ダイジェスト - 日経サイエンス

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2015
Vol.45 No.2
Digest
ダイジェスト
特集
後天的な天才
ある日目覚めた天才 後天性サヴァン症候群……32 ページ
D. A. トレッファート(精神科医) 電気刺激で脳を改造……38 ページ
M. ビクソン(米ニューヨーク市立大学)/ P. トシェフ(コンサルタント) ミチオ・カクが語る心の未来 ……44 ページ
語り:M. カク(米ニューヨーク市立大学) ある日目覚めたら天才になっていた――。そんなことが実
際にある。後天性サヴァン症候群と呼ばれる症状で,事故や
病気で脳の一部を損傷した後まれに起きる。見たものを写真
のように記憶できたり,複雑な計算ができたり,芸術的な才
能が現れたりする。その詳しい仕組みはわかっていないが,
人間の脳には通常見られない能力が隠れており,何かのはず
AXS Biomedical Animation Studio
みでそれにスイッチが入るようだ。後天的な脳の変化を人為
的に起こす試みも注目されている。頭皮から弱い電流を流す
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)という方法によって頭痛や精
神疾患を治療する技術が登場。これを使って頭の働きを良く
する実験も行われている。
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日経サイエンス 2015 年 2 月号
天文学
ガンマ線で輝く謎の泡
天の川銀河の巨大バブル……48 ページ
D. フィンクバイナー(米ハーバード大学)
M. スー(米マサチューセッツ工科大学)
D. マリシェフ(米スタンフォード大学)
宇宙には短波長の電磁波,ガンマ線で輝く天体があり,そ
れを探る超高性能の人工の眼がフェルミ・ガンマ線宇宙望遠
鏡だ。広い視野を持ち 3 時間で全天を観測できる。その観測
データを解析していた著者らは天の川銀河の中心から銀河円
盤に垂直な上下方向にそれぞれ数万光年にわたって広がる巨
大な泡状の構造を発見,
「フェルミバブル」と名付けた。そ
の形成過程は不明だが,天の川銀河で比較的最近に激しい活
動があった証拠だとみられている。2 つの仮説がある。天の
川銀河中心の巨大ブラックホールから噴出したジェットによ
Ron Miller
ってバブルが膨らんだという説と,多数の超新星爆発からの
高エネルギー粒子の風によってバブルが膨らんだという説だ。
航空工学
為せば成る!
人力ヘリを飛ばした 現代のライト兄弟……54 ページ
D. ヌーナン(サイエンスライター)
人力で駆動するヘリコプターを 1 分間浮揚させた人に贈る
「シコルスキー賞」を米国ヘリコプター協会が創設したのは
1980 年。以来,数々の航空機設計の専門家たちがこの目標
COURTESY OF MARTIN TURNER Visiblize.com
に挑んでは失敗し,「そんな人力ヘリは現実的に不可能であ
る」とする論文まで発表された。それでも挑戦者が現れた。
2 人の若きカナダ人技術者,トッド・ライヘルトとキャメロ
ン・ロバートソンは限られた駆動力を補うためにあらゆる常
識を見直して,ついに 2013 年に同賞を獲得した。成功の原
動力となったのは,ライト兄弟に通じる情熱と,科学に裏づ
けられた試行錯誤だ。成らぬは人の為さぬなりけり──と悲
壮に構えなくても,挑戦できることはまだ多く残っている。
日経サイエンス 2015 年 2 月号
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Digest
ダイジェスト
健康
北極にパンドラの箱
温暖化で北極に広がる病気……60 ページ
C. ソロモン(ジャーナリスト)
地球温暖化によって北極の気温が上がり,以前にはいなか
NORBERT ROSING National Geographic (musk oxen);
COURTESY OF PRATAP KAFLE University of Calgary (lungworm)
った病原体が繁殖して広がるようになった。寄生性の線虫が
ジャコウウシを冒し,マダニが北極圏の人々にウイルスをう
つし,蚊が媒介する野兎病菌がスウェーデンなどで広がって
いる。海氷が消えて往来が可能になったため,大西洋にいた
アザラシが太平洋のアザラシに接触して致死的なウイルスを
うつしたとみられる例もある。観察されている病気の増加は
単に科学調査拡大の結果である可能性も捨てきれないが,
「北
極は感染症と気候変動のパンドラの箱となっている」と専門
家は指摘する。基本となる情報の収集と国際協力による対策
が必要だ。
特集
世界の科学力 多様性を求めて
包摂の方程式……86 ページ
F. グタール(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
多様性の効用……90 ページ
K. W. フィリップス(米コロンビア大学)
本誌は過去 2 回の特集「世界の科学力」で共同研究の現状
を見てきた。前回は技術革新,初回は基礎研究に焦点を当て
たが,今回は個人の視点からこの問題を考える。キーワード
となるのは「多様性」
。科学分野では明らかに,メンバーの
多様性がチームの質と効率に直結している。フィリップスは
「多様性の効用」のなかで,人は自分と似ていない人たちと
共同作業する場合には議論を整理するために徹底的に準備し
EDEL RODRIGUEZ
て懸命に努力する傾向があり,その結果として,よりよい成
果を上げると分析する。多様性が有益なのは,私たちが自分
と異なる人に対して異なった反応をするからにほかならない。
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日経サイエンス 2015 年 2 月号
疫学
感染症もテロもわかる
病原体なんでも検出システム……72 ページ
D. J. エカー(アイビス・バイオサイエンシズ)
患者から血液などを採取してから数時間で,病気の原因ウ
イルスや細菌の正体を突き止められる新しい検出装置の開発
が進んでいる。遺伝子解析技術と質量分析器を組み合わせた
もので,一度に 1000 種類以上の病原体の有無を調べられる。
全米の約 200 の病院がこの装置を備えてネットワーク化すれ
I Love Dust
ば,新型インフルエンザなど感染症のアウトブレイクやバイ
オテロの兆候をいち早くつかむことが可能になるだろう。
サイバーセキュリティー
一極集中がはらむ怖さ
NSA を監視せよ ビッグデータを守るには……68 ページ
A. ペントランド(米マサチューセッツ工科大学)
今どきの情報当局は,盗聴や隠しマイクはもう使わない。
米国家安全保障局(NSA)は,目をつけた人物だけを調べ
る旧来の手法に代え,世界中の人間の通信記録を蓄積・監視
している。その結果,日々蓄積されている膨大な個人情報の
山をどう管理すべきかという新たな問題が浮上した。NSA
Bill Mayer
が一元的にすべての情報を管理する現在の仕組みは,外から
の攻撃にも中からの漏洩にも弱い。適切な処方箋を考える。
食品技術
加速する品種改良
組み換えなしで高速育種……80 ページ
F. ジャブル(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
米国のスーパーに並ぶ野菜や果物は,見かけはよいが味の
方は今ひとつということが多い。消費者の舌を喜ばせるより,
輸送しやすさや収量など生産者に嬉しい形質を優先して,長
年品種改良されてきただめだ。だが遺伝子解析技術の高速化
Dan Saelinger
で様々な形質の遺伝子の有無を迅速に調べられるようになり,
品種改良の効率は桁違いに向上した。消費者が望む味と生産
者に重要な効率を兼ね備えた,極上の作物が登場しつつある。
日経サイエンス 2015 年 2 月号
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