C-1

EV モータ構造を模擬した回転二重円筒の内面形状による流動構造への影響
Influence of inner surface on flow structure in rotating coaxial cylinders simulating EV motor geometry
湯浅 朋久* (筑波大)
平野 覚
(明電舎)
阿部 豊
(筑波大)
駒ヶ嶺 将孝
金子 暁子
(筑波大院)
(筑波大)
Tomohisa YUASA, Masataka KOMAGAMINE, Satoru HIRANO, Akiko KANEKO, Yutaka ABE
University of Tsukuba, 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki, 305-8573, Japan
Meidensha Corporation, 825, Nakadate, Chuo-shi, Yamanashi, 409-3894, Japan
Key Words: EV motor, Taylor vortex, Flow structure in a narrow gap
1. 緒言
近年,CO2 排出による地球温暖化や化石燃料などエネルギ
ー資源の枯渇といった地球環境問題から電気自動車(以下
EV)の普及および向上が期待されている.EV の普及におけ
る問題の一つに,EV モータの駆動および回転中における熱
の発生がある.EV モータは回転耐久性と力率向上のため,
コイルが巻かれているステータと永久磁石が埋め込まれて
いるロータで成り立っており,外円筒は固定され,内円筒が
回転する回転二重円筒管構造となっている.ステータとロー
タの隙間は 1 mm 程度である.駆動中の損失熱による EV モ
ータの温度上昇より,永久磁石の減磁が懸念されるため,EV
モータには除熱を促進させるような機構が求められる.しか
し,EV モータのような狭隘流路における熱流動特性の知見
は少なく,除熱に最適な設計は難しい.
外円筒面における軸方向溝の模式図を Fig. 1 に示す.既存
の回転二重円筒の研究(1)では,Fig. 1(a)のような平滑な外円筒
面が対象であるのに対し,EV モータでは Fig. 1(b)のような軸
方向の溝が存在し,流動は溝無のものと比べてより複雑とな
ることが予想される.本研究では,EV モータ構造を模擬し
た内円筒回転時における二重円筒狭隘流路内の流動特性に
及ぼす溝の影響を明らかにすることを目的とする.EV モー
タ構造を模擬した実験装置において扁平粒子を用いた溝無
円筒面の流動の可視化と,数値流動解析によって溝の有無の
模擬を行い流動に及ぼす溝の有無の影響について述べる.
2. 溝無円筒面の可視化
2.1 実験装置および可視化方法
実験装置の概略図および可視化における光源およびカメ
ラの配置図を Fig. 2 に示す.実験装置は EV モータの二重円
筒管を模擬しており,内側にロータ,外側にステータで構成
され,外円筒壁面における軸方向の溝無条件で実験を行った.
実験装置のロータ直径 2ri は 218 mm,ステータ内径 2ro は 220
mm,隙間 d は 1 mm,ロータ長さ Li は 40 mm とした.半径
比(ri / ro =) は 0.99,アスペクト比(Li / d =) は 40 となり実
機の半径比とアスペクト比を同程度として形状の模擬を行
っている.ステータはウォータージャケットで覆い,ロータ
は軸によってモータと連結して回転する.例として,EV が
時速 60 km 程度で運転するとき,EV モータは 3000 min-1 と
高速で回転するため流動の模擬は容易ではない.これに加え,
EV モータ内の流体は空気であり流動の可視化は困難である.
そこで,本実験では作動流体を空気ではなく可視化が容易で
動粘度が空気に比べて小さい水を使用し,Re 数の相似則を適
用することで 200 min-1 程度の低回転数で EV モータ内の流動
を模擬する.Re 数の定義式は以下の式(1)で定義する.
Re 
ri  d

(1)
ここで ri はロータ半径,d はロータとステータの隙間,
はロータの角速度,は動粘度を示す.実験時にはステー
タ内部は体積分率 0.8 %となるよう扁平粒子を混入した水で
満たす.水を満たした後,モータに連結したロータを回転さ
せ,メタルハライドランプを光源に用いて,ハイスピードビ
デオカメラによって流動を可視化した.
Stator
Slits
Stator
Rotor
Rotor
(b) With slits
(a) Without slit
Fig. 1 Geometries of models
Fig. 2 Exprimental apparatus for observation of the flow
Rotor
Rotating
direction
40 mm
Rotor
end
part
Axial
direction
(a) Re = 236 [-]
(b) Re = 503 [-]
(d) Re = 1544 [-]
(c) Re = 898 [-]
Fig. 3 Flow structure at the stator cylinder face and the end part
Gap
O
4 mm
Periodic boundary
condition
4 mm
22.5 °
Sidewall surface:
In out boundary condition
Outer cylinder surface:
Wall boundary condition
Rotating direciton
40 mm
Periodic boundary
condition
1 mm
2.2 可視化結果および考察
溝無円筒面の可視化画像を Fig. 3 に示す.Fig. 3(a)に示す
Re = 236 のとき,流動の変化は見られないが,Fig. 3(b)に示す
Re = 503 ではステータ円筒面に縞模様の流動が発生した.こ
の縞模様は,既存のテイラー渦(1)と同様であった.また,軸
方向の隙間内(長さ 40 mm)に発生した縞模様の数は 20 対(40
個)であり,ロータ円筒とステータ円筒間の隙間 d と同程度
の大きさの渦(幅 1 mm)の存在が示された.Fig. 3(c)に示す
Re = 898 では,発生した縞模様の流動が軸方向に局所的に揺
動し,Fig. 3(d)に示す Re = 1544 まで増加させると,明瞭な縞
模様が確認できないほど複雑な流動場が見られた.このよう
に,EV モータの二重円筒管の隙間内ではテイラー渦が発生
していると考えられる.
3. 溝無および溝有円筒面の流動解析
3.1 流動解析条件
溝有円筒面の流動解析で用いた解析領域を Fig. 4 に示す.
溝は幅 4 mm,深さ 4 mm とし,ステータ円筒面の円周上に等
間隔に 16 個の溝を配置した構造を模擬した.溝無円筒面の
解析領域は,Fig. 4 に示す溝部がない構造とした.流動解析
は OpenFOAM で行い,解析領域が軸対称形状であるため計
算負荷を考慮してステータとロータの隙間を 16 分割した形
状とし,非圧縮性,直接数値計算の解析ソルバーである
icoFoam で解析を行った.icoFoam の基礎式は,連続の式と
Navier-Stokes 方程式である. 離散化スキームは対流項を
limitedLinearV 1.0 とした.メッシュ分割数は溝無円筒面では
30(r)×50()×200(z),溝有円筒面では隙間内は 30(r)×80()
×200(z),溝部では 30(r)×8()×200(z)とした.ロータ円筒面
の回転開始を 0 s として解析時間は流動が定常に至った 10 s
までとし,水の動粘度として 1 mm2/s を与えた.ステータ円
筒面は,壁面条件で速度 0 m/s,圧力勾配 0 とし,ロータ円
筒面は,Re = 545 となるように速度 5 rad/s,圧力勾配 0 とし
た.回転方向に垂直な面は周期境界条件を与え,残る 2 つの
回転面と平行な側面には流出入条件として速度勾配 0,圧力
0 Pa とした.
3.2 溝無円筒面の流動場
回転開始から 10 s 後の溝無のステータ円筒面の瞬時圧力
分布と,規格化した半径方向位置( (r-ri) / d = )R*を縦軸,規格
化した軸方向位置( (z-Li) / Li = )Z*を横軸にとった瞬時断面速
度ベクトルを Fig. 5 に示す.Fig. 5 のステータ円筒面の圧力
分布を見ると,Fig. 3 における流動の可視化と同様に縞状と
なり,縞の本数は 16 対であった.断面速度ベクトルを見る
と,渦が発生している区間があり,テイラー渦が発生してい
ると考えられる.また,ロータ端部と隙間の境界である Z* =
0 で流動が速くなっており,ロータ端部と隙間での流体の出
入が示唆された.
3.3 溝有円筒面の流動場
3.2 と同様に,回転開始から 10 s 後の溝有のステータ円筒
面の瞬時圧力分布と,R*を縦軸,Z*を横軸にとった溝部での
瞬時断面速度ベクトルを Fig. 6 に示す.Fig. 6 のステータ円
筒面の圧力分布を見ると,溝部で圧力が高いことが分かった.
これは,ロータの回転により加速された流体が溝部に侵入し,
溝の壁面条件により速度 0 となるため,流体が減速して圧力
が上がったためと考えられる.隙間の圧力分布では溝無円筒
面の流動解析と同様に縞状となった.また縞の本数は 14 対
になり,溝無と比較して溝有では縞の本数が少ない結果とな
った.溝の存在によって渦が z 軸方向に引き伸ばされること
が示唆された.断面速度ベクトルを見ると,1≦R*≦5 の溝部
でロータ内側に向かう流れが生じた.また,Fig. 6 のベクト
ル図の 0≦R*≦1 では,Fig. 5 のベクトル図では存在していた
渦が確認できないことが分かった.
r
θx
z
Inner cylinder surface:
Rotating wall
boudary condition
Fig. 4 Computational mesh with slit and boundary conditions
p/ρ [m2/s2]
0.002
0
-0.002
U [mm/s]
40
32
1
24
*
16 R [-]
0
8
-12.25
θ [deg]
Gap
12.25
0
z [mm]
0.1
Z* [-]
40
0.2
0.3
0
Fig. 5 Numerical analysis result without slit (Re = 545)
p/ρ [m2/s2]
0.002
0
-12.25
Rotating
direction
Gap
θ [deg]
Slit
Gap
-0.002
U [mm/s]
5
40
32
24 R* [-]
16
1
8
0
0
12.25
0
z [mm]
40
0.3
0.2
Z* [-]
Fig. 6 Numerical analysis result with slit (Re = 545)
0.1
4. 結言
EV モータ構造を模擬した実験装置で流動の可視化を行い,
OpenFOAM による流動解析を行って溝の有無による影響を
調査した結果,以下の知見を得た.
・溝無実験装置の隙間部で,テイラー渦の存在を確認した.
・溝無ステータを模擬した境界条件において流動解析を実施
したところ,流動の可視化と同様の縞模様が流動解析におい
ても生じ,それがベクトル図によってテイラー渦であること
が分かった.
・流動解析により,溝の有無に関わらず隙間ではテイラー渦
が発生することを確認した.また,溝無と比べ溝有の方が縞
の本数が少なくなり,渦構造が変化することが分かった.
参考文献
(1) N. Abcha, et al., “Qualitative relation between reflected
light intensity by Kalliroscope flakes and velocity field in the
Couette-Taylor flow system”Exp. Fluids 45 (2008) pp.85-94