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東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
ラ トヴィア語の動詞接頭辞の概 略
本章では、ラ トヴイア語の動詞接頭辞 について概略す る。 アスペ ク ト論や語形成論 の立
場か ら分類 され る接頭辞の 3つの意味を概略す るとともに、動詞接頭辞 には どの よ うな研
St
ud
究や記述のアプ ローチがあったのかを整理す る。
ign
1.
1. 接頭辞付加
re
語幹の前 に位置す る接辞、つま り接頭辞 は名詞 、形容詞 、副詞 、動詞 に付加 され る。 こ
のプ ロセスを接頭辞付加 とい う。動詞 に付加 され る接頭辞 は、 「
動詞接頭辞」 として区別 さ
Fo
れ ることがある。
類型論的 には接頭辞 の存在 しない言語 もある。 また接頭辞が存在す る言語で も、接頭辞
of
が果 たす役割 は様 々である。 しか し一般 に接頭辞 は空間的意味を持 ち、付加 され る動詞 が
rs
ity
示す動作の方向づけを行 うほか、様 々な意味 を加 える。言語 によっては、その中にアスペ
L礼
z
a
r
d1
995,23)
0
ク トの意味があることも一般 に知 られ ている (
ロ シ ア 語 の 動 詞 接 頭 辞 を研 究 す る Kr
o
nga
uz は動 詞 接 頭 辞 の研 究 を 「接 頭 辞 学
ive
(
pr
e
f
i
ks
ol
o
gi
j
a)」 と引用符つ きで呼び、アスペ ク ト論 と語形成論 が融合 した記述方法が接
Un
Kr
onga
uz1
998
,5
61
57)
0
頭辞研究の主流であるとしている (
ok
yo
本論文で も、アスペ ク ト論 と語形成論か らのアプ ローチを基本 としている。
1
.
2
. ラ トゲィア語 の動詞接頭辞
(T
i
e
de
kl
i
s「
前に付 くもの」 と呼ばれ、名詞、形容詞、副詞、動
接頭辞はラ トヴィア語で pr
詞 に付加 され る形態素である。一般 に接頭辞は、空間的意味 を示す前置詞起源 とされ る。
is
動詞の接頭辞は 119ぁ り、この うち 7つの接頭辞は前置詞 として も存在す る10。
es
『現代 ラ トヴィア標準語文法 (
MBs
di
e
nul
a
t
vi
e
善
ul
i
t
e
r
豆
r
豆
sva
l
oda
sgr
a
ma
t
i
ka
)』
ll
(
以下 『
標
Th
『
標準語文法』
準語文法』)では、語形成論 における形態素 として接頭辞が記述 されている (
1
95
9,34
4370)
。アスペ ク トカテ ゴ リーの項 目において も、各接頭辞の意味、その意味 とア
al
『
標準語文法』 1
95
9,565575)
a
スペ ク ト対立 との関係 が記述 されている (
or
『標準語文法』の 「
接頭辞 による動詞派生」で記 され ている動詞接頭辞 とその空間的意
(
『
標準語文法』 1
95
9,
367368)
0
Do
ct
味を、表 1
1にま とめて示す
高地方言では接頭辞 da
-「
最後まで-す る」があるが、本論文では考察の対象 としない。
0接頭辞 ・
i
z
一
に対応 し、起点を示す前置詞 i
zは、ここでは前置詞の数に含んでいないOこの前置詞は高地方
言で用い られ、標準語では s
t
豆
s
t
si
Zd
z
T
v
e
s「
本 当にあった話 」 のよ うに特定の表現にのみ用い られ ることが
多い。
ll2巻か らなるアカデ ミー文法で、1
959年 (
音声論 と形態論) と 1
961年 (
統語論)に発刊 された。今 日ま
で改訂 は されていない0201
2年現在、新 しいアカデ ミー文法が編纂 中である。
9
1
21
ie
s)
第 1章
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
a
i
z
be
gt「
逃 げ去 る」
be
gt「
逃 げる」
「
閉」
a
i
z
ba
z
t「栓 をす る」
ba
z
t「
突 っ込む 」
「
後」
左
i
z
s
l
e
p
t
i
e
s「
後 ろ-隠れ る」
s
l
e
p
t
i
e
s「
隠れ る」
前置詞 ai
z a
i
zga
l
da 「
机の後 ろに」
叩i
e
t「
迂回す る」
「
周」
a
p-
ie
「
離」1
2
「
去」
St
ud
a
i
z
-
s)
表1
I:動詞接頭辞 とその空間的意味
i
e
t「
行 く」
前置詞 a
p a
pga
l
du 「
机の周 りに」
a
t
pe
mt「
奪 う」
pe
mt 「
取 る」
「
遠」
a
t
s
t
umt「
押 しや る」
s
t
umt「
押す 」
「
開」
a
t
s
l
e
gt「
鍵 を開ける」
s
l
e
g
t「閉 じる」
「
戻」
a
t
s
ka
仔t
i
e
s「
振 り返 る」
s
ka
mi
e
s「
見 る」
「
来」
a
t
ne
s
t「
持 って くる」
ne
s
t「
運ぶ」
i
e
-
「中」
i
e
i
e
t「
入 る」
i
z
-
「
外」
i
z
s
kr
i
e
t「
走 り出る」
「
通」
i
z
s
k
r
i
e
t「
走 り抜 ける」
s
kr
i
e
t「
走 る」
「
散」
i
z
b豆
r
s
仔t「
撒 き散 らす」
b豆
r
s
仔t「
撒 く」
「
下」
nobraukt「(
乗 り物 で)下 る」 br
a
ukt「(
乗 り物で)行 く」
「
離」
nope
mt「
取 り除 く」
re
i
Fo
of
ive
rs
it
y
i
e
t「
行く」
Un
nO-
gn
「
離」
a
t
-
s
kr
i
e
t「
走 る」
pe
mt「
取 る」
前置詞 no noga
l
da 「
机か ら」
be
g
t「逃げ る」
pa
S
k
r
i
e
t「
走 り過 ぎる」
s
kr
i
e
t「
走 る」
(T
ok
y
「
過」
pa
be
gt「
下-逃 げ込む」
o
「
下」
pa
-
前置詞 pa paga
l
du 「
机 に沿 って」
pi
e
-
「
按」「
付」
pi
e
s
kr
i
e
t「
走 り寄 る」
s
k
ie
r
t「
走 る」
es
is
前置詞 pi
e pi
ega
l
da 「
机 の もとで」
p豆ト
「
超」
pa
r
br
a
ukt「(
乗 り物で)超 える」
「
家」
p豆
r
br
a
ukt「(
乗 り物で)帰宅す る」 b
r
a
uk
t「(
乗 り物で)行 く」
br
a
uk
t「(
乗 り物で)行 く」
Th
前置詞 p豆
r p豆
rga
l
d
u「
机 を超 えて」
Do
ct
or
al
S
a
-
uZ
-
「
集」
s
a
n証t 「
集 まって来 る」
n豆
kt「
来 る」
「
共」
s
a
l
T
me
t「
貼 り合わせ る」
l
T
me
t「
貼 る」
「
上」
u
z
i
e
t「
上 る」
i
e
t「
行 く」
前置詞 uz uzga
l
da「机 の上に」 (属格支配) uzga
l
du 「机-
(
方 向)」 (
対格支配)
1
2 『
標準語文法』 を始め とす るラ トヴィア語の動詞接頭辞の空間的意味の記述では、空間的意味を副詞で
表すのが一般的である。 しか し本論文では便宜上、漢字によ り空間的意味を示 している。
2
2
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
接頭辞 は名詞 、形容詞、副詞 に も付加 され る。例 えば接頭辞 pa
は名詞 に付加 され 、 「
下
St
ud
ie
「
窓台 (
-窓の下にあるもの)」)や、類似 した もの (
m融e 「
母 」:pa
m融e 「
継 母」、mi
e
r
s「
平
和 」:pa
mi
e
r
s「
休 戦」
) を示す。
形容詞 と副 詞 に付加 され る と、特性 を強調す る (
d豆
r
gs 「(
値 段 が)高い」・
.pa
d豆
r
gs 「
結構
高い」、da
r
gi「
高 く」:pa
d豆
r
i 「
g
結構 高 く」
)
o
これ ら他 の品詞- の接頭辞付加 に比べ 、動詞 - の接頭辞付加 にお ける意 味修 正 は よ り複
re
ign
雑 で あ る。 また接頭辞 が どの よ うな意 味 を基動詞 に与 えるのかは、基動詞 の語嚢 的意 味 が
大 き く関係 してい る。
接頭辞 が空 間的意 味 を示す のは、動詞 が移 動 な どの物理的動 作 を示す場合 である (
s
kr
i
e
t
Fo
「
走 る」:pa
s
kr
i
e
t「
下に走 り込む」、be
gt「
逃 げる」:pa
be
gt「
下に逃 げ込む 」
)
o活動や発 話
に関係す る動詞 には、動作時 間の短 さや少 な さの意味 を加 える (
l
a
s
亨
t「読む 」:pal
a
s
T
t「少 し
of
読む」、s
kr
i
e
t「
走 る」:pa
s
kr
i
e
t「
少 し走 る」
)
0
y
また接頭辞 は I
PFV と pFV のアスペ ク ト対立 を示す こともあ る (
r
互
助 「
見せ る (
I
PFV)」:
rs
it
pa
r豆d
T
t「見せ る (PFV)」、pemt 「取 る (TPFV)」:pagemt 「取 る (PFV)」) アスペ ク ト対 立
.
ive
と接頭辞 の関わ りについては、 1
.
3.
3.
で詳 しく述べ る。
Un
1
.
3. 動詞接頭辞 の 3つの主な意 味の分類
『
標 準語文法』 の語形成や アスペ ク トの記述 、 st
al
t
ma
ne に よるラ トヴィア語 のアスペ ク
ok
yo
『標準語 文法 』1
959,
ト研 究において、動詞接頭辞 の意 味は大 き く 3つの意味に分 け られ る (
(T
st
a
l
t
ma
ne1
95畠d). それ は空間的意 味、量 ・時間的意味、そ して形式的意 味であ る.
is
1
.
3.
1
. 空間的意 味
es
空 間的意 味は接頭辞 の元来 の意味 であ る。 i
e
t「(
歩いて)行 く」、braukt「(
乗 り物 で)行
Th
く」、n豆
kt「
来 る」、s
kr
i
e
t「
走 る」 な どの運動 を示す動詞や、 I
i
kt「
置 く」 とい った物理的動
作 を示す動詞 と結びつ くと、動作 の方 向や 目標地点 を明確 にす る。
al
各接頭辞 の具体的な空間的意味 は、す でに 1
.
2.
の表 1
1で示 した。
or
空 間的意味は、次 に説 明す る量 ・時 間的意 味や形式的意 味 とい った アスペ ク トに関わ る
ct
意 味- と転義す る。
Do
s)
にあ る もの 」 (
s
a
ul
e「
太陽 」:pa
s
aul
e「
世界 (
-太陽 の下 にあ る もの)」、l
ogs 「
窓 」:pal
odz
e
1
.
3.
2
. 量 ・時間的意味
kva
nt
a
t
T
vi
t
e
mpor
a
l
豆noz
T
me) は、基動詞 の示す動作 の主体や客体 の量 を
量 ・時間的意味 (
特定 した り、動作 の継続 時間の長短 、突然性 、集 中性 の高低 、動 作 の開始 の意 味で ある。
23
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量 ・時間的意味は、接頭辞 と再帰要素がセ ッ トになって示 され ることもある。
t「読む」)
(
l
as
i
動作の多い量や高い集 中性
j
zl
a
s
T
t
i
es 「
思 う存分読む」
動作の過度性
p豆
r
l
a
s
了
t
i
e
s「
読みす ぎる」
動作の一定時間の継続
pa
lasTt「(
短い時間)読書す る」
gn
動作の少 ない量や低い集 中性 pal
a
s
i
t「少 し読む」
(
de
gt「
燃 えてい る」
)
s
a
n豆
kt 「
(
大勢が)来 る」
re
i
nol
a
s
T
t「(長い時間)読書す る」
(
n証t 「
来 る」
)
s
a
ai
c
i
n豆
t「
(
大勢 を)招待す る」
(
ai
ci
n豆
t「
招待す る」
)
Fo
主体 ・客体の多 さ
St
ud
ie
a
i
z
de
gt「
燃 え始 める」
動作 の開始 ・突然性
s)
以下にい くつかの量 ・時間的意味 とその例 を示す。 カ ッコには基動詞 を示 した。
of
認知言語学のアプ ローチでは、接頭辞 の量 ・時間的意味は空間的意味のメタファー とし
rs
ity
1な ど)
。 しか し本論文では詳 しく論 じない。
て説明が試み られ ることがある (
早稲 田 201
ive
1.
3.
3. 形式的意味
Un
形式的意味 (
f
or
m 豆1
anoz
T
me) の接頭辞 は、I
PFV の基動詞 の語義 を変 えず に PFV 化す る
PFV の動詞 の意味は、アスペ ク トの対立においてのみ異
接頭辞である。 この場合 pFV と I
pr
e
ve
r
bevi
de1
3
)" と呼ば
なるO形式的意味の接頭辞は、スラヴ語学において "
空の接頭辞 (
ky
o
れた り、アスペ ク ト以外の意味修正 を基動詞 に加 えない ことか ら "
純粋な pFV 化 の接頭辞
(
t
T
ipe
r
r
f
e
kt
i
ve
j
o蓋
spr
i
e
dekl
i
s
)" や "
純粋 なアスペ ク トの接頭辞 (
ei
s
t
ovi
dova
j
apr
i
s
t
a
vka)" と
(T
o
呼ばれ る。
接頭辞 が "
空の接頭辞" とみな され るのは、基動詞 が示す動作 の最終的な結果 が、接頭
is
辞が示す空間的意味に一致す る場合 であるo Schoonevel
d によれ ば、動詞 に付加 され る接頭
he
s
辞が、その動詞 の語嚢的意味の 自然 な結果 (
out
c
ome) を示す と、動詞 を PFV 化す る とし、
4(
sc
hoone
ve
l
d1
958,
1
601
61
)
0
意味的余剰性 の好例 とされ る1
al
T
a
、no、i
z、paが挙 げ られ る
ラ トゲイア語では、生産的な形式的意味の接頭辞 として s
Do
ct
or
st
a
l
t
ma
ne1
958d,58)、各接頭辞 は程度の差 こそあれ形式的意味の接頭辞 として基動詞 を
が (
"
空の接頭辞" とい う呼称は、動詞 の意味 と一致す る空間的意味 を持 ち、動詞 を P
FV化す る接頭辞 につ
yがチェコ語 を例 に最初 に用いた用語である。無接頭辞の pほe「
彼 は書 く (
I
PFV)
」を p
FV化す る
いて、Ve
n
a
p
l
'
g
e「
彼 は書 く (
PFV)
」 の接頭辞 n
a
-(
空間的意味は 「
上」
) の よ うな "空の接頭辞"に対 し、o
p
はe「
彼
は書 き写す (
PFV)
」や z
a
pl
'
蓋
e「
彼 は書 き留 める (
PFV)
」 の接頭辞 O
やz
a
の よ うに、動詞 を PFV化 し、 さ
らに意味 も変 える接頭辞 を 「
完全 な接頭辞 (
p
r
e
v
e
r
b
ep
l
e
i
n)
」 としてい る (
Ve
y1
9
5
2
,
8
2
)
0
1
4 動詞 と接頭辞 の示す空間的意味が一致す ると意味的中和が起 こる、と解釈 され がちだが 、S
c
h
o
o
ne
v
e
l
dに
よれば、実際には接頭辞は元の空間的意味 を残 している とし、意味的 中和 と捉 えることに積極 的ではない
(
Sc
h
o
o
n
e
v
e
l
d1
95
8
,1
6
0
1
61
)。
一方で Kr
o
n
g
a
u
zは、動詞 と接頭辞の示す空間的意味が重複 して起 こる意味
の 中和作用 を"
ゼ ロ効果"、または S
c
h
o
o
n
e
v
e
l
dの名 を と り、「
スホ-ネ フェル ド効果」と呼んでいる (
Kr
o
n
g
a
u
z
)
.
1
9
9
8
,1
21
1
3
2
4
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
pFV化す る。 1
.
2.
の表 1
1で示 した空間的意 味 を参考 に しつつ、形式 的意 味の接頭辞 と して
ie
s)
付加 され 、基動詞 を PFV化す る接頭辞 を表 ト2に示す。
基動詞 (
Ⅰ
pFV)
接頭辞動詞 (
PFV)
ai
z
-「
遮 」15
j
Ggt「
(
馬を)馬車につける」 a
iz
j
Bgt
a
t
-「
来」
n豆
kt「
来 る」
a
t
n豆
kt
叩-「
周」
e
s
t「
食 べ る」
ape
s
t
i
e
-「
中」
dot「
与 える」
i
e
dot
i
z
-「
通」
l
a
s
i
t「
読む」
i
zl
a
s
i
t
nO-
pi
r
kt「
買 う」
nopi
r
kt
pa
-
t「見せ る」
r
豆
dT
pa
r
a
di
t
p豆
r
-「
超」 「
移」
t
dkot「
訳す」
pi
e-「
接」
T
t「電話 をか ける」
z
va
n
pl
e
Z
Va
r
l
i
t
s
a
-「
集」
Ⅴ証t「
集 め る」
s
a
va
kt
pa
r
t
ul
kot
ive
rs
ity
of
Fo
re
ign
接頭辞 とその空間的意味
St
ud
表 ト2:形式的意 味の接頭辞
Un
これ らの接頭 辞動詞 には、基動詞 の動作 が前提 とす る空間的意 味 と接頭 辞 自体 の空 間的
意 味 の同一性 と、接頭 辞 の空 間的意 味 自体 を特 定す るこ とが難 しい もの もあ る。 例 えば上
ok
yo
の表 ト2で は、接頭 辞 nO-と pa
が あるo基動詞 pi
r
kt「
買う (
I
PFV)」 に対す る接頭辞動詞
は、前置詞 noと同様 に 「
…か ら」 とい う起点 を示す 空
nopi
r
kt「
買う (
PFV)」の接頭辞 nO間的意 味 とも解釈 で き、"
売 り手か ら'
'買 うとい う空間的意味が動詞 に兄 いだ され るか も し
(T
れ ない。 しか しこの接頭 辞 は本 来 の空 間的意 味 を と りわ け失 いや す く、形式的意 味以前 の
空間的意 味 を確証 を持 って特定す るこ とが難 しい。 また形式的意 味の接頭辞 pa
-も、元 の空
Th
es
is
間的意 味 の 「
下 」や 「
沿」 を特 定 しに くい。
1
.
3.
4. 接頭辞 の 3つ の主な意 味の相互 関係
al
量 ・時 間的意 味 も形 式 的意 味 も、空 間的意 味がアスペ ク トに関わ る意 味 に抽象 化 した も
or
ので ある。 しか しこれ ら 3 つ の意味 は明確 な区分 が難 しい。 これ には意 味の抽 象化 の程度
Do
ct
を特定す る難 しさと、 アスペ ク トを文法 カテ ゴ リー と見 なす か、語嚢 的 カテ ゴ リー と見 な
す かの問題 が 関わってい るか らであ る。
ラ トヴイア語の文献で示されている空間的意味の副詞と日本語の空間的意味の表示にはずれがある。例
i
z
の説明にはないが、日本語で解釈をすると空間的意味として 「
逓」
えば、ラ トヴィア語による接頭辞 a
や 「
埋」 という意味を見出すことができる。漢字で置き換えるとより細かい空間的意味の分類ができる場
合があることから、『
標準語文法』で示されている空間的意味は参考程度に示す。
1
5
25
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
空間的意味 と形式的意味
die
た ものである。 しか し接頭辞の元々の空間的意味は実際 には残 っていることが多い ことか
St
u
ら、形式的意味 と空間的意味は連続的で、明確 な区別 はできない。
空間的意味 と量 ・時間的意味
量 ・時間的意味 も空間的意味が抽象化 した もの と考 え られ るが、その境界 を明確 に定 め
gn
e
s
ka
仔t
i
e
s「
覗 く」は s
ka
t
T
t
i
e
s「
見 る」に空間的意味 「
中」を持つ接
ることは難 しい。例 えば i
Fo
re
i
e
が付加 され、 「
何かの中を覗 く」 とい う意味がある。一方で 「
見入 る」 「しっか り見
頭辞 i
る」 とい う動作の高い集 中性 もあるため、 この場合の接頭辞 は、空間的意味 も量 ・時間的
意味 も持 っていると考 えられ る。
of
形式的意味 と量 ・時間的意味
ity
ラ トヴィア語 のアスペ ク トが文法的なカテ ゴ リーか、語嚢的なカテ ゴ リーかは、本論文
の 2.
2.
で見 るよ うに、今 日まで議論の余地が残 る問題である。なぜ な ら 「
動作の完了」であ
rs
る形式的意味を量 ・時間的意味の一つに含む ことで、基動詞 を PFV 化す る接頭辞の形式的
ive
意 味を量 ・時間的意味に含 めて解釈す ることもできるか らである。 この ことか ら、抽象度
Un
の高い (
文法的 とされ る)pFV と I
PFV のアスペ ク ト対立の表現 に関与す る接頭辞の形式的
意 味 と、アスペ ク ト対立に関与 しない個別 のアスペ ク ト的意 味を表現す る接頭辞の量 ・時
yo
間的意味の区別 も明確 ではな くなる。
ok
この よ うに、伝統的な接頭辞の 3 つの主要な意味の区分は連続的な ものである。 しか し
is
(T
本論文では、便宜上 これ ら 3つの主要な意味の分類 を用いることとす る。
es
1
.
4. 動詞接頭辞の先行研究 と記述
Th
本論文では、アスペ ク ト論や語形成論 を中心に動詞接頭辞 を考察す る。 ここではラ トヴ
or
al
イア語学の動詞接頭辞の先行研究 と記述 を、言語学 と言語文化論 に分 けて簡単に概略す る。
Do
ct
1.
4.
1
. 言語学 にお ける先行研究 と記述
ラ トヴィア語 の動詞接頭辞が初 めて広 く論 じられたのは、1
903年 の Endz
e
血 Sによる 『ラ
La
t
y菖
S
ki
epr
e
dl
og
i)
』であった (
Endz
e
l
T
ns1
971
,3071
65
4)
. この記述は
トヴィア語の前置詞 (
2部構成で、 1部では前置詞、2部では前置詞の格支配の問題 と動詞接頭辞の意味が記述 さ
れ ている。 また、動詞接頭辞の多義性 による動詞接頭辞間の類義性 、接頭辞動詞 とアスペ
ク トの問題が触れ られている。
26
s)
形式的意味は、基動詞が表す動作の空間的意味 に一致す る空間的意味が結果的に薄まっ
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
語形成力 が高いラ トゲイア語 であるが、語形成論 に関す る研 究 自体 は多 くない。 ラ トヴ
意味の接頭辞 を語形成論 では扱 わず、空間的意味 と量 ・時間的意味の接頭辞 のみ を記述 し
St
ud
daは派生語 を文脈か ら切 り離 し、語の派生方法である語形成 のモデル を体系的
ている。Soi
記述 してい る。
語嚢 には特定の言語集 団によって用い られ るものがある。統計的 なデー タは示 されてい
gn
ないが、no、i
z
、a
t
、i
e
、pa
、pi
e
の接頭辞 を持つ新語 が若者言葉 でよく使用 され るとい
う指摘が若者言葉 の研究においてある (
Ems
t
s
o
ne&Ti
dr
i
ke2006,37) 接頭辞 の用法 に方言
re
i
.
差 が あ る こ とか ら、方 言 の語 嚢研 究 にお い て も接 頭 辞 の記 述 が見 られ る (
Poほa 1
998
,
Fo
Bu善
ma
ne2000)o
ある接頭辞が付加 された動詞 の使用 が一般的である場面で、慣用的でない別 の接頭辞 が
of
ne
付加 され た動詞が使用 され るな ど、接頭辞動詞の用法の変化や傾 向の指摘 もある。 Okma
y
はその背景に、聞き手や読み手に対 して注意 を喚起す る側面、他 の言語 による影響の側 面、
rs
it
Okma
ne20
07,21
0)
0"
千
話者 の言語運用能力の不足や注意不足 といった側面 を挙げてい る (
e
が挙 げ られ、接頭辞 の新た
想外"の場面において近年付加 され ることが多い接頭辞には i
ive
La
i
ve
ni
e
c
e2009)。
な意味の広が りや 、話者 による言葉遊びの側面 も指摘 されてい る (
アスペ ク ト論か らの動詞接頭辞 についての分析 は、 ソ連時代 に St
a
l
t
ma
neが広 く研 究 を し
Un
てい る。 アスペ ク トについては、本論文の 2.
2.
で詳 しく整理す る。
接頭辞 、特 に動詞 に付加 され る接頭辞 の意味は極 めて複雑 で、 どの分野 において も接頭
ok
yo
辞研 究の関心は接頭辞 の意味や機能 に帰結す る。 しか しロシア語学な どに比べ、 ラ トゲィ
Ri
nhol
m1
985,Hi
l
ma
ne2
000,Ka
nno
ア語学では接頭辞 の意味を意味論か ら扱 った先行研究 (
(T
2003な ど) の数 は少 ない。
語 の意味の記述 を役割 とす る辞書論 では、3人の研 究者 の先行研究がある。アスペ ク ト論
Th
es
is
a
l
t
ma
neが接頭辞動詞 の体系的な辞書記述の方法 を模索 してい る (
St
a
l
t
ma
ne
の立場か らは、St
標準 ラ トヴィア語辞典 (
La
t
vi
e
如I
i
t
e
r
豆
r
豆
sva
l
oda
sva
r
dn
T
c
a
)
』(
以下 『
標準語辞典 16』)
1
961
). 『
の編纂 中に書 かれ た この論文では、アル ファベ ッ ト順 で最初の 2つの接頭辞 a
i
三
一と a
pを例
に、空間的意味が共通す る場合 、統一 された意味記述 の方法 が提案 され てい るほか、アス
al
ペ ク ト対立を成す 2 つの動詞 については、同一の見出 し語 として掲載す るか、一方 の動詞
or
の意味説 明をも う一方の動詞の意味説明に参照 させ ることが提案 され ている。 しか し本論
ct
文の 2.
4.
3.
で述べ るよ うに、 この提案 は実行 には至 らなかった。
Do
ie
がある (
Soi
da2009)
。 しか し 2.
2.
で後述す るよ うに、Soi
daはアスペ ク ト対立を成す形式的
s)
イア語学で最 も体系的な語形成論 の記述 には、Soi
d
aのモ ノグラフ『
語形成 (
Va
r
dda
r
i
na
ぬna)』
Zui
c
e
naは辞書論 の立場か ら接頭辞 pi
e
の意味を広範 に記述 してい る (
Zui
c
e
na1
98
3)
O
豆mi
de
be
r
gsは辞書編纂者の立場 として、品詞 に限 らず接頭辞 のついた語 をいかに辞書 に記
5mi
de
be
r
gs1
997,
述す るべ きかを論 じている。『
標準語辞典』のペー ジ数全体の 40%を占める (
1
972年か ら 1
989年 にかけて発刊 された計 8巻の辞典である0本論文では電子版 (
h
t
t
p
:
/
/
www.
t
e
z
a
u
r
s
.
l
v/
l
v)
を使用 した。
1
6
27
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
1
62) 接頭辞 による派生語の意味記述の重要性 を強調す る彼 は、接頭辞語 自体の数が多い こ
St
ud
ie
ではの編纂事情 を明か してい る (
Sm
i de
be
r
gs2000b,211
).接頭辞動詞 に関 しては、そ もそ も
PFV 性 の意味の研究があま り進んでいない こと、pFV 動詞の意味記述 が整理 されていない
こ とを指摘 していることか ら (
5m
i de
be
r
gs2000a,306)、アスペ ク ト論 自体の研究が立ち遅れ
gn
てきた ことが伺 われ る。
re
i
1
.
4
.
2
. 言語文化論 にお ける記述
(
付加) に対 して、大 きく分 けて 4つのタイプの批判 がある。
of
1
) 余剰 な pFV 化 の接頭辞付加
Fo
言語文化論 にお ける動詞接頭辞 の記述 について整理 をす る。 言語文化論 では動詞接頭辞
ity
2) 表面的態度 を示す接頭辞付加
3) 二重接頭辞付加
ive
rs
4) 個別 の接頭辞動詞 の用法
Un
1
)の余剰 な pFV 化 については本論文の問題意識 0.
2.
2.
で簡単 に触れたが、各研 究者 に よ
5.
2.
に譲 る。大部分の基動詞 は借用語 であるが、少数 なが らラ トヴイア語
る詳 しい議論 は 3.
o
本来の動詞 の PFV 化 に対す る批判 もある。
ky
2)では、表面的態度 を示す接頭辞 pa
や pi
eな どの動作の不完全性や短期性 のアスペ ク ト
を示す接頭辞動詞が動作 に 「
不真面 目な態度 のニュア ンス」 を付 け加 えるとして、 「
それが
(T
o
Fr
ei
ma
ne1
993,1
58)
0
望 ま しくない場合 においては余剰 である」 とされ る (
)や 2) のよ うな余剰 とされ る接頭辞付加 には、3) の二重接頭辞付加 も含まれ る。 ラ ト
I
is
ヴィア語 の動詞 には基本的に一つの接頭辞 しか付加 されない17
ため、避 けるべ きであるとす
he
s
とされ る。例 えば、ロシア語か らの翻訳借用 で派生 した とされ る動詞 (
基動詞 cel
t「
上げる」
- pa
c
el
t「
上げる (
PFV)」- pi
e
pa
c
e
l
t「
少 し上げる」- ロシア語 pr
i
podn
j
a
t
'「少 し上げる」
al
T
な ど) は標準語 では認 め られ ていない (
Fr
e
i
ma
ne1
993,1
57,Ku碓i
s2009,2271
228)0
4) では、主 に基動詞 と接頭辞動詞、接頭辞動詞間の類義性 と使 い分 けが問題 となる。例
or
えば、i
e
gBt「
取得す る」 と apg缶t「
習得す る」 といった同 じ基動詞か ら派生 した接頭辞動詞
Do
ct
s)
と、接頭辞語 の多義性 が原 因で接頭辞語 の意味記述 に時間がかかるこ とな ど、 当事者 な ら
の意味比較 (
Ni
s
e
l
ovi
E
s1
969) や、l
i
e
t
ot「
使用す る」 と pi
el
i
e
t
ot 「
適用す る」 といった基動
詞 と接頭辞動詞 の意味比較 (
ce
p1
7
t
e1
971
) があるo
が付加 された派生語 はmi
de
be
r
gs1
982)、術語 にお
個別 の接頭辞 に関 しては、接頭辞 p豆r
skt
抽 a1
966)、その他 の個別 の接頭辞動詞 の記述 (
oz
ol
a
ける基動詞 と接頭辞動詞の選択 (
1
7 規範 で認 め られ る二重接頭辞 の動詞 は、前か ら 2番 目の接頭辞 が語嚢化 し、基動詞 だ けでは普通使 われ
ない動詞や 、接頭辞が基動詞 の意味 を大 きく変 えている動詞 である。詳 しくは本論文 4.
6.
3.
1
.
を参照 された
い。
28
東京外国語大学博士学位論文 Doctoral thesis (Tokyo University of Foreign Studies)
1
966,Ra
島e1
967な ど)がある。互いに類義語であるが、本来期待 され る接頭辞動詞の代わ
s)
りに別 の接頭辞動詞 を使用す る傾 向があ り、それが外国語 の影響である とい う指摘 もされ
てい る (
Oz
ol
a2008)
St
ud
ie
0
1
.
5
. 第 1章のま とめ
動詞接頭辞 は これ までに語形成論、アスペ ク ト論 、辞書論、意味論、そ して言語文化論
gn
で記述 されてきた。方言差や若者言葉 な ど社会的側 面か らの研究 もあ り、接頭辞-の視点
ei
は幅広い。 そ して注 目すべきことに、動詞接頭辞 は言語 の規範 と逸脱 に関わ る言語文化論
Fo
r
で も記述 されてきた。
動詞接頭辞 は空間的意味、量 ・時間的意味、形式的意味を持つ。動詞接頭辞の空間的意
味はメタファーに よって、動作の開始や集 中性 の高低 といった個別的なアスペ ク トを示す
っ
。
形式的意味は基動詞 を PFV 化 し、アスペ ク ト対立に関与す る。 こ
of
量 ・時間的意味を持
rs
ity
の形式的意味は、基動詞の示す動作 の結果 と接頭辞の示す空間的意味が一致す る際 に、意
味的 中和によって空間的意味が薄まった接頭辞が持つ意味である。
しか し接頭辞の 3 つの意味の境界 は段階的である。 なぜな ら量 ・時間的意味 と形式的意
Un
ive
味は どち らも空間的意味のメタファーや空間的意味が抽象化 された意味であ り、連続的 に
つながっている。量 ・時間的意味 と形式的意味の区別 は、語嚢的に示 され る個別のアスペ
PFV とい う抽象度 の高いアスペ ク ト対立の区別 で もある。 しか しこの区別
ク トと、pFV ・I
yo
は、語嚢 としてのアスペ ク トと文法 としてのアスペ ク トの区別 とい う、 ラ トヴィア語 のア
スペ ク ト論の難 しい問題 を畢 んでいる。
ok
動詞接頭辞 はアスペ ク トと深 く関わってい る。そのため、ラ トヴィア語 のアスペ ク トの
Do
ct
or
al
Th
e
sis
(T
詳 しい記述のために次章を割 くこととす るO
2
9