分割2(PDF:1981KB)

斜面上方
P1
P2
P3
P5
P4
P6
223-は 1
国道 17 号
斜面下方
図1
プロット位置図
3-4. 結果
≪群落構造≫
全体的にアオダモ・リョウブ・エゴノキといった小高木が多く各樹高階で優占していた。
高木種ではクリが多く、偏在しているがヤマグワも多く出現した。草本種では、タケニグ
サやケチヂミザサといった裸地性の種が広く地表面を覆っていた。
区画別の個体数・出現種数を比較すると、ともに、斜面下方に行くにつれて増加してい
く傾向がみられた。高木種で潜在自然植生優占種のクリや、小高木種のアオダモ・エゴノ
キが多く出現していた。
-52-
表1
林分
スギ林
調査区別の木本出現種数と個体数(実数)
P 1 (旧P1)
100 ㎡ 8 (20)
P 2 (旧P1-1) 100 ㎡ 12 (21)
個体数 (haあたり)
30cm未満 30cm以上
4,200 (-) 1,500 (1,100)
6,500 (-) 2,000 ( 800)
P 3 (旧P2)
52 ㎡
P 4 (旧P2-2) 56 ㎡
7 (27)
12 (26)
2,521 (-)
3,733 (-)
1,939 ( 500)
2,489 ( 100)
P 7 (旧P4)
100 ㎡ 12 (25)
P 8 (旧P4-2) 100 ㎡ 18 (31)
4,200 (-)
2,800 (-)
2,200 ( 800)
2,900 ( 200)
調査区
面積
樹種数
*-:欠測
( )内は、伐採前の値で、スギを除く
3-5. 考察
○ 出現個体数
林野庁の天然更新完了目安(5 年目で樹高 30cm 以上の林冠構成種が 5,000 本/ha)と今回
の小高木以上の個体数を比較すると、平均 2,000 本/ha(0.4 倍)であり、最も多い区画で
も 3,000 本/ha(0.6 倍)に達しておらず、まだ更新完了とはいえない。
小出俣のスギ間伐林では、2 年目に 2 伐 4 残で 1,300 本/ha、3 伐 6 残で 400 本/ha とな
っており、2 年目の間伐林よりも 1 年目の皆伐林の方が多くの更新木が出現した。したがっ
て、間伐よりも皆伐の方が自然林への更新速度が速いものと思われる。
また、カラマツ林の 40m 幅の伐採区では、1 年目に高木 5,000 本/ha、小高木 5,550 本/ha
が出現したことから、カラマツ林の方が広葉樹の天然更新がしやすい可能性が示唆された。
これは、スギよりカラマツの方が透光性に優れ、前生樹も多いためと考えられる。
カラマツ林では 2 年目に最も多くの新出個体がみられ、本調査地は低樹高階の個体数が
大半を占めているので、この林分でも今後、大幅な個体数増加が見込まれる。
○まとめ
スギ人工林及びカラマツ人工林において、伐採幅を変えて列状伐採を行い、天然更新の
様子の違いを調査した。
伐採幅が広がるにつれて樹高成長が旺盛になる一方で、裸地性植物の繁茂も旺盛となり、
被圧を受ける個体も多く存在した。
潜在自然植生の優占種に限ると、伐採前から人工林内にあった前生樹は萌芽更新後に旺
盛な成長を示し、伐採前の樹高が高かった個体ほど成長も良いことがわかった。しかし、
伐採前に樹高 15m を越える個体は伐採後にすべて枯死した。このことから、前生樹は天然
更新にとって貢献が大きいが、大きな個体は伐採せずに種子供給源として保残した方がよ
り質の高い自然林を形成できると考えられる。
ササや伐採木のように、林床を覆うものがあると、更新速度が著しく低下する。しかし、
-53-
覆っているものが枝葉のように分解されるものの場合は、分解後に時間差で順調な更新が
進行する可能性が示唆された。
伐採直後に潜在自然植生を復元することは容易ではないと思われるが、今回のカラマツ
林のように比較的早期の復元が可能な林分も存在することが示唆された。
図2.
永井スギ林 伐採前)
図3.
(2008 年 11 月撮影)
(2008 年 11 月撮影月撮影)
図4. 永井スギ林 皆伐跡地 伐採後 1 年目
(2010 年 10 月撮影)
永井スギ林 伐採前
図5. 永井スギ林 皆伐跡地 伐採後 1 年目
左から Plot3 と Plot4、破線部は消失)
(2010 年 10 月撮影)
-54-
b. 並木植されたスギ人工林に天然更新した広葉樹の生長パターン
1.はじめに
赤谷プロジェクトにおいて、すでに広葉樹が天然更新しているスギ人工林については、
天然林化を促進するための積極的な施業は行わず当面はその推移を見守ることとしている。
ここでは、天然更新している広葉樹の成長パターンをスギと広葉樹の立木位置に着目して
明らかにし、これらの樹木を生かした天然林化を進める上で今後の施業の必要性を検討す
るために調査を行った。
2.調査地
調査区は 241 林班た小班の南東向き斜面に設けた(図-1)
。調査区の大きさは水平距離
で 50m×50m であり、さらに調査区を 10m×10m に区切りその四隅に杭を埋設した。標
高は約 800m、緯度・経度はおよそ N36°46′、E138°53′である。対象林分はスギが
植栽された列と植栽されなかった列が交互に配置されている並木植えによる人工林である。
森林簿によれば、この小班は 1973 年~1974 年の間にスギが植栽され、1990 年まで下
刈等の施業が行われ、スギが植栽される以前は 31 年生のミズナラ等による広葉樹林が成
立していた。
調査区:
図-1.調査区位置図
写真-1.調査区内の様子
-55-
3.調査方法
3-1 毎木調査・樹木位置調査
調査区内の胸高直径 3cm 以上のスギと広葉樹に対して、山側の地上高 1.3m の位置にナ
ンバーテープを打ち付け個体識別を行った。識別した各個体はスチールメジャーで胸高周
囲長を測定し、バーテックスで樹高を測定した。
毎木調査した樹木の根元位置と樹冠中心部に対して、調査区内に埋設した杭を視点とし
てコンパス測量を行い、立木位置図を作成した。
3-2 成長錐による樹幹コアの採取
天然更新した樹木の成長パターンを明らかにするために、樹幹コアの採取を行った。樹
幹コアの採取は、毎木調査の結果から、高木性の樹木で個体数が多かったミズキとハルニ
レの生立木を対象とした。採取木数はミズキが 22 本、ハルニレが 53 本である。
樹幹コアの採取は成長錐を用い、地上高 1.2mから採取した。使用した成長錐は錐の長
さ 60cm、コア直径 5.15mm、切り刃数 2 の haglof 社製を使用した。採取する樹幹コアは
樹木 1 個体につき 1 つのみとし、
採取したコアは直径 6mm のストローに入れて持ち帰り、
長さ 30cm、
厚さ 20mm 程度に切断した木材表面に深さ 3mm 程度の溝を掘った固定台に、
埋め込んだ。その状態で約 2 日間自然乾燥させた後、コア表面を剃刀の刃で削り、実体顕
微鏡下でデジタルノギスを使用し年輪幅を測定した。
上記により得られた結果から、採取した各個体の成長の傾向を推定した。
3-3 成長量比
採取した樹幹コアから、ある時点における直径成長量の増減の程度を示すために、樹種
ごとに成長量比(RG)を求めた。
(杉田,1993)
RG=Ga/Gb …(式 1)
ここで、RG は成長量比,Ga はその時点以前の 3 年間の樹幹コアサンプルにおける直径
成長,Gb はその時点以後の 3 年間の樹幹コアサンプルにおける直径成長を示す。なお、
RG>1 は成長増加、RG<1 は成長減少を示す。
3-4 競争指数
樹木成長は、光や土壌養分などの資源を巡る周辺の樹木との競争に影響される
(Yamashita et al., 2006)
。そこで、樹幹コアを採取した個体は、周辺のスギ、あるいは
全ての周辺木からどの程度影響を受けているかを調べるため、樹木間距離と樹木サイズに
基づく競争指数を計算した。
競争指数は各個体の樹高に着目して算出する指数(式 2)と、各個体の胸高直径(DBH)
に着目して算出する指数(式 3)の 2 つを使用した(Yamashita et al., 2006)
。
-56-
BCI:主題木 i(どの程度競争にさらされているかを知りたい樹木)と競争木 j(主
指数,ATAN:tan‐¹,Hj:競争木の樹高,Zj:競争木の根の高さ,Zi:主題木の根の高さ,
DISTij:主題木と競争木間の距離。BCI の数値が大きいほど、主題木の成長は抑制される。
WCI:主題木 i(式 2 に同じ)と競争木 j(主題木周辺にあり、DBH が主題木より大き
い樹木)との距離と DBH から導き出される競争指数,Dj:競争木の DBH,Di:主題木
の DBH,DISTij :主題木と競争木間の距離。WCI の数値が大きいほど、主題木の成長
は抑制される。
式 2、式 3 ともに競争木の対象は、主題木の樹冠が接していると思われる個体(隣接群)
、
主題木を中心とした半径 4m 以内の個体(近接群)
、主題木を中心とした半径 8m 以内の個
体(周辺群)の 3 つの基準によって選定し、それぞれで競争指数を計算した。また、対象
範囲内全ての個体を競争木とした場合と、スギのみの個体を競争木とした場合でそれぞれ
の指数を計算した。樹木間距離も、根元位置間の距離と樹幹中心位置間の距離のそれぞれ
で計算した。
また、対象木に当たる光量は競争木の位置する方位によって異なるため、主題木を囲む
エリアを 4 分割し(図-2)
、式 2 を方位ごとに分けたものも算出した。これは主題木に対
して北側に位置する立木は光獲得競争において、有効な競争木となりえないため北の BCI
は除外した。さらに BCI 算出の際に使用する主題木と競争木間の距離は、固定距離
(DISTij)ではなく式 4 による相対距離を使用した。なお、南と東の BCI 算出に使用する
競争木の相対距離は 0.6 以下、西の BCI 算出に使用する競争木の相対距離は 0.3 以下とす
る。Yamashita et al.(2006)によれば、スギ人工林において、スギを主題木と競争木に
した場合、これらの方位及び相対距離を使用した BCI が最も有効に競争関係を表せるとい
われている。
rDISTij =DISTij/(Hj + Zj-Zi ) …(式 4)
rDISTij :相対距離,DISTij :式 2 に同じ,Hj :式 2 に同じ,Zj :式 2 に同じ,Zi :
式 2 に同じ。
なお、本論文における相関は全て、Pearson の積率相関係数により算出した。
-57-
北
西
東
:主題木
:競争木
南
図-2.各方位を分割した模式図
4.結果
4-1 林分構成
図-2.各方位を分割した模式図
林分構成を表-1 に示す。幹密度はスギが一番高く、胸高断面積も
81%を占めていた。広
葉樹は幹密度が高い順にハルニレ、アブラチャン、オオバアサガラ、ミズキであった。胸
高断面積占有率は高い順にハルニレ、ミズキ、オニグルミ、アブラチャンとなった。
表-1.林分構成
出現種( 学名)
スギ ( Cryptomeria japonica )
幹密度(本/ha ) 平均胸高直径 胸高断面積合計 胸高断面積
(cm )
(m2/ha )
占有率
1380
18.7
45.815
81.13%
ハルニレ( Ulmus davidiana )
アブラチャン( Lindera praecox )
276
268
オオバアサガラ( Pterostyrax hispida )
12.8
4.0
0.352
1.738
7.55%
0.62%
124
12.1
1.866
3.08%
ミズキ( Swida controversa )
イタヤカエデ( Acer pictum )
88
40
14.5
6.0
0.901
0.133
3.30%
0.23%
オニグルミ( Juglans mandshurica )
40
16.2
0.188
1.60%
ウワミズザクラ( Padus grayana )
フジキ( Cladrastis platycarpa )
28
24
8.9
5.2
0.058
0.252
0.33%
0.10%
キハダ(Phellodendron amurense )
24
11.3
0.046
0.45%
メグスリノキ( Acer maximowiczianum )
L?(樹種不明)
12
12
6.8
4.5
0.019
0.352
0.08%
0.03%
オヒョウ( Ulmus laciniata )
8
18.6
0.312
0.38%
ヤマハンノキ ( Alnus hirsuta )
ヤマモミジ(Acer amoenum )
8
8
21.3
4.9
0.145
0.122
0.55%
0.03%
サワグルミ( Pterocarya rhoifolia )
8
11.8
0.217
0.22%
バッコヤナギ( Salix caprea )
ハウチワカエデ( Acer japonicum )
8
4
14.9
5.2
0.015
0.008
0.26%
0.02%
ヤマボウシ( Benthamidia japonica )
4
3.6
0.009
0.01%
ウラジロノキ( Aria japonica )
クマヤナギ( Berchemia racemosa )
4
4
5.2
4.4
0.004
0.006
0.01%
0.01%
4
4.2
0.006
0.01%
996
―
10.659
18.87%
サルナシ( Actinidia arguta )
総計(スギ除く)
-58-
毎木調査した樹木の根元位置と樹冠中心部に対して行ったコンパス測量の結果を図-3,4
に示す。スギはほとんどの個体で、根元位置と樹冠中心位置がほぼ一致している。広葉樹
は根元位置と樹冠中心位置が 1~3m 程度離れている個体もよく見受けられた。
図-3.各樹木の根元位置
図-4.各樹木の樹冠中心位置
-59-
4-2 樹幹コアの解析
各樹幹コアから、確認できた年輪数ごとの本数を図-5 に示す。なお、
「樹齢」でなく「年
輪数」としたのは、樹幹コア採取位置が胸高付近であったことと、樹幹コアが髄を貫通し
ていないものがあり、正確な樹齢はわからないことから、最低限経過している年数という
意味で「年輪数」とした。
ミズキは年輪数 26 周辺、ハルニレは年輪数 18 と 24 周辺に個体数が集中しているよう
に見受けられた。また、年輪数 10 未満の個体は見受けられないので、過去 10 年間で胸高
に到達した個体は無い、あるいは更新後すぐに枯死していたものと考えられる。
図-5.年輪数の頻度分布
年輪数と胸高直径(DBH)の関係を図-6 に示す。両樹種とも正の相関がみられ(ミズキ:
p<0.002,ハルニレ:p<0.001)、年輪数に対する DBH の値も、極端に大きいもの、小
さいものはないように思われた。
図-6.各樹種における胸高直径(DBH)と年輪数の関係
ミズキとハルニレ各個体の累積成長量をそれぞれ図-7、8 に示す。両樹種ともほとんど
の個体が現在に近づくにつれ成長が緩慢になっていた。特に 1995 年前後を境に成長が緩
慢になっている個体が多かった。
-60-
図-7.ミズキ各個体の累積成長量
図-8.ハルニレ各個体の累積成長量
-61-
4-3 成長量比と樹木サイズの関係
成長増減個体数の比率の変動を図-9,10 に示す。ミズキは 1986 年~1988 年には約 80%
の個体で RG(成長量比)が 1.0 以上を示し、成長は増加していた。しかし、成長減少す
る個体は徐々に増加し、2007 年~2009 年では約 75%の個体が成長減少となっていた。一
方、ハルニレは 1989 年~1991 年には約 60%の個体が成長増加を示していた。その後は成
長が減少する個体が徐々に増え、
2007 年~2009 年では約 70%の個体が成長減少にあった。
このように両樹種とも成長減少している個体の割合の方が多かったが、ミズキで約 25%、
ハルニレで約 30%の個体が最近でも成長を増していることが明らかになった。
図-9.ミズキにおける成長増減個体数の比率の変動
図-10.ハルニレにおける成長増減個体数の比率の変動
-62-
胸高直径(DBH)と 2007 年~2009 年分の成長量比(RG)を図-11 に示す。ミズキにおい
ては DBH と RG との相関関係はみられなかった(p>0.05)が、ハルニレにおいては正の
。
相関がみられた(p<0.03)
図-11.各樹種における胸高直径と成長量比の関係
樹高と 2007 年~2009 年分の成長量比(RG)を図-12 に示す。両樹種ともに、樹高と RG
。
との相関関係はみられなかった(ミズキ:p>0.1,ハルニレ:p>0.4)
図-12.各樹種における樹高と成長量比の関係
上記の内容(図-11,12)はハルニレにおいては DBH と RG との間に相関がみられたも
のの、単純に DBH の大きさ、樹高の大きさによって成長が変化するということを意味し
ない。周辺木との立地位置や個体の大きさの違いが、成長量比の違いとなって表れてきた
ものと予想される(Mitsuda et al.,2002)
。したがって、次節において、これらを中心に
-63-
解析をすすめることにした。
4-4 直径成長傾向と周辺木との競争関係
主題木はミズキ、ハルニレを中心として、調査区内で主題木から半径 8m の解析が可能
な個体を対象として競争指数の計算を行った(根元位置間の場合:ハルニレ 28 本、ミズ
キ 7 本,樹冠中心位置間の場合:ハルニレ 27 本、ミズキ 8 本)
。
根元位置間の距離で、全樹種を競争木対象として算出した各競争指数と RG(2007 年
~2009 年分)との関係をグラフに示した(図-13~16)
。各競争指数と RG との相関関係は、
、ハルニレは隣接群 WCI(p<0.02)
、
ミズキは近接群 BCI において負の相関(p<0.05)
近接群 WCI(p<0.004)
、隣接群 WCI(p<0.006)
、近接群 BCI(p<0.05)において負
の相関がみられた。
図-13.ミズキにおける RG と WCI との関係(根元距離)
図-14.ミズキにおける RG と BCI との関係(根元距離)
-64-
図-15.ハルニレにおける RG と WCI との関係(根元距離)
図-16.ハルニレにおける RG と BCI との関係(根元距離)
根元位置間の距離で、スギのみを競争木対象として算出した各競争指数と RG(2007 年
~2009 年分)との関係をグラフに示した(図-17~20)
。各競争指数と RG との相関関係は、
。ハルニレは隣接群 WCI (p
ミズキは近接群 BCI において負の相関がみられた(p<0.03)
<0.02)
、近接群 WCI (p<0.005)、周辺群 WCI (p<0.007)、近接群 BCI (p<0.04)、周辺
群 BCI (p<0.04)において負の相関がみられた。
-65-
図-17.ミズキにおける RG と WCI との関係(根元距離・スギのみ)
図-18.ミズキにおける RG と BCI との関係(根元距離・スギのみ)
図-19.ハルニレにおける RG と WCI との関係(根元距離・スギのみ)
-66-
図-20.ハルニレにおける RG と BCI との関係(根元距離・スギのみ)
樹冠中心位置間の距離で、全樹種を競争木対象として算出した各競争指数と RG(2007
年~2009 年分)との関係をグラフに示した(図-21~24)
。各競争指数と RG との相関関係
は、ミズキは相関はみられなかったものの、ハルニレは隣接群 WCI (p<0.006)、近接群
WCI (p<0.003)、周辺群 WCI (p<0.006)において負の相関がみられた。
図-21.ミズキにおける RG と WCI との関係(樹冠距離)
-67-
図-22.ミズキにおける RG と BCI との関係(樹冠距離)
図-23.ハルニレにおける RG と WCI との関係(樹冠距離)
図-24.ハルニレにおける RG と BCI との関係(樹冠距離)
-68-
樹冠中心位置間の距離で、スギのみを競争木対象として算出した各競争指数と RG(2007
年~2009 年分)との関係をグラフに示した(図-25~28)
。各競争指数と RG との相関関係
は、ミズキは隣接群 WCI (p<0.04)、近接群 WCI (p<0.04)において負の相関がみられた。
ハルニレは隣接群 WCI (p<0.03)、近接群 WCI (p<0.008)、周辺群 WCI (p<0.009)、近
接群 BCI (p<0.05)、周辺群 BCI (p<0.03)において負の相関がみられた。
図-25.ミズキにおける RG と WCI との関係(樹冠距離・スギのみ)
図-26.ミズキにおける RG と BCI との関係(樹冠距離・スギのみ)
-69-
図-27.ハルニレにおける RG と WCI との関係(樹冠距離・スギのみ)
図-28.ハルニレにおける RG と BCI との関係(樹冠距離・スギのみ)
根元位置間の相対距離で、全樹種を競争木対象とした場合と、スギのみを競争木対象と
ミズキは全樹種を競争木対象とした場合
(p
した場合とで算出した BCI を図-29,30 に示す。
>0.3)
、スギのみを競争木対象とした場合(p>0.4)ともに、相関は見られなかった。ハ
、スギのみを競争木対象とした場合(p
ルニレも全樹種を競争木対象とした場合(p>0.1)
>0.05)ともに、相関は見られなかった。
-70-
図-29.ミズキにおける RG と BCI との関係(根元相対距離)
図-30.ハルニレにおける RG と BCI との関係(根元相対距離)
樹冠中心位置間の相対距離で、全樹種を競争木対象とした場合と、スギのみを競争木対象
とした場合とで算出した BCI を図-31,32 に示す。ミズキは全樹種を競争木対象とした場合
、スギのみを競争木対象とした場合(p>0.8)ともに、相関は見られなかった。
(p>0.6)
ハルニレも全樹種を競争木対象とした場合(p>0.2)
、スギのみを競争木対象とした場合(p
>0.1)ともに、相関は見られなかった。
-71-
図-31.ミズキにおける RG と BCI との関係(樹冠相対距離)
図-32.ハルニレにおける RG と BCI との関係(樹冠相対距離)
-72-
5.考察
5-1 林分構成と樹幹コア解析
スギ人工林に侵入した広葉樹の特徴として、被食型散布や風散布型の特徴をもち、埋土
種子として長期に生存できる樹種の多いことが指摘されている(長谷川・平,2000)。本
調査区も被食型散布、風散布型の広葉樹が多数出現していた。樹幹コアを採取したミズキ
は被食型散布であり、ハルニレは風散布型である。
採取した樹幹コアより、年輪数 10 未満の個体は見受けられなかった。これは過去 10 年
間で胸高に到達した個体は無い、あるいは到達後すぐに枯死したものと考えられる。スギ
や先に更新している広葉樹の成長により樹冠が閉鎖されたことが原因として挙げられる。
5-2 RG と樹木サイズの関係
ミズキは 1986 年~1988 年には約 80%の個体が成長増加していたが、2007 年~2009 年
は約 75%の個体が成長減少していた。ハルニレは 1989 年~1991 年には約 60%の個体が成
長増加していたが、2007 年~2009 年は約 70%の個体が成長減少していた。これは樹幹コ
ア採取樹木自身や周辺の樹木が時間経過とともに成長することで、
成長に必要な資源
(光、
水など)
の獲得競争が強まり、
成長増加から減少に転じる個体が増えたためと考えられる。
ミズキは DBH と RG の間に相関がみられず、
ハルニレには正の相関がみられた
(図-12)
。
しかし、ミズキも DBH が増加すると、RG もある程度増加しているように見受けられた。
DBH が大きい個体ほど、周辺樹木との成長資源獲得の競争に有利であると考えられる。
また、ミズキ、ハルニレともに樹高と RG の間に相関関係はみられなかった。これは、
スギと比べ広葉樹は、光のあたる方向へ向かって、幹を大きく傾けて伸長成長できること
により突出した樹高がなくても、光を受けて成長した個体があったためと考えられる。
5-3 RG と競争指数の関係
RG と WCI との相関は、ミズキにおいては、隣接群と、近接群で同程度の負の相関がみ
られた。ハルニレにおいては全てのパターンの算出法で負の相関がみられたが、各算出パ
ターンにおいて、近接群で計算したものが、どれも高い相関を示した。中でも樹冠中心位
置間の距離で、
全樹種を競争木対象とした場合の近接群に最も高い負の相関がみられた
(図
-14~29)
。主題木、競争木ともにスギの場合だが、WCI を算出する際に最適とされている
DISTij は 4m以内といわれている(宮本・天野,2002;Yamashita et al. ,2006)。本研究
の結果から主題木は広葉樹であり、競争木に広葉樹が混ざっている場合でも、WCI におい
ては DISTij 4m以内が最適である可能性がある。
ミズキ、ハルニレともに DISTij を樹冠中心位置基準としたときに、RG と WCI との間
に高い負の相関がみられた。これは樹木の成長に関わる光合成が行われているのは葉であ
り、樹冠には多くの葉が付いている。そのため、樹冠周辺の被圧は光合成の為の光を遮り、
直径成長に影響を与えているためだと考えられる。
-73-
ミズキが樹冠中心位置間の距離で、スギのみを競争木とした場合のみ RG と WCI に相
関がみられたのに対し、ハルニレの根元位置間、樹冠中心位置間別に算出した WCI をみ
ると、双方とも全樹種を競争木対象とした場合の方が、強い負の相関がみられた。これは、
樹種ごとに競争対象となる樹種が異なる可能性があるが、立木位置図をみると、主題木と
した個体周辺の樹木は個体ごとにスギが多い場合と、広葉樹が多い場合がある。単純に主
題木周辺の樹種に偏りがあるため、上記のような結果が出てしまった可能性もある。
RG と BCI との相関は、ミズキで近接群のみ負の相関がみられた。ハルニレは近接群、
周辺群で負の相関がみられた。また、ミズキは DISTij を根元位置間の距離で算出した場
合のみ相関がみられた。一方ハルニレは DISTij を根元、樹冠中心位置間どちらの場合で
も相関がみられたが、根元位置間の距離で算出した BCI の方が強い相関がみられた。そし
て、ミズキ、ハルニレともにスギのみを競争木とした場合の方が RG と BCI の間に高い相
関がみられた。Mitsuda et al.(2002)によると、天然更新したシベリアカラマツを主題
木と競争木にした場合の VCI(BCI から主題木・競争木の立木位置の高低差を加味しない
もの)では、樹冠中心位置間での DISTij 4m 以内で最も成長抑制効果があるという結果が
出ている。今回の結果から DISTij 4m 以内が BCI 算出において最適な範囲であるが、そ
の測定位置は樹冠中心位置よりも根元位置を優先させた方が高い相関が得られるという可
能性がある。
Yamashita et al. (2006)によれば、スギ人工林において、スギを主題木と競争木にし
た場合、方位及び相対距離を使用した BCI が最も有効に競争関係を表せるといわれている。
しかし、本研究では RG とそれらの BCI の間に相関はみられなかった。
本研究では天然更新した広葉樹も競争木に含めており、その立木位置と樹高はスギも同様
に不均一であった。
-74-
5-4 まとめ
スギ人工林内に天然更新したミズキとハルニレについて、両樹種とも時間経過とともに
成長量が減退していく個体が増えている。現状のままでは天然更新した広葉樹の自然状態
での旺盛な成長は期待できない。広葉樹の成長を促すのであれば、その広葉樹よりも大き
い DBH、樹高を有している周辺木を競争木として選定し、伐採することが有効だと思わ
れる。仮に DBH に着目するのであれば、成長促進を目指す個体がミズキの場合は樹冠中
心位置から 4m 以内のスギ立木を競争木の対象とし、ハルニレの場合は根元位置から 4m
以内の全ての立木を競争木の対象とするべきである。また、樹高に着目するのであれば、
成長促進を目指す個体がミズキの場合は根元位置から 4m 以内のスギ立木を伐採木の対象
とし、ハルニレの場合は根元位置から 4m 以内の全ての立木を伐採木の対象とするべきで
ある。しかし、ミズキ、ハルニレともに DBH に着目して算出した WCI の方が高い相関を
示している。林地では樹高よりも DBH の方が測定しやすいので、DBH に着目して競争木
を選出した方が実用的であると考える。
6.引用文献
Yamashita,K.
,Mizoue,N.
,Ito,S.
,Inoue,A.
,and Kaga,H.
(2006)Effects of
residual trees on height of 18-and 19-year-old Cryptomeria japonica planted in
group selection openings.J .For .Res.11:227-234
Mitsuda,Y.
,Ito,S.
,and Takata,K.
(2002)Effect of Competitive and Cooperative
Interaction among Neighboring Trees on Tree Growth in a Naturally Regenerated
Even-aged Larix sibirica Stand in Considering Height Stratification.J .For.Res.
7:185-191
宮本麻子・天野正博(2002)立木の空間分布および生育条件が個体成長に及ぼす影響.森
林総合研究所研究報告 383:163-178
長谷川幹夫・平英彰(2000)多雪地帯のスギ造林地に侵入した広葉樹の種組成構造の特徴.
日林誌.82:28-33
杉田久志(1993)ヒバ林の成立過程(Ⅰ)攪乱の歴史.J .For .Res.75:100-107
-75-
c. 赤谷の森の人工林の履歴の把握
1.目的
赤谷プロジェクトは、生物多様性保全のために、人工林の約 2/3(約 2000ha)を自然林
に誘導することと、そのための手法として当面は植栽なしに自然の遷移を利用して回復さ
せることを目標としている。しかし、植栽せずに人工林を自然林に復元する取り組みは前
例がないことから、復元するための技術や知見の集積が課題である。人工林に進入した広
葉樹の稚樹の分布調査から、人工林の中でも自然林からの距離が近く、2 代目人工林より
も 1 代目人工林の方が、自然林へと復元しやすい可能性が示された(長池ら 2009)。そこ
で本研究はプロジェクトエリア内の自然林からの距離・人工林の履歴を把握し、赤谷の森
の人工林において、自然林への復元の難易度を明らかにすることを目的とした。
2.方法
調査対象は、2005 年時点で人工林となっている林小班、約 2900ha とした。これらの林
分の過去の植生を把握するため、前橋営林局発行の 1975 年、2005 年の事業図および、1932
年、1952 年地理調査所発行の 5 万分の 1 の地形図(四萬;1949 年現地調査)を用いた。こ
れらの地図の凡例に基づき、1949 年、1975 年(一部 1970 年時の情報も追加)、2005 年当
時の植生を林小班(2005 年時)単位に記録した。2005 年と 1975 年の事業図の林小班はほ
ぼ一致するが、一部統廃合された部分があり、1975 年以後統合された場合は大きな林小班
の属性を用いることにした。また、1952 年作成の地形図の属性(広葉樹林、針葉樹林、草
地)が、同一林小班内に、複数含まれた場合は、すべて記入した。各林小班の伐採および
植栽の年代は 1975 年および 2005 年の林齢から推定した。
3.結果
3-1.1932 年~1949 年の植生
1932 年および 1952 年作成の地形図を比較したところ、今回調査した範囲内については
ほぼ同一であった。現在人工林となっている林分の多くは、広葉樹林が大半を占め、特に
奥山はほぼすべて広葉樹林であった(図1)。また、現在はほとんど見られない草原がプロ
ジェクトエリア南西部に比較的広く分布していた。一方で、針葉樹林はごくわずかしか分
布しておらず、茂倉沢左岸周辺、ムタコ沢、三国峠東部付近に点在していた。このように、
現在人工林となっている林分は、1932 年~1949 年当時の植生は、現在とは全く異なってい
た。
なお、針葉樹林は、地形図上の凡例により判断しているため、人工由来の針葉樹林か天
然由来の林(ネズコ、キタゴヨウ、モミ)かは地形図のみでは区別できない。そこで、1975
年当時の植生と林齢から人工林か自然性針葉樹林かの判別を試みた。その結果、針葉樹を
含む 47 個の林小班の内、9 個は、1975 年当時 26 年生以上の自然林であったため、自然性
-76-
の針葉樹林と推定され、さらに 47 個の内 10 個は同様に林齢から、人工林と推定されたが、
それ以外の 28 個は 26 齢以下の林分であり、推定できなかった。
3-2.1975 年の植生
1975 年の植生の大半は、人工林となり、自然林は、保土野、赤沢と小出俣周辺部など奥
山に一部分布していた(図 2)。1949 年に存在していた草原はほぼ消失し、人工林に置き換
わっていた。またこの当時の人工林の多くは 20 齢以下の若齢林が大多数を占めていた(図
3)。以上のことから、現在ある人工林の多くは、1955 年~1975 年に成立したことがわか
った。
また、1975 年当時 26 齢以上の人工林(122 個の林小班)は 1949 年時においても人工林
であるが、1949 年に調査された地形図によると、その多くは広葉樹林とされていて、10
個の林小班のみが針葉樹林とされていて、矛盾が生じていた。1975 年当時の自然林の内、
保土野、赤沢と小出俣周辺部は 101 年生の林分であるのに対して、それ以外の林分は 60
齢以下であり、かつて人為によって伐採された二次林であった(図4)。
3-3.1932 年~2005 年までの人工林の変遷、および人工林履歴
各林分の伐採年代は 1975 年および 2005 年事業図の林齢から推定し、伐採前後の植生は
1949 年調査の地形図、1975 年(一部 1970 年も含む)、2005 年事業図から推定した。その
結果、おおむね人工林の履歴の概要は把握できたが、多くの林小班では、伐採直後から数
年~数十年前の間の植生が不明である(図 5)
。2 代続けて人工林として利用された 2 代目
の人工林は南西部に多く、1 代目の人工林は山奥に分布する傾向が認められた(図 6)。
3-4.自然林からの距離、樹種別・林齢別の人工林の分布
樹種別・林齢別の人工林分布から、自然林からの距離が遠く、林齢・樹種が似通った林
分が集中する地域がある(図 7;例えば、南ヶ谷周辺、茂倉沢右岸、姉山、雨見山周辺な
ど)。また、事業図上は、自然林からの距離が 50m以上離れた人工林が多いことがわかっ
た。
-77-
図1.1949 年時の植生図(1952 年地理調査所発行の 5 万分の 1 の地形図(四萬)に基づく)
図2.1975 年時の植生図(1975 年前橋営林局発行の事業図に基づく)
-78-
図3.1975 年時の人工林の林齢分布(1975 年前橋営林局発行の事業図に基づく)
図4.1975 年時の天然林の林齢分布(1975 年前橋営林局発行の事業図に基づく)
-79-
図5.赤谷の森における人工林の履歴と、履歴毎の林小班数と総面積
1975 年(1970 年も含む)、2000 年の事業図と、1949 年調査に基づく地形図に基づき分類。
* 1949 年時の植生は、事業図の林齢に基づく伐採年代と 1949 年の地形図凡例と矛盾する場合。
図6.赤谷の森における人工林の履歴
-80-
図7.樹種・林齢別の人工林分布図(林齢は 2000 年を基準)
4.考察
4-1.自然林からの距離、人工林の履歴から推定したプロジェクトエリア内の自然林へ
の戻り易さ
人工林から自然林へ誘導するのはエリア 1~4 全体とエリア 5~6 の一部(南ヶ谷湿地周
辺部など)である。これらの林分の多くは、自然林からの距離が遠いため、重力散布種子
をもつブナ、ミズナラ、コナラなどの潜在自然植生の林冠構成種が、自然に定着するまで
に時間がかかる可能性がある。そのため、プロジェクトが目標としている潜在自然植生へ
の誘導は容易ではないかもしれない。
さらに、自然林へ戻りにくいと推定される自然林から遠くて、2 代目の人工林は、小出
俣と南ヶ谷湿地周辺に比較的まとまって分布していて、これらの林分をいかに潜在自然植
生へと誘導していくかは大きな課題である。
また、猿ヶ京地域の水源となっているムタコ沢流域は、自然林から遠く、2 代目の可能
性がある人工林がまとまって分布しているため、地域の水源林を保全するために、聞き取
り調査等によってこれらの林分の履歴を明らかにすることが望まれる。
4-2.樹種・林齢別の人工林分布からみた生物多様性保全上の課題
単一樹種・林齢が類似した一斉林は、林分構造や樹種構成が単純であるため、生物相が
単純になりやすいこと(山浦 2007)、病害虫などが発生しやすくなるなどの問題が生じる
可能性が指摘されている。プロジェクトエリア内において、このように林齢・樹種が似通
った林分が集中する地域として、南ヶ谷周辺、茂倉沢右岸、姉山、雨見山周辺などがあり、
-81-
特に当面人工林を維持するエリア 5、6 に多い。これらの林分は、病害虫防除や生物多様性
保全の観点から、一斉人工林から林分構造や樹種構成を複雑化させることが望ましい。こ
れらの林分の多くは1つの小班面積が大きく尾根・斜面・谷などの複数の地形単位を含ん
でいる。本年度樹立予定の赤谷の森地域管理経営計画において、人工林整備型長伐期施業
群に位置づけた人工林においても、尾根から 20m、谷から 25m 幅については、間伐や主伐
を行う際に自然林に誘導することが書き込まれているため、このような施業を積極的に行
うことが望まれる。
4-3.今後の課題
今回の調査では、人工林の履歴はおおむね把握できたものの、自然林への復元のしやす
さの指標となる 1 代目の人工林か 2 代目の人工林かは、不明な林小班が多かった。その原
因として、1949 年(地形図)~1975 年(事業図)の間の森林の履歴が不明であることが挙
げられる。今後、この期間の履歴を把握するために、空中写真判読や聞き取り調査、森林
簿の発掘などを行う必要がある。
5.引用文献
長池卓男, 井上歩,藤田卓. 2010. スギ人工林に天然更新する樹種の組成・構造およびそれ
らに及ぼす要因. 関東森林管理局 [編], 三国山地/赤谷川・生物多様性復元計画
(赤谷プロジェクト)推進事業平成21年度報告書, 58-77. 日本自然保護協会, 東
京.
山浦悠一. 2007. 広葉樹林の分断化が鳥類に及ぼす影響の緩和-人工林マトリックス管理の
提案-. 日本森林学会誌 89: 416-430.
-82-
d. 人工林を自然林に誘導するための伐採試験地候補地の選定と候補地の概況
1.目的
赤谷プロジェクトは、生物多様性保全のために、人工林の約 2/3(約 2300ha)を自然林
に誘導することを目標とし、そのための手法として当面は植栽せずに自然の遷移を利用し
て復元させることを目指している。しかし、植栽せずに人工林を自然林に復元する取り組
みは前例がないことから、復元するための技術や知見の集積が課題である。赤谷の森の将
来像および 5 カ年の計画を定めた“赤谷の森基本構想”、“赤谷の森地域管理経営計画書
(案)”において、人工林の立地環境(自然林からの距離、植栽樹種、潜在自然植生、人工
林履歴など)に応じて、伐採試験地を体系的に設定し、復元するための技術や知見を集積
することが書き込まれている。そこで、
“赤谷の森基本構想”
、
“赤谷の森地域管理経営計画
書(案)”に沿った伐採試験候補地の選定を行うとともに、選定された候補地における現地
調査の結果を報告する。
2.方法
“赤谷の森基本構想”、
“赤谷の森地域管理経営計画書(案)”に沿った試験地候補地の
選定を行うにあたっては、2009 年度植生WG会議(第 2、3、4 回)、2010 年度植生WG会
議(1~6 回)
、および 2 回の現地検討会を開催し検討した。また植生WGで検討された案
は、2009 年、2010 年に猛禽類WG、ほ乳類WG、モニタリング会議において検討し、植生、
ほ乳類、鳥類の観点から、人工林を自然林に復元する過程において生物多様性復元の状況
を評価する手法を検討した。
3.人工林を自然林に誘導するための試験地設定について
3-1.試験地設定方針の検討
2011 年度以降の当面 5 カ年の間に設置する試験地設定の基本的な考え方を 2009 年度
および 2010 年度第一回植生WGにおいて検討し、“赤谷プロジェクト
試験地設定の基
本方針”(図1)をまとめた。
この方針に基づき、現存植生×潜在植生×人工林履歴で環境区分されるスギ林におい
て、5 カ年の試験地候補地を 2010 年度第 2~5 回WG、および現地検討会において検討し、
表 1 にまとめた。
-83-
2010 年度第一回植生WG
赤谷プロジェクト
資料4(一部加筆)
試験地設定の基本方針
設定の目的
本来あるべき森林に誘導するための、人工林管理手法の技術と仕組みの開発
→生物多様性復元のための森林施業を赤谷全域に展開する前のやり方を定める。
赤谷プロジェクトにおける試験地とは?
(1)施業技術のモデルとなるため、反復回数・調査頻度・検証項目などに、科学
的厳密さを確保した試験地
(2)
「全域が試験地的取扱い」という観点から、実験的施業を積極的に実施、反復
回数・検証項目などを簡素化した試験地
試験区配置の考慮事項(主に(1)
)
・対象エリア:主に自然林に誘導するエリア②~④が対象。⑤⑥の生物多様性復元
施業群も可。エリア①は除外(方法を確立してから実施)
。
・樹種
:スギを主。カラマツは林床のササとセットの場合に考える。
・潜在植生
:ブナ帯、クリ帯、水辺林の 3 タイプ毎に実施。
・林齢:
標準伐期齢=スギ・アカマツ 35 年、カラマツ・ヒノキ 40 年
除伐対照となる若齢林の実験も効率のよい復元方法として試験も必要
・保安林規制:保安林の「指定施業要件」中の「植栽義務」の有無がポイント
・林道からのアクセスが容易である方がよい
・面積
:小班面積が大きい方がよい(←同一条件下で複数の伐採が可能)
試験すべき項目(数字が優先順位)
1.自然林までの距離
2.人工林履歴
3.混交率
4.シカ
→自然林への誘導が困難な場所かつ面積の大きい条件を優先して実験
潜在植生×自然林からの距離×履歴×伐採方法で整理
図1.赤谷プロジェクト 試験地設定の基本方針
2010 年度第一回植生WG 資料4より
-84-
3-2.試験結果の検証および評価スケジュール
試験で得られた成果を、今後の管理方針へ反映させるためには、伐採後 5、10、15、
20、30 年目に試験地における自然進入木の更新状況を含む生物多様性の復元状況を評価
する必要がある。伐採直後の植生は短期間に変化し、初期の植生の変化が将来の植生に
大きな影響を与える可能性があること、伐採前の植生、前生稚樹等が伐採後の植生に大
きな影響を与えると予想される。以上のことから、各試験地の調査は、伐採前、伐採後 1、
3、5、10、15、20、30 年目に実施することが必要である。なお、今後知見が集積され、
効率的な調査方法を検討した上で、調査回数は順応的に見直すこととする(1、3 年後の
調査はなくす等)。この方針に従って、既存の試験地および今後設定する試験地の調査時
期および試験結果の評価スケジュールをまとめると表 2 のようになる。
表1.5カ年の試験地候補地、および既設の試験地(二重下線)
()内の年は、伐採年を表す。
*1
森林総合研究所が担当
*2 森林総合研究所および赤谷プロジェクトが担当
*3 2 代目の人工林の可能性がある
表2.伐採実験に伴う調査時期および調査結果の検証スケジュール
表中に記載された年に調査を実施(伐採年にも事前調査を実施)。なお、表中の年は伐採後
年数を表す。伐採後、1、3,5、10、15、20、30 年目に試験地の更新状況を確認し、今後
の管理方針へ反映する予定。
*1:除伐、渓畔林、クリ帯の試験地含む。調査体制次第で、スケジュールを追加/削除する
など見直す。
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