ものづくり支援の歴史はJMAの歴史

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ものづくり支援の歴史は JMAの歴史
ものづくりは日本の産業の根幹
日本能率協会(JMA)の設立基盤は、ものづくり
と人づくりにあります。
第 2 次世界大戦中に、当時の商工省の指導によっ
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QCDは人がつくる
も の づくりに お け る 必 要 要 件 とし て、QCD
(Quality、Cost、Delivery)や5S(整理、整頓、清
て創立され、工場の生産を高めるための工場診断と、
掃、清潔、躾)があります。これら品質を追求する、
生産技術者の養成という役割を担って活動を開始
原価削減に取り組む、納期を守る、現場や職場を
しました。
整理整頓するなどは、すべて人が行う行為です。
戦後、若手技術者の育成のために、生産現場に
ものづくりにおいて、技術を磨くことは言うまで
おいて技法の活用法を実習を通じて体得できる合
もありませんが、技術を磨いているだけでは、顧客
宿形式による“生産技術講習会(Pコース)”を再開
に選ばれ満足してもらう製品をつくることはできま
しました。その後、セミナーの開催はもとより、“IE
せん。たとえば、品質を追求することは、ものづく
(Industrial Engineering)の普及 ”、“ZD(Zero
りの基本ですが、設計、製造、営業・販売、サー
Defects)運動”など日本企業の生産性と品質の向上
ビスのどの工程においても、品質に対する追求はも
に微力ながら貢献してきたものと思います。
とより責任を欠いては、今日の厳しい競争を勝ち抜
近年は、生産技術者のマネジメントスキルを認定
くことは難しいでしょう。いずれかの工程で品質に
する資格制度や優れたマネジメントを行っている工
欠陥が発生してしまうことで、それまで積みあげて
場を表彰するGOOD FACTORY 賞の創設など、時
きたあらゆる経営資源が毀損されてしまうことも珍
代の要請に沿って支援内容を変えながら、一貫して
しくありません。
ものづくりと人づくりの支援を行ってまいりました。
ものをつくるということは、その工程にかかるす
海外に目を向けてみると、アメリカでは一時、も
べての人に対する責任が問われているということで
のづくりを放棄したかのように見えましたが、国の
す。その企業が「責任を果たしている」と、顧客が
産業競争力を考えれば、やはりものづくりの力は必
信頼しているからこそ、安心して商品を購入するの
須条件だと、その復活をめざしてさまざまな施策を
であり、そのためには技術を磨くとともに、お客さ
打ち出し、製造業の国内回帰に向けた機運は官民を
まに対する責任を果たせるという人も育て磨きつづ
あげて盛り上がりを見せています。同じように、日
けなければなりません。
本でも一時は「国内のものづくりはなくなる」との危
欧米企業は、トップや上司がジョブディスクリプ
機感が高まった時期もありました。しかし厳しい環
ションやマニュアルをつくり、それに沿って決めら
境のなかでも必死に耐えながら活路を見出そうと努
れた範囲の仕事や作業をするという考え方です。文
力を続けてこられた方がたのおかげで、徐々に光明
化性の違いがあるので、一概に善し悪しは言えませ
が見えはじめたと感じます。
んが、日本企業のように相互に人を育てるという「教
言うまでもなく、ものづくりは日本の産業の根幹
える文化」を社内にもつ企業は少なく、必要なスキ
です。ものづくりを支えてこられた方がたに対し、
ルをもつ人を採用するという「選択の文化」といえ
深く敬意を表するとともに、私たちも経営を支援す
るでしょう。
る立場として、さらに身を引き締めなければならな
しかし残念なことに最近は、日本企業の良さであ
JMA マネジメント
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いと考えております。
一般社団法人日本能率協会 理事長
中村正己
る教える文化が正しい方向へ進んでいないのではな
うにするためには、何が正しいかを判断できる基準
いかと感じることがあります。その原因は「教えら
を整える必要があります。その基準が、理 念や
れることが当然」となっていたり、教わることがや
WAY です。トップから現場まで同じ基準で判断で
らされ感になっていたりすることにあるように思い
きる環境を整えることは大事なことです。
ます。本来学ぶ側に向上心がなければ、教えてもそ
現場がやらされ感ではなく、自ら進んで仕事をす
の学びは身になりません。
ることや、チームとして協働する働き方を実現する
近年は、中国をはじめ新興国がどんどん成長して
のは、簡単ではありません。上司が決めたことをや
います。こうした成長過程にある国の企業を訪問す
るだけならば、コントロールすればよいわけで、そ
ると、そこで働く若者の目はきらきらと輝き、少しで
こに人間性があるようにはあまり感じられません。
も技術や知識を身につけたい、教えてほしいという向
信頼を基礎に置き、各人が自律し、忠誠する心
上心にあふれています。そうした若者を見ると、はた
をもって仕事をするようになるためには、トップか
して日本人は大丈夫なのだろうかと心配になります。
ら現場までが共有できる軸が必要です。判断のもと
教える側も、教えることでさまざまな気づきや学
となる理念や WAY、
ビジョンがその軸でもあります。
びが得られます。学ぶ側もやらされ感ではなく主体
その軸が組織に対する求心力にもなります。
的になることで、教える側との相互信頼を育てるこ
その一方で、そこで働く一人ひとりがもつ個性や
とができるはずです。信頼という基礎ができてこそ、
特性が自由自在に発揮されることが、新しいものや
人、職場、会社、さらにお客さまに対して、単に誰
ことを生み出す力であり、組織が放つ遠心力となり
かに従うというのではなく、誠意をもって事に臨む
ます。求心力か遠心力かといういずれか1つでは、
という「忠誠する心」が育まれるのだと思います。
厳しい環境を勝ち抜く強さ、日々変化する環境や要
マネジメントの重要性
求に素早く対応できるしなやかさをもった組織にす
ることはできません。強くしなやかな組織になるに
は、この2つを調和させることが必要であり、それ
経営が行き詰まり、それを解決してきた経営者に
を実現するための行動が「マネジメントする」という
共通する行動が、現場を回ることです。現場は何を
ことです。
考えているか、どのようなことに困っているかなど
JMAは現在、
「KAIKA」
という考え方の普及を図っ
直接聞くことも大切ですが、さらに声として聞こえ
ています。
「能率」とはもともと「人であれば能力を、
てこないところにも耳を傾け、声にならない声まで
設備であれば性能を、材料であれば機能を最大限
も引き出す対話も重要です。丁寧に聞くことに始ま
に引き出し活かし切ること」を表す言葉です。良い
り、理念やビジョン、夢を語り合うことで、信頼関
マネジメントが実現できれば人の能力を、設備の性
係を育み、言いづらいことも言えるような関係づく
能を、材料の機能を最大に引き出せます。
りから、自律した組織に生まれ変わっていきます。
KAIKAという考え方は、こうした能率の考え方
競争が激しくなるほど、トップは現場を回り自ら
を踏まえつつ、価値観や働き方が変化している時代
進んで声を聞き、次の一手を考えなければなりませ
背景を捉え、これからの時代にふさわしい、働く人
ん。スピードある現場の意思決定を高めるには、現
の能力、および組織力を最大化することなどを通じ
場に権限を委譲し、現場の主体性と責任感を引き出
て、新しい技術や製品を生み出し、社会に対して新し
すようにしなければなりません。現場が困らないよ
い価値をもたらそうとする新しいアプローチです。
JMA マネジメント
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