。そ
こで、チムニー上部の開放状態が室内上下温度分布に与え
る影響を解明するために、東西階段室に開閉式鋼製扉を設
置した ( 図 2,3)。2013 年 2 月に、自然換気用チムニーを
開閉し、室内上下温度分布測定を行った。室内上下温度分
布測定には小型温度計 (T&D TR-71S および TR-72S) を用い、
2・3 階研究室の床上高さ 100mm,600mm,1100mm,1700mm,
2200mm に設置した。図 4 に測定を行った教員室 A の平面
図を示す。
図 5 に教員室 A における室内上下温度分布の測定結果を
示す。外気温が 10℃前後の条件で、室内最高温度が 20℃
を超えた 18 時には、室内暖房を使用していたと考えら
れる。この時、チムニー上部扉の開閉に関わらず、床上
1100mm と床上 100mm の間では、5℃以上の上下温度差が生
じていることが分かる。また、チムニー上部扉を開閉した
それぞれの条件で、非空調時(10 時のデータ)の廊下側
に比べ、窓側の床上 100mm における温度が低く、大型ガラ
ス窓によるコールドドラフトの影響を伺わせた。
3.ブロックモデルの概要
戸河里ら3) による大空間の上下温度分布を予測するた
めのブロックモデルは、窓面に沿うコールドドラフトの影
響を再現できるため、このブロックモデルをベースに概念
モデルを構築した。なお、本ブロックモデルには天井・床・
間仕切り壁からの転熱、エアコン発熱量と 24 時間換気口
からの隙間は配慮していない。表 1 にブロックモデルの構
成式を示す。図 6 にモデルの概要を示す。
正会員 ○ 張 成 *1 同 坂口 武司 *2
同 山中 俊夫 *3 同 甲谷 寿史 *4
*6
同
桃井 良尚 *5 同 相良 和伸
1700
(外気温度は
5.5℃~10.3℃)
25
10
15
2 月 15 日
12:00
10:00
25 温度[℃]
20
2 月 15 日
12:00
開放時
廊下側
10:00
開放時
窓側
18:00
1100
16:00
18:00
16:00
600
14:00
100
0 10
15
20
25
14:00
(外気温度は
9.8℃~10.5℃)
10
15
20
25 温度[℃]
図5 室内上下温度分布
表 1 室内上下温度分布予測ブロックモデル 3) と境界条件の計算式
混合流分配の判定
VIN ( I , G )
温度条件
TM ( I , G ) ≥ T ( I )
= VM ( I , G )
各ブロック風量収支
VIN ( I , G ) + VIN ( I , W ) − VOUT ( I , G ) − VOUT ( I , W ) + VC ( I − 1) − VC ( I ) =
0
(1)
各ブロック熱量収支
QIN ( I , G ) + QIN ( I , W ) − QOUT ( I , G ) − QOUT ( I , W ) + QC ( I − 1) − QC ( I ) + Qb ( I − 1) − Qb ( I ) =
∆Q ( I )
ガラス面で形成した混合流温度・風量
ガラス面で発生した下降流温度・風量
T=
0.75T ( I ) + 0.25TW ( I )
D ( I , G)
4α ( I , G ) AW ( I , G )
VOUT ( I , G ) = C
Cγ
熱移動係数
CB ( I ) = at Cγ / LB (11)
(2)
VMD ( I − 1, G )TM ( I − 1, G ) + VOUT ( I , G )TD ( I , G )
VM ( I , G )
(3)
TM ( I , G ) =
(4)
VM ( I , G ) = VMD ( I − 1, G ) + VOUT ( I , G )
ガラス表面温度
Tg ( I ) = T ( I ) −
(6)
T ( I ) > TM ( I , G ) > T ( I + 1) = VM ( I , G )
TM ( I , G ) ≤ T ( I + 1)
(5)
(7)
TM ( I , G ) − T ( I )
T ( I ) − T ( I − 1)
=0
乱流拡散によるブロック間熱移動量
Qb ( I ) = CB ( I ) AB ( I ) {T ( I ) − T ( I + 1)}
(8)
(9)
(10)
 
 
1/ α
∑ T ( I ) − 1/ α + l / λ1 + 1/ α [T ( I ) − T aisle ] Si 
i
i
1
1

  (13)

TW ( I ) =
∑ Si
廊下側壁表面温度
1/ α1
[T ( I ) − TOUT ] (12)
1/ α1 + l1 / λ1 + 1/ α 0
Mechanism of Indoor Vertical Temperature Profile in Wintertime in Buildings with Natural Ventilation Chimney
(Part.2) Calculation on Indoor Vertical Temperature Profile by Block Model
Cheng ZHANG, Takeshi SAKAGUCHI and Toshio YAMANAKA
Hisashi KOTANI and Yoshihisa MOMOI and Kazunobu SAGARA
表 2 ブロックモデルパラメータ
モデルサイズと物理パラメータ
値
ブロック高さ h
ブロックと壁面・ガラス面接触面積 Aw,Ag
ブロック間接触面積 AB
空気比熱 C
空気密度γ
壁面・ガラス面熱対流係数 αc
ブロック間熱乱流係数 CB
対流熱伝達率(室外側)α0
対流熱伝達率(室内側)α1
熱伝導率(ガラス)λ1
熱伝導率(合板)λ2
熱伝導率(コンクリート)λ3
0.580m
1.830m2
23.040m2
1006J/(kg・℃ )
1.295kg/m3
3.5W/(m2・℃ )
2.18W/(m2・℃ )
23.3W/(m2・℃ )
9.3W/(m2・℃ )
0.793W/(m・℃ )
0.163W/(m・℃ )
1.63W/(m・℃ )
Vout(1,G)
Qout(1,G)
Vin(1,W)
Qin(1,W)
Tm(1,W)
Vin(1,G)
Qin(1,G)
Tm(1,G)
ブロック1 T(1)
Tw(1)
Vout(1,W)
Qout(1,W)
Vin(2,W)
Qin(2,W)
Tm(2,W)
Vc(1)
Qc(1)
Qb(1)
Vin(2,G)
Qin(2,G)
Tm(2,G)
ブロック2 T(2)
Tw(2)
Vout(2,W)
Qout(2,W)
Vin(3,W)
Qin(3,W)
Tm(3,W)
Vc(2)
Qc(2)
Qb(2)
Vout(3,W)
Qout(3,W)
Vin(4,W)
Qin(4,W)
Tm(4,W)
Vc(3)
Qc(3)
Qb(3)
Tg(2)
Vout(3,G)
Qout(3,G)
ブロック3 T(3)
Tw(3)
Tg(1)
Vout(2,G)
Qout(2,G)
Vin(3,G)
Qin(3,G)
Tm(3,G)
Tg(3)
Vout(4,G)
Qout(4,G)
表 2 にモデルサイズと物理パラメータを示す。まず、各
Vin(4,G)
ブロック4 T(4)
Qin(4,G)
Tm(4,G)
ブロックの初期ガラス温度、壁面温度および空気温度を
Tw(4)
Tg(4)
Vc(4)
Qb(4)
Vout(4,W)
Vout(5,G)
入力し、0.05 秒間隔のブロック間の壁面流風量を計算し、
Qc(4)
Qout(4,W)
Qout(5,G)
Vin(5,W)
Qin(5,W)
Vin(5,G)
またブロックの風量平衡からブロック間を移動した風量
Tm(5,W)
Qin(5,G)
ブロック5 T(5)
Tm(5,G)
を求める。さらに、ブロックの風量平衡と熱収支平衡から、 Tw(5)
Tg(5)
Vout(5,W)
時系列前進差分によって、96,000 回計算することにより、
Qout(5,W) 図 6 ブロックモデルスキーム
記号表
80 分間の各ブロック温度経時変化を計算した。
T(I): ブロック温度 Tw(I): W 面の壁面温度
Vin(I,W): W 面での混合流からブロックⅠに入る風量
4.ブロックモデル計算値と実測値の比較考察
Qin(I,W): W 面での混合流からブロックⅠに入る熱量
Tm(I,W): W 面での混合流温度
図 7 に、2 月 3 日、9 日の研究室 B(測定点が教員室 A
Vout(I,G): ブロックⅠから G 面の混合流に入る風量
と同じ)における暖房停止後の室内上下温度分布の経時変
Vc(I): ブロックⅠとブロックⅠ+1の間に移動した風量
化を示す。また、図 8 に、ブロックモデルを用いた 2 月 3 日、 Qb(I): ブロックⅠとブロックⅠ+1の間に熱伝導による熱移動
[℃ ]
ブロック 1(FL2200) Case 2
9 日の境界条件での室内上下温度分布 80 分間経時変化の
Case 1 25
ブロック 2(FL1700)
25
ブロック 2(FL1700)
ブロック 1(FL2200)
2
月
3
日
ブロック
3(FL1100) 2 月 9 日
計算結果を示す。
ブロック 3(FL1100)
ブロック 4(FL600)
21
ブロック 4(FL600)
21
ブロック 5(FL100)
ブロック
5(FL100)
ブロックモデルの計算結果を実測結果と比較すると、計
17
17
算値ではどのブロックの温度も 10 分以降はほぼ指数的に
低下しているのに対し、実測値では、10 分まで直線的に
13
13
温度低下しその後緩やかに低下する傾向があることがわ
9
9
4800
1200
2400
3600
0
1200
2400
3600
4800 0
かる。これは、計算では、床・天井、間仕切り壁との熱伝
[s]
図
7
室内ブロック温度変化の実測値
達を考えていないために、ガラス窓の温度低下に伴って、
[℃ ]
ブロック 1
ブロック 1
Case 2
Case 1 25
ブロック 2
ブロック 2
25
熱が室内から貫流で失われるのに対し、実測では熱容量の
ブロック 3
ブロック 3
2
月9日
2
月
3
日
ブロック 4
ブロック 4
大きなコンクリート躯体からの熱伝達によって温度低下
21
21
ブロック 5
ブロック 5
が緩和されていることによると考えられる。 17
17
また、ブロックモデルの計算においても、室内空間に上
13
13
下温度分布が生じることが確認できる。自然冷却の場合
に、室内上下温度差が徐々に小さくなるというモデル計算
9
9
1200
2400
3600
4800
0
1200
2400
3600
4800 0
で得られた傾向は実測結果と一致する。
[s]
図 8 室内ブロック温度変化の計算値
計算値の各ブロックの温度変化曲線が似ていることに
分布の時間変化を予測し、その結果と実測値を比較した。
対して、実測値におけるブロック 1 から 3 とブロック 4 か
それにより、室内上下温度分布の形成要因には、窓面付近
ら 5 の温度変化は明らかに異なっている。これは、ブロッ
のコールドドラフト、24 時間換気口からの隙間風などを
ク 3 下部に常に開いている 24 時間換気口を設けていると
挙げられることを確認した。
ブロック 3 に大机があり、ブロック間熱移動を妨害したた
今後は、躯体との熱伝達、エアコン発熱、24 時間換気
めであると考えられる。既報 1) で述べたように、24 時間
の影響を含めて、定量的に室内上下温度分布を計算に考慮
換気口を介して空気の流入・流出があり、冷気が密度差で
する予定である。
ブロック 4 に流入している可能性があると考えられる。
【参考文献】
さらに、実測値では、ケース 1 において、ブロック 1 の
1)張成、坂口武司、山中俊夫、甲谷寿史、桃井良尚、相良和伸:階
段室型チムニーを有する学校建築の自然換気に関する研究 その 8、空
温度がブロック 2 よりわずかに低く、天井面の冷却による
気調和・衛生工学会近畿支部学術講演会講演論文集(第 43 回)
,pp289292,2014 年 3 月
可能性はあるものの、その差は僅かであり、原因の特定は
2)若松夏加、甲谷寿史、相良和伸、山中俊夫、桃井良尚、藤本徹、
できていない。
坂口武司、田中規敏:階段室型チムニーを有する学校建築の自然換気
に関する研究 ( その 5) 冬期における温熱環境および居住者評価 , 空気
5.まとめ
調和・衛生工学会学術講演会講演論文集 , pp.285-288, 2009 年 9 月
自然換気用チムニーの影響を排除した上で、本報では、 3)戸河里敏、荒井良延、三浦克弘:大空間における上下温度分布の
予測モデル : 大空間の空調・熱環境計画手法の研究 その 1、日本建築
ブロックモデルを通じて、暖房を停止した場合の上下温度
学会計画系論文報告集 (427), pp9-19, 1991 年 09 月
27
25
23
21
19
17
15
13
11
9
0
*1大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 博士前期課程
*2株式会社竹中工務店設計部&大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 博士後期課程
*3大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 教授・博士(工学)
*4大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 准教授・博士(工学)
*5大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 助教・博士(工学)
*6大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 教授・工学博士
600
1200
1800
2400
3000
3600
4200
4800
Graduate Student, Division of Global Architecture, School of Engineering, Osaka University
Takenaka Corporation , Design Department&Doc., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University
Prof., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng.
Associate Prof., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng.
Assistant Prof., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng
Prof., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng.