集合と論理・構造 レジュメ 加藤敦士 1 本発表の目的と流れ 『証明できることは、科学において証明なしに信頼すべきでない』[1] 切断で有名なデデキントの言葉です。彼は集合についても” 証明” しようとしました。この試みはある程度 成功し、ある程度失敗しました。デデキントは、19 世紀後半から 20 世紀前半の人ですので、21 世紀になった 今現在の数学では、集合論は” 証明” しきれているのだろうと期待される方もいるかと思われます。 しかし、幸運にも(不幸にも)未だにそはなされていないのです。そのおかげで、集合論に対する立場とい うのは様々あります。後で(もしくは発表で)話すと思いますが、この立場とは論理学における立場と言って も良く、論理と集合は現代数学においてほぼ同じものです。 ならば、本発表ではどの立場を扱うのかと聞かれるでしょう。現代的な集合論を扱わないので、どの立場で もない、というのが半分正解です。素朴集合論というものを扱います。(図 1) 図1 現代数学の概観 この集合論を皆さんは気が付かないうちに使っています。ただ、無意識に使うのは怖いのでしっかり定式化し よう!というのが今回の目的の 1/10 であり、残りの 9/10 は定式化したおかげでいかに数学が見易くなるかを 伝える事にあります。 長くなってしまったので、ここら辺で流れを説明します。以下の順で話す予定です。 § 0:導入・論理貴学の説明 § 1:集合と写像・順序組(選択公理) § 2:一階述語論理(意味) § 3:構造 1 § 4:濃度・選択公理 (§ 5:フリートーク) もしかすると順序が変わったり、話さないものがあったりするかもしれません。各セクションを 10∼15 分で 話します。 2 予備知識 発表を聞く上で、知っておいた方がいいことを簡潔に紹介・説明しておきます。所々、論理記号のみで書く のでわかりづらいかもしれまんせが、慣れるための練習だと思ってください。(帰ってから、もしくは発表の 途中で見るように作っています。) 定義には d、定理・命題には S を頭につけて、番号を振っておきました。 あと余計なコメントやら問題がありますが、気にしなくていいです。 A. 集合の記法 (ここで述べるのは記法であり、” 定義” ではない。このことが何を意味するのかは各人に答えを考えても らいたい。) 集合 A において、a が A の要素(元)である時、 a∈A (式 A-1) と表す。 (d.A-1) 「集合 A と B が等しい」とは、集合の要素が一致することである。これを (式 A-2) A=B と書く。 (式 A-1) から (式 A-3) A = B ⇔ ∀x(x ∈ A ↔ x ∈ B) (ここで x は何の要素であるのかが書かれていないことに注意せよ。) (では、要素同士が等しいとはどういうことになるだろうか) (d.A-2) 集合 A、B において、「A が B の部分集合である」とは、A の要素を B が必ず要素として持つこ とを言う。 A⊆B (式 A-4) と表す。これは (式 A-5) A ⊆ B ⇔ ∀x(x ∈ A → x ∈ B) である。 (d.A-3) 集合を表す際に {,} を用いる。 i) {a} は集合である。 ii) {a} ∋ a である。 iii) {a1 , · · · , an } も集合で、{a1 , · · · , an } ∋ ai (1 ≤ i ≤ n) である。 2 iv) { x | P (x) }(P (x) は命題)も集合である。 P (x0 ) が真 ⇔ x0 ∈ { x | P (x) } であ る。 a ∈ {{a}, b} は正しいか? 問1 (d.A-3-1) ∀x(x ∈ / {, }) である。(ただし、a ∈ / A ⇔ ¬(a ∈ A) である。) つまり、要素を持たない集合 {, } というものを考えることができる。この集合を Ø と書く。 (d.A-4) 集合 A の部分集合のみを要素とする集合を A のべき集合と呼び P(A) と表す。P(A) ∋ {, } であ る。 ∀X ∈ P(A) (X ⊂ A) (式 A-6) 問2 (式 A-6) は不完全である。それはなぜか。 (d.A-5) ある集合 X において、その部分集合 A、B を考える。 i) B が A の補集合とは ∀x ∈ X(¬(x ∈ A ∧ x ∈ B) ∧ (x ∈ A ∨ x ∈ B)) (式 A-7) である。このとき B を Ac と表す。 ii) ある集合 C(⊆ X) が存在して (式 A-8) ∀x ∈ C(x ∈ A ∨ x ∈ B) ∧ ∀x ∈ A(x ∈ C) ∧ ∀x ∈ B(x ∈ C) となる時、C を A ∪ B と表し A と B の和集合と言う。 iii) ある集合 D(⊆ X) が存在して ∀x ∈ D(x ∈ A ∧ x ∈ B) ∧ ∀x ∈ A(x ∈ D ↔ x ∈ B) (式 A-9) となるとき、D を A ∩ B と表し、A と B の共通部分と呼ぶ。 (添字集合族 (Aλ )λ∈Λ についての ∪ λ∈Λ ∩ Aλ 、 λ∈Λ Aλ も同様に定義底奥が、実際は少しめんどうだったりす る。 ) 問 3 X ⊃ A, B とした時、 P(A) ∋ {, }、P(B) ∋ {, } である。 前者と後者は P(A)、P(B) の要素として等しいか?また P(X) の要素としてはど うか? 以上が集合の記法である。既に習ったことがあるものばかりかもしれないが、基本なのであらためて述べた。 B. 写像・順序組・直積 ここからは新しい知識が出てくると思われる。先に要点を述べるなら、写像と順序組は互いに定義しあえる ということに注目してもらいたい。(公理論的集合論に片足をつっこんだ形になっている。) 3 (d.B-1) 順序対 ⟨,⟩ を定義する。(順序 2 組とも呼ぶ。) ∀x, y, z, w(⟨x, y⟩ = ⟨z, w⟩ ⇔ x = z ∧ y = w) (式 B-1) を満たす(部分)集合を順序対と呼ぶ。 i) 順序 3 組 ⟨x, y, z⟩ = ⟨x, ⟨y, z⟩⟩ として定義される。 ii) 順序 n − 1 組が定義さえれ、⟨a1 , · · · , an−1 ⟩ と表されるとき、順序 n 組は ⟨a1 , · · · , an ⟩ = ⟨a1 , ⟨a2 , · · · , an ⟩⟩ (式 B-2) で定義される。 (S.B-1-1) X ∋ x, y とするとき、 (式 B-3) ⟨x, y⟩ = {{x}, {x, y}} は (式 B-1) を満たす。({x}, {x, y} ∈ P(X)) P roof. (⇐) は明らかである。 (⇒) {{x}, {x, y}} = {z, {z, w}} から {x}, {x, y} ∈ {{z}, {z, w}}. x について、{x} = {z} または {x} = {z.w}. ・前者では {x, y} = {z, w} ⇒ {x, y} = {x, w} ⇒ y = w (x = y でも x ̸= y でも y = w である) ・後者では、{x} = {z, w} のとき x = z = w であるので {{x}, {z, w}} = {{x}, {x, x}} = {{x} (※ B − 1) ⇒ {x, y} = {x} ⇒x=y 上と合わせて、x = y = z = w □ (※ B-1) {a, a} = {a} ∵ {a, a} ⊇ {a}∼{a, a} ⊆ {a} (S.B-1-2) X = A ∪ B とし、a ∈ A、b ∈ B として ⟨a, b⟩ = {{a}, {a, b}} を順序対として定義できる。 P roof. (SB-1-1) から明らか。 □ (S.B-1-3) {{a}, {a, }} (a ∈ A, b ∈ B) は P(P(A ∪ B)) の要素であり、⟨a, b⟩ の集合は P(P(A ∪ B)) の部 分集合となる。 P roof. {a} ∈ P(A), {a, b} ∈ P(A ∪ B) である。よって、P(P(A ∪ B)) の要素。 (d.A-3) の (iv) から φ(x) = ∃a ∈ A, ∃b ∈ B(x = {{a}, {a, b}} ∧ x ∈ P(P(A ∪ B))) 4 として、{ x | φ(x) } を考えればよい。 □ (本来の公理論的集合論では (iv) に制限が加えられる。しかし、実用上、素朴集合論の緩い定義で問題はない。 ) この順序対を用いて写像を定義する。対応も同様に定義できる。また、⟨a, b⟩ において、a = ⟨a1 , · · · , an ⟩ と すれば、n 変数の写像、対応も定義できる。 (S.B-1-2) の手法をよく覚えておいてほしい。これは、写像から直積(順序対)を定義するのに用いられる 手法と同じである。 (d.B-1-4) A × B := { ⟨a, b⟩ | a ∈ A, b ∈ B } とし、A と B の直積と呼ぶ。 (d.B-1-5) f が写像であるとは f ⊂ A × B ∧ ∀a ∈ A ∃!b ∈ B(⟨a, b⟩ ∈ f ) となることを言う。(対応ならば唯一存在ではなく存在) このとき、a に対して ⟨a, b⟩ ∈ f となる b を f (a) と表す。 この定義から通常の写像と同じものが作られている。私たちのイメージでは f : A → B だが、集合論とし ては f ⊂ P(P(A ∪ B)) なのだ。(図 2) 図2 写像のイメージ 問 4 A から B への写像全体はどのように表されるだろうか?厳密でなくてよいのでイメージしてほしい。 素朴集合論的に写像から直積を定義してみよう。 (d.B-2) 写像 f : {1, 2} 7→ A1 ∪ A2 を考える。 (式 B-4) F := {f ∈ F |f (1) ∈ A1 ∧ f (2) ∈ A2 }・・・(※ B-2) は集合であり、⟨a1 , a2 ⟩ ∈ F として、f ∈ F (f (1) = a1 , f (2) = a2 ) を満たすものとして定義すると、これ は順序対となる。・・・(※ B-3) この ⟨a1 , a2 ⟩ の集合を A1 と A2 の直積と定義する。 (※ B-2) F は {1, } から A1 ∪ A2 への写像の集合 (※ B-3) ⟨a1 , a2 ⟩ = ⟨x, y⟩ ⇔ a1 = 1, a2 = y P roof. (⇒) 自明。 5 (⇐) 2 つの写像 f 、g を考えると f (1) = a1 = x = g(1) ∧ f (2) = a2 = y = g(2) より f = g である。(写像 として) □ この定義の方法だと写像とは何か?という疑問が出てくる。集合から定義していったほうが見通しがだいぶ よい。 図3 写像による直積の定義 (この定義法は高校までの数学で案に用いられている) ※先の順序対との違いは、 (元があった)集合では表現できず、集合とは別の次元として(たとえば、集合を モノとするなら写像は機能)写像を作り出さないといけない。これは面倒な話である。なので定義をきちんと 書くのが難しかった。 以上で集合についての予備知識の説明を終える。その他の分野に関しての話は発表中に適宜補う。 参考文献 [1] デデーキント:数について(岩波書店, 1997:第 30 刷) 引用のためだけに開いた。歴史的な価値はある。 [2] 河田敬義:自然数論:(森北出版, 1968:第 1 刷) まだ読み終わっていないが、デデキントの引用はこの本で見つけて、[1] から引用した。 [3] 本橋信義:集合序説(培風館, 2005:初版) 論理学者の書いた素朴集合論の本。最初に読んだときは泣きそうだったが、今はいい友達。200p 弱なので 飽き性の人におすすめ。 [4] 鈴木聡:記号論理入門講義(DTP 出版, 2013:第 4 刷) 120p ほどの薄さで記号論理の使い方を教えてくれる良書。完全性・健全性は面倒なので扱わないというい さぎよさも好感がもてる。 他にも有名どころは少し見直した。 [3]、[4] をセットで読めば基礎はだいたいわかる(と思う)。 6 補足 ・論理記号について ∀:全ての∼, ∃:ある∼ ) 要素に対して用いる。 ) ¬:∼でない, ∧:かつ, ∨:又は 命題に対して用いる。 → ならば ↔ は命題に対して用いる。P, Q を命題として P ↔ Q は (P → Q) ∧ (Q → P ) のこと。 命題とは真か偽であることが一意に定まるもの。ただし、P (x) は命題だが、x のとる値に応じて真・偽が 変わる。 例 P (x) を x = 1 とする。 Q(x) を x2 = 1 とする。 ∀x ∈ R(P (x) → Q(x)) は真。 ∀x ∈ R(Q(x) → P (x)) は偽。 P → Q は¬P ∧ Q と同値。(背理法ではこれを用いることもある。) ・立場について ¬(¬P ) = P 二重否定 認める。(というか認めないとヤバイ) ¬A ∨ A 排中律 (¬B → ¬A ∧ A) → B 背理法 ・数学的な証明について ⇒ :ならば, ⇔ :同値) 推論について用いる記号。 推論の規則については特に考慮せず普通にやりました。 ・論理記号の使用法について (第一階)述語論理の言語 L† は次のものからなる。(言語は記号列のことだと思ってください。) ・文結合記号:¬, ∨, ∧, →, ↔ ・量子化:∀, {∃ ・個体記号 変数:a, b, c, · · · 定数:α, β, γ, · · · ) ← 合わせて対象式と呼ぶ。 ・述語記号:P, Q, R, · · · ・関数記号:A, B, C, · · · ) ← 対象式と関数を合わせて項と呼ぶ。 7 ・等号:= ・補助記号:(, ) 集合論を記述する場合、述語を作成する際に ∈, ⊆, ⊊, ∪, ∩ を使用します。(これは定義していけばいい。) L† の原子論理式 ( t, s を項とするとき、 1 ⃝ t = s は原子論理式 t1 , · · · tn を項とするとき P が n 変数の述語なら 2 P (t1 , · · · tn ) ⃝ は原子論理式 L の論理式 ・原子論理式は論理式。 ・論理式 ψ, φ を用いて作られる。 ・ψ ∧ φ, ψ ∨ φ, ¬(ψ), ψ ↔ φ, ψ → φ は論理式。 ・∀x(ψ), ∃x(ψ) は論理式。 論理式の中は自由変数がない時、それを閉論理式と呼び、真・偽はすでに決まっている。(構造が決まると 同時に真・偽が定まる。説明は発表で行います。) 8
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