数学 A2 §8 補足 (3変数以上の関数の極値)

数学 A2
§8 補足 (3 変数以上の関数の極値)
3 変数以上の関数 z = f (x1 , x2 , x3 , . . . ) の極値は次の方法で調べることができる. ここで, f は 2 階
までのすべての偏導関数が存在し, 連続であるとする.
定理 8.1. 関数 z = f (x1 , x2 , x3 , . . . ) が点 (x1 , x2 , x3 , . . . ) = (a1 , a2 , a3 , . . . ) において極値をとるなら
ば, fx1 (a1 , a2 , a3 , . . . ) = 0, fx2 (a1 , a2 , a3 , . . . ) = 0, fx3 (a1 , a2 , a3 , . . . ) = 0, · · · が成り立つ.
この条件を満たす点において, 実際に極値をとるかを判定する結果を述べるために, 少し準備が必
要となる. まず, (i, j)-成分が hij = fxi xj である行列 H をヘッセ行列として定める.


fx1 x1 fx1 x2 fx1 x3 · · ·
fx x fx x fx x · · ·
2 2
2 3

 2 1
H = f

f
f
·
·
·
x
x
x
x
x
x
3 2
3 3

 3 1
..
..
..
...
.
.
.
偏微分の順序交換可能性 (fxi xj = fxj xi ) から, H は対称行列となる. このヘッセ行列について, 左上か
ら順に 1, 2, 3,. . . 次の正方行列を抜き出し, その行列式を D1 , D2 , D3 , . . . で表す (これらを主小行列
あるいは首座行列式とよぶ). すなわち
fx1 x1 fx1 x2 fx1 x3 f
f
D1 = fx1 x1 , D2 = x1 x1 x1 x2 , D3 = fx2 x1 fx2 x2 fx2 x3 , . . .
fx2 x1 fx2 x2
fx3 x1 fx3 x2 fx3 x3 定理 8.2. 関数 z = f (x1 , x2 , x3 , . . . ) が fx1 = fx2 = fx3 = · · · = 0 を満たす点
(x1 , x2 , x3 , . . . ) = (a1 , a2 , a3 , . . . ) において次が成り立つ.
(1) D1 > 0, D2 > 0, D3 > 0, . . . ならばこの点で極小となる.
(2) D1 < 0, D2 > 0, D3 < 0, . . . (交互に正負) ならばこの点で極大となる.
(3) (1) (2) のどちらでもなく, また D1 , D2 , D3 , . . . がいずれも 0 にならないならば, この点では
極値をとらない.
注. Di = 0 となる場合は, この定理からは極値判定できない (極値をとることもとらないこともある).
例題 8.3. f (x, y, z) = x4 + y 4 + z 4 − 4xyz の極値を考えよう.


 x3 = yz
 fx = 4x3 − 4yz = 0
y 3 = xz
fy = 4y 3 − 4xz = 0
より
 3

3
z = xy
fz = 4z − 4xy = 0
3 3 3
2 2 2
3 式を掛け合わせると x y z = x y z となるので, xyz = 0, 1
• xyz = 0 のとき, x, y, z のいずれか 1 つは 0 であり, それを代入すると (x, y, z) = (0, 0, 0)
1
• xyz = 1 のとき, yz = であるから, 第 1 式に代入して x4 = 1 を得る. よって x = ±1. 他の
x
式に代入して場合分けすると, (x, y, z) = (1, 1, 1), (1, −1, −1), (−1, 1, −1), (−1, −1, 1)
次に, これらの 4 点で実際に極値をとるかを調べる.
 


12x2 −4z −4y
fxx fxy fxz
D1 = 12x2
H = fyx fyy fyz  =  −4z 12y 2 −4x より D2 = 16(9x2 y 2 − z 2 )
fzx fzy fzz
−4y −4x 12z 2
D3 = 64{27x2 y 2 z 2 − 2xyz − 3(x4 + y 4 + z 4 )}
(1) (x, y, z) = (0, 0, 0) のとき, D1 = D2 = D3 = 0 なので, 定理からは極値判定できない. しかし,
たとえば点 (a, a, a) において f = 3a4 − 12a3 = a3 (3a − 4) となり, 原点にいくらでも近い点で
f は f (0, 0, 0) = 0 よりも大きくも小さくもなることが観察されるので, この点では極値をと
らない.
(2) (x, y, z) = (1, 1, 1), (1, −1, −1), (−1, 1, −1), (−1, −1, 1) のとき, いずれの場合も D1 > 0,
D2 > 0, D3 > 0 なので極小となる. 極小値はいずれも f = −1
2
定理 8.2 の証明の概略 極値判定がなぜできるのか, 要点だけを簡単に眺めておこう.
点 (a1 , a2 , a3 , . . . ) において fx1 = fx2 = fx3 = · · · = 0 であるとき, この点で f の 2 次近似を行うと,
1
f (x1 , x2 , x3 , . . . ) = f (a1 , a2 , a3 , . . . ) + Q(h) + ε2
2
ただし
 
 

h1
h1
fx1 x1 fx1 x2 fx1 x3 · · ·
h2 
fx x fx x fx x · · · h2 
(
)
2 2
2 3
 
 
 2 1
h = h  ,
Q(h) = thHh = h1 h2 h3 · · · f
 h3 
f
f
·
·
·
x
x
x
x
x
x
3
3 3
3 2
 
 
 3 1
..
..
..
..
..
..
.
.
.
.
.
.
である. すると, 2 変数のときと同様に, h ̸= (0, 0, 0, . . . ) に対して
(1) 常に Q(h) > 0 ならば極小
(2) 常に Q(h) < 0 ならば極大
(3) Q(h) > 0 にも Q(h) < 0 にもなるならば極値をとらない
ということが分かる.
ここでヘッセ行列 H は対称行列であり, 線形代数で学ぶように対称行列は直交行列 P により対角
化できるので, H の固有値を λ1 , λ2
, λ3 , . . . とし

 
λ1 0 0 · · ·
y1
 0 λ2 0 · · · 
y2 


 
t
P HP =  0 0 λ · · · , y = t P h = y 
3


 3
..
..
.. . .
..
.
.
.
.
.
とすると, Q = ty t P HP y = λ1 y1 2 + λ2 y2 2 + λ3 y3 2 + · · · と表される.
ゆえに, 極値判定は次のように書き換えられる
命題 8.4. 関数 z = f (x1 , x2 , x3 , . . . ) が fx1 = fx2 = fx3 = · · · = 0 を満たす点
(x1 , x2 , x3 , . . . ) = (a1 , a2 , a3 , . . . ) において次が成り立つ.
(1) ヘッセ行列の固有値がすべて正ならば, この点で極小となる.
(2) ヘッセ行列の固有値がすべて負ならば, この点で極大となる.
(3) ヘッセ行列の固有値がすべて 0 でなく, 正のものも負のものもあるならば, この点では極値を
とらない.
あとはこれらの条件と, 定理の条件が同値であることを証明すればよい (以下略).
∑
(参考) 上で出てきたような 2 次式 Q(x) =
bij xi xj = t xBx のことを 2 次形式とよぶ. また, 2 次形
式 Q(x) が x ̸= o ならば Q ̸= 0 となるとき非退化であるといい, さらに非退化な 2 次形式は x ̸= o に
対し常に Q > 0 となるとき正定値, 常に Q < 0 となるとき負定値, Q > 0 にも Q < 0 にもなるとき不
定値であるという.
これらの述語を用いて極値判定を説明すると, 「多変数関数は1階の偏導関数がすべて 0 になる点
において, ヘッセ行列により定まる2次形式が非退化で正定値のときは極小, 負定値のときは極大, 不
定値のときは極値をとらない」と言い換えることができる.